概要
異形の者たちが暮らす、常夜の世界。そこでは「目玉の数」がものを言う。一つ目は蔑まれ、二つ目は徒党を組み、三つ目は鼻高々に。鬼人と影人は相容れぬ。犯罪者「目玉狩り」を追って、今宵も「シャドウ・ライト」の目が光る。
イメージイラストより台本を書き起こす、合作企画でした。
イラストはにょすけさんより。
臍帯とカフェイン
- 所要時間:約50分
- 人数:5(全不問)
- ジャンル:ファンタジー、人外
登場人物
- テトラ
三つ目の影人。大きな帽子にジッパー付きのコート。もともとは四つ目。母親の腹の中で双子の兄の目を奪って生まれてきた。幼少期に渡してしまった一つの目を取り戻すために「目玉狩り」を追う。冷静と見えて激情型。目的以外のものが見えない。 - ビビ
二つ目の影人。テトラの帽子に乗れるくらいのサイズ。丸い体にくるんとしたしっぽ。無邪気。助けてくれたテトラについてきた。ものをよく見る。 - ユニ
一つ目の鬼人。小さい。日本の角に大きな瞳。姉御肌。「一つ目」と見下されることにフラストレーション。バー・サイクロプスを経営。二つ目になりたい(見下されたくない)。 - モノ
一つ目の鬼人。大きい。おおらか。普段はぽやんぽやんしている。ユニの舎弟。モノ・ジョリー(陽気なモノ)というあだ名がある。楽しく生きたい。サーティーンスを兼ねる。 - ハンディ
宿屋「ハンディズ・ハウス」の主人。人種はなぞ。病気で目が見えない。本体はカーテンの後ろにいて、巨大な右手と左手が表でやりくりしている。寂しすぎて右手と左手で会話している。サーティーンスを屋根裏にかくまっており、「シャドウライトを連れてきたら目を分けてもらう」という約束をしている。再び目が見えるようになりたい。 - サーティーンス
13個の目を奪った、もとは二つ目の影人の「目玉狩り」。目玉を取り込みすぎて自分の形を保てない。モノ役の人が兼ねる。うめき声のみ。(飛ばしてもOK)
本編
■ディープシェード通り、夜
ビビ:テトラ、お花! 見てみて! お花!
テトラ:……昨日も見た。
ビビ:でも昨日のと違うお花だよ!
ちゃんと見て。
昨日のより葉っぱがトゲトゲしてるし、
紫は濃いし、ふちがオレンジでしょ?
テトラ:暗くて色なんぞ見えん。
ただのヒカゲソウだ。
ビビ:もー! わかってないなー。
テトラ:いいか、二つ目。
いい加減黙らないとそのしっぽ引きちぎるぞ。
ビビ:二つ目じゃなくてビビって呼んで!
テトラ:目玉狩りがいるんだ、邪魔をするな。
僕の影に沈められるか、帽子の中で静かにするか、選べ。
ビビ:むぅー!
テトラ、ドアノック
または SEドアベル(インターホン)
ドアが開き、長い腕と大きな左手が現れる。
ハンディ:左)こんばんは。
悪いけど部屋は空いてないよ。他をあたりな。
ビビ:ほあー、でっかい手。からだはどこ?
テトラ:この手紙、差出人はあんたで間違いないか。
ハンディ:左)手紙ぃ?
あたしゃ手紙なんか書かないよ。見えないからね。
テトラ:……三つ目の旅人、シャドウ・ライト殿へ。
「目玉狩り」の情報を持つ。
この手紙を受け取り次第、
ミッドナイトタウン、ディープシェード通り八番地、
宿屋「ハンディズ・ハウス」まで来られたし。
差出人、ハンディ・ライティ。
ビビ:腕なっがいね! ね!
手にお口ついてるね! むぐ。(帽子を押さえられた)
ハンディ:左)ああ、ライティが書いたんだね。
でもどうやって?
ライティ、どうやって書いたんだい?
ハンディ:右)そらぁ、目をね、借りたんだよ、レフティ。
ハンディ:左)一体だれから?
ハンディ:右)さあ、だれからだろうねぇ?
