概要
とある国の森の近く。町はずれにあるお菓子屋、「レ・ボンボン」と住民たちの、すこしおかしな普通の日常。ハロウィンの夜は、お菓子を身に着けていないと、連れていかれてしまうからね。
※ボイコネ版を移植しています。この作品は短編九話のオムニバス形式です。
- 所要時間:約30分
- 人数:5(♂3:♀2(少年1につき女性可)
- ジャンル:ファンタジー、魔法、ハロウィン
登場人物
- マシュー
お菓子屋見習いの少年。レ・ボンボンで働いている。右足が義足。 - シャーロット
占い師見習いの少女。最近引っ越してきて、森の中のいかにもな洋館に住み込みで働いている。 - レイ
お菓子屋レ・ボンボンの店主。ド近眼。ド甘党。なんにでも砂糖をぶち込む。かつてロゼットの弟子だった。 - ロゼット
森の中のいかにもな洋館に住む魔女。町では占い師を名乗っている。人嫌い。ド甘党。 - ジャック
農家をやっている気さくなあんちゃん。実はロゼットによって人間の体に放り込まれた炎の精霊。
本編
■第一話
□お菓子屋店内、朝。
開店準備中のマシューと出かけようとしているレイ。
マシュー:看板よーし! お菓子のレイアウトよーし!
レジのおつり! ……よーし!
レイ:マシュー、すみませんがお昼過ぎまで店番よろしくお願いします。
マシュー:まかせてよ!
レイ:何度も言いますけど、勝手におまけしないこと。
つまみ食いもダメですからね。
見えてなくてもわかりますよ。
マシュー:ぎっくぅ。大丈夫、大丈夫だって。
レイ:お店の前の掃除も忘れずに、あと、室内で走らないこと。
マシュー:わかったから早く行きなって。もう時間過ぎてるよ。
レイ:……行ってきますね。
マシュー:はいはい、いってらっさーい
レイ、店を出る。ドアベル。
マシュー:レイが居ない、これはチャンス!
さっさと掃除終わらせて、試作タイムだ!
マシュー: 『第一話、お菓子屋やさんの一日』
無人の店内。
ドアが開き、シャーロットが入ってくる。
シャーロット:すみませーん。
ドア閉め
シャーロット:あれ、プレートはオープンになってたんだけど
……すみませーん!
カウンター裏、カーテンの奥の部屋(キッチン)からマシューの返答。
マシュー:はーい! 今出まーす!
……うわっ、あっ、いってぇ! (転んだ)
シャーロット:あ、慌てなくても大丈夫ですよ!
カーテンが開き、マシューが現れる。
マシュー:お待たせしました!
ごめんなさい、今僕一人で……。
シャーロット:あなたが店主さんなんですか?
マシュー:え? あ、いやいや! ちがいます!
店主が外出してて、店番です。
シャーロット:そうだったんですか。
店主さんにもご挨拶したかったな。
マシュー:……もしかして最近来た人?
シャーロット:そうなの。先日越してきて。
ご挨拶が遅れてしまってごめんなさい。
マシュー:気にしないで。
どおりで見ない顔だと思った!
この町小さいからさ、みーんな顔見知りなんだ。
シャーロット:皆さん暖かく迎えてくださってよかったわ。
私、シャーロットっていうの。よろしくね
マシュー:よろしく、シャーロット!
僕はマシュー! パティシエ! の、見習い……。
シャーロット:ふふ。私は、占い師! の、見習い。
マシュー:ってことは、ロゼットおばさんのとこの?
シャーロット:そう! 住み込みなの。
マシュー:うえぇ……
へんなことさせられてない? 大丈夫?
シャーロット:へんなこと……?
えっと、普通におまじないのことなら教わってるけど……。
マシュー:普通に?
シャーロット:普通に。
マシュー:えええ僕会う度ゲンコツされるよ!!
お姉様とお呼び! って。
シャーロット:うーん……仲良しなのね!
マシュー:仲良し、かなぁ……。
ま、見習い仲間ってことで、よろしくお願いします!
シャーロット:こちらこそ。
笑顔のシャーロットと暫し見つめ合うマシュー。
マシュー:あーっと、お茶でもだそうか?
