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『天使が喰らったバッカニア』【♂3:♀1】40分

概要

時は大航海時代。カリブ海を荒らして回る海賊(バッカニア)たち。とある孤島に置き去りにされたエドワードが、ニュープロビデンス島にある酒場、「天使の鳥籠亭」へ帰ってきた。給仕である女、アンジェラは鳥籠亭(とりかごてい)の持ち主である悪漢、ノーランに囚われている。かつての仲間であるモリスと再会したエドワードはアンジェラを奪うため、彼女に「自由への道」をそそのかす。

  • 所要時間:約40分
  • 人数:男性3、女性1 サブ3(兼ね役推奨)
  • ジャンル:海賊、ファンタジー

登場人物

  • エド(エドワード)・ハチェット
       自由を愛する海賊。元イギリス海軍。私掠船(国の許可を得て他国の船を襲う)の船長だったが、当時の部下だったノーラン一派に反乱を起こされ孤島に置き去りに。別の船に拾われてカリブに舞い戻るも、また置き去りに。しぶとい。 ※モブAと兼
  • アンジェラ(アンヘラ)・ペレス=サンチェス
    マラカイボのスペイン総督の娘。元お嬢様。自分で決められない。ノーランの襲撃を受けた際、彼の元で5万ポンド稼ぐまで働く代わりにマラカイボの住民の命を奪わないよう約束する。契約期間中はノーランの愛人でいることを義務付けられている。普段は英語読みで「アンジェラ」と呼ばれる。「アンヘラ」はスペイン語読み。
  • ジャン=ダヴィッド・ノーラン
    悪逆非道の大海賊。襲った船も、町もみなごろし。幼少期から水夫として船で働き、海賊に。スペイン海軍に捕まった際、仲間を殺され顔を焼かれた過去を持ち、スペイン人を憎んでいる。エドワードの元にいたが、生ぬるいやり方に嫌気がさして反乱を起こした。愛を与えられることに執着している。 ※モブCと兼
  • ジェレミー・モリス
    航海士。ものすごく記憶力がいい。エドワードの相棒。噂好き。反乱後の一時期、ノーランの部下として働いていた。 ※モブBと兼

本編

□孤島 波の音。

エド:おい。……おい!

エド:また置き去りかよォ!
 せめて縄は解いていけぇ!

□ニュープロビデンス島、天使の鳥籠亭(とりかごてい)、夜。
   賑やかな店内。
   酔った客たちが歌っている
   (メロディ任意、歌になってなくてもよい)

A:俺たーちゃ海を漂うー

B:荒くーれ者の海賊ぅ!

C:ちからぁで奪い攫ってぇ(さらって)

A:盗んで壊してやり放題!

B:酒樽(さかだる)をあけろ!

C:ヨゥホー!

アンジェラ:うるさいよ、あんたたち!

B:天使のお怒りだぁ!

C:おお、怖いねぇ!
  誰だぁ、籠の鳥逃がしたのはァ!

B:旦那が帰ってこなくてイラついてんのかぁ アンジェラァ!

  AD 下品な笑い声
  アンジェラ、カウンターに入る。
  ジョッキを置く音。

アンジェラ:ほら、ビールだ。

エド:あぁーーー命の水だァ。

アンジェラ:何ヶ月も見ないと思ったら。
  随分面白いことになってるじゃないの。
  え? エドワード。

エド:こっちは必死だったんだがな。

アンジェラ:しぶといねぇ。
  死んだかと思ったよ。

エド:生に貪欲なんだ。で?
  俺が居なくて寂しかったか?

アンジェラ:ちっとも。

エド:そうなの?

C:なぁ姐さん、こっちで飲もうぜぇ?

アンジェラ:はっ、いくら払うの?

B:つれねぇこと言うなよぉ、
  久しぶりの陸なんだ、女に触りてぇ

C:バカおめぇ姐御にお触りしたら首がとぶぜ

B:手ぇぐらい触ったってバレやしねぇよ

C:そうか? そうかな?

B:そうだよぉ。な?
  姐御ぉ、いいだろ?

アンジェラ:金貨一枚も出せないならラムしか出ないよ。
  ったく。あたしの体はそんなに安くないんだからね。

エド:今日は賑やかだな。

アンジェラ:いつだってやかましいくらいよ。
  それで? どうやって孤島から
  ニュープロビデンス島まできたわけ?

エド:友達に乗せてもらったんだよ。

アンジェラ:あら、あんたトモダチなんていたの?
  連れてきなさいよ、お礼しなきゃ。
  奢ったげる。名前は?
  有名な海賊?