ハンディ:左)からかうんじゃないよ、
本当のことをお言い、ライティ。
ハンディ:右)真実はいつも影の中。
ビビ:ねえ、一人でしゃべってるよね、ね!
右手さんと左手さんでしゃべってるよね!
なんで? なんで?
テトラ:なあ、3分でいいから黙ってくれないか?
ビビ:えー! だって気になるんだもん!
ハンディ:左)ふふ、あたしはハンディ・レフティ。
奥にいるのがハンディ・ライティ。
あんたに手紙を出したのはライティだ。
話があるならライティに聞きな。
テトラ:そうか、では、そのライティと話がしたい。
ハンディ:左)だそうだよライティ!
ハンディ:右)聞こえてるよぉ、レフティ。
ビビ:(小声)やっぱり一人でしゃべってるよね!
ね、テトラ、わぷ。(帽子押さえられた)
テトラ:少し、口を、閉じろ。
ハンディ:左)入りな、三つ目さん。
ドア閉まる。
建物の影から覗く二体。
ユニ:見たね?
モノ:見た。
ユニ:闇夜に光る三つの目……
アイツがシャドウ・ライトだよ、
そうに違いない。
モノ:んだな。
ユニ:これで、アタイたちも念願の二つ目になれるよォ。
モノ:んだけども、あいつの目は三つだろぉ?
おれたちがそれぞれとっちまったら、
今度はあいつが一つ目になっちまうよ。
それはなんだか、かわいそうだなぁ。
ユニ:アンタってやつは本当に馬鹿だね。
アイツ自身の目玉なんかとろうとしたら
アイツと戦わなきゃいけなくなるだろ。
モノ:ううぅ、おれたちみたいな一つ目じゃぁ、
三つ目には勝てないよ、ユニ。
ユニ:頭を使いな、モノ・ジョリー。
いいかい、アイツは、目玉狩りを狩ってんだよ?
モノ:目玉狩りを狩ってるってことは……
「目玉狩り」狩り?
ユニ:ああそうさ! そんで、
アイツが狩った目玉狩りの目玉はどこへ行った?
モノ:んー。 質屋に売った?
ユニ:バカタレ。目玉に値段がつけられるかい。
絶対に、持ってるよ。
モノ:そうなのぉ?
ユニ:ああ。アイツが狩った「目玉狩り」が狩った目玉をね。
モノ:目玉を狩った目玉狩りを狩った目玉を……あれ?
ユニ:いいかい、よぉくお聞き、お馬鹿で可愛いモノ・ジョリー。
アンタはアタイの言う通りにすればいいんだからね。
■タイトルコール
テトラ:「シャドウ・ライト」
■ハンディズ・ハウス、一階、ダイニング
お茶の支度をするハンディ。
ハンディ:左)コート掛けはドアの横だよ。
テトラ:お構いなく。
ハンディ:左)暑くないのかい?
テトラ:問題ない。
ハンディ:左)はあ。そんで?
お前さんが噂のシャドウ・ライトってやつかい?
テトラ:知らん。手紙にもあったが、なんだそれは。
ビビ:そうだよ! そうそう!
テトラ:なぜお前が答える。
ビビ:闇夜を切り裂く、三つの眼光……
その名は、シャドーーーーライトォ!
かぁっこいいー!
テトラ:なんだその妙なフレーズは。
ビビ:詩人さんが歌って回ってるんだよ。
オイラの町にも来たの!
ハンディ:左)ドクウツギ茶でいいかい?
シャドウ・ライトさんや。
テトラ:その呼び方、やめてくれないか。三つ目でいい。
ビビ:名前はテトラだよ!
オイラ、ビビ! よろしくね左手さん!
テーブルの上で跳ねるビビ。
ビビ:んしょ、あんねぇ、オイラはぁ、
タンポポのミルクかぁ、
ツツジの蜜がぁ、いいなぁ!
ハンディ:左)図々しいねえ。
テーブルで跳ねるのはおやめ、おチビちゃん。
ビビ:はぁい! ん?(カーテンに気づく)
テトラ:……なぜコイツがチビだと分かる?
見えないんだろう?
