クリエイターズマッチングプロジェクト(https://sdr-cmp.com/) のストーリー部門に投稿した作品です。
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「不合格」
「不合格」
「不合格」
突きつけられた現実。
甘くはない、そんなことはわかってたつもりだった。
夢は、夢のままでいてくれたほうがどんなに良かったか。
合否発表までめくり続けたカレンダーの残骸が床に転がる。
―諦めて地元に帰ってきたら=?
お父さんも心配=してるよ?
あんたもいい歳だし、そろそろ===も考えないと
それに生きてるうちに=も見たいし~―
「ボーダフォンの絵文字は見られないって何度言ったらわかんのかな」
最近絵文字の使い方を覚えたらしい、
暗号のような母からのメッセージ。
「もう、涙なんて枯れたと思ってたのになぁ……」
嘆いても、動きたくなくても、腹は減る。
ゴミはでる。洗濯もしなきゃ。
ああ、生きていかないと。
空になったティッシュの箱を潰して、
お湯で溶かしたオニオンスープのカップを抱える。
遠い。
遠いなあ。
現実なんてそんなもんさとでもいうような
静かに反射するまんまるの白い月に手を伸ばす。
夜は、暗い。
「ん、ぁ、寒っ」
夢から引き上げられる。
夜明けの光が、瞼を刺す。
「……あ、きれー」
夢に向かって頑張ると決めて、一人でこの町に来た。
なんにも持っていなかった自分。
受け入れてくれたこの町を、朝日が照らす。
ずっと、いい子で、優等生で、生きてきた。
夢のために生きたいと、最初で最後のわがままをして。
家を飛び出して。
「まだ、ここにいたいなあ」
充電を忘れて、床に転がっていたケータイを手に取る。
―もうちょっと、頑張ってみるよ。お母さん。
「送信、っと」
<おわり>
2021.8.20.