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『The Murder of “Silent King”』【♂5:♀3】15分

概要

こちらの台本は、2024年第4回ラジドリコロシアムに参加するため執筆した作品です。テーマは「罠」

ボイスドラマ用のためセリフバランスが悪いです。ジョエルは誰かが兼ねてもかまいません。収録時の演出メモを削除していないところがあります。

舞台は1932年。ハリウッドのとあるコテージ。

1927年に世界初のトーキー(音声付き映画)、「ジャズシンガー」がヒットしたのち、各映画会社はこぞってトーキー映画の制作に乗り出した。ジャズシンガーは一部のみ音声がついており、ほとんどのドラマシーンはサイレントだった。翌年・1928年にウォルト・ディズニーは「蒸気船ウィリー」にてフィルムそのものに音声情報を記録したサウンドトラック方式の作品を発表。5年もたてば状況は様変わりした。今では全編音声つきの長編映画がつくられている。

トーキー映画の変遷期、フィルムに音声を焼き付けるサウンドトラック方式より、レコード盤と映写機を同時に再生するヴァイタフォン方式のほうが費用を抑えられたため多くの劇場ではヴァイタフォン方式が採用されていた。

そんななか、サイレント映画の大スター、ジョエル・バリモアの吹き替え俳優として辛酸を舐めていたライアンは、知り合いのツテで光学式録音が可能なカメラのプロトタイプを手に入れる。これはカメラにつなげたマイクで音の波形を光に変換し、映像と同時にフィルムのサウンドトラック(フィルムの端に音声情報を記録する部分がある。物理的に)に音を焼き付けられるものである。

  • 所要時間:約15分
  • 人数:男性5、女性3
  • ジャンル:洋画風、ミステリ

登場人物

  • ジョエル・バリモア
    男性。被害者。サイレント映画のスター俳優。高身長、強面、イケメン。声はかっこよくない。自信があり、高慢。
  • ライアン・マクスウェル
    男性。犯人。元舞台俳優。ジョエルの吹き替えをさせられていた。ええ声。低身長でフツメン。
  • ミリアム・ダイン
    女性。記者。ジョエルのファン。
  • シンディ・ショーン
    女性。愛人。女優。高慢。つんつんしている。
  • ラドウィック
    男性。社長。ライアンに不当な契約を結ばせ、ジョエルの声としてつかっている。物腰柔らかに見えて冷酷。俳優は金稼ぎの駒、映画は工業品だと思っている。
  • デイヴィス・キーン
    男性。監督。高慢。自分の腕に自信ニキ。映画が売れさえすればなんでもいい。売れるから映画やってる。
  • エレナ・ジョーンズ
    女性。探偵。人の名前が覚えられない。謎解きが楽しい。
  • ニック・ニコルソン
    男性。助手。記憶力がいい。人畜無害そうに見えて思った事ははっきり言う。

本編

■S1

  男のうめき声。縄のきしみ。
  男は薬を盛られており、意識が朦朧としている。

  ジョエルの声は遠く、ライアンの声は近くで聞こえる。

  音声は古い映画のように、くぐもっている。

ジョエル:縄を、解け。……何が望みだ。金か。

ライアン:……金なんかどうでもいい。

ジョエル:その声は…! なんのおふざけだ。……特殊メイクなんかしやがって。何かの撮影か?

ライアン:死体役は始めてだったか?

ジョエル:死体なんてスターの俺がやるわけないだろ。お前じゃあるまいし

ライアン:いいや、お前にぴったりだよ。死体は喋らないからな。

ジョエル:…当てつけか?

ライアン:事実だろう。サイレント映画の王様。

  マイクから遠ざかっていく足音。

  口に布を押し付けられ呻くジョエル口を抑えられたまま

  ナイフを突き立てられる。悲鳴を上げる。

  時計の鐘が9回鳴る。

ライアン:(鼻歌)

  SE ノック。

  ドア越しの声。

ミリアム(記者):こんばんは、ミスターバリモア。お約束どおりに来ました。今回の映画について取材させてください。(ドアの向こう。相手がどこにいるか未確認)

ライアン:ああ、大変申し訳無いのだが、撮影の疲れがでたようで、少し体調がすぐれないんだ。こちらから指定したのにすまない。明日、必ず時間を設けるから、今日は休ませてくれないだろうか。このコテージは貸し切っているから、君もゆっくりしていってくれ。

ミリアム:それは大変!  私としては大スターと直接お話できるだけで舞い上がるほど嬉しいんです。それではまた明日に。

  SE ノイズ(プツッと画面が切り替わる)

