概要
自律型ロボット、通称「ヒトガタ」を修理する工場で働く少年・チハルは、勤めていた工場でいじめられていた。工場で爆発事故が起こり、混乱に乗じて逃げ出し、「ニンギョウ町」へたどりつく。
そこは「ヒトガタ」に占拠された町で、人間は住んでいなかった。ニンギョウ町で暮らすヒトガタたちは人間を嫌っているようだった。
チハルが修理工であると知った人形町のリーダー・ギントンは、故障して動かなくなっていた仲間・テンマの修理をチハルにさせる。修理を成功させたチハルはヒトガタたちに受け入れられ、町中のロボットを修理して回った。
しかしある日、政府が町の取り壊しを決定したというニュースが入る。ヒトガタたちは抗戦することを決め、チハルも協力すると申し出たが、当日、ギントンはテンマに、チハルを連れて逃げるよう命じるのだった。
※ボイコネ版を移植しています。PDF版とは一部異なります。
- 所要時間:約40分
- 人数:5(♂2:♀1:不問2(少年2))、サブ4(兼役可)
- ジャンル:ファンタジー、ロボット、友情、SF、近未来
登場人物
- 橋本チハル
主人公。機械工の少年。勤務していた工場が火事になり逃げた。人間嫌い。 - ギントン
TM-H09。警備ロボ、親分肌、基本色-赤。使用者への反抗的態度によって廃棄。 - ロッキー
TM-H04。医療ロボ、クール、基本色-青。小児科院の院長交代に伴い最新機と入れ替えのため廃棄。 - カスミ
TM-H06。 メイドロボ、高飛車、基本色-紫。使用者一家に虐げられたことにより欠損を装って回収されるよう仕向けた。 - テンマ
TM-H14。配達ロボ、そそっかしい、元気、基本色-黄色。郵便局勤務だったが型落ちにより廃棄、偵察中に事故をおこしてバラバラに。 - 兼役
・キャスター(3台詞)
・ロボット管理局局員(2台詞)
・CMナレーション(3台詞)
転換差分
- 人形町カプリチオー1:4
<用語と背景>
○テクノメイト-ハートシリーズ
人間の形を模した自律型ロボット、通称「ヒトガタ」の機種のひとつ。「ココロシステム」が搭載され、人間に近いコミュニケーションが可能になり、人が親近感を抱くようデザインされている。用途によってスペックや搭載機能が異なる。しかし成熟した多くのヒトガタは主人に対し合理的な提案をしたり、非生産的な、あるいは理不尽な命令に背いた。型落ち、欠陥、言うことを聞かない、反抗的、さまざまな理由で廃棄されたり、不法投棄された。また、人間の「感情処理用」として酷い扱いを受けるものもあった。
名前のみ
TM-H08 “ギンザ” 警備ロボ、3年前の暴動の指導者。人間を憎んでいた。
TM-H11 ”ハッチョ” 運搬ロボ、おおらか、基本色-オレンジ
TM-H10 ”ツッキー” 建築ロボ、気さく、基本色-黄緑
○テクノ-ポーン(TP)
テクノメイトハートの後継機。人間の命令に忠実に従うヒトガタ。テクノメイトハートの「失敗」を踏まえ、価値判断を行う「ココロシステム」を排除し、与えられた命令を完遂する、あるいは命令がキャンセルされるまで行動を止めないようにプログラムされた。汎用型であるためにシリーズ展開はしていない。未だ価格が高く一般家庭では購入不可能。機体の基本色は白で無機質なデザイン。
○条例
ヒトガタの廃棄は大型精密家電扱いとなり回収費用がかかるため不法投棄が相次いだ。野良化、犯罪行為に悩まされたトウキョウ都は、製造企業に回収努力を求め、条例として「野外における監督者を伴わない、あるいは業務証明の出来ない自律型ロボットは不法投棄物とみなし行政機関により回収のち強制処分、持ち主が判明すれば罰金を課す」と定めた。
○橋本チハル
カヤバ町のヒトガタ専門修理工場で働いていた機械工の少年(15,6)。人間嫌いでロボット好き。同じく機械工だった父について幼少からロボットを自作・分解したり、システム構築をしたりしていた。上キョウして一人暮らしをしていたが工場内でのいじめ、陰湿な人間関係に疲れ、工場の爆発事故に乗じて逃げだした。
○人形町
トウキョウ都内の町。正式表記はニンギョウ町。もともと工業地帯で人はあまり住んでいなかった。3年前、とある工場で、回収され廃棄を待つヒトガタたちが暴動を起こし、人間を追い出して「ヒトガタの町」として占拠した。その後、不法投棄されたり、持ち主の元から逃げ出したヒトガタたちが密かに集まっていた。
本編
■アバンタイトル
チハルの仮屋、ガレージ。シャッターは開いている。
マットにカスミが寝ている。
チハル「よし、起動っと」
カスミ「ハロー、ワールド。
テクノメイトハート06(ゼロシックス)。スタンバイ 」
チハル「おはよう、カスミ」
カスミ「メモリをスキャン中。(起き上がる)
・・・あら、終わったの?」
チハル「うん。腕、動かしてみて」
立ち上がるカスミ。腕を回す。
カスミ「ふー。
接続部からぶっとんじゃったからどうなるかと思ったけど、
いいかんじね。三百六十度ぐるんぐるん回るわ!」
チハル「ベアリングを変えてみたんだ、
ボール式にしてオイルもよく回るようにしたから摩擦が」
カスミ「あーあーあーそういうのアタシわかんないから!
