概要
この台本は、2025年9月1日~30日にボイストランド にて行われた、ヒスイさん主催「救いの詩/滅びの詩」という台本企画に参加した作品です。世界の終末を舞台に、終末を「絶望」と捉える人々の物語、「救済」と捉える人々の物語をそれぞれ6人のライターが執筆しアーカイブ数を競うイベント。
企画概要及び他の参加台本はこちらにまとまっています!
https://lit.link/sukuhoro
なお、当台本には分岐があり、セリフ選択ができないと上演が難しいので、「声劇台本置き場」さんにも掲載しておりますので上演の際は是非こちらをご利用ください。
https://taltal3014.lsv.jp/web-app/?sid=11026&fromUserPage=true&uid=654
台本バナーは
机の上の地球儀様よりいただきました。
【上演の際の説明】
<トリガーアラート>
本作には、フラッシュバックに繋がる/ショックを受ける懸念のある場面・表現が含まれます。「望まぬ妊娠」「堕胎」
<配役について>※必ずひとりは女性が入り、★を選んでください。★は、アキラ以外の役を選んでください。その後、下記の指定の通り▲、●、■を決定してください。
1.★ツバサ、▲ハル、●シノ、■アキラ
2.★ハル、▲ツバサ、●シノ、■アキラ
3.★シノ、▲アキラ、●ハル、■ツバサ<台詞の選択について>[・・・/・・・]は、男女と役の入れ替わりのためにかき分けています。自分の役に適した方を言ってください。ご自身で言い換えていただいても構いません。
- 所要時間:約60分
- 人数:女性1、不問3
- ジャンル:青春、アポカリプス
登場人物
- ツバサ
女でも男でも翼。リーダーシップをとる。全て分かった上で「大人が望む子どもらしくいよう」。未来がないことを一番理解している。 - アキラ
女なら晶、男なら晃。アナウンサーになりたいという夢を持っている。冷静で理性的、口数が少ない。別人の(アナウンサー)を兼ねる - ハル
女なら春、男なら陽。お調子者キャラを自分に強いている。不穏な空気が超絶苦手で、すぐちょける。 - シノ
女なら詩乃、男なら信乃。内向的。人の顔色を窺い、相手にとって「正解」の言葉を探す。本音が言えない。別人の(ディレクター)を兼ねる
本編
アキラ:(アナウンサー)2049年、7月23日、金曜日。朝のニュースです。「世界終末時計」の針が、真夜中0時、つまり人類滅亡の時まで「残り10秒」を示しました。終末時計の残り時間はA国・シカゴに本部を置く「原子力 科学者会報」が定めており……
ツバサ:(M)テレビをつければ、暗いニュースばかりが耳に入る。南極の氷が溶け切ってどこかの国が沈んだとか、地球の軸がズレて多くの国が干ばつの影響を受けているとか。
アキラ:(アナウンサー)次のニュースです。C国は、非常時に限り、政府の承認を待たずに人工知能が主体となって軍事作戦を遂行する体制へと移行したことを明らかにしました。これは、長年「世界の警察」の立場を担ってきたA国への牽制《けんせい》であると、専門家は予測しています。……
ツバサ:ハロー、ミラ。今日の天気は? ………お、洗濯いけそう。
アキラ:(アナウンサー)次のニュースです。明日から始まる夏休み。「最後の世代」がどのように過ごすのか、世間の注目が集まっています。…2032年に産まれた67名の子どもたちは、今年2049年でついに高校3年生となり……
()は母親のセリフ。読まない。
ツバサ:母さーん、母さんの分の弁当置いとくからー。ちゃんと持ってってねー。 (ちょっと!)…何? (夏休みじゃないの?)….夏休み明日からだよ。 (そうだっけ)…そうだよ。 (まって今玄関行くから!)…いいよべつに。 (ちゅーは!)…あーはいはい行ってきますのちゅーね、はい。
アキラ:(アナウンサー)それでは皆さん、良い週末をお過ごしください。
ツバサ:じゃ行ってきまーす。
家を出たところでカメラを向けられる。
シノ:(ディレクター)あ、すみませーん! 国営放送局の者なんですけれどもー!
ツバサ:げっ。(小声)出待ちかよ。
シノ:(ディレクター)インタビューいいですか? 高校生ですよね?
ツバサ:あー、学校遅刻しちゃうんでまた今度でいいですか?
シノ:(ディレクター)そこをなんとか! 一言、一言でいいんで!
ツバサ:あの、一応未成年なんで、勝手に顔映されるの困るっていうか。
シノ:(ディレクター)いやいやキミ「最後の世代」じゃない! 今更何言ってんの、慣れてるでしょ? カメラ。
ツバサ:んんーーー。(満更でもない様子で)まあ。
シノ:(ディレクター)「子供らしく」笑顔で全国に元気くださいよー!
ツバサ:いやー、はは。
シノ:(ディレクター)じゃ、カメラまわしまーす。……どんな夏休みを過ごす予定ですか?
ツバサ:あー、……(スイッチが入ったように爽やかな笑顔を作る)やっぱり「トモダチ」とワイワイ楽しく過ごしたいっすね! せっかくの「最後の夏休み」なんで! 屋上で告白とか、海岸で花火とか!
シノ:(ディレクター)いいねー! そーゆーのだよそーゆーの。はー。未来ある若者はキラキラしてていいなー。自分も学生時代は、先輩と海辺で缶ビール開けてな〜、気づいたら陽が昇ってたりして……あれ? あの子どこいった?
ツバサ:(小声)未来ある若者、ね。
ハル:つばつばつばつば つばチャー! (ジャンプ抱きつき)
ツバサ:(受け止め)うおっ! あっぶね!
ハル:ナイスキャッチ。受け止めてくれるって信じてたよぉ、つばチャ。
ツバサ:つばチャって呼ぶのやめろって。つ・ば・さ。
ハル:つ・ば・チャ。
ツバサ:(ため息)おはよ、ハル。
ハル:おはよーごゼェやす!
ツバサ:暑いから離れて。
ハル:ええー。いーや-
ツバサ:ハロー、ミラ。学校までの乗り換え、時刻表出して。
ハル:(ツバサの肩に顔を押し付けて唸る)んんーんーんー。
ツバサ:うわ、またダイヤ減ってる。次逃したら30分後だよ。
ハル:(引きずられていく)んんーんーんー。
■電車内
ツバサ:(M)うちらはN国の「最後の世代」。2025年くらいから子供が産まれにくくなって、2032年生まれのうちらを最後に、出生数ゼロを維持している。
ハル:でねー、近所のおばあちゃんがブルドッグ飼ってて、散歩してるとこたまにすれ違うんだけど、どっちがブルドッグかわっかんなくてさー! だっておそろの服着てんだよ、すごくね!? 犬と、人間が! おそろっち! 手作りかなー。
ツバサ:(M)S市内に最後の世代は4人しかおらず、必然的にうちらは1つの高校に集められた。
ハル:(オロオロ)つばチャ聞いてる? 楽しくない? ぼくの話つまんない?