ハンディ:左)見えなくったって分かるさ。
跳ねる音の重さ、
声の印象、振動。
感じることは沢山ある。
テトラ:なるほど。
視覚を持たない者は他の感覚が鋭くなると聞く。
ハンディ:左)まあそんなもんだ。
……こら、おチビちゃん。
ひと様の家を勝手にうろちょろするんじゃない。
ビビを摘まみ上げテーブルの上に戻すハンディ。
ビビ:わわ、しっぽ摘ままないでよぉ!
ハンディ:左)カーテンの向こうにはなんにもないよ。
ビビ:うっそだー! だってぇ、腕こっからでてるじゃん!
ハンディ:左)あんたの連れ、ずいぶん躾がなってないじゃないか? え?
テトラ:連れじゃない。勝手に着いて来るんだ。
ハンディ:左)ふうん? ずいぶんと親しげだけどね。
テトラ:僕と二つ目のことはどうでもいい。
さっさと本題に入りたい。
右手のほうはまだ出てこないのか。
ハンディ:右)お呼びかぁい?
ハンディ:左)ずっと呼んでるよ、ライティ。
ハンディ:右)なあに、裏庭のイチイの実を摘んでたのさ。
おチビちゃんにあげるのにねぇ。
ビビ:くれるの? わあ!
真っ赤っかでおいしそう!
ありがとう、右手さん!
ハンディ:右)たんとお食べ。
さぁて、なにから話そうか。シャドウ・ライト。
テトラ:はあ、同じことを言わせるな。
ハンディ:右)さっき話してたのはレフティだよ、三つ目さん。
テトラ:で? 親切な情報提供か? それとも依頼か?
ハンディ:右)依頼さ。
テトラ:内容は。
ハンディ:右)あたしはあんたに目玉狩りの情報を渡す。
あんたは目玉狩りを生きたまま捕獲して連れてくる。
テトラ:生け捕りか。どいつだ?
ハンディ:右)サーティーンス。
テトラ:……いるのか? この街に。
ハンディ:右)ここから先は、
あんたが引き受けるかどうか聞いてからだね。
テトラ:手配書は「生死問わず」だが、
生け捕りは殺すより難しいんだ、知ってるか。
ハンディ:右)ビビッてるのかぁい?
テトラ:ふん。依頼料は、5シルクス、2ペインだ。
ハンディ:右)懸賞金より高いねえ。
テトラ:いいか、僕に依頼をするということは
当然知ってるだろ。
僕が、目玉狩りを殺して回ってるって。
殺せないなら、メリットはない。
ハンディ:右)ふん。いいよ。
テトラ:……2シルクス前払い。
ハンディ:右)前払いは1シルクスだ。
その代わり、滞在中はここの部屋を使っていい。
テトラ:いいだろう。
ビビ:テトラぁ、まだぁ?
テトラ:これからだ、二つ目。
ビビ:オイラもう眠いよぉ。
ハンディ:右)詳しいことは明日話そうかねぇ。
レフティ、鍵を三つ目さんに。
ハンディ:左)あいよ。ほら、201号室だ。
テトラ:部屋は空いてないんじゃなかったか?
ハンディ:左)事情が変わったからね。
テトラ:僕はまだ眠くない。さっさと情報をよこせ。
ハンディ:右)急ぐこたぁないよ。
どうせまだことは動かないんだ。それに……。
テトラ:……ん?
ハンディ:右)おチビちゃん一人じゃ、
ドアを開けられないだろう。
テトラ:(息(探る)
ハンディ:右)(鼻で笑う)
■ハンディズ・ハウス、二階、朝
テトラ:起きろ、二つ目。朝だ。
ビビ:(寝言)まってーきれいなちょうちょさぁん。
テトラ:(ため息)
テトラ、部屋を出る。
テトラ:早朝というには遅い時間だが……
ほかに宿泊客がいる様子はないな。
這いずる音。
テトラ:なんだ、この這いずるような音。上か?
ハンディに後ろから肩をたたかれれる。
テトラ:(息(驚き)
ハンディ:左)起きてたのかい。
テトラ:あ、ああ。
ハンディ:左)朝食の用意はできてるよ。
■ハンディズ・ハウス、ダイニング、朝
ビビ:うーん。
テトラ:早く選べ。
ビビ:うーーーん。
ハンディ:左)どうしたんだい、おチビちゃん。
どっちも同じイモリの丸焼きだよ。
ビビ:同じじゃないよ!