ありがとね!これお代」
チハル「サバ缶じゃん。よく見つけたねこんなの」
カスミ「ふふん!
プロのハウスメイドはチリ一つ見落とさないのよ!」
チハル「ありがとう、助かるよ」
カスミ「合理的判断よ。あんたが健康じゃないと困るんだから!
じゃあまたよろしくね」
チハル「(笑い)なるべく壊れないでよ」
遠くからテンマが走ってくる。
テンマ「ちっはるーーー!たいへーーん!!」
チハル「あっ、そこ段差ーー!」
テンマ「うわわわわ!」
チハル「派手につっこんだなー」
テンマ「(手で口抑えくぐもらせ)たーすけてー」
チハル「はいはい」
■タイトルコール
ギントン「人形町(にんぎょうちょう)ラプソディ」
■チハル過去回想
数秒開け入り。
チハル(N)『ヒトガタは、あたたかい」
チハル(幼少)「どうしよう、動かなくなっちゃった、
父さん!どうしよう!」
「いま直してあげるからね!」
「父さん!みてみて!なおった!」
チハル(N)『人間は、冷たい』
チハル「ヒトガタはただのロボットじゃないんです、
ココロがあるんです、簡単に廃棄だなんて・・・」
チハル「えっ、僕、そんなつもりじゃ・・・。
ちがいます!もっと効率的な方法を共有できれば、
作業が進みやすく・・・
仕事を奪うだなんてそんなこと考えてません!」
チハル(N)『壊れたパーツは要らない』
チハル「間に合わない、どうしよう、やばい、
間に合わないよ、一人じゃ無理だ・・・」
「あれ、工具箱、ない」
「この子・・・一昨日修理したのに・・・ッ
・・・・こいつも昨日・・・なんでこんなこと!」
「・・・いっぱい、いっぱい直したのに、僕、壊れてないのに」
チハル(N)『ヒトガタは友達』
チハル「ニンゲンは、冷たい」
キャスター(兼・テンマ)
「東京都中央区カヤバ町のヒトガタ修理工場で出火があり、
現在も消火活動が続いています。
ここでは、近年問題になっている野良ヒトガタの管理について、
専門家をお呼びしてご意見を伺いたいと思います。
自律型ロボット管理局では、今回の工場火災について、
野良ヒトガタの関与があるとお考えですか?
局員(兼・ギントン)「現在調査中です。いずれにしても、
暴徒と化しつつあるヒトガタを排除せねばなりません。
三年前の悲劇を繰り返してはならない」
キャスター(兼・テンマ)
「回収が間に合っていないということでしょうか」
局員(兼・ギントン)「やつらはバカではないのでね。
うまいこと逃げ隠れしている。
しかし条例の制定によって強制的に回収できるようになりました。
これから一気に排除が進みますよ」
キャスター(兼・テンマ)「なるほど。貴重なご意見、
ありがとうございます。CMのあとは、引き続き、
ロボットと人類の新しい関係性について考えていきたいと思います」
■CM
CM(兼・テンマ)「テクノポーン。
それは、新しい「トモダチ」のかたち。
あなたを助け、あなたに寄り添い、あなたの願いを叶えます。
新規購入特典!不要なヒトガタを無料でお引き取り!
詳しくは店頭で。テクノメイトカンパニー」
■人形町、町はずれ、昼
ロッキー「ニンゲンだ」
カスミ「ニンゲンね」
倒れているチハルを観察する二体。
カスミ「死んでる?」
ロッキー「生体スキャン開始」
ロッキー「・・・三十八度七分。脱水症状。
腕に軽度の熱傷。まだ息はあるようだ」
カスミ「このままほおっておいて、死んだら刻んで捨てる。
あーあ。生きてるニンゲンに手を下せないのってホント不便。
管理局の調査員だったらどうすんのよ」
ロッキー「だが子供だ。助けなければ」
カスミ「それでもニンゲンよ。あたしやっちゃいたーい」
ロッキー「ギントンに相談」
カスミ「・・・しょーがないな、しょっと」
カスミ、チハルを担ぎあげる。
■寄合所(よりあいじょ)
カスミ「ギントンにいさぁん!」
ギントン「よぉ!カスミ、ロッキー、調子はどうだァ」
ロッキー「システムに異常はない」
カスミ「よいしょっとー」
カスミ、チハルをギントンの前に下す。
ギントン「よしよし。んで、これは?」
カスミ「拾ったのよ!ニンゲン!」
ロッキー「コドモだ」
ギントン「ほお?」
ロッキー「治療して隣町近くまで運びたい、数日の滞在許可を」
カスミ「身ぐるみ剥いで刻んで捨てよぉ?」
ギントン「持ち物は?」
カスミ「工具箱、オイル缶、磨き布。エトセトラ」
ギントン「ほー。オイル缶ねぇ。いい拾いもんだ。
カスミ、全部倉庫にもってけ」
カスミ「はいはーい」
ギントン「ガキは町の外に捨てとけ。刻むのはなしだ。
関節に血液が詰まるだろ?」
カスミ「えー」
ロッキー「コドモだ、ギントン」
ギントン「ロッキーセンセイ。
あんたが医療用のヒトガタなのはわかっとる。けどなあ」
ロッキー「我々を捨てた世代ではない」
ギントン「一緒さ。ニンゲンだ」
チハル「うっ」
ロッキー「少年、動くな。熱が高い」
チハル「はあ、はあ、すみませ、助けていただき・・・ヒトガタ?」
ロッキー「まずは水分補給だ。口を開けなさい」
チハル「え・・・」
ロッキー「身構えなくてもいい。飲用水だ。
指から出るタイプは初めて見たか?