シャーロット:ううん、他にも挨拶回りするつもりなの。
お構いなく。いくつかお菓子、頂いていくね!
マシュー:うんうん、今週のオススメはパンプキンマフィンだよ!
シャーロット:全部美味しそうで迷っちゃう!
マシュー:そうだ、ちょっとまってて……
うお、いってぇ! (転けた)
カウンター裏で転けたマシューに
声をかけるだけのシャーロット。
シャーロット:大丈夫?
自分で立ち上がるマシュー。
マシュー:いててて……だいじょうぶ……。
最近成長期みたいでさあ。
右脚の長さが合わなくて。へへ。
シャーロット:義足なの?
マシュー:事故でねー。
もう体の一部だけどね。
あ、ちょっとまっててね。
シャーロット:うん。
カーテンの奥に引っ込むマシュー。すぐ戻ってくる。
マシュー:はいこれ!
できたてホヤホヤの試作品! あげる!
シャーロット:マフィン!
いただいていいの? ありがとう!
マシュー:お引越しお疲れ様ーと、ようこそーと、
お菓子屋レ・ボンボンを、どうぞご贔屓に、ってね!
マシュー:『お菓子屋!』
レイ:『レボンボン』
■第二話
レイ:マシュー、キッチンを使うのはいいのですがね。
片付けまでちゃんとしなさい。
マシュー:あっやべ……。
レイ:あと、何を何グラム使ったか
測ってメモしておいてくださいといつもいつも……
マシュー:あーあーあー
きこえなーいきこえなーい
レイ:『第二話、マシューの憂鬱』
□キッチン、夜。
話しながら使った食材の量を計るマシューと
ゆっくりタイプライターでメモをとるレイ。
マシュー:ねえねえねえレイ!
……小麦粉100グラム。
レイ:なんです?
マシュー:はやく守りのまじない教えてよぉー
……砂糖70グラム。
レイ:70グラムと。
まともなお菓子を作れるようになってからって
いつも言ってるでしょう?
マシュー:クッキー焼けるようになった!
レイ:そうですねぇ……
粉の分量を測ることをおぼえただけ進歩ですかね。
マシュー:なんでぇ!? まだダメなの!?
バター100グラム!
レイ:お菓子作りは繊細な作業なんです。
そこに混ぜ物をしようというのだから
生半可な技術じゃ失敗します。
……何を焦ってるんです?
マシュー:今年も、ハロウィンに間に合わないなって……。
レイ:魔よけ道具を作りたいなら
ジャックさんにかぼちゃランタンを習えばいいでしょう?
マシュー:僕はお菓子が食べたい。
レイ:はあ、そっちが本音ですね。
マシュー:レイのことは本気で尊敬してるんだよ!!
お菓子おいしいし、
レイのおかげで姉さんは助かったんだから。
レイ:でもお姉さんは都会の病院に……。
マシュー:生きてるんだからいいんだよ。
いつか起きるって。
レイ:……お姉さんが起きる前に、
ケーキくらい作れるようになりましょうね。
マシュー:おー!
レイ:ならまず、
この生クリームを3分で泡立てて下さい。
マシュー:げっ……この量を、手で?
レイ:手で。
マシュー:はぁい……うおおおおおおお
ジャック:『お菓子屋!』
マシュー:『レボンボン!』
■第三話
□八百屋、屋外。昼。
巨大なカボチャを運ぶジャック。
ジャック:よっ、とぉ!!
ジャック:はぁー、今年もりっぱに育ったな!
んー。例年よりでかいなあ。
こりゃ、くりぬくのだるそうだ……
こう、もっと楽ちんに……。
少し遠くから手を振るマシュー。
マシュー: ジャックー!
ジャック:よォマシュー! 買出しか?
ジャック:『第三話、かぼちゃタルトがお好き』
作業台に座るマシュー。
マシュー:今日はかぼちゃ三個とナス五個とー、
ほうれん草一束!
あ、ランタン用じゃなくて、食べるのね!
ジャック:なんだぁ、ランタンやらねえつもりか?