ツバサ:聞いてる聞いてる。ブルドッグがばあちゃんの散歩してたんだろ。いやー、人間の数も随分減ったからなあー。
ツバサ:(M)ハルはほおっておいても一人で喋り続ける。こっちの反応が薄いと泣きそうなカオをするが、その理由《わけ》を聞いてやるほど「仲良し」ではない。
ハル:ちがうって! いやまあそうだけど! やば、つばチャ めっちゃ不謹慎。
ツバサ:[あんた/お前]が始めた話[じゃん/だろ]。ちゃんと面白いオチつけな~。
ハル:(笑いを噛み締めながら)ンフ、ンフフフ、お、お、思い出したら、そうにしか見えなくなっちった。うん、おばあちゃんが散歩させられてたよ、ブルドッグに。グフフ。
ツバサ:今度写真撮ってきてよ。
ハル:え、肖像権って知ってる? 盗撮だよそれ。
ツバサ:知らねー。だってうちらに肖像権ないじゃん。
ハル:たしかに~~。
ツバサ:……進路希望調査票、書いた?
ハル:書いてなーい。インフラ系か介護しかないんだもん。
ツバサ:だよなー。
ハル:学校の先生になってみたかったなー。
ツバサ:残念。うちらの卒業と同時に廃業ですぅ。
ハル:じゃあ大人に教えるの、どう!?
ツバサ:何を教えるんだよ(笑い)
ハル:えー。……折り紙とか。 つばチャは? 就職?
ツバサ:就職一択。仕事は何でもいいや。どこでも入れるっしょ。
ツバサ:(M)明日から夏休み。*茹《う》だるような暑さにぼんやりさせられた、つるつるの脳みそは、センセーたちの話を、その表面で滑らせてとりこぼす。そもそも授業なんて受ける意味ないじゃん。だって、その知識を活かす未来がないんだから。
◼︎学校
シノ:(起こそうとする)ツバサさん、ツバサさん。
ツバサ:(起きた)んえ。
シノ:授業、終っちゃいましたよ。
ツバサ:え、何限?
シノ:3限です。今日最終日だからあとホームルームで終わりですよ。
ツバサ:まじ?
シノ:まじです。
ツバサ:……シノォ。
シノ:はい、なんでしょう。
ツバサ:ノート、見せてほしいなー。
シノ:……またですか。
ツバサ:お願いします、困ってます、どうか、シノ様ァ。
シノ:……どうぞ。
ツバサ:(M)シノの扱いはちょー楽だ。「困っている人を助けるのは正しいこと」「授業中起きているのは正しいこと」「大人の言うことを聞くのは正しいこと」。
ツバサ:サンキュ〜〜! 先生の*板書《ばんしょ》より、シノのノートの方がわかりやすいからなー。つい寝ちゃうんだよなー。
シノ:それは、どうも。……でも授業は寝ちゃだめですからね。
ツバサ:(M)ちょっと自己効力感《じここうりょくかん》を煽ってやればほら。いい関係が築ける。
アキラ:シノ。ちょっと。
シノ:どうしました? アキラさん。
アキラ:ここ、教えてほしい。
シノ:えっと、どこですか?
アキラ:ここの、作者の気持ちを述べよって問題。
シノ:あー、これはですねえ、この文章に根拠があって……
アキラ:根拠、なんでわかるの?
シノ:え? …ああ、ここに接続詞の「しかし」ってありますよね、逆説だからこっち側に作者の主張があるだろうなって。で、全体の分量的にもこのあたりから作者の意見がまとまって書かれてるだろうなーって……
アキラ:(わからない)……
シノ:えっと、大丈夫ですか?
アキラ:なるほど。ありがとう。
シノ:あ、あー。……行っちゃった。
ツバサ:ねえシノぉ、アキラが何考えてるかわかる?
シノ:まあ、大体は。
ツバサ:マジ?
シノ:言葉足らずですよね。あの人。
ツバサ:仲良かったっけ。
シノ:……勉強おしえたり、小説の貸し借りするくらいですけど。
ツバサ:小説ゥ?
シノ:アキラさんちにはミステリーものが揃ってるらしいです。[私/俺]は純文学というか、「エモいやつ」を貸してます。人の感情を学びたいそうで。
ツバサ:へえー。
ツバサ:(M)アキラのことは、正直よくわからない。わからないから、上手く関係を築けない。それで、あいつとはなるべく関わらないようにしてる。
アキラ:(アナウンサー)速報です。C国が隣国であるT国へ向けて大規模侵攻を開始しました。空爆と同時にサイバー攻撃が仕掛けられ、T国全土で通信網が麻痺。半導体をはじめとする輸出品の供給が停止し、N国の機械産業も大きな打撃をうけると予測され……
ハル:(M)テレビをつければ、暗いニュースばかりが目に映る。世界的な水資源《みずしげん》の枯渇で他国がN国を狙ってるとか、南半球で未知のウィルスが蔓延《まんえん》し多数の死者が出ているとか。
アキラ:(アナウンサー)次のニュースです。これから夏休みを迎える「最後の世代」。文部科学省《もんぶかがくしょう》は各高校に、休暇中の課題は控えめにして子供たちの自発的な活動を促すよう呼びかけています。そんな中、S県の高校では「夏休み満喫レポート」として、学生らしい夏休みを過ごし、その記録を提出するというユニークな取り組みが….
ハル:「夏休み満喫レポート」ぉ!?
ツバサ:内容次第では進学と就職に関わるって……なにそれぇ。
ハル:ねえねえ、山野せんせー泣いてたよね? 「お前たちの、最後の夏休みは、俺たちN国民の最後の夏休みなんだ……ううっ……高校生らしく存分に楽しめ!!」
ツバサ:(笑い)ちょっと似てるの[やめろよ/やめてよ]。
ハル:どんなレポ出せば合格なんだろう?
ツバサ:問題はなー、「高校生らしく」ってとこだよなー。
ハル:わかんないよね。だって1コ上も10人くらいしかいなかったしさー。
ツバサ:しかもヤマセンが好きそうな、ってことだろー。
ハル:山野せんせーってベッタベタのベタなやつが好きだよね。
ツバサ:確かに。[なあ、/ねえ、]参考までにさ。今まで夏休みどうやって過ごしてた?
ハル:ほぼ家族と一緒。親に最後の世代の監督義務があるって言って家に軟禁状態。
ツバサ:あーうちも。ずっと母さんの愚痴聞いてた。
ハル:ぼくはお父さんのコレクションのレトロゲーずっとやってた。(心配そうに)今年うちくる? 初代ツイッチあるよ。
ツバサ:ハルんちでツイッチ祭りもいいけどなー。……ミラに聞いてみるか。
ハル:(M)ツバサはいいやつ。たまに感情が抜け落ちたような顔をしているけど、大抵は落ち着いてて、大きな声出さないし、あんまり機嫌悪そうなところを見ない。
ツバサ:ハロー、ミラ。「高校生っぽい夏休みの過ごし方」について教えて。
ハル:(M)なんだかんだ引っ張ってくれる、クラスのリーダーみたいな存在。
ツバサ:(読む)「『友達とワイワイ』『青春』『ちょっと勉強や将来のことも』というバランスが『高校生っぽさ』につながります」……まあ、そうだよね。
ハル:(読む)「部活漬けの毎日。朝から夕方まで部活動。試合や大会、合宿があれば青春感たっぷり」……部活動って、ほんとに毎日やってたの?
