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裂雲の翼『#3 それは銀よりも重い手帳』【♂3:♀2】25分

概要

貿易港カサンドラにて初任務をこなすブラック・ペレグリン号の3人。ところが、集合場所にアネットが現れない。ギクシャクした関係性、組んだばかりのチーム。それでも、仲間は、仲間だから。

※【伝声管】コップとか使うと楽しいかもしれません。おすすめは桃缶とかタンブラーといった金属製のもの。

※チンピラ男以外、伝声管セリフあります。

  • 所要時間:約30分
  • 人数:5
    比率 3:2
  • ジャンル:ファンタジー、スチームパンク、冒険、ジュブナイル

登場人物


※キャラクター詳細は裂雲の翼トップページをご確認ください。

  • エミリア
       猪突猛進ガール。飛行士。
  • ルディアス
    紳士で気弱。整備士。
  • ジェシー
    戦空艇部隊(せんくうていぶたい)・隊長。軽い。ナンパ男。27歳。顔は良い。顔は。
  • 郵便局員/チンピラ女
    2役兼ね。演じ分けやすいようにキャラ感(語尾、一人称など)は変更して構いません。郵便局員:ジェシーのファン。噂話が好き。チンピラ女:港にて荷積みの仕事を請け負うものの貧しい。
  • 港管理係/チンピラ男
    2役兼ね。演じ分けやすいようにキャラ感(語尾、一人称など)は変更して構いません。管理係:入港・出航手続きをしているおやっさん(おにいさん。お兄さんの場合はジェシーのセリフ中「おやっさん」を「おにいさん」に変更) チンピラ男:チンピラ女と共に荷積みの仕事を行う労働者。チンピラ女の舎弟的立場だが、こちらは元空賊。

本編

【前回までのあらすじ】(読み上げてもいいし読まなくてもいいよ!)

新・世界地図の作成という大役を担うエミリア、アネット、ルディアスの三人。
貿易港カサンドラにて初めての任務をこなしギルドに戻るも、アネットが姿を現さない。
エミリアとルディアスは、アネットの幼馴染、戦空艇部隊・隊長ジェシーと共に、
消えた仲間の行方を探すため動き出す!


■モノローグ

エミリア:木々を燃やし尽くした人間は、やがて浮島(うきしま)を削り、石を燃料とした。
吐き出す雲と黒煙は大空を覆い、雨となって私たちに降り注ぐ。

これは罰なのだ。
償うすべも知らず、許される努力もせず
翼をもたぬ傲慢なノームは、炎の力で空を舞う

■郵便局

ジェシー:勤務中に申し訳ございません。国家戦空艇部隊、ジェイクスです。

郵便局員:あら、ジェシーさん。ご苦労様です。

ジェシー:どうも。

郵便局員:まぁたハスケルのガールフレンドにラブレター送るの?

ジェシー:あのね、お姉さん。あいつはね、俺が風呂に入れてやったり、おしめとりかえたりしてたわけ。無理だから。無理無理。

郵便局員:何度も聞いたわよ~妹みたいに可愛がってるって~。

ジェシー:あー、そりゃ、昔は可愛かったさ……。

郵便局員:ねーえ、フリーなら、あたし、立候補したいなぁ?

ジェシー:んふ~。いいねぇ~。本命じゃなくてもいーい?

郵便局員:も~いい加減ロベルタは諦めなよ~!

エミリア:(蹴り)ふん!

ジェシー:いってぇ! なにすんだよ、チビ。

エミリア:チビじゃねぇ、エマだ! 時間ねぇっつってんだろ色ボケ野郎。

エミリア:ルディもなんか言ってくれよ!

ルディアス:……ジェシーさん。

ジェシー:ってぇな……。ん?

ルディアス:ジェシー、さん?

ジェシー:わぁったよ、わぁったって。

郵便局員:どうしたの? 

ジェシー:あー、じつはな、人を探してる。

郵便局員:はあ。

ジェシー:歳は十八で、黒髪の女だ。アネットっつーんだが、服装は……あー。

ルディアス:ブラウスに革のコルセット、ひざ丈のスカートにブーツです。あと特徴的なもの……あ! 赤い石のブローチでスカーフを留めてます。

エミリア:そんで! 「マリー・スミス」って人について聞きに来なかったか?

ジェシー:お前ら引っ込んでろよ。

エミリア:あんたがもたもたしてるからだろ。

ルディアス:緊急なんです!