エド:アー……デルフィーナ。

アンジェラ:デルフィーナ?
  ……女の名前ね。
  ここいらじゃ聞かないわ。拠点は?

エド:ンー、エスパニョラ島?

アンジェラ:え?

エド:イルカだ。

アンジェラ:……イルカ?

エド:イルカ。雌の。

アンジェラ:……。

エド:アンジェラ?

アンジェラ:ふ、ふふ、ふふふふ(笑い大きくなる)

エド:……笑いすぎだ。

アンジェラ:だってあんた、イルカって!

エド:イルカ語はな、いいぞぉ。

アンジェラ:え? やってみてよ。

エド:きゅー、きゅーきゅー、きゅー!

アンジェラ:うふ!なんて言ったの?

エド:美しいかた、
  僕と番(つがい)になりませんか?

アンジェラ:おことわり!

   アンジェラ、酒を作りながら。

アンジェラ:あたしを落としたかったらねぇ、
  攫ってくくらいの気概を持ちな、船長さん。

エド:じゃあまず船を調達しないとな。

   カウンターに一人の男が座る。

モリス:姐さぁん! おれのボンボ
  いつになったら持ってきてくれるんですかい?

アンジェラ:あぁ忘れてた、悪いね、モリス。

エド:モリス?

モリス:もう酔いも覚めちまいや、す……
  エドワード!?

エド:モリス、お前、ジェレミー・モリスか!

モリス:船長! 生きてらしたんですか!

エド:ああ、お前も!

アンジェラ:なんだ、知り合いかい?

モリス:あいさぁ! 昔一緒に旅してたんで。
  いやあ、名前も聞かないもんで、
  てっきり……ぐすっ。
  うっ、うっ、せんちょお!

エド:泣くなよ、汚ぇな!

モリス:だってぇ!
  無人島にぽつーんと、
  ちっさくなっていく船長を
  見送ったあの日を思い出しちまいやして……
  もう7年も前ですぜ……。

エド:その割にはお前、あっち側だったろうが!
  忘れてねえからな。

モリス:へへ! バレやしたか。
  あんたより払いが良かったんでね

エド:この、海賊め

C:アンジェラァ!
 ラムが足りねぇ! 仕事しろォ!

アンジェラ:積もる話がありそうだね。
  ちょっと向こうの相手してくるから何かあったら呼びな。
  ほら、ボンボだよ。

   ジョッキを二つ置く。

モリス:おお、ありがてぇ!

エド:ん? 俺は頼んでないが。

アンジェラ:乾杯すんのに要るでしょ?
  再会記念だ。モリス、あんたのも奢りでいいよ。

モリス:姐さぁん! あんたやっぱり最高だぜ!

アンジェラ:ごゆっくり。

C:ブランデーはねえのかこの店はぁ!

アンジェラ:はぁ。

エド:……んじゃ、乾杯といこう。

モリス:あい! 生還した、
 キャプテン・エドワード・ハチェットに!

エド:俺たちの友情に!

    ジョッキを合わせる音。
    AD 飲む。

モリス:んで? 今まで音沙汰もなく、
  どうしてたんです?

エド:ああ、しばらくはトルコの船に乗っててな。
  あちこち回ってたんだ。

モリス:それでカリブにいなかったと。

エド:面白かったぜ。海は広い。
  初めて見る景色、初めて聞く言葉。
  あと飯もいろいろだ。

モリス:へぇ! どこまで行ったんで?

エド:うぅん、チャイナあたりまでは行ったかな。
  あっちの海賊も強かだ。
  剣術が独特で手こずった。

モリス:おぉう、行ってみてえ!

エド:ここ最近はまたこっちの船に乗ってたが、
  まあいい。お前はどうしてた?
  ノーランの下にずっといたのか?

モリス:いいや、実ぁ、
  しばらくしてすぐトンズラしやした。

エド:ふ、賢いな。

モリス:貰うもんはもらったんで。
  ノーランは、殺しすぎやす。
  あの方が降りた港にゃ、
  灰一掴み残らねぇ。

  スペイン人を相当憎んでますぜ、
  ありゃあ。

エド:はぁん。まあ、
  「もっと海賊らしいことがしてぇ」だとか抜かすやつだ。

モリス:まさか反乱を起こすとは思ってなかったですがね!

エド:ああ。まあな。
  ……なぁ。今どっかの船に乗ってんのか。

モリス:あい? ふふん!
   解雇されやした! くせぇって!

エド:そうか。
  ちょうど「優秀な」航海士が必要なんだ。
  来ねえか。

モリス:もちろん!
  自由を謳え(うたえ)!