ツバサ:んなわけないじゃん。次。(読む)「友達と遊ぶ。海・プール・花火大会・夏祭りなど、夏イベントを友達と楽しむ。浴衣で写真撮影も『高校生の夏!』という感じ」……んー。市民プールは3年前に閉鎖されたし、花火大会、夏祭り……。
ハル:どこでやってるのそんなの。
ツバサ:めちゃめちゃ探したら手持ち花火なら残ってたりして。
ハル:とりあえずー、友達となんかすればオケ?
ツバサ:まー、やまセンは好きそう。ベタだし。んじゃ一緒にやるか。
ハル:シノも誘う?
ツバサ:あー。
ハル:シノー! 夏休みのレポ一緒にやんなーい?
シノ:え?
ハル:高校生らしい夏休みの過ごし方、イコール、友達となんかする、って感じじゃね?って今つばチャと話しててー。
シノ:ああ。それもアリ、ですね。
ハル:(M)シノはたいてい一人で本を読んでて、たまにアキラに勉強を教えてて、よくツバサにノートを貸している。ぼくのノートはぐちゃぐちゃで解読できないからシノに借りるらしい。流されがちなシノは押せば乗ってくれる。こんな課題、みんなでやった方が絶対楽しい。みんな、毎日毎日しんどさから目を逸らすのに精一杯なんだから、そんな楽しい日があったっていいじゃん。
ハル:なんかプランあった?
シノ:いやぁ、まあー。強いて言えば、毎日1冊小説読んで、感想文でも書こうかなと思ってました。
ハル:えー! 毎日!? 1冊!?
シノ:はい。
ハル:それってさぁ…高校生らしい夏休み、かな……?
シノ:正直わからないですよね。何が高校生らしいとか、夏休みっぽいとか……。
ハル:ねえー絶対一緒にやった方がいいって〜! 山野せんせーが思う「高校生らしさ」をやんないと合格でないよこのレポ!
シノ:やっぱそうなんですかね……?
ハル:(M)もうひと押しっぽい。ツバサに視線を送る。
ツバサ:(視線を受け取って)あー、シノぉ、うちのレポートのために手伝ってよぉ。トモダチじゃん。一緒にレポクリアしよう。お願い。
シノ:……そうですね。こちらこそ、お願いします。
ツバサ:おーし、んじゃプラン練るかー
シノ:(教室の反対側の席にいるアキラへ)アキラさーん! 夏休みのレポート、一緒にやりませんかー?
ツバサ:あ。
シノ:え、あっ、ツバサさんもしかして、アキラさんのこと苦手でした?
ツバサ:(素早く取り繕う)いや全然? そんなわけないじゃーん。
シノ:よかったー。
ハル:アキラも一緒にやろーよー。「友達」じゃん!
ハル:(M) アキラはよくわからない。クラスメイトだから最低限関わってるけど。好きか嫌いか判断できるほどアキラのことをぼくは知らない。
アキラ:(近寄ってきて)いいの?
ツバサ:……もちろん。うちら4人で最後の世代、「トモダチ」だからね。
アキラ:じゃあ、よろしく。
ハル:やったー! 夏休み、みんなで楽しもーー!
ハル:(M)ほっとした。これで家族と過ごす時間が減る。最後の世代を死なさずに育て上げなければならない重圧と、テレビに映るたび「仲良し家族」を演じることに疲れてしまった両親を、笑わせようとする時間が、少なくて済む。
◼︎とある部屋(★を選択した女性役が恋人と過ごす。みんな口調が違う。)
アキラ:(アナウンサー)2049年7月30日、金曜日。夜のニュースです。
★:わー! これめっちゃ欲しかったやつ!
★:幾つになっても誕プレは嬉しーんですぅ。そしてー、やっと大人になりましたー。ぶい。
★:やってみたかったんだよね。ケーキに蝋燭立てて、吹き消すの。嬉しい。ありがとう。(蝋燭1本。吹き消す)ふー。
アキラ:(アナウンサー)現在、国内で子どもが生まれない「不妊問題」について、新しい調査報告が発表されました。2025年以前に国外へ転出し、N国に戻っていない男女ともに、生殖能力が認められたとのことで、不妊は国内でのウィルス感染による症状であるとーー
★:8月ねー、友達と過ごすことに[なっちゃったー/なったわー]
★:だからー、そんな会えないかも。
★:えー? 流石に毎日じゃないよー。宿題のレポートのためだから。
★:寂しい?[うち/ぼく/私]もー。
★:だから、今日は泊まってもいいでしょ?
アキラ:(アナウンサー)それでは皆さん、良い週末をお過ごしください。
◼︎ツバサの家
ツバサ:上がってー。
ハル:お邪魔邪魔ー。
シノ:お、お邪魔します……!
アキラ:お邪魔します。
ツバサ:母さん昼間仕事でいないからー。遠慮なくー。麦茶でよきー?
シノ:お構いなくっ!
ハル:リンゴジューちゅ!
ツバサ:んなもんない。
ハル:えー!
アキラ:(アナウンサー)2049年8月6日、お昼のニュースです。C国による、T国侵攻から二週間が経ちました。N国は同盟国であるA国から、安全保障条約に基づく自衛隊の出動要請を受けているものの、政府は慎重な姿勢を示しています。一方で、防衛省は自律型ロボット兵の投入を検討していると公表しーー
シノ:(M)テレビをつければ、暗いニュースばかりが心にのしかかる。N国を確実に潰すために、C国が「不妊ウイルス」をばら撒いたんだとか、AIのハルシネーションが連鎖して、もはやインターネット上の情報はあてにならないとか。
ツバサ:んじゃ最終計画立てるぞー。
ハル:おー!
アキラ:……おー。
ハル:アキラ、ノリわかってきたじゃん!
アキラ:そう?
シノ:(M)帰りたい。正直帰りたい。なんであの時、頷いてしまったのか。こいつらがまさかこんなにレポートに積極的で、こんなに「友達ごっこ」をやらされる羽目になるとは思ってなかった。一人の時間が足りない。でも、今後の過ごしやすさを考えたら、ここはツバサに従っておくのが正解のはずだ。
ツバサ:ハルんちでレトロゲー大会はクリアでしょ、海行って自然探索は来週やるとして、廃病院で肝試しは親たちに却下されたからなしでー
シノ:すみません、うちの親が許してくれず……
アキラ:うちの親も……
ハル:ぼくらの親はみーんな過保護だからねーしゃーないねー。
シノ:(M)だからって、ハルやツバサみたいな陽キャとずっと過ごすのはきつい。
ツバサ:(嫌そうに)でー、最後の週がー……
アキラ:うちの親戚のキャンプ場でガチキャンプ。
ハル:キャンプ!