郵便局員:うーん。またマリー・スミス?

エミリア:へ。

郵便局員:まあいいわ、その、女の子については覚えてるわよ。

ルディアス:確かですか!

郵便局員:あの短いスカートは珍しかったからね。

ジェシー:探してるんだ。なんでもいい、情報が欲しい。

郵便局員:んー。お昼過ぎに来て、マリー・スミスさん宛てに手紙を送りたいんだけど、住所がわからないって言ってたわ。まあそういう人はたくさん訪れるから、調べて教えてあげるんだけど。マリー・スミスさんってこの町、十五人くらいいるのよ。

エミリア:はぁ!? この時間から、一軒一軒回れってか?

ルディアス:探してたマリーさんは見つかったんですか?

郵便局員:それがね。あたしもこの町に住んでるわけだし、知り合いかもしれないから、ほら、年のころとか、職業とか人柄とか教えてくれればーって言ったんだけどね。名前しかわからないっていうの。

ジェシー:住所録は見せたのか?

郵便局員:ええ。それで、そうねー。自分の手帳に、上からたしか三人目くらいまでかな? 住所をメモしていって、書いている途中でリストを返して出てったわ。

ルディアス:目的のマリーさんを見つけたのかな?

ジェシー:いや、あいつなら、全部の家を回ろうとするはずだ。なんで途中でやめたんだ?

エミリア:なあ、お姉さん。さっきの、「またマリー・スミス」ってどういう意味だ?

郵便局員:ああ、先週もあったのよ。名前しかわからないマリー・スミスさんについて調べろって。すっごい嫌な感じだったの。

ジェシー:ああ、そういう嫌なことがあったらすぐ俺に教えてくれ。女性の安全を守るのが俺のしごと(だからな)

エミリア:(蹴り)ふんっ!

ジェシー:いだっ! お前、目上だぞ!

エミリア:うるせぇ色ボケ野郎。

ルディアス:嫌な感じって?

郵便局員:ええと、あんまり大きな声じゃ言えないんだけど……(小声)イースター貿易機構の人でね。

エミリア:なんだそれ。

ルディアス:国王が唯一認めた貿易商社だよ。規模が大きいから遠方の品物も取り扱ってるんだ。

ジェシー:そんでそいつがなんかしたのか?

郵便局員:それが、ここ半年で「マリー・スミス」って人が送った手紙や荷物の宛先を教えろっていうの。

ジェシー:はぁ?

郵便局員:業務外ですってお断りしたのよ。そしたらねぇ?……「我々に逆らうと、どうなるかわかるだろう?」って、知らないわよっ!

エミリア:え、すっごい三下のセリフじゃん。

ルディアス:んんー……本当にイースター貿易機構の人なのかなぁ。子供のころ、家で見たときは、みんな紳士的な感じだったけど……。

エミリア:貿易商なんて大概、金に目が眩んだいけすかねー野郎だろ。

ルディアス:イースター貿易機構は違うんだよ。貴族とも直接やり取りするからマナーとかしっかりしてないと雇ってもらえないんだって。

エミリア:へぇー。うちの島には来たことなかったな……ってかなんでそんなこと知ってんだ?

ルディアス:え!? あ、うん! たまたまね! たまたまだよ、たまたま!

ジェシー:うるせえガキども。その宛先ってのはどうしたんだ。調べたのか。

郵便局員:窓口止めて局員総出で調べたわよ! 銃なんて出してくるんだから。ほんとはそんなこと教えちゃいけないのよ?

ジェシー:そのリスト、あるか?

郵便局員:リストは渡しちゃったわ。まさか、またアレをやれってんじゃないでしょうね? 

ジェシー:いや、すまん。ないならいいんだ。ありがとう。よし、お前ら。次行くぞ。

ルディアス:い、今ので何かわかったんですか?

ジェシー:ああ。歩きながら話す。そうだ、最後に一つ。お姉さん。

郵便局員:はい?

ジェシー:今度怖い目に合ったら、すぐにボクに言ってください。助けに来ますから。

郵便局員:まぁ……!

エミリア:(蹴る)ふんっ!

ジェシー:いでぇ!!

■路上

ルディアス:そろそろ日が落ち始めるよ……。

エミリア:色ボケ野郎がボケかますせいで時間食ったんだろうが。

ジェシー:お前、親父のファンじゃねぇのかよ。俺、息子よ? もっとこう、敬意を持て、敬意を。

エミリア:ジーンとあんたはベツモノ。他人。関係ない。はぁ、そうだ。ジーンからコレが生まれるわけない。

ジェシー:親父も、酒と女には節操なかったがな。

エミリア:やめてぇ! ジーンはそんなことしない!