エド:枷(かせ)は風だけ!

   ジョッキを再び合わせ一気に飲む。

モリス:いやあ、でもまさかここで会えるなんて!

エド:ああ。ほんとに偶然だ。

モリス:いや、そういう意味でなく。
  知らないんですかい?

エド:なにがだ?

モリス:ここ、天使の鳥籠亭は、
  ジャン=ダヴィッド・ノーランの縄張りですぜ。

エド:あ? そうなのか。

モリス:ええ。アンジェラ姐さんはノーランの女で、
  姐さんがいるからここに帰ってくるんでさぁ。

エド:今まで会わなかったのは運が良かったってことか。

モリス:本当に。まあ、噂によると最近は
  トルトゥーガのほうを拠点に
  ポルトガル船襲ってるらしいですから、
  留守にしてたのかもしれやせんがね。

エド:ほー。お前の地獄耳は健在か。

モリス:任せてくだせぇよ、何が聞きたいですか?
  船長にならトクベツに、
  一杯で教えてやりやすよ。

エド:あー、今はエドでいいよ、船ねえし。
  そうだな……アンジェラのこと教えてくれ。

モリス:姐さんですかい?
   海域とか、勢力関係じゃなく?

エド:ああ。

モリス:まさか。

エド:……欲しい。

モリス:ええええ!
   無理ですよ、そりゃあ!

エド:なんでだ!

モリス:さっき言ったでしょう、
  ノーランの女だって。

エド:いーや、いけるね。
  なぜなら、俺の方がツラがいい。

モリス:その髭どうにかしてから言いなせえよ。

エド:で? 情報は。

モリス:姐さんは、三年前からここで働いてやす。

エド:ほう?

モリス:噂によると、ノーランに借金があるとか。

エド:それを、返すためにここに?

モリス:はい。
  んでその額が一生かかっても返せないとかなんとか……。

    ドア、乱暴に開かれる。 銃声と足音

ノーラン:……飲み足りないやつはどいつだ?

    静寂

ノーラン:……食い足りないやつは?

  騒ぎ足りないやつは!?

アンジェラ:おまえたち!
  大将のおかえりだよ、なに突っ立ってんだい!

    SE喧騒(出来れば全員ガヤアドリブ、無理なら飛ばして次)

    大将! まってました!!
    ご無事で何より!
    今回の稼ぎは?
    今日もいかしてやす!など

    テーブルの上に立つノーラン。

ノーラン:がっはっはっはっはっ!
  久しぶりだなあ! え?

  今日は俺が持つ。お前らァ!!
  飲めや踊れ!! 歌い明かせ!!

エド:あー、俺、どうすべき?

モリス:逃げなせぇ……。
  姐さんに言って裏口から……。

ノーラン:アンジェラぁああ!
  俺が帰ってきたんだぞ! もてなせ!

アンジェラ:っ……はいはい、ここにいるよ。

ノーラン:あぁ……こっちへ来い……そうだ……
  んーーん……お前、今日は飲んでないのか?

アンジェラ:あ、あぁ……
  あんたが帰ってくるんじゃないかと思ってね。
  酔うなら一緒に、だろう?

ノーラン:あぁ健気でいいなぁ。
  俺好みの演出だ。んー?
  ほら、キスは。

アンジェラ:……っ。

ノーラン:早くしろォ!

アンジェラ:(キス)

ノーラン:随分と可愛らしいな、
  鳥籠にいたのは小鳥ちゃんだったか?
  え? はは、まあいい、
  あとでたっぷりと味わってやる。

    アンジェラ、隠れて口を拭う。

エド:…ん?

ノーラン:戦勝祝いだ! 酒を持ってこい!
  余興は!? 音楽は!?
  せっかく帰ってきたってのに俺は退屈だぞ!

モリス:(小声)エド、今のうちに逃げやすぜ。

エド:(小声)ああ。

ノーラン:んぁ? なぁにコソコソしてんだァそこ二人!?

モリス:げっ。

ノーラン:……はっ。これは、これは、これは。

エド:や、やあ、ノーランくん。

ノーラン:エェドワーァド・ハァチェーット。

エド:元気そうでなにより。

ノーラン:そっちはぁ、
  ああ、裏切り者のジェミィじゃねぇか。

モリス:(小声)ジェレミー、ジェレミーだって……ひっ。

エド:俺からしたら裏切り者は、君なんだけどな。

ノーラン:生きてやがったのか!
  こりゃおもしれえ! ははは!
   ……で、何しに来た?

エド:いやあ、噂の天使に会いに。

ノーラン:ああアンジェラ、
  いい女だろう? 俺のだ。

エド:そうか、残念だ。
  ところで、俺の女はどうしてる?

