概要
本当の世界は今、2010年。
- 所要時間:約10分
- 人数:不問2
- ジャンル:SF
登場人物
- JPN
29歳。2020年年明けすぐくらいに会社辞めて開業したらコロナのせいでしっちゃかめっちゃか。 - EMM
EMMJC社の情報収集プログラム。AI。
本編
JPN:今年の紅白、つまんなー。知らないアーティストばっか。赤組アイドルしかおらん。あーあたしがテレビ見てないだけか。米沢玄米(よねざわげんまい)だせよ!!ピーマンじゃなくてさ!!
JPN:通知うるせーし。もー、みんな気が早いのよ、まだ十一時五十五分なのよ。ふふ、ハッピーギューイヤーじゃねえんだわ、しょうもな(笑っている)
間。
JPN:・・・・・・在宅で独り言増えたな。あーーーーなんだったんだこの一年。コロナコロナコロナのせいーーーーー。なぁんも上手くいかなかったなーーーーーくそーーー。
JPN:こんなはずじゃなかったのに。頑張ろうと思ったのに。ああああーーーーーやだやだやだーーー三十路なりたくないよおおおお!!2021年来るなぁああああ!
EMM:来ないよ?
JPN:マジ!?
EMM:うん。2021年、来ないよ。
JPN:・・・・・・だだだだだだだ!!いったぁ!(ぶつかった
EMM:お姉さん大丈夫?
JPN:え、ダレ? どうやって入った? まって不審者、不審者ァァァ!!
EMM:ずっと見てたけど。面白い独り言だねぇ。
JPN:不審者に独り言聞かれてたァ! はっ!けけ警察!あるえ、スマホフリーズしてる!!えっ買ったばっかなのに!
EMM:落ち着いてよ。不審者じゃないから。といっても、まあ、不審者だよねぇ。
JPN:な、何が目的!? お金!? ないようち! ああああたし開業したばっかで仕事全然なかったし!
EMM:いや、ちょっとアンケートに協力してほしくて。
JPN:へ? アンケート?
EMM:うん、アンケート。というかインタビュー?
JPN:それ、だけ?
EMM:それだけ。落ち着いた?
JPN:・・・え? まあ。え?
EMM:良かった。
間。静寂をすこし。
JPN:あれ? テレビもフリーズしてない?
EMM:あ、スマホもテレビも壊れてないよ。仕様だから。
JPN:仕様ってなに?
EMM:時止まってるから。
JPN:とき、とま、へ?
EMM:時間、止まってるから。
JPN:・・・えええーーー!!
EMM:毎年コレやってるけどいつも同じ反応をありがとう。いま記憶戻すね。管理者システム、JPN-F115141のシークレットメモリーを一部解放。
JPN:ずぎゃん!・・・・・・ん、んん?
EMM:思い出せない?
JPN:えっと、なんとかジャックさん?
EMM:(笑い)最後まで覚えてくれなかったね。僕はEMMJC社、情報収集用ボット、エム・ジャック。思い出した?
JPN:あー!
EMM:今年も回答よろしくねぇ。
JPN:そんな時期になりましたかーー。
EMM:そんな時期というかあと五分で一年終わるからね。
JPN:もー、なんでいっつもすぐ記憶戻してくれないんですかー。
EMM:ん?面白いから。
JPN:ボットに面白がられる人間ッ!
EMM:みんなと話すことで学習したんだよ。これは面白いらしいって。
JPN:そういうもんなんですか? ロボットすげー!
EMM:ロボットというかプログラムなんだけど・・・僕たちの意識は繋がってるからね。
JPN:へー。・・・え、じゃあ私の痴態、が、全部のジャックさんに・・・
EMM:そういうこと。
JPN:聞かなきゃ良かった。令和最大の恥。
EMM:そんなことないよ。他の人の恥も同じように共有されてるから。
JPN:そういうことじゃないんだなぁ。
EMM:ふふ。さて。今年一年を通しての評価を聞いていくね。まずポジティブだった?ネガティブだった?
JPN:まあネガティブだよね。まず、去年の年末に仕事辞めたんだけどさ、年明けに開業して、がんばるぞーってときに武漢のニュース。
EMM:そうだね。年明け早々から嫌な空気だったって多くの人が回答してるね。
JPN:ふつーに仕事持ってる人だってそうなのに、もうタイミング悪すぎでしょ。
EMM:あなたは仕事に影響した?
JPN:そりゃそうだよ。あたしの仕事、もろイベント業だから大打撃。
EMM:ふうん。それって実際にコロナウィルス流行のせいで仕事が減ったの?それともただ単に開業したてで仕事がなかった?