マシュー:ランタン用はまた買いに来るよ。
ジャック:ああ、そうか。まだはええもんな。
マシュー:かぼちゃタルトとキッシュつくるんだって。
ジャック:ほお、あいつ甘くねえもんも作れんだな。
マシュー:僕が止めてるんだ、
なんにでも砂糖入れようとするの。
ジャック:あぁ、苦労してんだな。
マシュー:ねえ、いつからレイはあんな甘党になっちゃったの。
ジャック:んー俺が出会った時は既にアレだったぞ。
マシュー:そういやいつ知り合ったのさ?
ジャック:レイがロゼットんとこに弟子入りしに来た時だよ。
マシュー:じゃあこの街に来た頃にはもう激甘党だったのか。
ジャック:あれは生まれつきじゃねーか?
なつかしーな、
可愛い顔して憎たらしいガキだったぜ。
マシュー:え、ガキって、ジャック、いまいくつ?
ジャック:そりゃあ聞かないお約束ってもんだろ?
マシュー:ちぇ。ロゼットおばさんといいジャックといい、
みんな謎だよなー。
ジャック:ははっ、どんなやつでも受け入れてくれる、
それがこの街の良いとこだろ。
マシュー:そりゃあね。僕も大好きだもんココ。
ジャック:ほい。リュックに入れるぜ。
マシュー:ありがと。はい、お代。
ジャック:まいど。なあなあ、
タルト、出来たら食わせてくれよ!
マシュー:もっちろん!
美味しすぎてびっくりしちゃうから!
ロゼット:『お菓子屋』
シャーロット:『レボンボン』
■第四話
□町外れの森、昼。
配達用リュックサックを背負ったマシュー。
マシュー:ううう……あいかわらず! この! 森!
鳥が飛び立つ。
マシュー:ひぃっ! 昼なのに真っ暗だし……
シャーロットは怖くないのかなあ……
整備しようよ……。
シャーロット: 『第四話、占い師の館』
□ロゼットの館、門のあたり。
箒で掃除しているシャーロット
マシュー:やあっと抜けたぁ!
シャーロット:マシューくーん! こんにちは!
マシュー:やっほー! シャーロット!
シャーロット:今日はどうしたの?
マシュー:お菓子の配達!
(ささやき)ロゼットおばさんからの注文。
ロゼット:お姉さんとお呼び!!
マシュー:いってええええ!! どっから見てたんだよ!
ロゼット:何度言ったらわかるのかしらこのクソガキ
シャーロット:ロゼット先生!
マシュー:くぅう……シャーロットぉ……
ちょっとは心配してよぉ。
シャーロット:あ、ごめんね。大丈夫?
マシュー:……あのね、騙されちゃダメだよ。
この人僕が物心ついたころからこの見た目だk
ロゼット:おだまり!
マシュー:いってええええ!
ロゼット:永遠の美しさを保つための努力のたまものよ。
シャーロット:それで、何を注文なさったんですか?
ロゼット:マフィンよ、マフィン!
もう! 遅いんだから!
糖分がなきゃやってらんないわ!
シャーロット:あの大量のお菓子、
レ・ボンボンさんのだったんだ。
先生、ちゃんとお食事もなさってください。
マシュー:これで太らないんだから詐欺だよn
ロゼット:ふん!
マシュー:いってえええ!
ロゼット:シャル、覚えておきなさい、
糖分は、魔力に転化するのよ。
シャーロット:そうなんですね!
マシュー:おばさん、残念だったね!
今回のは、糖分控えめ、
おいしーへるしーにしてあるから! ざまあ!
ロゼット:あらそう、おいしければ問題ないわ。
ロゼット:ふうん……レイに伝言、
術式の省略、ミスってるわよ。
マシュー:まじか……まいどー。
レイ:『お菓子屋』
ロゼット:『レボンボン』
■第五話
お菓子屋、昼。
レイ:やっぱりノンシュガーストレートティーには慣れませんねぇ。
レイ:砂糖……ちょっとぐらい……
いや……うーん。
レイ:マシューいないしバレなきゃいいですよね!
ロゼット:『第五話、甘党談義に花が咲く』
ドアが開きロゼットが入店。
レイ:いらっしゃ……ロゼット?
めずらしいですね。
ロゼット:レイ。
レイ:……なにかな。
ロゼット:あんた曲がりなりにも私の元弟子のくせに、
なによ、あのお粗末な術は!