ノーラン:……あァ?

エド:ローザ・メイデンさ。

ノーラン:ああ、あのボロ船かぁ!

エド:ボロ船ェ?

モリス:エド、抑えて!

ノーラン:愛する人を奪われた薔薇の乙女は、
  悲しみにくれ、海に沈んで泡になっちまった、
  と、さ!

エド:ちっ、野郎……。

モリス:エドワード! だめだ!

ノーラン:がはははは!

  どうする? やるか? ここで!
  俺をやってそのあとは?
  ここに居る俺の乗組員たちもやるか?
  逃げ切れるかな? はははははは!

□海上、小舟の上。 波の音。ロープの軋む音など。

エド:うわ……船底に穴ぁ開いてやがる……。
  ほら、そっちのロープ解け。

モリス:はいよ。……懐かしいですねぇ。

エド:そうか?

モリス:ほら、ホーニング船長んとこから独立してすぐ、
  スペイン海軍にとっ捕まったでしょう。

エド:ああー、……あったなそんなことも。

モリス:あんときも小舟盗んで逃げて。

エド:ああ、残した仲間には悪いことしたよ。

モリス:まだ恨んでやすか? スペイン人。

エド:そりゃ、まあな。

モリス:それでもあんたは、無駄には殺さねぇ。

エド:当たり前だ、俺は女王様から特別許可状を与えられた、
  私掠船(しりゃくせん)の、船長だぞ?
  栄光に恥じぬよう、紳士であらねばなるまい。

モリス:もう持ってねぇだろ。
  今はただの海賊だ。

エド:うるせぇ。心は紳士のままだ。

モリス:へへ、さ、船長、目的地は?

エド:トルトゥーガ。

モリス:あいあい!

エド:錨(いかり)を上げろ! 帆をおろせ!

モリス:この小舟に錨なんかねえよ!

エド:航海士くん! 大変だ風がない!
 オールを持ちたまえ!

モリス:だあー! しょうがねえなあ!

□天使の鳥籠亭、宿泊部屋。キスしているアンジェラとノーマン。

アンジェラ:ん、んん…

ノーラン:(キス)はは、いい顔になった。
  おおー? どうだ、そろそろ……。

アンジェラ:ねえ、ジャン?
  もっと聞かせて? 今回の旅の話。

ノーラン:ははは、なんだ?
  お預けか。酷い女だ。

アンジェラ:いいえ、ただあんたの雄姿を知りたいの。
  あたしの大将は、かっこよくて、勇ましくて、
  残虐で、悪魔みたいな男だって、感じたいの。

ノーラン:口が達者になったなあ、え?
  ここに来た頃はァ、されるがままの、
  生娘(きむすめ)だったが……。

アンジェラ:嫌いになった?

ノーラン:いいや、悪くない。

アンジェラ:そう、よかった。
  あなた好みになれ(て嬉しいわ)

ノーラン:だが。おしゃべりは終わりだ。

    ノーラン、アンジェラを組み敷く。

アンジェラ:え、いっ。

    下卑た笑い。

ノーラン:「そこ」でも話は聞けるだろ、なあ天使よ。

アンジェラ:くっ、や、まだ、ねえ、
  やっぱりお酒をもっと飲んでからにしない?
  もうちょっ、ひっ。

ノーラン:十分に待った。
  さあ、醜い俺を「愛してくれ」

□数日後、ニュープロヴィデンス島、天使の鳥籠亭、昼

  ドアが開く。

アンジェラ:いらっしゃい。

エド:やあ、アンジェラ。

アンジェラ:また来たの。

モリス:姐さぁん、食料を積みたいんです!

アンジェラ:あら、船を買ったの?

エド:……。

アンジェラ:買えたの?

エド:頂戴、した。

アンジェラ:ならウチの小舟ちゃんは返してよね。
  モリス、何が必要かここに書きだしておいて!

モリス:あいあい!

    酒を注ぐ。 グラスを置く。

アンジェラ:随分儲かったみたいね。

エド:船員が優秀だからな。

    歌っている船員たち。

モリス:俺たーちゃ海を漂うー

C:荒くーれ者の海賊ぅ!

モリス:酒樽を開けろぉ!

C:いいぞモリス!

    下品な笑い声。

エド:さて、俺は船を持ってる。

アンジェラ:それがなにか?

エド:君を誘うのに、あと何が必要だ?

アンジェラ:ふふ。また口説かれてるのかい、あたし。

エド:ああ、口説いてる。

アンジェラ:攫ってくれないの?
  エドワード、船長?