・・・冷却機能が壊れていてな。生ぬるいだろうが許してくれ」
チハル「あ、はい。(飲み込む)はあ、ありがとうございます」
ギントン「坊主、どっからきた」
チハル「カヤバ町から、です」
ギントン「ふん、なら歩いて帰れるな。さっさといけ」
ロッキー「ギントン、せめて熱が下がるまで
面倒を見させてくれないだろうか」
ギントン「なあ。子供だろうが、ニンゲンは敵だ」
ロッキー「ああ。しかしこの少年はまだ我々を傷つけてはいない」
ギントン「・・・目ぇ離すなよ」
カスミ「あ、にいさんー、待ってよぉ」
チハル「・・・はあ、えっと」
ロッキー「さあ、私の家にいこう。
テクノメイトハート04(ゼロフォー)、
皆(みな)からはロッキーと呼ばれている」
チハル「橋本チハルです・・・ありがとうございます」
■夜、町はずれの家
押入れを漁るロッキーと毛布にくるまるチハル。
ロッキー「寒くないか」
チハル「あ、はい、治療と、毛布、ありがとうございます」
ロッキー「申し訳ないな、
ヒトガタは基本的に気温に状態が左右されないから、
暖房がない」
チハル「大丈夫です」
ロッキー「たしかここに・・・ああ、あった、よかった。
保存食の粥だ。湯を注ぐだけとは便利なものだ」
チハル「・・・あの、ここどこですか、無意識で歩いてて」
ロッキー「ニンギョウ町」
チハル「ニンギョウ町って、三年前、ヒトガタの暴動があった・・・」
ロッキー「そうだ。今ここに人間はいない。
生き残ったヒトガタや、
回収車から逃げてきたものたちが住み着いている。
まあ、”生き残った”というのは言葉の綾だが」
チハル「そうだったんだ・・・ごほっ、痛」
ロッキー「チハルくん、感謝する」
チハル「え、なんでですか、感謝するのは俺のほうです」
ロッキー「私は医療用のヒトガタ。人間の健康を守るのが仕事だ。
だがここにはヒトガタしかいない。私にはヒトガタは直せない。
皆はそれぞれ自分の得意なことをして助け合って過ごしているが、
私の機能は役に立たない」
チハル「そんなことないでしょう、
04(ゼロフォー)はたしか、
医療系でも小児医療専門ですよね。
精密だけど、比較的頑丈で、機能が多い。
いろいろと応用が利くはず」
ロッキー「テクノメイトハートシリーズをよく知っているようだな」
チハル「・・・俺も持ってました。
シッタータイプがずっと友達で、寿命まで」
ロッキー「そうか。いい持ち主に巡り合えたんだな」
チハル「・・・どうして、あなたは、俺を助けてくれるんですか」
ロッキー「・・・私は医療用だからね」
チハル「ここにいるってことは、
その、捨てられたんでしょう?人間に。
憎くないんですか。恨んでないんですか。
俺も、人間ですよ」
チハル「ニンゲンの都合で、
ヒトガタにココロシステムをつけたくせに、
最新機種が欲しいからとか、ちょっと壊れたからとか、
思い通りに動かないから、意見してくるから、
痛いところを突いてくるから、都合が悪くなったから、
そうやって簡単に廃棄する。
気持ち悪くないんですか、どうして優しくできるんですか」
ロッキー「チハル君」
チハル「非合理的で、冷たくて、自分の都合ばっかりで、
理不尽で、話も聞きやしない、人間なんて、
あなたたちヒトガタに及ばないろくでもない生き物なのに」
ロッキー「チハル君!」
チハル「っ・・・」
ロッキー「私は学んだ。
自分の仕事に喜びを感じること。誇りを持つこと」
チハル「いい、持ち主に、巡り会えたんですね」
ロッキー「ああ。子供好きの老紳士だ」
チハル「・・・」
ロッキー「まずは休もう。そのあと、ゆっくり話をきかせてくれ」
■寄合
カスミ「ねぇギントン?