ツバサ:いやー、どうかなぁ? レトロゲーと海岸探索で結構ネタ足りてない?
アキラ:進学、できないと困るから。
シノ:え、アキラさん、大学行くんですか?
アキラ:うん。
シノ:(M)正直、無理だろ、とは思う。アキラは数学と理科が得意だけど、国語と英語は壊滅的で、授業後に[私/俺]が毎度教えてる。国立大しかもう残ってないから5科目できないとなのに。え? 社会科? 共通テストは倫理《りんり》で行くらしい。丸暗記すればいいから。
ツバサ:……なんで進学すんの? 大学行く意味ある?
アキラ:……夢があって。
ツバサ:えぇ、夢ぇ?
アキラ:大卒資格必須だから。
ツバサ:アキラぁ、アぁキぃラー、[お前/あんた]まじか〜!(笑う)
アキラ:何か変なこと言った?
ツバサ:いやー、すごいなー。(バカにしたように笑う)
アキラ:?
ハル:(止めようとして)ツバサ
シノ:(M)空気が一瞬止まる。
ツバサ:何マジになってんの?
アキラ:……マジって?
ツバサ:うわー、テキトーに青春っぽいことやって終わらすつもりだったんだけどなー。
シノ:(M)ツバサのこういうところ、苦手だ。S市内の子どもが[私たち/俺たち]だけだからって、強制的に一つの学校に集められてクラスメイトになっただけで。選べないから付き合ってるだけで。苦手だ。
ツバサ:いやーキャンプちょっと重いんだよなー。よくない?この二つで。どう? あ!ビニールプールと水鉄砲。多分うちにあるからさ! 夏っぽいじゃん。ネタ足りないならプールしよ。簡単だし。
シノ:(M)いつもこうやってツバサのペースに持ち込まれる。それが[私たち/俺たち]四人の関係性。
アキラ:レトロゲーも海もツバサの案だった。他の人の意見も聞くべき。
ツバサ:いやぁ、誰もまともな案出さないからうちが決めてやってんじゃん?
アキラ:まともかどうかの線引きもツバサの主観。
ツバサ:あ?
アキラ:[私/俺]は、表面上ワイワイやって楽しむだけが、「学生らしい夏休み」だとは思わない。このキャンプで、「高校生らしい」ことをちゃんとやる。それがこのレポートには必要だと思う。
ツバサ:だからぁ、その「高校生らしい」ってのはなんなんだよ。
アキラ:……。
ハル:(焦ったように)ねえぼくキャンプやりたーーーい!!
ツバサ:……ハル?
ハル:いいじゃんキャンプ! 道具も全部貸してもらえるし、至れり尽くせりじゃん!? レポート抜きにしても楽しそう! ね?つばチャー、せっかくだからさー、最高の思い出つくろーよ〜! シノは? シノどう思う!?
シノ:あ、えーと、[私/俺]は、どっちでもいいですけど……。
ツバサ:ハル。
ハル:な、何〜?
ツバサ:……わかった。(取り繕った笑顔)じゃあ、行こうか、キャンプ。
ハル:(ほっとしたため息)
シノ:(M)[私たち/俺たち]は高校生になるまでに、取り繕うのが随分上手くなってしまった。子どもがいなくて、気の合う人を友達に選ぶ余裕はなくて。気が合わなくても、表面上トラブルなく付き合う術《すべ》ばかり上手くなってしまった。にもかかわらず。
シノ:アキラさんって、不器用ですねえ。
アキラ:そう?
シノ:(M)アキラは[私には/ 俺には]眩しすぎる。アキラの言葉は信じても大丈夫。探らなくていい安心感。自分もそうなれたらいいのに。
◼︎キャンプ場 (ここから★▲■●が出ます。語尾・一人称等例示しますが適宜調節してください)
アキラ:(アナウンサー)2049年、8月20日。朝のニュースです。C国との対立が確定したA国は、本日、同盟国であるN国に対し、アジアの*防波堤《ぼうはてい》として出動するよう要請しました。政府は対応を協議中でーーー。
ハル:ついた〜〜! 車出してくれたアキラパパに感謝〜!
アキラ:[お父さん/父さん]に言っとくね。
ツバサ:ハルー、テント持ってー。
シノ:廃れてるかと思いましたが、意外と綺麗ですね。
アキラ:去年まで使ってたキャンプ場だからね。流石にもう利用者いなくて閉めたけど。
シノ:そうだったんですね……。
アキラ:今回は叔父が管理棟にいてくれるから、非常時はここに戻ってきて。
★:(気持ち悪そうに、えずいてる)
▲:[どうした?/どうしたの?]大丈夫?
★:大丈夫、ちょっと、車の匂いに酔っ[たみたい/ってしまっただけです]
▲:……そう
★:(気を取り直して)少し休めば[治るから!/治りますから!]
アキラ:……まずは、テントを立てる場所を決めよう。
ハル:湖の近くがいいな〜。
シノ:トイレってどうするんです? 仮設があるなら近くの方が…
ツバサ:ハロー、ミラ。キャンプの時のトイレの仕方を教えて。
ハル:(読む)設備も携帯トイレもない場合。自然環境に最大限配慮しましょう。水辺から60m以上離れた場所に、スコップや棒で15から20cmほど穴を掘り、その中でする。終わったらしっかり土をかぶせ、跡が残らないように。紙はなるべく持ち帰り。燃やしたり土に埋めたりはNGの地域が多いです。
シノ:え!?
アキラ:仮設トイレあるけど、今、管理されてないから使わないほうがいいと思う。
シノ:あ、ああ〜〜。
■湖の近く
ハル:おー。湖面がキラキラしてキレーだねー。
ツバサ:じゃこの辺で。テント張る[よー。/ ぞー。]
ハル:ういー。
アキラ:シノ、そっち引っ張って。
シノ:あ、はい。
ーーーアキラ・シノ組ーーー
アキラ:……。
シノ:あの、アキラさん
アキラ:何
シノ:アキラさんの夢、って、何ですか?
アキラ:笑わない?
シノ:笑いませんよ。
アキラ:……アナウンサーに、なりたくて。
シノ:アナウンサー?
アキラ:うん。
シノ:なんで、アナウンサーになりたいのか、聞いてもいいですか?
アキラ:……人に何かを伝えるのに、台本があれば、間違わないから。
シノ:俳優とか、歌手とか。人に伝える仕事はいっぱいありますけど、アナウンサーなのは?
アキラ:事実を伝えれば良くて、感情はいらないから。……って、はじめは思ってたんだけど。
シノ:今は違う?
アキラ:うん。
シノ:……アキラさんは、人の感情がわからないんですか?
アキラ:多分。この間も、なんでツバサがキレたのかわからなかったし……
ーーーシノが★の場合、このシーンをやる。★でない場合はスキップしてその次のシーンへ。
▲:あの、なんか、シノ、最近ちょっと太った?
★:は?
▲:いや、ごめん。気のせいかも……気にしないで……
★:いや気にしますよ。気にしますって。女の子ですよ?そんな太って見えます?