エド:俺は紳士だからな。無理強いはしない。

アンジェラ:海賊のくせに。

エド:……あいつよりは優しくするぜ?

アンジェラ:……なによ。

エド:この痣。ああ、顔にまで。

アンジェラ:気やすく触らないでいただけるかしら?

エド:愛し合っているのか?

アンジェラ:っ……。

エド:あいつらは今、
  こっちの話は聞いてない。教えてくれ。

アンジェラ:エド……。

エド:ここにいたいから、いるのか?

アンジェラ:……そんなわけ、ないだろ。

エド:やっと本音が聞こえた。

アンジェラ:ここにいるしかないから、逃げられないから。

エド:自由になりたくないのか。

アンジェラ:なれるものならッ……なりたいさ……。

エド:なぜ逃げようとしない。

アンジェラ:アイツから逃げられると思ってるの?

エド:俺は逃げたが。

アンジェラ:一緒にすんじゃないよ。
  あいつは、強くて、でかくて、
  野蛮で、残虐で、
  あたしの首なんか一握りでへし折れる。

  逃げたりしたら水平線まで追ってくる。

エド:だから従ってるのか?

アンジェラ:怖いのよ。

エド:……。

アンジェラ:あいつに逆らったら、殺される!
  知らないの?
  あいつは本当に頭がおかしいの。
  機嫌を損ねたら二人死ぬ、機嫌が良くても一人死ぬ!

  ……死にたくない。

エド:なあ、アンジェラ。
  俺は自由が好きだ、何よりも愛してる。

アンジェラ:……口説いてる女の前で堂々と。

エド:命よりも、自由のほうが大事だ。
  俺にとってはな。

アンジェラ:……。

エド:死に怯えてノーランの機嫌をとって生きるのは、
  不自由だろう。
  ……自由は勝ち取るもんだぜ。待ってたって無駄だ。

アンジェラ:だったらどうしろっていうのよ。

エド:自分で手を汚さないやつに、
  自由は訪れない。

アンジェラ:ちっ……。

エド:まずは、投げられたロープを取るか取らないか。決めろ。

   熟考するアンジェラ。

アンジェラ:……あたしのことが欲しいなら。

エド:ああ。

アンジェラ:5万ポンド。持ってきて。

エド:5万?

アンジェラ:あいつに借金があるの。

エド:ほお。

アンジェラ:言ったでしょ。あたしの体は、安くないって。

□海上、レディ・ローザ号 波の音。  縄のきしみ。

エド:舫綱(もやいづな)を解け(とけ)!
  錨(いかり)をあげろ!

モリス:5万ポンドぉ!?
  そ、そりゃ、どこの王家の船を襲えってんだ。

エド:ああ、俺だって見たことねえよ。
  そこ、帆を開け!早くしろ!

モリス:なにをしたらそんな借金が……。

エド:町一つと引き換えだとさ。

モリス:ああ?

エド:マラカイボ。

モリス:ああ……ああ!?
  姐さんは確かに美人ですが、
  それだけでただの女に町一つかけやすかぃ?

エド:さあな。アイツの考えることはわからん。

モリス:マラカイボねえ……
  この前、寄りやしたが、あそこはもう……。

エド:あのノーランが約束なんざ守るわけねえだろ。
  5万ポンド稼ぐまであの「天使の鳥籠亭」で働くっつー
  「契約」なんだそうだ。

モリス:そんで、今、どんぐらい返せてるんです?

エド:100にも満たない。

モリス:あぁあ……そりゃ無理ってもんですぜ、
  酒場で5万ポンドなんて……。
  一生かかったって無理だ……。

エド:一生手放す気がないってことだよ。

モリス:それに、アンジェラに言ったんですか?
   マラカイボはもう壊滅してるって。

エド:言えるかよ。

モリス:ど、どうすんですかぃ。

エド:5万ポンド、集めてやるよ
  このキャプテン・ハチェットがな。

    波の音。 木を削る音。エド、船長室で船のネームボードを作っている。

エド:(木くずを飛ばす)ふうー。
  よし、レディ・ローザ号、と……。

    ノック。

C:船長! 敵船です!

エド:どこのだ!

C:スペインの貿易船と思われます!

    ドア開け。

エド:よおし! やるぞてめえら!

モリス:おおおお!

C:おおおおお!

    歓声

エド:砲撃の準備だ! 帆を全部張れ!

C:砲撃の準備!

モリス:ガレオン船だ!
  こっちの方が速いですぜ!

エド:いいか、いつも通りやる!

エド:横につけて弾(たま)を打ち込む!
  中央の砲手! チェーンショットでマストを狙え!

