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『開幕、五分前より。』【不問2】10分

概要

とある劇場の控え室。

  • 所要時間:約10分(多分8分くらいです)
  • 人数:不問2。ベースは女性で書いていますので男性でやる場合は一人称・語尾等を言い換えてください。
  • ジャンル:シチュエーションドラマ?

登場人物

  • A
    舞台俳優。ピアノをやっていた。
  • B
    劇団の看板俳優。

本編

B:なんであんたって芝居やってんの?

A:どういう意味

B:いや音楽で食っていけそうなのにって

A:音楽も芝居も基本食ってけないけど

B:いつ練習してんの?稽古三昧なのに

A:深夜?

B:ひー。寝ろよ。いつか体壊すよ。

A:1時間もしてないよ。

B:はあーーー天才ってやつか

A:というより昔取った杵柄

B:昔からやってんの?

A:幼稚園くらいからかな?

B:英才教育ってやつぅ?

A:んー。多分だけど、母が、ピアニストになりたくて、なれなくて、私に押付けた、かな。

B:そうなん? 苦しくなかったん? それ

A:まあ初めはそんな感じだったかもしれないけど、結局は楽しかったから。もちろん基礎練はキツかったけど。

B:ハノン?

A:ハノンハノン。

B:でなんで今度は芝居?

A:んー。

B:どした

A:なんか怒られそう

B:怒んないって

A:私にとって、音楽も芝居も、一緒なんだよね

B:ほーう?

A:今でこそ、ちゃんと喋れるようになったけど、昔はもっと口下手でさ。

B:何となくわかる。準備してるでしょ、いつも。

A:バレてた?

B:他の人は気づいてないかも。あたしはほら、日常もずっと演技してるからさ、気づきやすいだけ。

A:さすがだね。

B:普通はキモがるんだけどなぁ。

A:生き方・役者、みたいでかっこいいじゃん。

B:あたしの話はいいや。で、音楽と芝居が一緒ってどういう感覚?

A:あー、ね。言葉にできない、激情の発散、かな。

B:なるほど?

A:子供の頃、よく何かに怒っててね、どうして?なんで?って。でも上手く言葉にできない。それを全部ピアノにぶつけたら、褒められた。感情が乗っていていい演奏ですねって。

B:あー。あんた怒りの演技パワーあるもんね。

A:ううーん。うん、褒めた?今

B:褒めた褒めた。

A:そう。そのあと、ちょっとずつコンクールとかに出始めて、評価されないの。

B:なんで?

A:怖いから。

B:あー、フフ。

A:笑わないで。

B:前回公演のさ、般若思い出しちゃった般若

A:やめてよ。あれは、良かったでしょ?般若の役なんだから。

B:新人ガチでビビってて

A:手を抜く訳にはいかないじゃない。まあでもそういうことかな。怖いんだって私の演奏。

B:怒りかあ。

A:評価はいつも選曲が子供らしくないとか、明るい曲もやってみましょう、みたいなかんじで。明るい曲苦手なんだよね。それで音楽、人前ではやらなくていいやってなっちゃった。

B:そんでなんで芝居の方に来ることになったん?

A:マクベスがすごかったから。

B:ぶはっ!へ?

A:初めて見た舞台の、マクベスがすごかったから。

B:初めて見た舞台、シェイクスピア?すげーな。四季とかじゃないんだ。

A:ライオンキングは見た。あれはエンタメとしてとてもよい。

B:ウケる。

A:舞台の上ではあんなに怒っていいんだって。

B:そうだねぇ。台本に書いてあればね。

A:そうね。始めてみて、同じ壁にぶつかった。

B:怒りだけじゃダメだって?

A:うん。喜怒哀楽、説明できない心のゆらぎまで、全部揃ってないと演技ってできない。

B:そうねー。それはそう。しかも「見世物」だからね。ちゃんとお客様に届くようにやらないといけないよ。

A:うん、だから演出家さん、私の感情をうまく料理してくれ、っていつも思ってる。

B:人任せ。ウケる。

A:だから怒られそうって言ったの。あなたはちゃんと、なんていうかな。コントロールが効いてるというか。最適な見せ方を知ってるというか。

B:そりゃ単に歴が長いからだよ。子役やってたし。

A:……自分のエゴのために、演劇を使う人間、嫌いでしょ?

B:バレてた?

A:うん。たまにすごい冷たい目してる。

B:あたしもまだまだだなあ。あたしの可愛いところ見て!とか、俺ってかっこいいだろぉ?みたいなさ、台本とか演出とか、役と関係ないことしてるの透けて見えると……ちょー萎える。

A:私にも、それ、思う?

B:……始めの頃は思ってたよ? ああ、こいつ気持ちよくなってんなあ、感情垂れ流してんなあ、流れ無視してー、って。カフェのシーン、そんな怒鳴ることある?周り人いるのに? 普通の人だったらさ、抑えない?とか思ってた。

A:ウッ。そ、それは、すみません……い、今は?

B:今は、いんじゃない? コントロール出来るようになってきてるし、演出家の言うことも素直に聞くし。

A:うん、まあ、前よりは。

B:最初のさーワークショップ来てたころのあんたすごくてさー(笑い)

A:えっえっ?

B:初心者特有のガッチガチの子いるなー、声ちっさ、ってそんくらいにしか思ってなかったの。

A:ウッ、だってホントに未経験だったんだもん。

B:浮気発覚のエチュードやった時にさ、蛇口ぶっ壊れてんのかってくらい、いや、火山噴火? うん、火山噴火だね。

A:そんなに!?

B:うん。びっくりした。さっきまでのか細い声どこいった?って。

A:はずかし……。

B:こいつは上手くなるって思ったよ。

A:え?

B:ひとつの感情が突出してる人間なんていない。ひとつの感情が抜け落ちてるやつなんて居ない。ひとつの感情を閉じ込めようとしたら、全部に蓋をするしかない。

A:……。

B:あたしたちは、感情の化け物。日常生活でそれを奮ったら、ヒトを傷つけてしまう。火山のように、津波のように、周りを押し流してしまう。だからコントロールしながら生きてきた。

A:津波……

B:芝居はね、もっと緻密な感情のコントロールが必要だし、暴発したくなかったら、感情を入れる器を大きくしなければいけない。逆に、器さえ大きくなれば、コントロール出来る。もともと感情が小さいやつには、わからないよ。激情の取り扱い方なんて。

A:そう、かな。

B:ま、芝居の方向性って色々あるけどね。あたしはさ、セットも、ストーリーもキャラクターも全てが虚構の世界で、そこにある感情だけは本物でありたいって思ってるから。

B:さて、そろそろ幕が上がるね。

A:う、うん。

B:だからあたしはあんたを主役に選んだ。……最高の悪役を、あたしが演じるために。

A:うん。

B:台本上ではあたしは負けるけど。簡単になんて負けてやらない。

A:分かってる。

B:この大海原に、かかってこいよ、活火山。

A:あなたのことは、心から尊敬してるけど、板の上では敵同士。……絶対、勝つ。

B:フフ。さあ、行こうか。

2023.06.12.

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