概要
ナンカダレカ3月公演に描き下ろした12分のブラックコメディです。
SNSにて募集していたアルバイトに応募し、説明を受けに来た4人。各々の役割を果たせば仕事は終了ということだったが……
- 所要時間:約12分
- 人数:男性2 女性2
- ジャンル:現代、コメディ
登場人物
- 徳井
男性 - 斎藤
女性 - 幸田
女性 - 春野
男性
本編
■とある会議室
徳井と斎藤は「説明書」と書かれた冊子を手に、そこにかかれたセリフを読んでいる。電話をしている体で。
徳井:ゲへへへへ! お前の娘は預かった! 返して欲しくば身代金を一千万円用意しろ!
斎藤:身代金!? い、一千万円!?
徳井:そうだ。
斎藤:ウチにはそんなお金ありません……!
徳井:知ったこっちゃねえ! 用意できなかったら……どうなるかわかるだるぉ?
斎藤:ヤメテーーー!娘には何もしないでー!
※〇〇は「まるまる」と読む
徳井:はーっはっはっは! 勿論警察に言うのもなしだ…サプライズが台無しだからな…。それで、えーと、用意できたら○○駅の○○口にあるロッカーに入れろ! 鍵の受け渡しは○○だ。
斎藤:そ、そんな……○○しかなくてなんにもわかんないんですけど!?
徳井:えっ。だって台本にそう書いてあるんだもん 。
斎藤:そこはさあ、なんか入れようよ。とりあえず。
徳井:ええ、じゃあ、池袋駅西口のロッカーで……。
春野:西口結構ロッカーあるけどだいじょぶそ?
徳井:ええ!? 下見、行った方がいいかな……?
春野:Googleマップで場所送ってあげたら?
斎藤:親切!! そうしよ!
徳井:えぇ!?
斎藤:じゃ、仕切り直しで。
徳井:あ、うん。ゲへへへへ!お前の娘は
斎藤:あ、そこはいいわ。
徳井:え?
斎藤:そっからやると長いから。尺もったいないから。
徳井:え、あ、うん。
春野:じゃあ僕やってもいい?
徳井:あ、どうぞ。
幸田、遅れて入室する。
幸田:すみません! おそくなりまし、た
春野:(悪い顔で)一千万円用意できたら、池袋駅西口のロッカーへ入れろ。場所はショートメッセージで送ってやる。鍵の受け渡しは西口公園だ。いいな。
幸田:えっ
斎藤:わ、わかりました……かならず、必ず用意します……!娘は、娘は無事なんですか!声を聞かせてください……!
春野:いいだろう。ほら
幸田:えっ、わ、私ですか?
春野:お母さんに聞かせてやれ。早くお金を持ってきてーってな!
幸田:どういう状況!?
斎藤:みゆき!みゆきなのね!?必ず助けるから、だから、いい子に待ってるのよ……
春野:(返事!という顔)
幸田:…………うん、お母さん、私、信じてるよ、お母さんのこと……
斎藤:みゆきーーーーー!
斎藤・春野:ガチャ。
間
徳井:黒電話?
幸田:あの、すみません遅くなってしまって……どういう状況ですか……あきらかに誘拐犯と被害者の会話ですよねこれ。バイトの説明会って聞いてきたんですけど……
徳井:バイトよ?
幸田:は?
徳井:いや、今の、台本でね。残り1人くるまで練習するかーってなって。ほら。
幸田:ほんとだ!! さっきのセリフ、お母さん側まで書いてある……
斎藤:女一人かと思ってたから安心したよー、よろしくー!
幸田:はあ、よろしく、お願いします……
春野:急に振ってごめんね。いいところに来たから。
幸田:いえ、なんか私も、ノッちゃったし……えっと、私SNSで見つけた「指定の場所で指定の服装の女性にアンケートをお願いするバイト」に応募したんですけど…
斎藤:そうなの? 私は「車で、指定の場所で人を乗せて指定の場所まで送るバイト」って聞いて来た
徳井:俺は「ホテルの一室から電話をかけるバイト」……あんたは?
春野:「クロロフォルムの取り扱いに長けてる人募集」とあったので……
間
幸田:いやいやいやいやクロロフォルムて!そんな募集あります!?
斎藤:これ誘拐じゃない!? 誘拐の片棒担がされてない!?
徳井:片棒どころか俺たちで全貌じゃない!?
春野:落ち着いて。とりあえず全員揃ったし、指示書を読もう。
幸田:そそそそうですね、あ、この台本形式のは徳井さんって書いてありますね
徳井:そう、俺の俺の。
斎藤:こっちは、幸田さんと春野さん?
幸田:私、幸田です!
春野:春野は僕です。じゃあこれがあなたのですね、斎藤さん。
斎藤:はーい、さいとーでーす。
幸田:えっと、じゃあ、読み合わせてみましょうか?
徳井:なになにー? 「回りくどい募集をしてしまいすみません。これは、彼女の誕生日プレゼントにサプライズを仕掛けるために私が用意した企画です」
斎藤:なんだー、サプライズかー!