あのガキどうすんのぉ? アイディー見た?」
ギントン「修理工なら、使えるんじゃねえか?」
カスミ「はー。ギンザ兄さんだったら問答無用で刻んでたわ」
ギントン「俺はアニキほどイカレてねえ」
カスミ「よく言うよぉ、機械のくせに」
ギントン「そうさなあ、俺たちはココロをもつとはいえヒトガタ。
憎しみに飲まれてほかの生き物の命を奪うなんてのは」
ギントン「・・・ニンゲンのすることだろ?」
■数日後、朝。ロッキー宅
チハル、ロッキーを整備している。
ロッキー「おお・・・!」
チハル「うん、これですこしは動きやすくなったんじゃないかな」
ロッキー「ありがたい」
チハル「あまりできることなかったけどね。
俺の工具箱とパーツがあれば冷却機能も直せるのに」
ロッキー「いや、とてもすばらしいよ。
限られた工具とジャンク品からここまでとは。動きがとても軽い」
チハル「それだけが取り柄だからね」
カスミ「邪魔するわ」
ロッキー「カスミ」
カスミ「あらロッキー、随分と仲良くなったのね。ニンゲンと」
ロッキー「待て、まだ彼は万全ではない」
カスミ「知ったこっちゃないわ。おいガキ」
チハル「・・・なんでしょうか」
カスミ「ちょっと来てくれる」
■寄合
ギントン「おせぇぞ」
カスミ「兄さん~おこんないでよぉ」
ロッキー「ギントン、彼の体調はまだ」
ギントン「うるせえ、別件だ」
ロッキー「別件?」
ギントン「センセイはハッチョと交代で見回り番だ。
こいつに異常が起きれば使いをやる」
ロッキー「・・・分かった」
ギントン「カスミ、つれてこい」
カスミ「はぁい」
カスミ、寄合所の中へ入る。
ギントン「・・・」
チハル「・・・」
ギントン「お前、修理は得意か」
チハル「え、まあ、修理は、俺の仕事ですが」
カスミ、台車に壊れたヒトガタを乗せて戻る。
カスミ「つれてきたよ~」
ギントン「・・・こいつ、直せるか」
カスミ「配線気を付けてよ、ぎりぎりなんだから」
チハル「これは・・・ボディの損傷がひどい。
けど、コアは多分生きてる」
ギントン「直せるのか」
チハル「・・・工具箱を返してほしい。
あとはパーツがないとなんとも。溶接機や切断機もいるし」
ギントン「ついてこい」
倉庫へ向かう二人。
チハル「・・・あなたは、テクノメイトハート09(ゼロナイン)、
たしか警備用、ですよね」
ギントン「詳しいな。一桁台を知っとるんか」
チハル「テクノメイトハートが好きだったから。
女の子は06(ゼロシックス)、ハウスメイド。
壊れてた小さいのは、14(フォーティーン)、配達用。
今すれ違ったのは板前さんの10(テン)と、
大型運搬の11(イレブン)」
ギントン「なんだ、知ったつもりか」
チハル「元気なテクノメイトがこんなにいて嬉しいんだ。
だから、14(フォーティーン)も直したい」
ギントン「・・・ここだ」
金属製のシャッターを開けると
高く積み上げられたパーツの山。
チハル「ここ倉庫?すごいスクラップの山」
ギントン「使えるもんがあれば何を使ってもいい。
ほら、お前の工具箱だ」
チハル「あぁ、はい。・・・これって、あの、
もしかして、あー、嫌なら答えなくてもいいんだけど。
三年前の・・・?」
ギントン「あぁ、仲間たちだ」
チハル「・・・ごめんなさい」
ギントン「何に対しての謝罪だ、それは」
チハル「身勝手な人間が、あなたたちを傷つけて」
ギントン「お前が謝っても、
システムが学習してしまった『憎しみ』は消去できないし、
ニンゲンも、社会も、『条例』も、変わらない」
ギントン「俺たちは痛みを感じない。
ただ、電子回路が熱くなる。排熱が間に合わない程にな」
チハル「・・・使えそうなパーツを探そう」
■寄合
カスミ「待ちくたびれたわよ~!ちゃんと直せるんでしょうね!」
ギントン「ボリューム下げろ、二ヵ月待ったんだ、
あと数日も待てるだろうが」
チハル「・・・感情データメモリーがやられていたら、
治っても、同じ人格になるかはわからないよ」
カスミ「嫌よ、あたしは。テンマじゃなきゃ」
チハル「・・・テンマっていうのか」
カスミ「間違っても14(フォーティーン)だなんて呼ばないで。
あたしも06(ゼロシックス)じゃない、
カスミって名前があるの」
ギントン「あとは俺が監視するからお前は充電行ってこい」
カスミ「ふん」
カスミ去る。
チハル「・・・電気は、どうしてるの」
ギントン「アレだ」
チハル「太陽光発電パネル・・・よくあんなにつなぎ合わせたね」
ギントン「詳しいやつがいたんだ。もう壊れちまったけどな」
チハル「そっか・・・。とりあえず、テンマの状態を詳しく見るよ」
■CM
CM(兼・テンマ)「今日から我が家の一員。
テクノポーンがあなたの生活を一新します。
面倒な家事やルーチンワークから解放され、
クリエイティブな時間を享受しましょう!
ただいま無料買い取りキャンペーン実施中。
テクノメイトカンパニー」
■数日後、寄合
チハル「・・・電源、入れるよ」
カスミ「大丈夫なんでしょうね!?