▲:胸の、あたりが。
★:どこ見てんですか。
▲:ごめん。あのー、そのTシャツたまに着てるけど、なんか、プリントが伸びてるなって。
★:どこみてんですか???
▲:ごめん。
★:ほんとに人の感情がわからないようですね。そ、そ、それ言われて私がどんな気持ちになるか想像できませんか?
▲:どんな気持ちになるんですか……
★:恥ずかしい気持ちです。
▲:はい。
★:……最近胸が張ってて、ちょっと痛いくらいなんです。だから、太ったとかじゃないんです。わかりましたね。
▲:はい。ごめんなさい。……痛いなら病院行ったら?
★:何科に行けと……?
▲:わかんない。産婦人科?
ーーーハル・ツバサ組
ツバサ:やべぇー、テント立てるの意外と難しいな。フレーム、どれがどれだ?
ハル:先にこっちじゃない?
ツバサ:んー?
ハル:ねえーつばチャ、まだ機嫌悪い?
ツバサ:なんで?
ハル:キャンプ、嫌そうだったのにー、ぼくが無理やり行く流れにしちゃったから……
ツバサ:あー、ハルには別になんとも思ってないよ。
ハル:そう?
ツバサ:アキラが、夢とかいうから。
ハル:え?
ツバサ:夢なんか持ってどうすんだよなー。考えるだけ無駄じゃん。将来のこと。
ハル:……そう、かな。
ツバサ:うちらが最後なんだよ? この後に繋いでいくもんもないし、みんなうちらより早く死ぬし。[ねえ/なあ]ハル。母さんたちが仕事を頑張るのはなんのため?
ハル:ぼくたちを生かすため……
ツバサ:そ。母さんたちにとって、うちらが未来。子どもが生まれないうちらに未来はない。
ハル:……未来のために生きなきゃだめかなあ。
ツバサ:は?
ハル:(少し勇気を出して)ぼくは、今、ツバサとキャンプしてるこの瞬間が、楽しいよ。それじゃだめかな。
ツバサ:……それって意味ある?
ハル:意味が、あるかは……(誤魔化し笑い)ごめん! なんか難しくてわかんないや! ぼくらしくなかったよね! テント立てちゃお! そっち持って!
ツバサ:……
ーーーハルが★の場合、このシーンをやる。★でない場合、スキップして次へ。
★:痛っ。
▲:うぉ、気をつけ[ろよ。/なよ。]
★:いたたたたた
▲:大丈夫?
★:む、胸にあたった…
▲:……なんか、ぱつんぱつんだな。
★:ぱつんぱつんって!
▲:むくんでんの?
★:んー。わかんない。張ってる。
▲:……いつから?
★:先週末くらい?
▲:痛いの?
★:たまに?
▲:(少し考えてごまかす)……んじゃテントたてたらマッサージしてやろうかねー。
★:えっ、や、つ、つばチャのすけべーーー!
ーーーツバサが★の場合、次のシーンをやる。★でない場合、スキップして次へ。
★:(大きなあくび)
▲:つばチャ? 眠い?
★:いや、だいじょぶ…(あくび再び)。痛って!
▲:うぇ!? どうしたの!?
★:胸を……打った……
▲:……なんかぱつんぱつんだね?
★:見んなよ。
▲:あれそういや太った? 急激に?
★:んなわけあるか。ちょっと張ってるだけ。……よくあるから。
▲:月イチで?
★:(ムッとして)うん。
▲:あれ、でも時期違くない?
★:まって……覚えてんの?
▲:ア。
★:嘘じゃん。無理キモい。キモイキモイキモイ無理。
▲:いやいやいや覚えてないから。覚えてないないない。知らない知らないごめん嘘だから知らないから。
★:……ハルゥ?
▲:アアアぼくペグ、打つね! 全部打つね! つばチャ休んでていいよ!
■■ここから再開■■キャンプの1日ハイライト。湖で釣り
シノ:あああの、釣り針、どうやってエサつけるんですか!?
ハル:わかんない! 虫、うぇ、虫!
アキラ:貸して。こうして、こう。
ハル:おおー
シノ:おおー
ツバサ:よっしゃあ釣れた〜!
ハル:ええっはや!
■コテージで料理
ツバサ:包丁はこう持って、こっちは猫の手
シノ:猫の手……?
ツバサ:家庭科でやんなかった?
シノ:うちの小学校、家庭科の先生いなくて……
ツバサ:あー。家では?
シノ:えっと……手伝おうとしたら逆に迷惑って言われて、包丁持たせてもらえなくて……
ツバサ:ええ……うちで練習する? 今度。
シノ:是非……!
ハル:ねえ! 米! めっちゃ吹き出してる! めっちゃ吹き出してる! ねえこれ大丈夫!?
アキラ:大丈夫。そしたら弱火にして
ハル:弱火!? 弱火って!? ガスじゃないんだよ!?
アキラ:(小さく笑う)薪を減らせば弱くなるから。ほら。
ハル:あ、そういうことかー。
アキラ:ハルって、感情が豊かだね。
ハル:え?
アキラ:羨ましい。
ハル:そう? 今アキラも笑ってたよ。
アキラ:え?
ハル:気づいてなかった?
アキラ:……気づかなかった。
ハル:(笑う)変なの! ねえ、次はどうすればいい?
アキラ:湯気が減って、パチパチ音がしてきたら火から下《おろ》す。
ハル:りょーかい!! 見守ります!
■魚焼き
アキラ:魚食べる人。3匹しかないから分けないと。
★:あ、[うち/ぼく/私]は[いいや/いいです]
▲:え、魚、好きじゃなかったっけ。
★:んー、なんか最近、魚の匂い[だめでさ/だめなんですよね]
▲:……そうなんだ。
★:急にめちゃめちゃ生臭く感じるようになっちゃって[さ]。なんでだろう[なんででしょうね]
▲:……。
■キャンプファイヤー
ハル:ぎゃー! またファイヤーマシュマロォ! 消火! 消火ぁ!
シノ:ハルさんっ! 火に近づけすぎです! 遠赤外線の効果で離れてても焼けますから!
ハル:宴席!? 何でパーティのはなししてんの!?
シノ:ああもういいから落ち着いて!
ツバサ:うちはこいつを、狐色になるまで、じっくり育てる……
アキラ:マルフォートいる?
ツバサ:今集中してんだよ、話しかけんな。
アキラ:ふーん。あむ(マルフォートで挟んだマシュマロを食べる)
ツバサ:……何それ、めっちゃうまそう。
アキラ:簡単スモア。焼きマシュマロはビスケットとチョコで挟むのが至高。
ツバサ:うちもやる、それやる。つかよく手に入ったね、マシュマロもマルフォートも。
アキラ:……最後の世代でキャンプをするんですけど、って、ボルボンに電話したら、倉庫から出してくれた。
ツバサ:アキラの行動力なんなの。
アキラ:(もぐもぐ)
ツバサ:神企業ボルボン様ー、頑張って生き残ってくれーッ。
アキラ:ねえ焦げてるよ。
ツバサ:ああ!! ばか! バカバカ! 話しかけるから!