■S2

  M1 in

  SE 窓の外の雷

  エレナの声は近くから遠ざかっていく。

エレナ(探偵):(チョケレベル8)被害者はジョエル・バリモア夜10時、胸にナイフが刺さった状態で発見されました。見つけたのは…

シンディ(愛人):私よ。

エレナ:あなたは……被害者の愛人の…えーと

ニック(助手):シンディ・ショーン。(やれやれ……)

エレナ:シンディ! ありがとうニック。気の利く助手だぁ。

ニック:(小声)人の名前くらい覚えてくださいっていつもいつも…

エレナ:(小声)名前なんて単なる記号でしょ。覚える必要ないない。

シンディ:私は、容疑者から外れるわよね?

エレナ:え?

シンディ:私にはアリバイがあるもの。

エレナ:いやいや愛人さん、それを今から整理するんですよ。

ラドウィック(社長):警察が来るのを 待つべきではないかね。

エレナ:社長様、ええ、そのとおりです! しかし現在このコテージが立つ高台から、町へ降りる唯一の道が突然の大嵐でがけ崩れを起こしています! 警察の応援はおろか、我々が逃げることも難しい。

デイヴィス(監督):で、なんであんたが仕切ってんだよ。

エレナ:このような状況に私が居合わせたのもなにかの偶然。この名探偵、エレナ・ジョーンズが解決してさしあげないとと思ったのですよ監督! 名前は……

デイヴィス:デイヴィス・キーンだ。さっきも言ったが。はあ、ラドウィック社長、付き合ってられませんよ。 こんな、スキャンダルがおこっちゃ「栄光の騎士」の興業に響く。

エレナ:(チョケレベル5くらい)さて。状況を整理しましょう。本日試写会が行われたラドウィック社3本目の長編トーキー映画「栄光の騎士」。その主演俳優であるジョエル・バリモア氏がこのコテージで殺害されました。ニック以外の皆さんはそれぞれ招待状を受け取ってこのささやかなお祝いパーティに出席した。死因は胸にナイフをひとつき。ナイフはキッチンにあったものですね。最後に被害者と会ったのは…新聞記者の… 

ミリアム:ミリアム・ダインです。招待状に、9時ごろ取材を受けるから部屋に来てほしいと書いてあったので向かいました。具合が悪いから明日にしてほしいと言われましたけど…

エレナ:(突っ込んで普通に聞く)直接話をした?(低めに)

ミリアム:いいえ。ドア越しに…(引)

ラドウィック:(驚き)

エレナ:どうかしましたか? 社長さん?

ラドウィック:いや。なんでもない。

デイヴィス:なあ、記者さん。 それホントにジョエルだったか?

ミリアム:はい、聞き間違えたりしませんよ。ほんの数時間前に映画で聞いたばかりですから。ほんと……背が高くて甘いマスクにぴったりな、エレガントかつセクシーな声で……最高の俳優でした……(恍惚ではない/語気強めからの消沈)

シンディ:(小声)もしかして

ラドウィック:(小声)まさか

デイヴィス:(小声)いやあいつがいるはずない

エレナ:?

デイヴィス:いや、続けてくれ。

エレナ:では、そのあと、10時ごろ、愛人さん

シンディ:(食って)シンディよ。

エレナ:シンディさんが被害者の部屋で死体を発見。時間は間違いないですか?

シンディ:間違えるわけ無いでしょ。私も招待状に書いてあったのよ。夜10時に。って!

  SE 紙

ニック:(空気変えるように)死体検分ができていないので犯行推定時刻は夜9時から10時の間とします。その頃みなさんはどこで何を?(鋭く)

デイヴィス:あんたも見てたろうが。全員ここにいたって。

ニック:でも細かな出入りはありましたよね。(宥める)(進行役として朗らかに制する)

エレナ:えー、おさらいしましょう。我々は夕方6時頃このコテージに到着。7時(ななじ)、すでに用意されていた食事をとって、被害者は8時ごろ部屋に戻った。

シンディ:私は9時以降何回かお手洗いにいったけど、それ以外は10時までずっとここにいたわ。

ラドウィック:私はシャワーを浴びに部屋にもどったが……

ミリアム:私はスカートにワインをこぼしてしまったので着替えに部屋へ…

エレナ:んー。被害者が具合悪そうだったのは確かなんだよなぁ。/(吸)声を出さないようにしていましたよね喉の調子が悪かったんですか?