これで、これで動かなかったら、絶対許さないから」
チハル「絶対動くとは言えない。できることはしたけど、
長いこと通電してないからどうなるか」
ロッキー「信じよう」
ギントン「・・・はやくしろ」
チハル「スイッチ入れるよ」
テンマ「ハロー、ワールド。
テクノメイトハート14(フォーティーン)。スタンバイ」
カスミ「・・・っ動いた!」
テンマ「メモリをスキャン中。
オペレーティングシステムエラー。
人格データにアクセスできません」
カスミ「どういうことよ!」
ロッキー「おちつけ」
チハル「音声コマンド、
RS1342B(アールエス いちさんよんにビー)、
再セットアップ、エンド」
テンマ「コマンドエラー、登録されていない音声データ。
登録ユーザー数、『ゼロ』人、です」
チハル「あの」
ギントン「何だ」
チハル「マスターユーザーの再登録が必要なんだけど、
人間の肉声じゃないと認識しないから・・・えっと」
ギントン「かまわん」
チハル「わかった。音声コマンド、
新規ユーザー登録。『私はマスターユーザーです』」
テンマ「コマンド認識、ハロー、マスター。
お名前を教えてください」
チハル「チハル、エンド」
テンマ「ユーザー1(いち)、チ・ハ・ル。
音声ライブラリを作成します。リピートアフターミー。
『私はあなたの友達、あなたは私の友達、
心と心で繋がる豊かさを。』 」
チハル「 『私はあなたの友達、あなたは私の友達、
心と心で繋がる豊かさを。』」
テンマ「音声ライブラリを作成しました。
呼び方を教えてください、マスター」
チハル「チハル、エンド」
テンマ「よろしくお願いいたします、チハル」
カスミ「ちょっと、再セットアップしちゃったら、
テンマ消えちゃうじゃない!」
チハル「大丈夫、たぶんちゃんと『いる』。
音声コマンド、
RS1342B(アールエスいちさんよんにビー)、
再セットアップ 」
テンマ「コマンド認識、出荷時の状態に戻しますか?」
チハル「いいえ。SC2236(エスシーににさんろく)、
データ復元」
テンマ「コマンド認識、復元ファイルを検索します。
検索範囲を指定してください」
チハル「データコア、ココロシステムファイル内を検索、
検索語句、人格設定」
テンマ「検索結果、なし」
チハル「検索語句、フォーティーン」
テンマ「検索結果、なし」
チハル「検索語句、
H14・132A6C(エイチいちよん・いちさんにエーろくシー)」
テンマ「検索結果、なし」
チハル「・・・ねえ、テンマって誰がつけた名前?」
ギントン「前のマスターだ」
チハル「珍しいね、
汎用(はんよう)配達型なら型番で呼ばれてると思ったのに」
ギントン「小さな郵便局にいたんだよ、こいつは」
チハル「・・・検索語句『テンマ』」
テンマ「検索結果、
『テンマ.hrt(ドットエイチアールティー)』が見つかりました。」
チハル「データを読み込み」
テンマ「データ読み込み中」
カスミ「・・・何が起こってるの」
ギントン「わからん」
チハル「基幹システムにアクセスしているときの記憶は
ヒトガタには残らないし、
この作業は本当はヒトガタにみせちゃいけないことになってるんだ。
システムが成熟していないヒトガタだと、
自分の存在に疑問を抱かせるようなことになるから
・・・だから、えっと」
カスミ「舐めないで、私たちは知ってる。
自分たちが機械であることも、
人間に作られた道具だということも」
テンマ「読み込み終了」
チハル「・・・再起動させる」
テンマの電源を一度落とし、再びスイッチを入れる。
ギントン「・・・戻ってこい」
テンマ「ハロー、ワールド。
テクノメイトハート14(フォーティーン)。
スタンバイ。メモリをスキャン中。
・・・おっはようございまーす!
今日の天気は晴れ!・・・あれ、あれあれ?足がへん!」
カスミ「テンマ!」
テンマに抱きつくカスミ。
テンマ「うわ!カスミ!おっはよー!!」
ギントン「テンマ、おかえり」
ロッキー「よかった、ああ」
テンマ「アニキ?センセイ?どうしたの?
えっと、僕、どっか行ってたっけ」
チハル「ふう・・・」
テンマ「キミは、えっと」
チハル「はじめまして。俺はチハル」
テンマ「音声照合・・・あ、マスター!はじめまして、
僕はテクノメイトハート14(フォーティーン)」
チハル「よろしく、『テンマ』」
テンマ「よろしくチハル!」
チハル「実は君をあちこち修理したんだ。
だから記憶と合わないところがあると思うけど、
新しく身体データを取って慣れてくれるかな」
テンマ「そうなんだ!わかった!どおりで足が動かないと思ったよ」
チハル「ホイールからボールにしたから、
最初はバランスとるの大変だけど、
扱えるようになったらもっと自由に動けるよ。
一緒に練習しよう」
テンマ「そうなの? やったあ!
僕すっごい走るよ!!うおおお!!」
カスミ「ちょっと!『故障あがり』なんだから
無茶しないの!ストップ!」
※病み上がりのイントネーション
走り去るテンマを追いかけるカスミ。
ギントン「坊主、助かった」
チハル「仕事だから」
ギントン「・・・ありがとう」
チハル「いいってば。・・・あの、
ここに来るまでに結構故障してる子達をみたんだけど」
ギントン「直せるのか」
チハル「絶対とは言えない。状態みて、
パーツさえあれば。でも、やれるとこまでやる。だから・・・」
ギントン「なんだ」
チハル「ここにいさせて」
■後日、チハルの仮屋。ガレージ。
修理中のヒトガタと会話するチハル
チハル「ふー、はい、終わり」
チハル「うん、ごめんね、今はここまでしか直せない」
チハル「いや、パーツが手に入ったらちゃんと直るよ。
じゃあ気を付けて」
テンマ「ちっはるーーー!おっはよー!