レイ:はぁ、やっぱりだめかー。
チョコアンドパンプキン、
いいと思ったんですがねぇ
ロゼット:ダメに決まってるわ!
あれじゃあ二つの効果が相殺してしまう!
大体守りと攻撃を混ぜ合わせるなんて馬鹿じゃないの!
やるならカウンターにしなさい!
隠遁系には鏡の守りをつけるのが定石! 忘れた?
あと! キャロットマフィンの省略式!
できないならやるな!
レイ:ふふ、ありがとうございます
ロゼット:なによ
レイ:わざわざ面倒見に来てくれて
ロゼット:ち、違うわよ、私はね!
味のことを言いに来たの。
おいしかったけどもっと甘くして。
レイ:今回は野菜の自然な甘味を
前面に出そうと思って砂糖を控えてみたんです
ロゼット:控えなくていいわよ!
ぜんっぜんたりないわ!
あんたらしくない。
レイ:マシューの提案ですよ。
素材の味をもっと出そうって
ロゼット:なんでよ!?
甘いほうがいいに決まってるじゃないバカなの……
話しながらロゼットの分の紅茶を淹れるレイ。
レイ:ふふ、相変わらず燃費が悪いんですね。
砂糖は五つ?
ロゼット:七つよ……
あのクソガキ、ちゃんとしつけなさいよ。
レイ:最近上手くなってますよ。
お菓子づくり。
ロゼット:ちがう!!!
礼儀をしつけなさいよ!!
レイ:子供らしくていいじゃないですか。
そんなカリカリなさらずに。
……そういや、弟子をとったそうですね、珍しく。
ロゼット:あぁ、あんたより百倍筋いいわよあの子。
レイ:立ち直ったみたいでよかった。
ロゼット:……誰かさんの二の舞にはさせないわ。
シャーロット:『お菓子屋』
ジャック:『レボンボン!』
■第六話
□街中、大通り、昼。
マシューがお菓子を売り歩いている。
マシュー:ハッピーハロウィン! お菓子はいらんかね〜
マシューの近くのカボチャランタンが
燃え上がり、炎の中からジャックが出てくる。
ジャック:よっと。よし、このランタンも問題なしだな。
マシュー:ジャック!
ジャック:よぉマシュー。今年もよろしくなぁ。
マシュー:巡回ごくろうさまです!
なんかいつもよりランタン多いね。
ジャック:今年はきなくせぇからな。
ちょっと派手めにしたんだぜー!
マシュー:きなくさいって?
ジャック:なんかざわざわすんだよなー。
まっ、取り越し苦労かもしれないが。
マシュー:えーこわ。ちゃんと守ってよね、大人でしょ?
ジャック:まかせろぃ。
お前もガキどもにちゃんと菓子配れよ!
ジャック役、可能なら指パッチン。
カボチャランタンが燃え出す。
ジャック:じゃあな!
炎に吸い込まれるジャック。
マシュー:まかせろぃ!
シャーロット:『第六話、ディスイズハロウィン』
マシュー:ハッピーハロウィーン!
お菓子はいらんかね~。
シャーロット:マシュー君!
売れ行きはどう?
マシュー:シャーロット!
大荷物だね、大丈夫?
シャーロット:先生におつかい頼まれたの。
それで、本日のラインナップは?
マシュー:レイの新作、二色マフィンが人気かな。
僕の開発したびっくりぱちぱちキャンディも
なかなかいいと思うんだけど、
みんなこの魅力、わかんないかなあ。
シャーロット:ふふっ、マシュー君のお菓子は
いつも楽しいわ。私にもひとつずつくださいな。
マシュー:まいどあり! 紙袋に一緒に入れるね。
あ、あとこれ!
ハロウィン当日限定キャンディレイだよ~。
シャーロット:わあ! かわいい!
これ、子供たちが首にかけてるやつね?
マシュー:そそ。おチビたちみんなにプレゼントなんだ
シャーロット:私、おチビって歳でもないけど貰っていいの?
マシュー:17超えてたっけ?
シャーロット:ううん。まだ。
マシュー:じゃああげるあげる〜。
まあ超えてても、
シャーロットにならあげるけど。えへへ……
シャーロット:……17歳だとなにかあるの?