ラドウィック:あ、ああ、彼は喉が弱いんだ。プロ意識が高くてね。普段から撮影以外では極力話さないようにしていたんだよ。

エレナ:被害者の代わりに監督さんが話してた…(考える)

ニック:あなたは、何をしてたんですか?

ミリアム:え? ニックさん、9時頃はその人と手話でお話してたじゃないですか。

ニック:はい。試作品のカメラだそうで、音も同時にフィルムに焼き付けられるとかで珍しくて。(若干アガる)彼がカメラを持って戻ってきたのは9時13分です。(カメラマンへ)その前の40分間、この部屋にはいませんでしたよね。 (カメラマンの手話を読みとって)カメラの準備?なるほど(訝しげ)(たっぷり)

デイヴィス:その女だろ。

ミリアム:え? 私?

デイヴィス:ここから退室するために ワザとワインを零したんじゃないか? 着替えてすぐ戻ったにしては時間がかかっていたしな。

シンディ:そうよ。9時にジョエルの声を聞いたっていうのも本当か証明できないんだから、口から出任せなんじゃないの?

ミリアム:ちょ、ちょっと待ってください! 私が犯人だって言いたいんですか?

デイヴィス:ジョエル・バリモアはうちの稼ぎ頭だったんだぞ!どうして俺たちが殺したいと思うんだ?

ミリアム:私はシンディさんが怪しいと思います!

シンディ:はぁ?(声裏返り気味)

ミリアム:私、あなたの記事を担当しましたよ。ミスターバリモアの奥さんとモメたって!

シンディ:そんなことで殺しまでしないわよ!

ミリアム:どうですかね? 「あんたが売れるまでに立て替えてやった金を返さないなら殺してやる」ってそう言ったらしいじゃないですか!

シンディ:それは、感情が高ぶっただけ! 誰だって言うでしょ!

デイヴィス:少なくとも、俺たちラドウィック社の人間じゃないことは確かだ。であれば、そっちの3人に犯人がいるはず。でもって、その女は嘘をついてる! お前がいちばん怪しい!

ミリアム:酷い……! なんの根拠があって……エレナさん、ニックさん、信じてください…! 私、本当に9時に彼とお話ししたんです!

ニック:なぜ、(素で疑問)ミリアムさんが嘘をついていると決めつけているんですか?

デイヴィス:うっ

ニック:彼女の発言が嘘であることを裏付ける情報を持っている、あるいは、彼女の言っていることが嘘でないと困る、そういう風に聞こえます。(トドメを刺す)

シンディ:それは……

エレナ:(チョケ8)んんーーーーー (余った息を吐く)

エレナ:(チョケ5)(吸)小さいコテージなのに争う音も聞こえなかった。そうすると犯人は被害者の知り合いではないかと思うんですよねぇ。(ぬらぁっと)

エレナ:隠してることがあるなら教えてください。私は真実にたどり着きたいだけなんです。みなさんはそうではない?

エレナ:(チョケ0)どうなんですか。

デイヴィス:社長……

ラドウィック:…ミリアムさん。

ミリアム:はい。

ラドウィック:ドア越しの声は、「映画と同じ声」でしたか?

ミリアム:…そうです。

ラドウィック:であれば、それはジョエルの声ではありません。

ミリアム:え!?

ラドウィック:映画は、ライアン・マクスウェルという俳優が、セリフを吹き替えているんです。

ニック:どうしてそんなことを?

シンディ:私が提案したの。ジョエルの話し方、見た目のイメージと合わなかったから。

ラドウィック:5年前。ワーナー・ブラザーズのジャズ・シンガーがヒットしてから、映画界にトーキー、音声付き映画の波が押し寄せました。しかしうちは小さい会社で、今あるスタジオを防音仕様に作り替える金はないし、録音の技術もない。ですから「栄光の騎士」を含めうちのトーキー映画は、撮影した映像に合わせて後日レコードへ音声を録音しているんです。

ミリアム:それで、ジョエル・バリモアの声を、まるまる、ライアン・マクスウェルというひとが……?

ラドウィック:はい。

デイヴィス:ジョエルの本来の喋り方は、なんというか粗暴で、ごろつきっぽいんだよな。売り出したいイメージとは合わない。

ラドウィック:ライアンは嫌がったが、我が社を救うためだと頼み込み、ジョエルの専属吹き替え俳優として所属するように、契約を結んだ。

デイヴィス:仕方ねぇだろ、会社の売り上げはジョエル頼みだったんだ。

ミリアム:ライアンさんの俳優としてのキャリアはどうなるんですか……

デイヴィス:それでも飲んだのはヤツさ。

ラドウィック:背が低くて、顔も平凡な彼は、スターにはなれない。

ミリアム:あんなに素敵な声なのに……!