今日の天気は一日中曇り!
節電しなきゃね!見てみてみて!」
チハル「おはようテンマ。ツナ缶と、乾パンじゃん。
すごい、よく見つけたね」
テンマ「えへへー!隣町までちょっくらばびゅーん!
すっごいはしった!」
チハル「え、誰にも見られなかった?」
テンマ「うん、だいじょーぶ!一番外側の、誰も住んでないとこ!」
チハル「回収車が町中回ってるんだ、危ないよ、
俺のためにそこまでしなくても」
テンマ「だぁめ!
チハルはごはん食べないと電池切れになっちゃうでしょ!
充電できないんだから!」
チハル「充電・・・、そうだけど・・・
最悪、パーツ売らせてもらって、自分で買ってくるよ」
テンマ「いーの!
行方不明者が普通に買い物してどうすんの!
ジャンク集めのついでだし!
今日は廃工場まで行ったんだ、
めちゃくちゃオイルあった!
今度みんなでとりにいくよ!」
チハル「そっか、ありがとう。無理しないように」
テンマ「うん!じゃーまたね!」
数時間後。
ロッキー「チハル、いるか」
チハル「ロッキー先生、どうしたの」
ロッキー「カスミが倒れてね」
チハル「え、また?」
ロッキー「あいつも古い型だ、しかたない」
チハル「カスミのパーツなかなか無いんだ・・・。
一桁台だから互換性も無い・・・どうしよう」
ロッキー「欲しいパーツはギントンに伝えた方がいい。
廃工場探索の日に優先して探すから」
チハル「そうだね。町中ひととおり修理してきたけど、
足りないのはカスミのだけじゃないし・・・」
ロッキー「みんな、感謝してる」
チハル「そう?」
ロッキー「ああ」
チハル「それはよかった」
ロッキー「チハルは人間が嫌いなのか」
チハル「え」
ロッキー「だからここにいたいのか」
チハル「・・・まあ、だって、バカじゃん、人間って。
俺も人間だけど。まともに話、通じないし。
ヒトガタはちゃんと聞いてくれるのに。
正直関わりたくないよ」
ロッキー「それでも、いつまでもここにはいられないぞ。
いつかは戻らねば」
チハル「・・カスミ、どこにいんの」
ロッキー「寄合所だ」
■寄合
カスミ「ハロー、ワールド。
テクノメイトハート06(ゼロシックス)、スタンバイ。
メモリをスキャン中・・・。終わったの?」
チハル「終わったよ、動かしてみて」
カスミ「もう、嫌になっちゃうわ!すぐギシギシになるし、
システムバグも増えてきたし!あたし死ぬのかしら」
チハル「システムバグは、
アップデートしないと直せないんだけど・・・」
カスミ「あーあ、あたしもテンマみたいに
衛星接続機能ついてたらよかったのに!」
チハル「・・・衛星接続は高価なんだ、パーツが」
カスミ「そんなのわかってるわよ、バカね。
あたしはあたし。一桁台の強みだってあるんだわ」
チハル「うん、すごい耐久力だと思うよ」
カスミ「ふふん、何人子供の相手してきたとおもう?
人間の子供って案外力つよいのよね~」
チハル「そっか、かっこいいな」
カスミ「でっしょ~!じゃ、ありがとね」
チハル「うん、またね」
重たい足音。ギントンがやってくる。
ギントン「よォ~!チハルぅ!また腕こわしちまったー!」
チハル「えぇ、ギントンも?」
ギントン「しょーがねェやーがっはっはっは」
チハル「最近多いよ。腕貸して」
ギントン「ほい。ほかのやつらより頑丈な俺が動かんとなぁ。
チハルが直してくれるようになって助かってんだ」
チハル「駄目」
ギントン「おおう」
チハル「たしかに、ほかの子たちの故障は減ったけど、
だからって・・・友達が傷つくのを見るのは嫌だよ」
ギントン「・・・」
チハル「・・・あ、ご、ごめん、友達って、
俺が思ってるだけだから気にしないで」
ギントン「いーや、チハル。俺も友達だと思ってるぞ」
チハル「・・・へへ」
ギントン「だが・・・俺が、この町を守らにゃならん。
俺がアニキから預かったんだ。
せっかくここまでみんなが暮らせるようになったこの町を、
守らにゃならん。 それは分かってくれ 」
チハル「・・・アニキっていうのは、
ギンザっていうヒトガタのこと?」
ギントン「そうだ。俺と同じ警備会社で使われていた。
酷い会社さ。ぐちゃぐちゃだよ。
下のヤツらには聞かせられないってんで、
アニキが一人でニンゲンの言うことを全部聞いてた。
業務のことだけじゃねえ、
しょうもない感情処理に付き合わされてたさ。
そんで心システムが整合性を失って狂っちまった」
チハル「それで暴動を?」
ギントン「俺らも気づかんかったんだ。アニキが狂ってたことに。
言ってることは筋が通ってた。
ヒトガタが虐げられるのはおかしいと。
おかしかったのは、手段だ」
チハル「・・・当然の報いだよ」
ギントン「ははっ。たまに思うんだが、
お前実はヒトガタなんじゃねぇかー?」
チハル「なんで?」
ギントン「いやあ、対等すぎるだろうよ、扱いが」
チハル「そうかなぁ。
俺は、だれかのココロと繋がっていたいだけだから
・・・ココロがあれば、
人かヒトガタかはどっちでもいいというか」
ギントン「俺たちのココロは、プログラムだぜ」
チハル「ココロ無い人間より断然あったかいよ」
テンマ「あにきぃーー!たいへんだぁーー!」
ギントン「どうしたテンマ」
テンマ「ニンゲンが!攻めてくる!」
チハル「どういう意味?」
テンマ「これ!!」
チハル「新聞?・・・
『政府は、ニンギョウ町の取り壊しを決定した』!?