幸田:サプライズで誘拐プレイ? ど、どういった性癖をお持ちなのでしょうか……
春野:「みなさんには、指定の場所で指定の行動をとっていただくだけで結構です。当日は他の人の行動を確認せず、自分の仕事が終わったらDMに完了報告をして、お帰りください」
幸田:「その際、次の担当者が分からないと間違いが起きてしまうので、今日は顔合わせのためにこの場を設けました」……ご本人は来られないんですかね?
春野:もう時間もだいぶ過ぎてるしね……。
斎藤:まず幸田さんが彼女さんにアンケートを装って声かけ、私が待機してる車まで誘導……くるかな?怪しくない?
幸田:化粧品のサンプルを渡すって感じみたいですね……うわこれめっちゃ高いヤツだ……
斎藤:プレゼントじゃん、やるねー彼氏ー。
徳井:そんで車まできたところで
春野:クロロフォルムで眠らせる。
間
斎藤:やっぱこれ誘拐じゃない!?
幸田:ですよねぇ!? 大丈夫ですかねこれ!
徳井:てかなんで春野さんはそんな落ち着いてんの!? 経験者?経験者なの?
春野:いや誘拐はしたことないけど
徳井:「は」!?
春野:クロロフォルムは扱い慣れてるから。
間
春野:薬理学研究室所属なんで。
幸田:あ、ああ、そういう
徳井:やりなれてるのかと・・・
斎藤:慣れてるってことは車まで連れてこられたら安心だね。
春野:それがそうでもないんですよね。
斎藤:へ?
春野:ドラマとかでよくある、ハンカチに染み込ませて口に当てるやつ、無理なんすよ。
徳井:そうなの!?
春野:クロロフォルムが肺の中を満たさなきゃいけないんですけど、成人女性の肺気量がだいたい2500cc。で、1呼吸で入れ替わる量が約500cc。
斎藤:つまり?
徳井:5回は深呼吸してもらわないといけないって、コト?
春野:そう。しかもハンカチに染み込ませた程度じゃ500も吸わせられないし。なんなら吸った先から血液に溶けるし。内臓に障害が残るかもしれないし。
斎藤:え!?そうなの!? 一瞬で気絶するのかと思ってた
春野:あんなんフィクションですよ。
徳井:じゃあどうすんの?
春野:チョウセンアサガオですかね。気絶しなくても動けなくなれば車には積めると思うんで。そのあと縛るなりなんなりすれば。
間
幸田:やっぱやったことありますよね、誘拐。
春野:ないですよ。
徳井:そのあと気絶した彼女さんをホテルに運び込んで電話をかけるのが、俺?
斎藤:指示書的にはそうだね。
幸田:ちょっと、すみません、やっぱり怖くなってきました……。
斎藤:え?
幸田:辞める、とか、ありですかね。
徳井・春野・斎藤:だめだめだめだめだめ
幸田:えっ、えっ!?
徳井:見て!ほら!ここ!!
幸田:あ、はい、えっと「全員が全ての役割を終えたことを確認したのち、報酬をお支払いいたします」
斎藤:そういうこと!!だから幸田さんが抜けたら報酬が貰えないの!!
幸田:じゃ、じゃあ、斎藤さん、アンケートと呼び込みもついでにやってくださいよ!そしたら報告しますから!2倍の報酬になるでしょ!
徳井:2倍
斎藤:あっ、そ、いいかもね?私やろうかな?
徳井:いやいや俺がやるよ、ホテル入るついでだし
斎藤:いやいやいやいいよ連れてきて車のせるくらいできるから
徳井:いやいやいやいや
斎藤:いやいやいやいや
春野:できませんよ。
春野:契約書にサイン、しましたよね。オンラインのアレで。
間
徳井:したね。
幸田:はい、しました。
春野:もしかして、ちゃんと読んでない? 書いてありましたよ。一番下にちーーーーっちゃく、当日 契約 以外の行動をした場合報酬は支払わないって。
斎藤:うそぉ。
幸田:気づきませんでした……。
幸田:で、でも契約破棄はできますよね!?
斎藤:させないよ。
幸田:斎藤、さん?
徳井:うん、ちょっと、やってもらわないと困るかな。
幸田:徳井さんも!?
斎藤:(薄ら笑い)お金が、必要なんだよねー。 れ、連帯保証人で借金背負わされてさ!
徳井:交通事故で、慰謝料、払わなきゃいけないんだ、よね!
幸田:……そりゃ、お金は、私も必要ですけど、春野さんも……?
春野:ん? 離婚で、慰謝料と養育費。
幸田:わ、わあ
春野:幸田さんは?
幸田:奨学金を、返し、たくて
間
斎藤:聞かなかったことにしよ。
徳井:え?
斎藤:自分以外の指示書は、見なかったことにしよう。そうすれば、幸田さんはアンケートに答えてもらうだけ、春野さんは気絶させるだけ、私は車で運ぶだけ、徳井さんはホテルに2人で入って電話かけるだけじゃん
徳井:一番ヤバイの俺じゃない?
春野:じゃあ準備があるんで僕はここで。
幸田:準備って?
春野:うちで栽培してるチョウセンアサガオを、嗅がせるように加工しないといけないんで。
徳井:え
春野:いやだってクロロフォルムじゃ無理だし。
幸田:やっぱやったことありますよね!?
おわろ。
2024.2.01.