マシュー:んー……シャーロット、お菓子は、
日が落ちる前に食べてね。
あとなるべくそれ、身に着けといて。
シャーロット:どうして?
マシュー:この町、通り道なんだ。
シャーロット:通り道?
マシュー:おばけたちの。
シャーロット:え。
マシュー:連れていかれないように、
お菓子が守ってくれるから
シャーロット:どういう意味?
マシュー:そのまんまの意味!
じゃあ僕、丘の上の孤児院のほうに行ってくるから!
美味しく召し上がれー!【セリフ中足音】
■第七話
ジャック:『第七話、嘆きの魔女』
□ロゼットの部屋、夕方。
ロゼット:可笑しい、
こんなに霊魂が集まってるなんて……
何かが起きてる。
室内のカボチャランタンが燃え上がり、
ジャックが炎から出てくる。
ジャック:よっと。ロゼット!
ロゼット:ジャック、何かあったの?
ジャック:出やがった!ランク「魔女(ウィッチ)」だ!
ロゼット:場所は。
ジャック:嘆きの丘、嬢ちゃんがやばい!
ロゼット:シャルが!?
帰りが遅いとおもったら……
アンタ、ちゃんと結界張らなかったの!?
ジャック:やつらいつもより一体一体強いし、
多いんだよ!!
あちこち穴開けられてんだ、
俺だって何が何だか!!
ロゼット:甘く見てたわ。おそらく、
シャルの魔力に引き寄せられてる。
ジャック:あぁ!? ぜんっぜんそうは見えねぇが……
あの嬢ちゃん、そんなに魔力多いのか。
ロゼット:匂いでわからない?
ジャック:花粉症なんだよこの体。
ロゼット:はあ、成長途中だけど、
器だけならレイを超えるわよ……
無事なんでしょうね。
ジャック:子供をかばったみてぇだ。
今はレイが抑えてる。
ロゼット:まだあの子一人じゃ
「ウィッチ」は祓えない……っ、また、私は……
ジャック:そういうのはあとだ。
しっかりしてくれ!
お前しか頼れねぇんだから。
ロゼット:ええ……悪かったわ。
ジャック:準備はいいか? 飛ぶぞ
ロゼット:早くして!
ジャック:導けランタン、
我はジャックの名を持つもの、
かぼちゃの王なり!
■第八話
ロゼット:『第八話、愛と哀と逢と(あいと、あいと、あいと)』
ジャック:よっ
からだを締め付けられている
マシューの悲鳴が響いている。
他キャラセリフ裏でしばらく叫び続け
好きなところで気絶。
マシュー:あああああああああああ
ジャック:マシュー!?
ロゼット:シャル!!
シャーロット:先生っ!! マシューくんが!
シャーロットに駆け寄り肩を抱くロゼット。
ロゼット:無事!?
シャーロット:私とエミリーちゃんを助けようとして代わりにっ
ロゼット:シャル、落ち着いて。
大丈夫。私がいるから。落ち着いて
息が荒いシャーロット。
シャーロット:はっ、わた、わたしのせいで、
わたしがわるい、わたしが、
ごめんなさい、ごめんなさい
(以下「ごめんなさい」とつぶやき続ける)
少し離れたところでウィッチを魔法で抑えているレイ。
レイ:くっ……ロゼット!
早く手を貸してくれ!
ロゼット:ジャック、ここは私がどうにかするから、
あんたは他の所守って。
ジャック:いや、え、でも、大丈夫なのか。
ロゼット:命令よ。
ジャック:うっ、この、体が勝手に!
くそ、忌々しい契約だ!
ロゼット:お願いね。
ジャック:命令だろうが!
しゃあねえな、まかせろぃ!
ロゼット:シャル、手伝ってほしいの。
シャーロット:ごめんなさ、え、せんせ?
ロゼット:あの霊魂はとても強い。
あなたの手が必要よ。
シャーロット:わたし、駄目な子で、
そんなことできない。
ロゼット:私の弟子が駄目なわけないでしょ!
できないじゃないの、やるのよ。
クソガキを助けたいなら!
シャーロット:駄目じゃない?
ロゼット:当たり前でしょ。
私が育ててるんだから
ちゃんと力はあるのよ。いい?
自分を信じられないなら、私を信じなさい。
シャーロット:先生を……。
レイ:ロゼット! 結界が割れる!