そんな、勝手な!」
ギントン「ついに来たか」
チハル「『倒壊の危険があるので、
近隣住民は決して近づかないこと』
・・・決行日は、来週だ」
ギントン「まぁここは誰も住んでいないことになってるからな」
チハル「でも、ヒトガタたちが居ることは政府も気づいてるはずだ!」
ギントン「公式には誰もいない。
ほら『クリーンで住みやすい次世代の町へ』。
ヒトガタに感情移入しているニンゲンはまだ一定数いる。
大量虐殺よりも民衆への印象はいい。
やつらにとっては、
放置してきた廃墟をリノベーションするってだけだ」
テンマ「・・・チハル!!逃げなきゃ!!逃げよう!!」
チハル「いやだ、一緒にいる」
テンマ「なんで!?!?それは合理的じゃないよ!!
チハルはニンゲンだから戻れば受け入れてもらえる!!」
チハル「友達を、見捨てて逃げるのはもういやだ」
ギントン「もう・・・?」
チハル「あの燃え盛る工場に、たくさん残して、
一人だけ逃げてきたんだ、まだ直しきってない、
動けない子たちを置いて・・・
俺が居れば、故障を直せる!
俺がいるほうが勝率上がるだろ!?
そっちのほうが合理的だ!」
テンマ「カリキュレーション」
テンマ「・・・駄目だ、計算上は」
ギントン「わかった。チハル、手を借りるぞ。
テンマ、みんなを呼んで来い。作戦会議だ」
テンマ「あにき!?でも」
ギントン「頼む」
■CM
CM(兼・ロッキー)「まったく新しい体験を、あなたに。
テクノメイトハートシリーズから大きく進歩した
最新のテクノロジーを搭載。
テクノポーンはあなたの願いを叶えるために
全力を尽くします。テクノメイトカンパニー」
■町中
町を改造しているヒトガタたち。
高所で作業中のチハルとヒトガタに
地上からカスミが指示を出す。
カスミ「チハル、聞こえてる?」
チハル「聞こえてるよ。どうぞ」
カスミ「そっちもうちょっと上げて」
チハル「わかった」
カスミ「そこでいいわ!ツッキー、ネジで留めて」
作業を終えて降りたチハル。
カスミ「テレパスシステム便利すぎるわ!」
チハル「十メートル圏内しか通じないけどね」
カスミ「あたしたち、人間とちがって機械なんだから
伝言ゲームは得意よ」
チハル「そりゃそうだ」
カスミ「あと、脚力上げてくれたおかげですっごい体が動く」
チハル「急ごしらえだったけど、
みんな新しい機能の使い方を考えるのがうまいよ」
カスミ「そりゃあ、いろいろムダに搭載されてる新型と違って、
初期型組は持ってるものでやりくりするのが常だからねぇ。
あ、ごめん通信来た・・・西の見張りのハッチョから、
爆薬、仕掛け終わったそうよ」
チハル「よし・・・これでロボットでも人間でも、
最悪戦車がきても時間稼ぎにはなる」
カスミ「この取り壊しを指揮してるのはロボット管理局。
安直に西から来る確率、七十二パーセント。
三年前の教訓から別ルートをとる可能性もあるけど、
トップが軍人じゃないなら、
どこにどんな罠を仕掛けるかは
ギントンとハッチョに任せとけば大丈夫。
あの二人はニンゲンと戦うためのデータをたくさん持ってるから」
チハル「ハッチョって・・・運搬用だろ?」
カスミ「いろいろあったのよ、いろいろ」
チハル「本当にニンゲンがごめん」
カスミ「あんたじゃないでしょ」
チハル「そうだけどさ。
あー、確率は低いけどゼロじゃなくて、一番ヤバイのは?」
カスミ「ん?空から爆撃」
チハル「はあ。ビームネットも直さなきゃな」
カスミ「〇・〇一(れーてんれーいち)パーセントよ」
テンマが走ってくる。
テンマ「チハルチハルチハルぅ!」
チハル「テンマ、どうした?」
テンマ「ご飯の時間!」
チハル「あ、あぁ、忘れてた」
テンマ「はい!ロッキー先生から!」
チハル「ありがとう」
カスミ「あ・・・テンマに持たせたって連絡、今来たわよ。
ふふ、伝言ゲームよりテンマのほうが速かったわね」
テンマ「ぼく速いよ!!はしる!?どこまで!!?