■星を見上げてひっくり返っている。
ハル:あー!楽しかった!
シノ:こんなの初めてですね。
ツバサ:まあ、悪くはなかったなー。
ハル:めっちゃ楽しんでたくせに。
ツバサ:悪くはなかった。
シノ:星が、綺麗ですね。
ハル:街じゃこんなに見えないもんね。
アキラ:………………じゃあ、最後のイベント、いく?
一同、沈黙。
ツバサ:[あんた/お前]さー! 今いい雰囲気だったじゃん!
シノ:まったくアキラさんらしいというか。
ハル:ノリはわかってきたけど空気を読むのはまだ苦手っぽいね。
アキラ:みんな釣りとか飯盒炊爨《はんごうすいさん》とか、キャンプファイヤーとか、自分の企画出したじゃん。[私/俺]の企画はこれ。
シノ:アキラさんの企画がこういうのって、びっくりなんですけど。
アキラ:ババーン。普段相手に言えないことを言う会ー。
ハル:ノリもネーミングセンスも、ズレてる……。
ツバサ:あーで、何すんだよこれ、結局。
アキラ:喧嘩覚悟で、本音トーク。
ツバサ:はあ?
ハル:せっかくここまでいい感じの青春だったのに……
シノ:えーとぉ、楽しい気持ちのまま寝ません?
アキラ:意味ないから。それじゃ。
ツバサ:(バカにしたように笑って)意味ないの意味がわからんわ。
アキラ:じゃあ[私/俺]からいくね。まずシノ。
シノ:え?
アキラ:シノってさ、自分の意見あるの?
シノ:えっ、えっ?
アキラ:いつも人の顔色うかがってて、他人にあわせてばっかりでさ。困ったら曖昧な言葉で濁して《にごして》逃げるよね。からっぽ人間なの?
シノ:な、なんでそこまで言われなくちゃいけないんですか?
アキラ:シノは、他人の感情は読み取れるのに、自分の感情はわからないみたい。
シノ:ちょっとまってください。アキラさんに、感情の話されたくないです。
アキラ:なんで?
シノ:なんでって、感情わかんないんですよね? それに…[私/俺]のこと何も知らないじゃないですか。
アキラ:うん。だってシノが話さないから。本当は何考えてるかって、何も話さない。こっちに合わせてくれて会話が楽なのは確かだけど、それじゃ伝わらない。
シノ:だって、話したって聞いてくれないから…
アキラ:誰の話?
シノ:え?
アキラ:シノが自分のことを話して、聞いてくれなかった人って誰?
ハル:アキラ、もうやめなよ! シノ、話したくないことは話さなくていいから! ね?
アキラ:ハルは優しいね。優しいから、不穏な空気に耐えられない。
ハル:え゛。
アキラ:誰かが不機嫌になるとすぐ介入してくる。今[私/俺]とシノが話してんだから引っ込んでてよ。
ハル:な、なんでそんな喧嘩腰なの? アキラ、おかしいよ。
アキラ:シノ、なんか言いたいことある?
シノ:……じゃあ言いますよ。ほんとは一人でいるのが好きなんです。人と関わりたくない、めんどくさいです。基本的に人間全部嫌いなんです。正直今月みなさんと居すぎてキャパオーバーしてます。
ツバサ:じゃあキャンプこなけりゃよかったじゃん。
シノ:って言われるのわかってるからちゃんと隠して楽しそうにしてたじゃないですか!
ハル:ずっと演技だったの……? 全部?
シノ:……全部、じゃ、ないですけどっ!
アキラ:なんで一緒にレポートやる気になったの?
シノ:…[私たち/俺たち]って4人でセットなんですよ。一人だけ参加しなかったらその後気まずいでしょ。
アキラ:人間全部嫌いなのはなんで?
シノ:(ため息)……親とすらうまく関われないのに、家族でもない他人とうまくやるなんてもっと無理じゃないですか。正解探し続けるのめんどくさいんですよ。間違えたこと言うと不機嫌になるでしょ。あんたがたが受け入れられるように言葉を探しながら話すの、ストレスですよ正直。
ハル:ええ、シノいつもそんなことしてたの……
シノ:(溜め込んだものを吐き出す勢い)この際だから言いますよ。アキラさん、いつも授業でわからないところ聞きに来ますけどね、見たらすぐわかることばっかりじゃないですか。なんでできないんですか?
アキラ:……。
シノ:何にもしないで大学行けると思ってます? [私/俺]がどれだけ家で勉強してると思ってるんですか? あなた、[私/俺]の努力にただ乗りしてるんですよ。そんなに甘くないですよ大学受験。[私/俺]は一年の頃から対策してます。
アキラ:別に何もしてなくはーー
シノ:子どもが減ってるから楽して入れるって思ってるんでしょうね? 同じように大学も減ってるんですよ。アナウンサーになりたいなら国立のちゃんとしたとこ入らないと厳しいですよね? それから今テレビ局って国営放送しか残ってないのわかってます? そこまで考えて動いてますか? そもそもあなたが大学卒業するまでにテレビが残ってると思いますか? 何も考えてないで夢だけ語ってたって叶わないんですよ!
暫し沈黙
シノ:(我に返って)あ、ご、ごめんなさい、ここまで言うつもりじゃ……
アキラ:……シノが「すぐわかる」こと、[私/俺]にはわからないから、本当にすごいと思ってる。
シノ:……
アキラ:[私/俺]の、「アナウンサーになりたい」って言葉一つで、そこまで考えたの?
シノ:……普通、考えますよ、これくらい。
アキラ:シノってやっぱり頭いいね。
シノ:ここまで言われて怒らないんですか。
アキラ:怒らないよ、だって全部正しかったから。
シノ:……。
アキラ:あ、でもちょっと傷ついた。正論で殴られると痛いんだね。
シノ:あ、ご、ごめ……
アキラ:大丈夫。何にも考えてないわけじゃないのになって思ったけど、[私/俺]も言ってないからお互い様だし。バカなのも事実だし……
シノ:……なんか、調子狂うなぁ。
アキラ:……キャンプ、楽しくなかった?
シノ:……楽しかったです。でも、後で、一人の時間が欲しいです。
アキラ:うん。わかった。じゃあ次ハル。
ハル:えっ!? 唐突! ヤダヤダ! 怖いよアキラ!
アキラ:ハルってさ、感情豊かでいい子だよね。
ハル:え、ほめられェ……?
アキラ:さっきもちょっと言ったけど、[私/俺]はハルのことが羨ましい。
ハル:ううう、羨ましがること、ないんじゃない?
アキラ:いつも楽しそうにしてて、人を笑わせるように、天真爛漫に、「振る舞ってる」よね。
ハル:そんなことないよ!? いっつも楽しいから笑ってるよ!?
アキラ:でも、人の不安とか不機嫌を感じるとすぐ飛んできてケアするよね。なんで? もしかしてハルはそれを「自分がやらなきゃいけないこと」だと思ってる? 無理して笑ってない? ねえシノ。シノは感じるでしょ?