シンディ:見た目よ。映画俳優は。私だってそう。このでおまんま食べてンの。

ミリアム:…。

エレナ:つまり9時ごろ記者さんに返事をしたのはそのー、何?声の人?

ニック:ライアン。(目頭押さえ)

エレナ:ライアン!

デイヴィス:もし奴が本当にここに潜んでいるなら、次に狙われるのは俺たちかもしれない。単にその女が嘘つきの犯人なら、殺人鬼と一緒にいるなんて耐えられねぇ。いずれにしても俺は部屋に戻り、ドアに鍵かけて明日(あす)を待つ。

ラドウィック:吹替えの事実が公表されると我社は大変なことになる。もしかしてあなた、ライアンの協力者なんじゃないですか? いくらもらってるんです? それともライアンの女?……ああ、シンディのことを嗅ぎ回っていたのもそういう

ミリアム:そんなわけないでしょう!?

ラドウィック:いずれにせよ、あなたもライアンもただではすみませんよ。

シンディ:デイヴィス、私もそっちにいていいかしら。

デイヴィス:ああ、1人で居るより安全だろう。

  デイヴィス、ラドウィック、シンディ、部屋を出ていく。

ミリアム:あの、私、本当に違うんです。ライアンという人の顔も知らないし…

エレナ:わかってますよ。

ミリアム:え?

エレナ:やっっっと「真実」がわかったんですよぉ!

ニック:エレナ?

エレナ:私の招待状には、「真実を解き明かして欲しい」と書いてありました。依頼料が同封されてね。

全員の招待状を確認しましたが、差出人はそれぞれ食い違っていた。簡単な話です。このパーティ自体が、そもそもライアン・マクスウェルによって仕組まれたものだった。
エレナ:すべてを用意したライアンは被害者を殺し、記者さんに自分の声をわざと聞かせ、愛人に死体を発見させる。あとはこの殺人事件を解決するために、私とニックが吹き替えの真実まで辿り着ければそれでいい。

エレナ:そのカメラは稼働音が非常に小さい。の中ではフィルムが回る音はかき消され、社長と監督は吹き替えについて語る姿を知らぬまに撮影されてしまったわけだ。これが解き明かしてほしかった真実。

ニック:じゃあライアン・マクスウェルは今 どこに?

エレナ:さあ? 隠れているのかもう逃げてしまったか。犯人逮捕は依頼に入ってない。/そうだろう?
ニック:誰に話してるんです。(きょとん)

エレナ:そこでずっと話を聞いてた君さ。「名もなき立役者」さん。

  ED M

■S3

  SE 映写機のフィルム止まる。

  音声、クリアになる。

  ライアン、カメラの準備をしながら話す。

ライアン:素人にしてはいい編集だったろ? このフィルムをどこかの配給会社に売ってくれ。代金は全部とっていい。協力してくれたお礼さ。これが公開されればラドウィック社は倒産。似たようなことやってたサイレント映画の俳優たちもバッシングされるだろう。

ライアン:では、冒頭のシーンを撮影しよう。それで私はハリウッドから永遠におさらばだ。いつだって世論を動かすのはセンセーショナルな「死」なのだからね。

ライアン:……(耳元囁き)君なら私の人生をうまく使ってくれると信じているよ。

  SE 映写機のフィルムが周り始める。

■S0

 クリアな音声からノイズがかった音声へ移っていく

ライアン:Ladies and Gentleman, boys and girls. 今使っているこのカメラは、光学録音機能付きカメラのプロトタイプです。つまり、撮影と同時に音声も録音できる優れものだ。このカメラの登場により、サイレント映画は過去のものとなり、トーキー映画は目覚ましい発展を遂げるでしょう。数年のうちに正式に発売されますので、オーリコン社をどうぞよろしく。

さて、本日ご覧いただくのは、ハリウッドの不正を暴いたドキュメンタリー映画。

皆様。本物のトーキーをお見せいたします。そして証明する。人の心を動かすのはスクリーンに写った影ではない。音楽、効果音、そして、声であると。

それではお楽しみ下さい。

The murder of Silent king(ざ・まーだーおぶさいれんときんぐ)

  M (20世紀フォックスみたいな)

  M流しきり、遠くで銃声。

2024.04.26.

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