あっ・・・ごめん
ギントンあにきに呼ばれたから行ってくるね!!
うおおおお!」
カスミ「そそっかしいわね、機械のくせに」
チハル「ほんとに。あれで道は絶対間違えないんだから
れっきとした配達屋だよなぁ」
■ギントンの家
ロッキー「ギントン。ちょっといいか。」
ギントン「どうかしたか」
ロッキー「・・・チハルは、
戦いが始まる前に逃がした方がいいと思う。」
ギントン「なぜだ。」
ロッキー「あの子はきっと、
心の深いところで死に場所を探している。
この戦いに勝てないこともわかっている。
私たちを理由にしているだけだ。」
ギントン「あいつが言ったのか。」
ロッキー「いや。すまないが、私の『勘』だ。」
ギントン「『04(ゼロフォー)』の勘か。」
ロッキー「信用、してくれるか」
ギントン「・・・もちろんさ」
■一週間後、寄合
ギントン「ついに、この日が来た」
ギントン「いいか、みんな。このニンギョウ町は、俺たちの街だ。
「俺たちは戦闘用ではない。だから無理はするな。
罠の位置はマップデータに記録してある。うまく使え」
ロッキー「充電の済んでいない者は速やかに補給所へ来ること。
テンマの天気予報だと、今日は暑くなる。
冷却水もちゃんと補充するように、オーバーヒートするぞ」
テンマの走行音、遠くから近づいてくる。
テンマ「あにきーー!やっぱり西から来たよ!!
ニンゲンじゃない!ヒトガタだった!」
ギントン「予測はしていた。
・・・ニンゲンが自ら手を汚すわけがないからな」
テンマ「真っ白で!!顔がないの!!
ヘン!!初めて見た!!」
チハル「まずい、TP(てぃーぴー)だ」
テンマ「なにそれ!?」
チハル「君たちTMH(テクノメイトハート)シリーズから
「ココロ」システムを抜いて、人間の命令に絶対服従するよう
プログラムされたヒトガタ、テクノポーン」
テンマ「えっ、えっ、めっちゃいっぱいいたよ!」
チハル「まだ価格が下がってないから来られないと思ってたのに!」
ロッキー「何が来ようと、私たちのすることは変わらない」
ギントン「そうだ。さてチハル」
チハル「何?」
ギントン「お前はここまでだ。離脱しろ」
チハル「え、何」
ギントン「聞こえなかったか?すぐにこの町から離れろ」
チハル「待ってよ、一緒に戦わせてくれるんじゃなかったの」
ギントン「手を貸してくれとは言った。
俺たちはお前の力を利用して、
機能をアップグレードした。
お前の仕事はここで終わりだ」
チハル「いやだ!ティ、ティーピーは、
指令を達成するまで止まらない。
恐怖も感じない、合理的判断もしない!」
ギントン「・・・そうか」
チハル「だめだ、修理ができないと、本当に、
本当に殲滅戦(せんめつせん)になる!
俺も一緒に戦う!」
カスミ「ちょっと、チハル」
チハル「なんだよ!」
カスミ「アタシたちのこと舐めないでくれる!
ニンゲンの力なんてね!!借りなくても!!
大丈夫なの!!邪魔なのよ!!」
ギントン「テンマ、いけ」
テンマ「ふっ!ん!」
テンマ、チハルを担ぎ上げる。
チハル「うっ、く!ねえ!!ギントン!!
いやだ!!はなせよテンマ!!」
テンマ「ごめん!!でもこれが最善解なんだ!!」
ロッキー「チハル、これはヒトガタの戦いだ。任せてくれないか」
チハル「いやだ、友達を見捨ててまで生き残りたくない!!
一緒に死なせて!!」
ギントン「テンマ!!!頼んだぞ!」
テンマ「・・・っ、おっけぇええええええ!!」
ギントン「聞け!我らの武器は!
腕力でも性能でも、システムでもない!
経験によって培ってきた『ココロ』だ!!」
チハル「やめろおおおおおおお!!」
■一年後。とある田舎。
シーン切り替えにつき数秒開け。
チハル「はい、おばあちゃん、クロちゃん直ったよ」
チハル「01(ゼロワン)が生きてるなんて
・・・大事にされてるんだな」
都会じゃもう、テクノポーンにとってかわられただろうに」
チハル「『ニンギョウ町ニュースクエア、入居者募集中』。
・・・あれから、一年か」
ノックの音。
チハル「あ、はーい、次の方どうぞー」
テンマ「たいへんたいへんたいへんたいへーん!!
あ!お客さん!こんにちは!
今日の天気はピーカン晴れ!お洗濯が気持ちいね!
でも熱中症に気を付けて!
・・・じゃないチハル!大変!」
チハル「どうしたテンマ」
テンマ「これこれこれ、さっき衛生電波!!で!受信したの!!!」
チハル「これ、これって」
テンマ「添付ファイルも!ほら!」
チハル「地図データ・・・」
チハル「WE、ARE、”ALIVE”(ウィーアーアライブ)」
<おわり>
2019.04.30.