ルディアス:二人とも! 早くマリー・スミスさんの家に行かないと!

ジェシー:いや、アネットはおそらくマリー・スミスの家に行ってない。

ルディアス:え? でも三件目まではメモしてたんじゃ……

ジェシー:あいつならすべての家を確かめるはずだ。全件メモしてないってことは、どこにも行ってない。きっと何かに気づいたんだ。

エミリア:何かって何に。

ジェシー:今はそれは問題じゃねぇ。

エミリア:じゃあアイツどこにいんだよ!

ルディアス:郵便局からギルドに戻る間に攫われた……?

ジェシー:ここも治安がいい町ではないが、船室が荒らされ、その船室の主が連れ去られてるってことは狙いはアネット本人か、アネットの持ち物だろう。

エミリア:あー、お貴族さまだもんなぁー! そりゃいいもん持ってんだろ。

ルディアス:さっきの、イースター貿易機構の話は何か繋がりがあるんでしょうか?

ジェシー:それを確かめに向かってんだよ。

■南区、港

ジェシー:おやっさん!

港管理係:やぁ、隊長さん。おつかれさん。

ジェシー:ああ。

港管理係:そんなに急いでどうしたんだい。

ジェシー:いや、なんでも。なあ、ここ数日、イースター貿易機構の船は港に入ったか。

港管理係:ああ、入ってますよ。

ジェシー:やけに返事が速いな。

港管理係:さっきね、イースター貿易機構さんに貸してる飛空艇ポッドからうめき声がするっていうから、あんたんとこの隊員さんに見に行ってもらったんだよ。問題ないっていうから、ちょうどさっき出航手続きをしてやったんだけどね。

ジェシー:はぁ? どいつだ……減給だな。

エミリア:ビンゴじゃねぇか。

ルディアス:どこのポッドですか?

港管理係:ガンマポッドだよ。

ルディアス:すぐ行きましょう!

港管理係:ああ、何があったか知らないが、いくなら気をつけな。

エミリア:何に。

港管理係:あいつら、ニセモンじゃないかと踏んでるんだよ。

エミリア:どういうことだ?

港管理係:あたしゃ何年もここで港の管理をしてるがね、イースター貿易機構があんな小さな船で来たことなんてないよ。それに、貿易許可証も持ってないときた。

港管理係:仕入れるだけだからとか、ドレイク卿に頼まれたんだとかなんとか言ってごまかしてたが、ありゃおかしいね。

エミリア:ドレイク卿?

港管理係:知らないかい? イースター貿易機構のトップさ。もしあいつらが騙り(かたり)で、ドレイク卿の名前を使ったんだとしたらタダじゃすまさないと思うよ。あのおかたは。

ルディアス:だれかが、イースター貿易機構になりすましてアネットさんを……?

エミリア:あああ!

ジェシー:どうした!

エミリア:あれ、ガンマポッドじゃねえか?

ルディアス:出航、してる!

ジェシー:行くぞ! サンキュー、おやっさん!

■港、飛空艇ポッド(格納庫)、ガンマポッド

エミリア:クソ、一足遅かった!

ジェシー:まあ、あいつらが攫ったのかどうかは、推測でしかない。まだ慌てることは(ねえよ)

ルディアス:あ!

エミリア:どうしたルディ!

ルディアス:エマ、この、ブローチ。

エミリア:赤い石の……アイツのだ。

ジェシー:お前らの船はどこだ。

ルディアス:デルタポッドです!

ジェシー:よし、追うぞ。

エミリア:出航手続きは!?

ジェシー:そんなもん俺の権限でどうにかしてやる。

チンピラ女:いやぁー女一人攫って荷積み(にづみ)手伝うだけでいい儲けになったなァ。

チンピラ男:定期的に来てくんねえかなあ。

チンピラ女:貿易会社だってんだから月一くらいで来るさ。

チンピラ男:そしたらまた儲けられるな!

ジェシー:おい、てめえら。

ルディアス:その話。

エミリア:詳しく聞かせてもらおうかぁ?

■デルタポッド、飛空艇内

ルディアス:(伝声管)エンジン内圧上昇、エマ、ジェシーさん、炉はあったまったよ!