シノ:(取り繕うのをやめて少しぶっきらぼうに)無理してそうだなとはいつも思ってますけど。笑顔が痛々しい時結構ありますからね。
ハル:ええ!? うまくやれてると思ってたのに!
シノ:全然うまくないですよ。漏れ出てます。
ハル:え、あ、だって、ぼくが笑ってないと壊れちゃう、じゃん。ぼくが面白いことしてれば、ぼくのこと笑ってくれれば、喧嘩、止まるじゃん、だから、さ……。ぼくが、笑わせないと、いけなくて……
ツバサ:(ため息)ハルんちは親御さん仲良くないんだよ。
アキラ:それで、なんで?
ツバサ:(ハルに優しく)……自分で言う?
ハル:……お、お母さんは、「最後の世代」の親であることが、ストレスで、ぼくがいい子でいないと、怒るから、お父さんは、そんなの気にしなくていいって言うけど、お母さんといつも喧嘩してて、ぼくのせいで、喧嘩してるから、ぼくがなんとかしなきゃって……
アキラ:……そっか。そうやってハルは、家族を守ってきたんだね。
ハル:うん……
アキラ:ツバサはさ、ハルが笑ってなくても友達でいられる? 不機嫌にならない?
ツバサ:あー。そりゃ、まあ。
アキラ:シノは?
シノ:[私/俺]は、ハルさんが無理矢理笑ってる時、気持ち悪いなって思って見てます。
ハル:ねえシノさっきから辛辣じゃない!?
シノ:いやもうなんか、さっきの見せちゃったんでいいかなって。
アキラ:[私/俺]も、ハルが笑ってなくても、面白いことしてなくても、大丈夫。
ハル:……そう、なの?
アキラ:ハルの家族とは、違う人間だよ。[私たち/俺たち]。
ハル:……そっか。
アキラ:じゃあ最後ツバサ。
ツバサ:………なんだよ。
アキラ:ツバサってさ。いつも一歩引いてて、イラっとしたりしても笑って誤魔化して、自分の都合がいいように周りを言いくるめて上手にコントロールしてるよね。
ツバサ:貶されてる?
アキラ:うん。ツバサもずっと演技してる。感情が乱れないように。ベースは明るく前向きで、ノリが良くて愛嬌があっていい人っていう感じを保ってる。ずっと騙してて疲れない?
ツバサ:騙すって人聞き悪いなー。え?なんか悪いことしてる?うち。 それで誰か被害被って《こうむって》る? 別にいいじゃん。うちが周りとうまいことやって、全部うまく回ってんじゃん。何がダメなん?
アキラ:被害被って《こうむって》る。ツバサ自身が。
ツバサ:はあ???
アキラ:自分にずっと嘘ついてるから、自分をずっと騙してるから、つまらないんじゃないの? 毎日。
ツバサ:別に自分に嘘ついてないけど。
アキラ:[私/俺]ほんとは、友達になりたいのに、ツバサが見えないから、どうやって接したらいいかわかんない。だから何を思ってるのか聞きたい。
ツバサ:……いやー、だってさ、そうするしかなかったじゃん。生まれた時から「最後の世代」だなんだってカメラ向けられて。「いい子」でいなきゃいけなかったじゃん。
アキラ:……うん。
ツバサ:つか、なんで[あんた/お前]はそのまんまなの? 期待されなかった? いい子に育ってね〜、N国を担ってね〜、君たちが最後の希望だよ〜って。それで母親がノイローゼになったりしなかった?
アキラ:それは大人たちが勝手に思ってることで、[私たち/俺たち]が従うかは別の話。
ツバサ:いやいやいやいや。大人たちのために、うちらが演じてあげなきゃいけないんじゃん。それが最後の世代の「役割」でしょ。大人の機嫌とって、希望でいてあげて、健康で明るく子供らしく、元気を与える存在でいてあげるのがうちらの仕事じゃん。なんでお前はやってないの?
アキラ:ごめん、そんな期待、かけられたことないからわかんない。
ツバサ:そんなわけないじゃん。え? 親が働いてんのはなんのため?うちらを養うためでしょ? 疲れて帰ってきた母さんを癒すのが役目でしょ? ご飯作って、愚痴聞いて、ありがとうって伝えて、それが子供の役割じゃないの?
ハル:つばさ……
ツバサ:抱きしめてキスして大切だよって大好きだよって伝えて安心して眠ってもらうのが役目でしょ? 違う?
ハル:それは違うよ。
ツバサ:え、ハル? なんでハルが否定すんの?
ハル:ずっと見てたのに言えなくてごめん! 言うね!? 言っちゃうね!?
シノ:言っちゃえ言っちゃえ。
ハル:ツバサのお母さん、ちょっとおかしいと思う!
ツバサ:え? やめろよ、うちのことは何言ってもいいけど、母さんのこと言うのは違う[でしょ/ だろ。]
ハル:言うよ。子供に対する距離じゃないんだよ。ツバサのパパが出て行ってから、パパの代わりにしてるんだよ。気づいてなかった!?
ツバサ:え
ハル:うちの親も結構やばいから、普通の親子がどんな感じかはわかんないけど、なんか違うんだよ、ツバサママの、ツバサを見る目は、そういうんじゃないんだよ……
ツバサ:は
シノ:恋人扱い、ですか?
ハル:そんな感じ……
ツバサ:そんなわけない。親子の愛情だよ、ただの。
アキラ:……一旦冷静に、距離とって、見直してみたほうがいいかも。ツバサ、潰れるよ。そのままだと。
ツバサ:そんなわけ、ない。いや、そうだとしても、どうしたらいいわけ?
アキラ:(自信なさげに)……親のために生きる必要はない、と、思う。
ツバサ:……[あんた/お前]はいいよ[ね/な]、夢とか、呑気に言えて。
シノ:ツバサさん?
ツバサ:正直、もう終わりじゃんこの国。子ども生まれないわ上の世代は死んでいくわ、隣で戦争おっぱじまってるわ、未来、ないじゃん。大人たちってなんで真面目に働いてんの?バカみたいじゃん。シノもハルもさ、なんでそんな真面目に勉強してんの? どこでつかうの? 勉強したこと。つかなんで学校行ってんの? なんで進学したいの? 何のために生きてんの? 未来ないんだって!もう!
シノ:あー、えーと、[私/ 俺]は、勉強、楽しくて……
ツバサ:は。
シノ:新しいことを知るのとか、問題が解けるのが楽しくて。進学はその延長です。親が許してくれたから行けるってのは確かですけど……。結構どうでもいいです、未来。
ツバサ:えぇ……
ハル:ぼくは、家にいたくなくて学校行ってる……毎日ちょっと楽しいこと探して、誤魔化してる。意味とかじゃなくて、今この瞬間、ちょっと楽しいことが積み上がっていくといいなって…。
ツバサ:……
アキラ:(空気をぶった斬る)ツバサって結構真面目なんだね。意外。
ツバサ:はあ!? 結構じゃなくていつも真面目[でしょうが!/だろうが!]