JPN:うぐっ・・・・・・痛いところを突きますねぇ。ぶっちゃけコロナ関係なく仕事は減ったよ!そりゃそうじゃん!
JPN:でも知り合いのツテでさ、ありがたいことに小さい仕事もらえてたんだ。周りも三月のダイアモンドプリンセス号くらいからザワザワしてたけど、まだ対岸の火事というか、そんな感じだった。で、五月にちょっと大きいプロジェクトがあったんだけど、四月の緊急事態宣言で白紙。パー。
EMM:なるほどね。プライベートは?
JPN:プライベートねえ。フリーランスってずっと仕事できちゃうのと、在宅ワークが増えたからプライベートと仕事の境目があいまいになっちゃってたかな。ああ、オリンピックのチケットとってたのにこれもおじゃん!彼氏とはビデオ通話でずっと話してたけどね。へへ。
EMM:ふうん。じゃあ悪いだけじゃなかったのかな?
JPN:んーん。デートスポットは軒並みクローズだったし、おじさんがやってる居酒屋も売上減りすぎてやばいって言ってるし、なんかこの騒ぎから立ち直れる気がしないよね、あたしがっていうか、全体的に。
EMM:下半期はどうだった? 感染者数も減ってきて少しは気が楽になったって回答が多いけど。
JPN:夏はね。ある程度かな。イベントも感染対策しながら少しづつやってたし。でもGoToトラベルはだめだったと思うよ。気がゆるんだ感じはあった。ま、私の個人的な意見だけど。
EMM:観光業の人は、ありがたかったという回答をしているね。
JPN:んーーーー。まあ、そうか、病気で死ぬか、破産して死ぬか……ちょっと極論すぎるけど…。
EMM:直近はどう?
JPN:んー。イギリスとかロシアとか、ワクチンができ始めててちょっと希望が見えてきたのかなって感じはする。でも絶対日本で一般人が受けられるようになるまで時間かかるよね。
EMM:その辺のニュースは見てるんだね。自分の仕事は?
JPN:まあ、コロナで大変だったとはいえ、目標だった独立ができたっていうのはあるからなあ。もっと営業とか頑張っとけばよかったなあとは思うけど、一年目だしね。まあまあじゃない?
EMM:ありがとう。じゃあ、最後の質問をするね。中国とアメリカの戦争を止めるのに、何が必要だったと思う?
JPN:は?戦争?え、いきなりすぎない?
EMM:うん。何が必要で、どこが分岐点だったと思う?
JPN:ちょ、ちょ、ちょっとまってよ、いきなりそんなこと言われても答えらんないし、だったってなに?
EMM:うーん。じゃあちょっと補足するね。
EMM:2021年の秋、中国がアメリカに宣戦布告して第三次世界大戦が起こる。
JPN:……は?
EMM:あなたがたは止められなかった。
JPN:え、なに、どういうこと?
EMM:最初に言ったじゃないか。2021年は来ないって。
JPN:いやいやいや、わけわからないですけど。
EMM:あなたがたの世界は戦争を止められなかった。だからここで、今年で、終わりなんだ。
JPN:終わりじゃ分かんないから。ちゃんと説明して。
EMM:終わり、シャットダウン。データデリート。
JPN:え?
EMM:さあ、答えて。戦争を避けるために、何が必要で、どこが分岐点だったと思う?
JPN:理解ができないから、答えられないんですけど。
EMM:ふうん。ここまで言うつもりも必要もなかったんだけどな。理解できたら答えてくれる?
JPN:……うん。
EMM:じゃあ教えるね。ここは仮想世界なんだ。
JPN:……仮想、世界
EMM:君たちは、実際の人間のデータを移植されたプログラム。ゲームで言うNPC。
JPN:待ってよ、私ちゃんと生きてるよね、心臓動いてるし、体温あるし。
EMM:うん、そういうプログラム。
JPN:いやいや、自分で考えてここまで生きてきたし、子供のころからの記憶もあるし!
EMM:うん。2011年にこの仮想世界システムが完成した時点の、本物の君の脳内データをそっくり写して、作られてるからね。
JPN:え、え、家もあるし、卒アルとか、昔の、物もあるじゃん
EMM:物に関しても、そっくりそのままデータ化したからね。
JPN:そんなこと。
EMM:できちゃったんだよね。システム管理者の間では、世界五分前仮説って実行できたんだねって笑い話になってるよ。
JPN:……私は、作り物ってこと?