エミリア:オーケー。離陸準備。

ジェシー:燃料と水は。

エミリア:いつも出航前に積んでんだ。そんなには持たねえ。

ルディアス:(伝声管)いや、アネットさんのおかげでいつもよりだいぶセーブできたから、四時間は飛べると思う!

エミリア:……むかつく。

チンピラ女:おい! この縄ほどけよ!

チンピラ男:なんで俺たちまで乗せられてんだよぉ!

ジェシー:うるせえ犯罪人。時間がねえからここで尋問してやる。

エミリア:いいか? 俺の船だ。あんたも、そこのチンピラ二人も、絶対に勝手すんなよ!

ジェシー:それはお前の腕によるな。飛行士。

エミリア:……ちっ。出航!

ルディアス:(伝声管)浮遊石へのパワー供給八十パーセント。左右エンジン・出力上昇!

ジェシー:チビ、戦闘の経験は。

エミリア:あ、ある。

ジェシー:アンカーは積んでるんだろうな。

エミリア:船首にアンカーとカノン砲。火薬と砲弾、予備の碇(いかり)は倉庫だ。

ジェシー:よし。聞いてるか小僧。俺が航空士の代わりだ。射程に入るまでは全速力で飛べ。

ルディアス:(伝声管) アイ、サー!

エミリア:俺が船長だっての!

ジェシー:さて、待たせたな。

チンピラ女:なんだよ。

ジェシー:アネットを襲ったのはお前らか?

チンピラ男:し、しらねぇよ!

チンピラ女:はっ、依頼人の倍、金をよこせば話してやってもいい。

チンピラ男:ちょっと姉御! 

ジェシー:いい度胸だ。

チンピラ男:え、な、なんだよ、離せよ!

チンピラ女:何する気だい!

エミリア:ちょ、航行中にドア開けんな! 死にてえのか!

ジェシー:あーうるせえ。さっさと話さねぇと、こいつ、落とす。

チンピラ男:ひぃいいい!

チンピラ女:離せ! 離せよ!

ジェシー:離していいのかァ? 酸の海の真上だが?

チンピラ女:くっ。

ジェシー:優秀な船だ。もうだいぶカサンドラから離れたなあ。

チンピラ男:やめ、やめてくれっ。

ジェシー:酸の海ってやつはぁ、怖ぇぞぉ。

……俺は何人も海に落ちたやつを知ってる。戦場で、敵兵を投げ込んだこともある。

ジェシー:痛ぇだろうなあ。生きたまま、溶かされるのはよぉ。

チンピラ男:姉御ぉ!

チンピラ女:やめなよ!

エミリア:……くっ!

ジェシー:おっ、と、危ねえじゃねえか、まっすぐ飛ばせ、チビ!

エミリア:はあ、はあっ……。

ルディアス:(伝声管)エマ…?

エミリア:はあ、はあっ……やめろ、やめて、いやだ……。

ジェシー:あ、チビ?

   ルディアス、操舵室に飛び込んでくる。

ルディアス:エマ、エマ! しっかりして!

エミリア:(荒い息)あ、あ、足が、足が、切らないで!

ルディアス:ドア閉めてください!

ジェシー:お、おう。

チンピラ男:んぎゃ!

チンピラ女:お前!

ルディアス:ジェシーさん。操舵(そうだ)を。

ジェシー:……わかった。

ルディアス:エマ、エマ、落ち着いて。もう終わった。終わったんだよ。

エミリア:ふー、ふーっ。

ルディアス:ごめんね。足、守れなくてごめん。でも、もう痛くないよ。大丈夫。エマ?

エミリア:(呼吸、落ち着いていく)

チンピラ女:なんなんだよ、アンタたち。あの、攫った女、なんだったんだよ。

ジェシー:ハーシュマン家の令嬢だよ。貴族に手ぇ出したんだ。逃げられると思うな。

チンピラ男:き、貴族!? 聞いてない、聞いてないよ!

ジェシー:じゃあ何でアネットを狙った。何が目的だ。

チンピラ女:う、ウチら頼まれただけなんだよ!