モリス:右につけるぞ!
  操舵手(そうだしゅ)! おもかじぃ!!

C:大砲準備できました!

エド:まだ待て!

     船倉のモリスが伝達している。

モリス:まだだ!

エド:撃て!

モリス:撃て!

    大砲の音。

C:乗り込みますか船長!

エド:ああ!お前らァ!
  爪(つめ)アンカーを持て!

モリス:おおおおお!

C:おおおお!

エド:いけェ!!

□ベネズエラ、マラカイボ

エド:見えた! マラカイボだ!
  帆をたため! 錨(いかり)をおろす準備だ!

C:あいあい!

エド:停泊許可を。あ? 5シリング?
  ぼったくってんのか? ……ほらよ。

エド:お前ら、食料と水と、酒を調達しておけ。

C:アイ、サー! いってらっしゃいやせ、船長!

モリス:おお、随分と賑やかになってやすねえ。

エド:ああ、海賊たちが勝手に改造してやがる。
  さて、アンジェラのことを知っている人間がいるかどうか……

□ニュープロビデンス島、天使の鳥籠亭、宿泊部屋。

    ベッドに横たわり寝ているノーラン。
   (いびきADできれば)
   ベッド横の小型テーブルでメモを書いているアンジェラ。
   ふと手を止める。

アンジェラ:……自分の手を、汚さないやつに、
  自由は訪れない。

ノーラン:アンジェラァ……。

アンジェラ:っ……、ここにいるよ、ジャン。

ノーラン:離れるな。俺から。

    メモを服に隠し、ベッドに乗りノーランに触れる。

アンジェラ:大丈夫、「ちゃんと」愛してるわ。

ノーラン:お前だけだ、お前だけ……
  俺を愛してくれるのは……。

アンジェラ:かわいそうなジャン。
  あんたはとても、素敵な人よ。

ノーラン:スペイン人の、スペイン人のせいで……。

アンジェラ:ラムはいる?
  ブランデーのほうがいいかしら?

ノーラン:おれの……俺の、顔……
  おれの顔を焼いたやつは何処だ!!

アンジェラ:ここにはいないわ!
  ジャン、落ち着いて、
  ほら、あたしよ、アンジェラよ。

ノーラン:アンジェラ……アンジェ……。

アンジェラ:ええ、ええ、なあに?
  寝ましょう? ジャン。

ノーラン:アンヘラ。

     アンジェラの首をつかむ。

アンジェラ:うぐっ。

ノーラン:アンヘラ……
  アァンヘラァ・ペレェス=サァンチェス!

アンジェラ:や、やめて、くる……し。

ノーラン:スペイン人が俺の部屋で何してる。

アンジェラ:ジャン、ね、あたし、よ

ノーラン:お前か!?
 俺の顔を焼いたのは! あ!?
 お前のせいで醜くなっちまったのか!?
 そのせいで誰も俺を、愛さないのか!?

アンジェラ:愛してるわ、あいしてる、ジャン。

    正気に戻るノーラン。

ノーラン:……はっ。

アンジェラ:っはぁ、は、は、ふ、げほっ。

ノーラン:ああ、アンジェラ、すまない……
  違う、違うんだ、すまないアンジェラ……。

アンジェラ:平気、大丈夫よ、
  はあ、ちょっと、お水を飲んでくるわね……。

    階段を下りる音。

アンジェラ:はあ、深く眠ると思ったんだけど。
  カクテルはだめね。悪酔いするみたい。

  愛されたいなら、暴力で従わせるんじゃなくて、もっと……。

□天使の鳥籠亭、酒場。

A:俺たーちゃ海を漂うー

B:荒くーれ者の海賊ぅ!

A:ちからぁで奪い攫ってぇ

B:盗んで壊してやり放題!

A:酒樽をあけろ!

B:ヨゥホー!

    場の全員、酔っている。

ノーラン:踊れ踊れェ!
  アァンジェラァ!酒を持ってこい!

ノーラン:あ? どこだ! おい!

B:姐御ならさっき、裏で食材を運んでるから、
  酒が欲しかったら自分でつげって言ってましたぜ。

ノーラン:あんだよ……おいお前、俺の分の酒もってこい!

A:船長!次は何処を攻めるんです?

ノーラン:あぁ、めぼしいところはぜぇんぶ墜としちまったなァ。

B:遠出しましょう船長!
  ベネズエラなんてどうでしょう!

A:お前本気で言ってんのか?

B:船長が呼びかければたちまち船員も海賊団も集まります!

ノーラン:ベネズエラっつーとォ……プエルト・カベージョかァ

A:船長? こいつのジョーダンですって! 遠いでしょう!