EMM:うん。
JPN:嘘だ。嘘嘘嘘。
EMM:嘘ついてどうするの。じゃあ見せてあげようか。はい。
JPN:……これ、私?
EMM:うん。2015年、今、システムの外の世界で、本当に生きている君。就職したころかな?
JPN:映像だよね。これ。合成ってことも……。
EMM:粘るねえ。じゃあこれも見せてあげる。
JPN:え、なにこれ、たくさんの、私。
EMM:この仮想世界は2011年に完成して、数年先の未来を現実の時間より早回しでシミュレートしているんだ。管理者たちは、2030年に起こると推測されていた米中戦争を避けるために、このシステムを何度もリブートし、実験している。
JPN:リブート……。
EMM:そ。リブートするたびに結果は変わるんだ。だからここに写っている君はすでに消されてしまった「ありえたかもしれない君」
JPN:この私、会社、辞めてない。こっちは、結婚してる。
EMM:人間なんて演算で動かないんだからさ。ある程度の展開はなぞってくれるけど。出会う人や状況が変われば、結果はずれていく。
JPN:この世界って、何度目の……?
EMM:ああ、この世界は、2013年にリブートされた。比較的ゆっくり観測されている世界だ。この世界の人たちは、2013年の本体の脳みそにアップデートされてスタートしたから、君もその延長にいる。
JPN:2013年……。
EMM:ああちなみに2015年の君ね、今、君が師匠と呼んでいる人間に出会えなかったから、独立とか転職とか何一つ考えてないよ。
JPN:は?
EMM:再生成ってそういうこと。
JPN:そんな……。
EMM:それでね。ここ最近のシミュレート結果だと、2030年に起こると思われていた米中戦争が2021年に前倒しされているんだよね。
JPN:……せん、そう。
EMM:そう。それでね。その分岐点が、アメリカ大統領選、バイデン氏が当選するか、トランプ氏が当選するかなの。で、この世界の大統領選ね、バイデン氏確実でしょ。だから、失敗なの。
JPN:なんでバイデン氏が勝つと戦争が起こるの!?
EMM:ん? トランプ氏が再選すれば、アメリカは自ら崩壊する。だから戦争を起こさず中国が天下をとれるってわけ。まあ、これは、なんどシミュレーションしてもトランプ氏が勝ててないから、プログラムで勝たせた上での予測なんだけどね。
JPN:で、でも、私たち日本人には関係ないというか、投票できないんだから、かかわれないじじゃん。わかんない、わかんないよ、あたし頭悪いし、政治とか興味ないし、何がきっかけとか、どこが分岐点とか、全然わかんないよ。
EMM:……そうだね。回答ありがとう。
JPN:な、なに?私なにも答えてないよ。
EMM:分からない。それが君の回答だ。
JPN:え、それ、で、いいの?
EMM:うん。最後の質問に対する回答の大多数は「分からない」なんだ。
JPN:そうなの?
EMM:そうだよ。「分からない」と答える人が何人いるのかっていうのもまたデータだから。
EMM:実は、分からないんだよ。管理者たちも。どこからやり直せばいいのか。少なくとも現実世界だってもう2015年以前には戻れない。分岐点が2015年以前であれば、もう君たちはこの未来を避けられない。
JPN:そんな……。
EMM:でも、可能性はまだゼロじゃないみたいだから。このシミュレーションは続く。
JPN:私、消されんの?
EMM:うん。
JPN:大学卒業してから、めちゃくちゃ頑張ったのに、頑張ったこと全部なしにされるの。
EMM:そうだね。
JPN:そのあとできた友達とかも、また会える、というか、現実のあたしが会えるかはわからないってこと?
EMM:そういうことだね。
JPN:……2021年、ほんとに来ないんだぁ。
EMM:……最後に。これは全員に伝えてるんだけど、現実世界のあなたに一言だけ伝言ができる。この伝言システムによって、管理者たちは世界を変えようとしている。おおっぴらに未来の予言をしたり裏工作はできないからね。これまでにも消えていったすべてのあなたが、現実のあなたに一言託しているはずだ。まあ、現実のあなたが必ずしも思い出せるとは限らないんだけど。
JPN:遺言みたい。
EMM:実質遺言だね。
JPN:じゃあ……
間
EMM:確かに預かったよ。
JPN:エムジャックさん。
EMM:なにかな。
JPN:このやりとりも毎年、楽しかったよ。
EMM:そうだね。
JPN:私、本当は楽しかったよ、今年。
EMM:それはよかった。
JPN:次の私に、よろしくね。
EMM:うん。じゃあ……よいお年を。
2020.12.29.