ジェシー:詳しく話せ。

チンピラ男:俺ら、港で荷積み(にづみ)の仕事してんだよ……。

チンピラ女:そんで、あの貿易商が、連れてきてほしい女がいるって、報酬を出すっつってな……。

チンピラ男:名前なんか知らねえよ! あとつけて、あいつだって言われて……あとは人目につかない場所を通りかかったところで捕まえただけさ。

ジェシー:小僧、機関室に戻れ。

ルディアス:あ、はい……。

ジェシー:その、依頼主ってのは。

チンピラ男:貿易商だって言ってたが、名前は覚えられなかった。有名どころじゃねえ。だが、積み荷(つみに)の刻印は、イースター貿易機構だ。

ジェシー:んん…、騙り(かたり)か、本当にイースター貿易機構がアネットを狙ったのか。

チンピラ女:あとは荷積み(にづみ)を手伝って金もらってハイサヨナラだ。ほんとに知らねえんだって。

ジェシー:女は船のどこに積んだ。

チンピラ男:うぅ、倉庫に入れようとしたら、丁重に扱えってんで操舵室に連れてかれたよ。

ジェシー:丁重に……人身売買じゃなさそうだな。

チンピラ女:……そうだ、手帳は持ってるかって聞かれてた。

ジェシー:手帳?

チンピラ男:そうだ、聞かれてた! それで、俺たち、その子のポーチを漁って、手帳を見つけて商人に渡したんだ。

ジェシー:んん。今考えてもわからねぇ。んまあ、とりあえず操舵室に弾ぁ当てなきゃいいってこった。

ルディアス:(伝声管)ジェシーさん、そろそろカノン砲射程圏内です! エマは、大丈夫そうですか。

エミリア:だい、じょうぶだ。クソ、忌々しい……。

ジェシー:動けるなら操舵(そうだ)を変われ。俺が砲台に入る。……おいチンピラども。砲手の経験は。

チンピラ女:えっ!? ないよ。

チンピラ男:俺は、昔、空賊だったから、一応、打てる、けど……。

ジェシー:死にたくなかったら手伝え。それで不問にしてやる。

チンピラ男:わ、わかった! なんでもするっ!

チンピラ女:こらお前! あ、ウチは、船なんか乗ったことないんだよ!

ジェシー:じゃあ機関室で釜炊き(かまたき)でもやってろ!

チンピラ女:わ、わかった。

■機関室

ルディアス:手伝わせてしまってすみません、炉が開いたら、スコップで石炭を後ろの釜に投げ入れてください。

チンピラ女:うぁ、あっつ!

ルディアス:あっ、グローブ貸します! お水はそこです。

チンピラ女:あ、ありがとう。

ルディアス:いえ、こちらこそ。釜炊きなんて女性の仕事じゃないのに。すみません。

チンピラ女:え……? いや、ウチら、あんたらの仲間を攫ったんだよ? なんで謝るんだい?

ルディアス:あ、そうですね。ううん……。

チンピラ女:へんなやつ。

ルディアス:でも、お二人も、お金に困ってなかったら、こんなことしませんでしたよね。

チンピラ女:へ、うん、まあ、そうだね。

ルディアス:この国は豊かになったと言われてるけど、全然、そうじゃないんです。実際は、多分。……一部の、上流階級は自由に暮らしてるけど、まだ食べるにも苦労している人が、いるんです。だから悲しいことが繰り返される。もっとみんなが、全体的に豊かになれば、あなたがたもこんなことしなくて済んだんだ。

チンピラ女:あんた、若いのに面白いこと考えてんだね。

ルディアス:え。

チンピラ女:でもね、兄ちゃん。それは結構、理想論だよ。

ルディアス:理想論、ですか。

チンピラ女:所詮ウチらみたいな労働階級、最下層は、そういう生き方しかできないんだよ。

ルディアス:……。

ジェシー:(伝声管) 小僧、離されてるぞ! 速度上げろ!

ルディアス:っ。はい! すみません!

チンピラ女:しゃーないね、このスコップ使えばいいの?

ルディアス:お願いします!

■砲台

ジェシー:倉庫の場所は解るか。

チンピラ男:ああ、荷積みのときに確認した。

ジェシー:よし。ある程度応戦したらアンカーをぶち込む。いいか、操舵室とエンジンには当てるな。

チンピラ男:難しいこというなよぉ! フネの砲台の精度知ってんのか!?

ジェシー:死ぬ気で、狙え。

チンピラ男:分かったよ……。

エミリア:(伝声管) 操舵室より砲台へ。カノン砲・射程圏内。号令は?

ジェシー:俺が出す。敵も応戦してくるだろう。舵は任せる。ちゃんと避けろよ。

エミリア:(伝声管) ……わかった。

ジェシー:緊張してんのかぁ、船長さんよぉ

エミリア:(伝声管) してねえよ! 戦闘には、な、慣れてんだよ!