ノーラン:おもしれえじゃねえか!
  ははは! いいな!
  マラカイボ以来じゃねえか。
  こっちじゃァ名乗るだけで
  どいつもこいつも殺し合いの前に降伏しやがる。
  
  つまんねえ遠征ばっかだったなァ。

B:おお! そうですよ! 血が見てぇ!

ノーラン:はっはははは、そんなに血が見てぇか!

    銃声。

B:え。せん、ちょう、げほっ……。

    B倒れる。

ノーラン:よぉしぃ! お前ら、前祝いだ! 英気を養え!

    ドア開く。

エド:……やあ。ノーランくん。

ノーラン:オンボロ船長のお出ましだ。
  誰かこいつを修理してやれェ!

エド:ひどいねぇ。今日は取引に来たんだ。

ノーラン:俺はお前と取引したいことがなぁい。
  せっかく気分がいいんだ、ぶち抜かれたくなかったら失せろ。

    金貨の詰まった袋を投げる。

ノーラン:金貨袋?

エド:あと「いくつか」船にある。

ノーラン:これがぁ、なんだ?

エド:5万ポンドだ。

ノーラン:あ?

エド:この金で、天使を買いたい。

ノーラン:……ふ、はは、ははははは!
  アァンジェラァ!!

アンジェラ:ひっ。はい、ここに。

ノーラン:お前、やァっぱり頭が悪ぃなあ、え?

アンジェラ:な、なによ。

ノーラン:このドブネズミに頼んだのか?
  あたしを連れてって~って?

アンジェラ:し、知らないよ!
  勝手にそいつが買いたいって言ってるんでしょ。

ノーラン:勝手にぃ、5万ポンドだぁ?

エド:そうだ、俺が勝手に5万ポンド用意した。足りるか?

ノーラン:足りるわけねぇだろボンクラ!

アンジェラ:はっ!?

ノーラン:なあ、ハチェット。
  こいつからなにを聞いたか知らねえがなァ……。
  俺はこいつと、5万ポンド稼ぐまで俺の元で働く代わりに、
  両親とマラカイボの住民の命を奪わない、と、
  そういう契約をしたんだ。分かるかぁ?

エド:町娘ととんだ契約だな。

ノーラン:町娘ぇ!? 違ぇなあ。こいつは、スペイン総督の娘だ。

エド:スペイン人か。

ノーラン:ああ。ほんとはァ、アンヘラだ。

エド:……そうか。

アンジェラ:……だから、5万ポンドここにあるじゃない!
  嘘をつくっていうの!?

ノーラン:だまれ!

アンジェラ:っ!

ノーラン:俺を、嘘つき呼ばわりするなよ。
  これは、お前が稼いだ5万じゃない。わかるか? 小鳥ちゃん。

アンジェラ:……。

ノーラン:俺は5万ポンドよこせとは言ってねえ、
  5万ポンド分働けって言ったんだ。

アンジェラ:そんな……。

ノーラン:残念だったなあ、ハチェット。
  馬鹿な女に乗せられてご苦労なこった。
  天使は俺のもんだ。

エド:そうか、本当に、残念だ。

ノーラン:アンジェラァ……お前、仕置きだ。

アンジェラ:い、いや……。

エド:じゃあ、俺はお暇(おいとま)するよ。

ノーラン:ばかやろう、俺は今最高に機嫌が悪いんだ。

エド:知ったこっちゃないなァ!

    剣を抜く。 チャンバラ。 

ノーラン:女はやらんが5万ポンドはいただくぞォ!

エド:やなこった!

ノーラン:ちょこまかと……ネズミめ!

エド:おお! 危ない危ない!

ノーラン:鉛玉(なまりだま)はどうだァ!

    弾が入ってない。

ノーラン:ちっ使えねえ!

エド:おお、ラッキーィ! 
 銃の手入れくらいちゃんとするんだな! じゃあな!

ノーラン:……。 

  ※B=さっき死んだのと別の手下。

B:追いますか? 船長。

ノーラン:いい。冷めた。銃貸せ。

B:え、はい。

    銃声 

B:な、んで。

    B倒れる。

ノーラン:アンジェラ! どこに隠れてる! 

アンジェラ:ひっ。

ノーラン:あぁはははは、見つけたぞ小鳥ちゃん。来い。

アンジェラ:いや、いやっ

    足音。ドア開け。

□天使の鳥籠亭、宿泊部屋。
    ベッドにアンジェラを投げる。

アンジェラ:痛っ。

ノーラン:俺は悲しい。

アンジェラ:いや、来ないで。

ノーラン:わかるか? 悲しいんだ。

アンジェラ:やめて、離して!