ロゼット:呪文は覚えてるわね。
シャーロット:はい。
シャーロットの手を引いてレイに寄るロゼット。
ロゼット:待たせたわ!
レイ:待ちくたびれましたよ!
レイの結界割れる
ロゼット:南風(みなみかぜ)の吐息、北風の涙
シャーロット:暖炉で、跳ねる、くるみの殻。
ホットミルクに、ひとさじのはちみつ。
ロゼット:シャル、続けて!
ロゼット:さあ困った小さな魔女子(まじょこ)ちゃん、
私と遊びましょう。
その子は返してね。
余裕のロゼットと息絶え絶えなレイ。
レイ:君は、愛されていただろう、
思い出して、さあ甘いお菓子をあげよう。
イタズラは終わりだ。
ロゼット:そこは寒いでしょう?
こっちへ来なさいな。いい子ね。
レイ:大丈夫、寂しくない。
置いていかれてない。
君の道はあっちだ、
このランタンを持っておゆき。
ロゼット:お眠りなさい、甘く、
暖かい、まどろみのなかに。
シャーロット:幼き御魂(みたま)の往く(ゆく)道よ、
光とともに、安らかにあれ……!
■第九話
□お菓子屋店内、朝。
誰もいない店内。
シャーロット:すみませーん
カーテン裏から声をかけるマシュー。
マシュー:はーい、今でまーす!
マシュー:いらっしゃいま、シャーロット!
シャーロット:マシューくん、具合はどう?
マシュー:ご覧の通り!ピンピンして……うぉ
シャーロット:あぁあ!無理しないの!
ふらついたマシューに
カウンターを回り込んで駆け寄るシャーロット。
マシュー:やっぱごっそり体力持ってかれたなぁ
シャーロット:だと思って、お薬、持ってきたの
マシュー:……おばさんの?
シャーロット:私が作りました。助けてくれたお礼。
マシュー:ならちゃんと飲む!
シャーロット:先生の薬の方が効果は高いのに。
マシュー:すっごくまずいから無理。
シャーロット:はい、座ってね。
マシュー:ありがとう。
シャーロットも、その辺の椅子使って。
シャーロット:うん、ありがとう。
マシュー:……あー、なんか、雰囲気変わったね?
シャーロット:あ、そう、かな?
マシュー:ちょっと落ち着いた?
シャーロット:そうかな。
マシュー:僕は今の方が好き
シャーロット:えっ?
マシュー:自然な感じがする。
シャーロット:えっと、そうだ、レイさんは?
マシュー:オトナたちは町会議(ちょうかいぎ)だよ。
おばさん呼ばれなかった?
シャーロット:明け方に出かけちゃったんだけど……。
マシュー:あぁー逃げたんだ。
シャーロット:先生ったら……
マシュー:(小さく笑い)
シャーロット:会議って、なんの話してるのかな。
マシュー:みんな、ずっとおばけとか、
魔女とか魔法とか信じなかったんだ。
散々対策すべきだってレイは言ってたけど。
今回連れ去り未遂が出たから、
さすがに町長たちも、何か動くと思う。
シャーロット:それで占い師って名乗ってたのね、先生。
マシュー:シャーロットは知ってたわけ?
ロゼットおばさんが魔術師だってこと。
シャーロット:知ってたわ。私の学院の卒業生で、
弟子をすぐ破門するって結構有名なの。
マシュー:あぁなるほど。
じゃあもともと魔術の勉強はしてたのね。
シャーロット:うん。やっぱり肩身は狭いけどね。
一人前になったら、私も先生みたいに故郷を守りたい。
マシュー:ふーん、いつかここを出ちゃうのか。
シャーロット:でもまだ先。
先生、私に経験を積ませるために
わざと手伝えだなんて言ったんだわ。
まだまだいっぱい勉強しなくちゃ。
マシュー:へへっ、じゃあ見習い同士
もっともっとがんばろーってことで、はい!
シャーロット:わあ!かわいいマフィン!いいの?
マシュー:お菓子屋レ・ボンボンを、これからもよろしくってね!
マシュー:『第九話、お菓子屋レボンボンの、日常』
初版 16.10.01~17.10.31.
リメイク 19.09.16.