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『ラナンキュラスに祝福を』【不問1】15分

概要

この台本は、2025年9月1日~30日にボイストランド にて行われた、ヒスイさん主催「救いの詩/滅びの詩」という台本企画に参加した作品です。世界の終末を舞台に、終末を「絶望」と捉える人々の物語、「救済」と捉える人々の物語をそれぞれ6人のライターが執筆しアーカイブ数を競うイベントの、追加シナリオです。
サイドジェノサイド戦エントリー作品。 side Luminous(救済)

企画概要及び他の参加台本はこちらにまとまっています!
https://lit.link/sukuhoro

あらすじ

食物連鎖の頂点である人間に反旗を翻すように、「寄生種」という植物が突如発生したいつかの未来の話。血肉を糧に育つ種を植え付けられた人間は、植物の養分になるしかないのだ。 だというのに、自分には、一向に、種を植え付けてもらえない。 なぜ、なぜ。

  • 所要時間:約15分
  • 人数:不問1
  • ジャンル:終末、ファンタジー、ホラー

登場人物

  • 語り手
      肉体に嫌悪感。

本編

■語り手のアパートのベランダ。朝。

ーーー語り手は水の入ったジョウロで植物に水をやっている。

語り手:(バラに向かって)おはよう、母さん。ああ、蕾がぷっくりしてきた。もうすぐ咲くね。危ないから棘は落としておくよ。顔に傷がついちゃいけないから。

語り手:(朝顔に向かって)父さんは……ツルがだいぶ伸びたね。フフ、ロン毛だね。後頭部薄くなってたの気にしてたから嬉しいんじゃない? あれ、もう実ができてる。やっぱり普通の植物と違って成長が早いのかな。

語り手:(サボテンに向かって)兄さんは、変化なしか。まあ、サボテンはだから仕方がないね。花が咲くまで面倒見られるといいなあ。……なに? なんて言ってるの? わかんないよ。ごめんね。

ーーー植物たちは家族の体に寄生している。既に物言わぬ両親と、未だ小さく呻き声を上げる兄を撫でて、キッチンへ向かう。

語り手:家族にふりかけた水が朝日を浴びて、ダイヤモンドのようにキラキラと輝くのを見届けてから、部屋に戻る。羨ましさと妬ましさで、頭蓋骨に詰めこまれた脂肪の塊が沸騰しそうだ。いっそ溶けて鼻から流れ出てしまえばいいのに。

語り手:兄が発する唸り声とも泣き声ともつかない音を背中で聞きながら冷蔵庫を開ける。幸いなことに、数年前、父が災害に備えてソーラーパネルと充電池を家につけてくれていたおかげで、こんな状況でも腐ったものを食べずに済む。空が晴れてさえいれば、冷蔵庫を動かすくらいの電力は蓄えてくれるのはありがたい。

語り手:サラダチキンが一個と、ひよこ豆のパウチが五個、コーン缶が二個、豆腐が三パック。近所の岩田さんから収穫したオクラが3本。

語り手:また、どこかに肉を探しに行かなければならない。とりあえず、今朝はサラダチキンを飲み込もう。

語り手:「(えずきながらチキンを食べる)」

語り手:肉を食む。歯が塊にグニュりと刺さり、そのまま顎を引くと、筋繊維が裂ける。

語り手:「(飲み込んだあと、荒い呼吸)」

語り手:「(チキンをもう一欠片飲み込む」)