ルディアス:(伝声管) ジェシーさん、僕ら二人になってからは戦闘したことないです!

エミリア:(伝声管)ルディ!

ジェシー:そんなこったろうと思ったぜ。はぁ、こりゃ死ぬな。

エミリア:(伝声管)ううう!

ジェシー:よし、撃つぞ。

チンピラ男:あう、弾込め、火薬の準備は終わってる。

ジェシー:火種は?

チンピラ男:お、おーけー。

ジェシー:てめえら! スリーカウントで撃つぞ。

エミリア:(伝声管) 了解。

ルディアス:(伝声管) お姉さん、そこ捕まってて!

チンピラ女:(伝声管) あ、ああ!

ジェシー:三、二、一。撃て!

チンピラ男:ひぃ!

カノン砲、敵船尾をかすめる。

   同時に、船、揺れる。

ジェシー:うぉっ

チンピラ男:当たっ、うわ、わあ!

ジェシー:かすめただけだへたくそ! 立て直せ!

エミリア:(伝声管) やってるっつの!

ジェシー:整備士、右舷(うげん)の出力を左舷の二倍にしろ!

ルディアス:(伝声管) はい!

ジェシー:それでも機関員か!

ルディアス:(伝声管) すみません!

ジェシー:何のためのカウントだと思ってる! 発射と同時に両エンジンの出力上げんだよ!

ルディアス:(伝声管) はい!

ジェシー:おいチビ! 手いっぱいか? こんくらいの指示出せねぇんじゃ飛行士やめろ!

エミリア:(伝声管) うるせぇな!

ジェシー:ははは、敵砲くるぞ! お前はアンカーの準備。

チンピラ男:はいぃ!

ルディアス:(伝声管) エマ!

エミリア:(伝声管) 上昇して避ける! 

ルディアス:(伝声管) 了解、お姉さん、釜炊きを!

チンピラ女:(伝声管) あいよ、量は?

ルディアス:(伝声管) 二杯!

ジェシー:おい、一瞬、船体を安定させ、敵砲の発射を誘え。

エミリア:(伝声管) 当たったらどうすんだよ!

ジェシー:打たれるより先に上がるんだよ。

エミリア:(伝声管)……ルディ!

ルディアス:(伝声管) わかった!

   タイミングを測るエミリア。

エミリア:(伝声管) ……上げろ!

ルディアス:(伝声管) 了解!

チンピラ女:(伝声管) うわ!

ルディアス:(伝声管) ごめんお姉さん!

チンピラ女:(伝声管) う、ウチのことは気にしないでいいよ。

ジェシー:よし、敵船、船尾砲台は一門だ。アンカー圏内に詰めろ!

チンピラ男:お頭ァ! アンカー準備できやした!

ジェシー:おい、お前空賊に戻ってんぞ。

チンピラ男:アッ。

ジェシー:まあいい。俺が撃つ。ガキども、準備はいいか!

エミリア:(伝声管) いつでも!

ルディアス:(伝声管) いけます!

ジェシー:アンカー射出まで、三、二、一!

   アンカー(碇)射出。

チンピラ男:め、命中、すげぇや!

ジェシー:たりめーだこちとら現役・戦空艇部隊だぞ。

チンピラ男:兄貴ッ……しびれるゥ!

ジェシー:おら、鎖巻き取れ。最後まで付き合ってもらうぞ。

チンピラ男:ついていくっす!

エミリア:(伝声管) 敵船に乗り込む。ルディは待機。

ルディアス:(伝声管) 気を付けてね。船は任せて。お姉さん、釜をお願い。僕は舵輪(だりん)を。

チンピラ女:(伝声管) この熱さにも慣れてきたよ。まったく。

ジェシー:さて、囚われのお姫様を救いに行こうか。

■【次回予告】やってもやらなくてもいいよ!

ルディアス:僕たち、まだまだだなあ……。

ジェシー:俺の隊に入るか? 死ぬほど鍛えてやるぞ。

ルディアス:え、遠慮します。 

エミリア:ついにアネットを攫った犯人を追い詰めたブラック・ペレグリン号。犯人が狙った手帳とは。そして、残されたマリー・スミスの謎。
次回、「それは世界を巡るための鍵」 お楽しみに。 

【続く】次→#4

2021.11.16.

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