アキラ:生きる意味とか考えちゃうくらい真面目なんだ。
ツバサ:考えるだろうよ普通……
ハル:生きる意味かぁ……なんだろうね?
シノ:わかりません。[私/俺]は毎日好きなことやってるだけなんで。どうせそのうち死ぬし。
ハル:シノ、ほんとにぶっちゃけるようになったね?
シノ:本来こんな感じです。
ハル:うーん……アキラは? アキラはやっぱアナウンサーになるのが生きる意味?
アキラ:うーん。じゃあ、[私/俺]もぶっちゃけるね。
ハル:うん。
アキラ:実はアナウンサーになりたいっていうのは過程でしかなくて。
ハル:うん?
アキラ:世界最後の日に、「良い『終末』をお過ごしください」って言いたいんだよね。
シノ:え?
ツバサ:は?
ハル:それだけ?
アキラ:うん。面白くない?「週末」と「終末」かけてるの。
ツバサ:くだらねーーーーーー
ハル:まってアキラっていつもそんなこと考えてるの?
アキラ:うん。趣味、ダジャレ収集。
シノ:嘘ですよね?
アキラ:ホントだよ。見る?ノート。
ツバサ:マジくだらん!!! なんだったんだこの時間!!
アキラ:「金曜日はなんもできんよう」
ハル:やべえつまらーん!
ツバサ:あーあ……(寝そべる)星が綺麗だなァーーー
アキラ:もうひとつ夢があってさ。
ツバサ:どうせまたくだらないん[でしょ/だろ]
アキラ:友達と、本気でぶつかってみたかったんだ。これでもし気が合わないことが分かって、離れ離れになったとしても、新学期から、気まずくなったとしても。今、ぶつかってみたかった。だって、あまりにも[私/俺] たちは、上手に避けるのになれすぎちゃったから。
シノ:それがアキラさんの思う、高校生らしさ、ですか。
アキラ:うん。
ツバサ:……[あんた/お前] とは気が合わないよ。
アキラ:そっか。残念。
ハル:フフフ
シノ:どうしたんですか
ハル:いやごめん、思いついちゃって
シノ:え?
ハル:言っていい? 言っていいかな?
ツバサ:なんでも言えよ、この際。
アキラ:うん。
ハル:「星が綺麗な夜に、干し柿冷凍する」
ツバサ:はあーーーーー
アキラ:…それノートに加えていい?
ハル:(爆笑)
シノ:センスねぇーーー
■学校
●:レポートも無事提出ということで!
■:新学期[だね。/だな。]
★:(えづく)
●:ちょ、大丈夫[!?/ですか!?]
★:ごめん、ちょっと(えずく)気持ち悪いだけ[だから。/ですから。]
●:ええ、結構つらそう[だよ。/ですよ。]医務室[いく?/いきます?]
▲:そういえば、ずっと気になってたことがあって。
▲、★に向き直る。
▲:★[ツバサ / ハル / シノ]、最後に生理きたの、いつ?
■:(ギョッとして)いきなり何言ってんの。
▲:大事なことだから
●:いや、学校で聞くことじゃ[ないよ!/ ないですよ!]
▲:いつ?
★:先月の頭……
●:え……
▲:妊娠、してるんじゃない?
★:え、やだなぁ、そんなまさか
●:[そうだよ!/ そうですよ!]だって[ぼくたち/私たち/俺たち]、子ども作れないん[だよ!?/ですよ]
★:ちょっと疲れてるだけ[だって/ですって]、ほらキャンプとか、初めて[やったし/やりましたし]
▲:キャンプの時、変だなってずっと観察してて。……吐き気、胸の張り、匂いに敏感になる。全部、妊娠の初期症状だよ。
■:なんでそんなこと知ってんの
▲:調べた。で、(恐る恐る)………試してほしい。
★:何を……
▲:これ。
★:妊娠、検査薬……
▲:………もうどこにも売ってなくて。昨日やっと見つけた。陰性だったら、それはそれでいい[じゃん。/から。]
★:なんで、そこまで……
▲:(それ以上の感情を持っているが押し殺した)……トモダチ、だから。
★:……。
数分後。
★:結果[でた。/でました。]
●:ど、どっち?
★:……陽性
●:ほんとに!?
▲:……
●:すごい、すごい[よ/ですよ!] え、どうして!? これってすごいこと[だよね!?/ですよ!] この国を救う希望[じゃん!/じゃないですか!]
■:希望、かな。
●:え?
★:……[どうしよう/どうしましょう]
●:みんななんで嬉しそうじゃない[の?/んですか?] [嬉しくない?/嬉しくないですか?]
▲:……父親は、誰?
★:……言いたく[ない。/ないです]
▲:[ぼく/うち/私/俺]が知ってる人?
★:……知らない人。
▲:…………まとも?
★:……どう[だろう。/でしょう]
●:……とりあえず、産婦人科[行かない?/行きません?] 大人の指示を仰いだほうが
■:産みたいの?
★:……わかんない。
■:この子は多分、[うちら/私たち/俺たち]以上に希望の子になるよ。
●:あ。
■:★[ツバサ/ハル /シノ]も、相手の男も、どこかの研究所に連れて行かれて、ワクチンを作るために調べ尽くされるかもしれない。最悪、「産める母体」として……
▲:…大人に言っちゃダメだ。
●:いやいやいや、[みんな/皆さん]、冷静に[なってよ!/ なってください!] N国がそんな非人道的なことするわけないでしょ! それよりも、妊娠したらどうなるか、[ぼくら/私たち/俺たち]わからない[じゃん。/ じゃないですか。]ちゃんと大人を[頼ろうよ/頼りましょうよ。]ね!?
★:……怖い。どうしよう、わかんない、なんも考えられない。
▲:話そう。考えて、考えて、考えて、話そう。今どう感じてるかも、これからどうしたいかも、いっぱい話そう。国のこととか、最後の世代としてとかじゃなくて、本当の気持ちを話そう。……それから、どうするかまた考えよう。
■:協力する。隠し通すにしても。大人に知らせるにしても。
●:[つばチャ!? / アキラさん!?]
■:●[シノ / ハル]は?
●:……も、もちろん! 助け[るよ!/ ますよ!] 「友達」[だから!/ですから!]
一同沈黙ののち。
★:……あ、あーーーあ、楽しかったのに、な。
■未来
アキラ:2054年9月4日金曜日。世界終末時計がついに残り5秒を指しました。C国とA国の戦争は泥沼化し、世界中を巻き込む全面戦争へと拡大しています。もはや我々には、C国の軍事AIと、A国の大統領が、冷静であり続けることを祈るしかありません。
アキラ:なお、N国は子供が生まれないまま戦争に突入し、最後の世代はドローンやロボット兵のパイロットとして徴兵されています。彼らは今も祖国防衛のため命を尽くしておりーー
ーーー
※次セリフ、ミュート出来ない場合は、「良い終末をお過ごしください」と言い切ってください。
アキラ:それでは皆さん。……良い「しゅうま(ミュートで切る)――
<おわり>
2025.08.31
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