語り手:「(3回吐きそうになるのを抑え、最後に吐く)うっ、ううっ、ん、うぉえ」

語り手:びちゃりびちゃりと、シンクに胃液と白い肉塊が落ちる。

語り手:踏み荒らされた白椿のような、白い塊。

語り手:喉が焼けた。酸っぱい香りが胃から上ってくる。また失敗だ。これを食べないと、食べないと、食べないと、食べないと、食べないと。

語り手:(肉は食べれなかった)……………コーンと豆腐を食べた。豆は美味しい。

語り手:「いってきます」

語り手:サボテンが返事をした。

■玄関から外へ。

語り手:クーラーボックスを肩にかけ、重たい肉と脂を骨で支えて、ドアを開ける。

語り手:と、広がる景色、は、黒く照るアスファルト、に、伏した肉塊、から、緑がこぼれ、て、色とりどりの花、が、風に揺れている。

語り手:のを、横目で楽しみながら、右へ。お隣の松井さんはあいかわらずご自宅の門に引っかかっていて、吸い上げた血で染まったようなハイビスカスを咲かせている。松井なのに、南の国の低木になってしまったかわいい松井さん。一日花だから、返ってくる頃にはしぼんでいるだろう。早起きしてよかった。

語り手:「綺麗ですね。羨ましい」

語り手:はなびらを撫で、滑らかな感触を楽しむ。

語り手:ご近所さんはみんな素敵な花を咲かせたというのに。自分は未だ、肉にしがみつかれている。

語り手:紫陽花、ひまわり、桔梗《キキョウ》、朝顔、芙蓉《フヨウ》、スノードロップ、ゼラニウム…オニユリ、クローバー、アネモネ、スイセン。季節感のない花畑。通常同時期に咲かない花が、血と肉を糧に葉を伸ばす。ああ美しい、美しい。惨めな肉が間を通る。

語り手:どこかで誰かが呻き声を上げている。肉の残りが主張しているんだ。まだここにいるんだと、枯れていないんだと声を上げる。……(ゆっくり)耳障りだなぁ。

語り手:お前は花になるのだろう。きれいなきれいな花になるのだろう。喜べよ、受け入れろよ、汚い音を出すんじゃない。自分は花になれないのに、お前はお前は。

語り手:そうだ、自分は肉をとりに家を出たのだった。隣町のスーパーマーケットへ行くのだ。近所の店はもう、ほかの、まだ花になれない住民にとりつくされてしまっているから。

語り手:頑張らないと。頑張って肉を飲み込まないと、早く花になりたい。

語り手:突然地球に現れた寄生種の種《タネ》は、肉を食べるものを好むらしい。食物連鎖の頂点に立つ人間に復讐するかのように、寄生種は人を養分とした。彼らが意思をもっているのか、食虫植物のように反射で動いているだけなのかはよくわからない。しかし、近くで肉の匂いが漂えば、彼らは反応しタネを植え付けてくれる。「寄生種」はタネが宿ってからなんの植物になるか決まるらしい。タネが血を吸い芽を出して、肉を崩しながら茎や幹を伸ばしてゆき、やがて……美しい花を咲かせる。

語り手:……………(ゆっくり)肉が、嫌いだ。

語り手:この、骨にまとわりつく肉体が嫌いだ。いつからそう感じ始めたのか、記憶はない。物心ついた頃にはすでに、自分のモノであるところの肉を嫌悪し、成長するにつれ、嫌悪感は増した。

語り手:(女性はこっちを読む)胸につく脂肪が、尻を覆うふくよかな肉が。丸みを帯びた肢体が嫌いだ。

語り手:(男性はこっちを読む)肩に張りつく筋肉が、脚に浮く筋が、 太い腕に這う血管が、骨ばった硬い肢体が嫌いだ。

語り手:嫌いな肉を自ら殺す勇気もない、弱い自分が嫌いだ。

語り手:精神は肉に閉じ込められている。肉の形に成れ、肉の形に精神を合わせろと要請される。品評会に出された牛のように、肉の質を品定めされる目が向けられる。肉は檻、肉は楔、肉はしがらみ。苦しみは肉のせいだ。

語り手:肉を摂取しないために、菜食を続けた。野菜と豆、穀物それから少しの乳製品で食事は十分だった。それが仇となった。これまで肉を食んでこなかったからか、寄生種は自分に反応してくれない。こんなにも焦がれているのに、自分も美しい花を咲かせたいのに。