ノーラン:お前はァ……俺を、愛してなかったのか。

アンジェラ:あ、愛してたわ!

ノーラン:裏切り者が!

    アンジェラの頬を張る。

アンジェラ:(息)

ノーラン:お前は、お前だけは、
  俺を愛してくれると、ずっと……。

アンジェラ:お、お金と暴力でしばりつけた女が、
  本当にアンタを愛すと思ったの?

  あんたが愛されないのはね、顔が醜いからじゃない!
  恨みにまみれたあんたの心が醜いからよ!

ノーラン:うるせぇ! 

    抑えつけられる。 

アンジェラ:やめっ!

ノーラン:やっぱりお前もスペイン人だな、アンヘラ!

アンジェラ:く、はな、せ!

ノーラン:総督の娘が、海賊に組み敷かれてんだ、
  いい眺めだなァ! え!?

    無理やりキスしようとするノーラン。

アンジェラ:ん、んん

ノーラン:口開けろォ

    アンジェラ、口に隠していた薬を押し込む。

アンジェラ:ん。

    薬を飲み込んだノーラン、動きを止める。

ノーラン:……。

アンジェラ:はあ、はあ。

ノーラン:なんだ。何を飲ませた。

アンジェラ:ぺっ。さあ? 覚えがないね。

ノーラン:何を飲ませた!

アンジェラ:答える義理はないよ。嘘つきの、人殺し。

ノーラン:なんだと……この… 

アンジェラ:ひっ。

ノーラン:この、ぐ、体が、動かん……ぐうっ!

アンジェラ:マラカイボは、壊滅したんだってね?

ノーラン:ああ? それがなんだ。

アンジェラ:あんたを愛す代わりに、
  町には手をださない。そういう契約だろう。

ノーラン:俺を、嘘つき呼ばわりするなといっただろうが。
  「いつまで」手を出さないでいるか、
  指定しなかったのはお前だ。

アンジェラ:……海賊め。

ノーラン:はは、俺は、約束は、守る男だ。

アンジェラ:次は、約束を守らないスペイン人と、
  契約なんてしないことね。

     痺れ薬を飲ませたアンジェラにも
     多少影響がでてふらついている。

□廊下

アンジェラ:は、くそ、動け、動け!

    部屋の中から話しかけるノーラン。

ノーラン:ここからどうするつもりだァ!?

モリス:姐さん!

アンジェラ:モリス?

ノーラン:ははは!

モリス:もう船長たちが火を放ってやす、早く逃げないと!

アンジェラ:ごめんなさい、しびれが……。

モリス:唾液も飲み込むなって言ったでしょう!?
  失礼、抱き上げやすよ!

アンジェラ:ありがと、ぐっ。

モリス:ああ、きれいな顔がこんなに腫れて……。

ノーラン:俺は!お前たちを許さない。
  呪ってやる、呪ってやるからな!!

ノーラン:ええええどわあああああああどぉおおおおおお……
  はぁああああちぇっとぉおおおおおおお…… 

数秒開け

ノーラン:アンヘラ……アン…ジェラ……
  俺の天使……熱い…あついいいい
  ああああああああああ…………さむい。

□海上、レディ・ローザ号
    波の音、縄の軋み。

モリス:帆を全部おろせ!
  追い風だ! さっさとずらかるぞ!

エド:残虐だと思うか?

アンジェラ:……燃えてる。鳥籠亭が。

エド:お前が殺したんだ。よく見ておけ
  海賊としての初仕事だぞ。

アンジェラ:海賊……あたしが?

エド:レディ・ローザ号にようこそ。アンジェラ。

エド:残念だがもうあんたは
  天使なんてキレイなもんじゃない。
  野蛮で、血まみれで、
  世界一自由な、海賊さ。

アンジェラ:自由。

エド:自分で掴み取ったんだ。
  さあ、選べ。俺の船で働くか、
  まあ、陸で生きたいならどこかで降ろしてやってもいい。

アンジェラ:女が船に乗るのは、
  縁起が悪いんじゃないのかい?

エド:レディだってきっとあんたを好きになってくれる。
  あんたが船を、海を、愛せばな。

アンジェラ:あたしを、攫ってくれるんじゃなかったの。

エド:無理強いはしない。俺は紳士だから。

アンジェラ:……わかったよ。
  目的地は? 船長。

エド:……水平線の、向こうまで。

アンジェラ:ふふ、自由を謳え。

エド:枷(かせ)は風だけ。 

<END> 
2020.09.15

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