語り手:この身に埋められたタネは、どんな命を紡ぐのだろう。どんな色で、どんな形で、どんな名前の花が咲くのだろう。

語り手:ラフレシアでも、スマトラオオコンニャクでも愛せる。どうせ周りは腐った肉だらけだ、腐臭などもはや誰も気にしない。

■隣町の業務スーパー。昼。

語り手:たどり着いた業務スーパーはすでに荒らされていて、くずれた棚の傍らに、大輪の牡丹が揺れている。

語り手:フロアを素通りして、裏手の冷蔵庫へ。重たい扉をいくつか開け続けると、幸いなことに、冷凍肉のパックがあった。

語り手:袋の口を切って、薄く切られた豚の肉を口に入れる。

語り手:「(吐き気を抑える)うっ、ううっ」

語り手:飲み込む。飲み込んだ、飲み込め! 

語り手:……この薄さなら、なんとかいけそうだ。冷たい肉が食道を落ちていくのを感じる。

語り手:もういくつかのパックをクーラーボックスに詰めて、一応、豆腐や缶詰なども手に入れておく。肉を吐いてしまった時のためだ。花になる前に餓死してはならない。

語り手:帰りがてら、もう一枚、豚肉を飲み込む。

語り手:目の端でツタが動いた気がした。

語り手:肉を食む。肉を飲む。吐き気を抑えて、肉を喰らう。嫌悪する肉を、憎悪する肉を、食らい続ける。

■自宅。夕方。

語り手:家に着くまでに一袋開けることができた。吐きそうだ。気持ち悪い。火を通していない肉が胃を満たしている。

語り手:餓死を気にするのに食中毒は気にしないおかしさに、薄ら笑いがこぼれる。

語り手:ベランダの柵にもたれて、向かいの梅の木を眺めれば、少しは吐き気がおさまった。

語り手:早く早く早く花になりたい。

語り手:花になりたい。

語り手:花に、なりたい。

語り手:醜い肉を脱ぎ捨てて、美しい花になりたい。

語り手:この身に埋められたタネは、どんな命を紡ぐのだろう。どんな色で、どんな形で、どんな名前の花が咲くのだろう。

語り手:ああ、ああ、はやく、タネがほしい。

語り手:目の端でツタが動いた。

語り手:父の肉を食った朝顔が、ツルを伸ばし、自分の口に入り込んだ。

語り手:「(喉にツルが入り吐き気を催す)お、おっ」

語り手:耐えろ、耐えろ、耐えろ、耐えるんだ。その時がきた。

語り手:肉まみれの胃の中で、実がはじけ、タネが落とされる。

語り手:ああ、やっと。

語り手:「(ツルが抜ける)おえ、うぅ!」

語り手:吐き出さないように、口を押さえた。

語り手:動けるうちに、日のよく当たる部屋に、姿見を置こう。一番良い服を着よう。

語り手:「(呻き声)うー、う、ううーううー、うー」

語り手:「(呻き声)う、ううー、ぉ、ぉぁ」

語り手:「(呻き声)ぅ、ぁ、ぉぇ」

語り手:「(呻き声)ぅ……ぉ……」

語り手:タネが腹の中で膨らむ。そのうち、腹を割って芽が出た。血管の中を根が這い回る。青々とした葉が増える。自分の血を吸い肉を食んで育つその草が愛おしい。ぷっくりと膨らんだ蕾がついた。蕾のついた茎が伸びていく。懸命に、上を目指している。膨らみは日毎に丸くふくよかに育ち、ついに緑色の萼《がく》を押し広げる。はらり、はらりと花弁が開く。紫色のはなびらが、解けるように、緩むように、世界に存在を誇示するように。

語り手:うっすらと残る意識で、鏡に映る自分を眺める。その姿は小さくとも、たくましく、艶《あで》やかで、誇らしかった。初めて「自分自身を」美しいと思うことができた。ああ、なんという喜び、なんという赦し、なんという救い。自分は選ばれた。この美しいものに選ばれたのだ。

語り手:さあ、花が咲く。この世に「私」という花が咲く。その花の名はーー

おわり

2025/09/12

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