テトラ:何に悩んでるんだ。
ビビ:こっちはしっぽが長くてカリカリ、
こっちはおなかが膨れててモチモチ。
カリカリか、モチモチか……それが問題だ。
テトラ:(ため息)
ビビ:テトラはどっちが好き?
テトラ:どっちでもいい。
ビビ:どっちが好き?
テトラ:……知らん。
ビビ:えー! 自分の好きがわからないの?
テトラ:腹に入れれば同じさ。
ビビ:同じじゃないよぅ!
じゃあ、オイラカリカリ!
(食べる)あーむぐむぐ。
ハンディ:右)さて、昨日の続きだ。
テトラ:サーティーンスの情報は。
ハンディ:右)二週間ほど前かねぇ、
ここを訪ねてきたんだよ。
テトラ:目玉狩りがか?
ハンディ:右)そのときは知らなかったさ。
客としてきたんだからね。
ずいぶん疲れている様子だったが。
ハンディ:ひと月ほど部屋を貸してほしいと。
そのときはちょうど祭りの時期でねぇ、
部屋が空いていなくて断ったんだ。
テトラ:見た目は?
といっても、見えないんだったな。
ハンディ:右)すまないねえ。
話し方は、敬語で、丁寧な感じだったけどねえ。
テトラ:……なぜそいつがサーティーンスだと思ったんだ?
ハンディ:右)お客の一人が教えてくれたのさ。
手配書で見たことあるって。
それに、分厚いコートを着て、
前をずっと押さえていて不審だったそうだ。
テトラ:うかつだな。変装もせずに宿を訪れるなど。
ハンディ:右)よっぽど焦ってたんだろうよ。
■ミッドナイトタウン、昼
ビビ:あ! ちょうちょ!
テトラ:二つ目、着いて来るなと言ったろ。
ビビ:あそこ、いやー。
テトラ:はあ。邪魔をするなよ。
ビビ:(食べる)あーーーむ!
うげ、ちょうちょおいしくない……。
テトラ:……テントウムシは美味いぞ。
ビビ:そうなの? テトラ、テントウムシ、好き?
テトラ:……まあ、そうだな。
ビビ:またテトラのことがひとつわかった!
テトラ:知ってどうする。
ビビ:テトラと仲良しになる。
テトラ:無意味なことを……。
ビビ:無意味じゃない!
テトラはオイラを助けてくれたから、
いつかオイラがテトラを助ける!
そのためには、
いつ困るのかわかんないと助けられないかんね!
テトラ:今、困ってるよ、僕は。
ビビ:そうなの? 助ける?
テトラ:お前が邪魔だからだよ。迷惑だ。
ビビ:たはー! ごめんごめん!
でもぉ、迷惑はお互い様だかんね!
ビビ:テトラもオイラに迷惑かけていいよ!
テトラ:お前に迷惑をかける日は一生来ないだろうよ。
ビビ:えー。
ユニ:あらあ、こんにちは、
三つ目さん。素敵なコートね。
テトラ:……一つ目が何の用だ。
ユニ:(耐える)……ぐっ。
ビビ:あらあ、おっきなおめめ!
キラキラして素敵だね!
ユニ:……ありがとう、かわいい二つ目ちゃん。
ユニ:アタイ、この街のもんだけどね、
あんたたちよそモンだね?
テトラ:そうだが。
ユニ:アタイのお店。来ない? サービスするよぉ。
テトラ:何屋だ。
ユニ:オトナの、バー、よん。
テトラ:僕には不要だな。
ユニ:そうなのぉ?
疲れが吹っ飛ぶってここいらじゃ評判なんだ・け・ど。
ビビ:おいしいごはんある?
ユニ:あるよぉ。カエルのコースなんてどう?
ビビ:カエルかぁ~オイラ、カエルはなぁ~ちょっとな~。
テトラ:遊んでいる暇はない。(去ろうとする)
ユニ:(呼び止め)ちょっとちょっと、
アンタ、目玉狩りについて調べてんだろ?
テトラ:知っているのか?
ユニ:ああ! うちの常連がね、
最近それっぽいのを見たって言ってたような。
テトラ:その常連とやらにはどこで話を聞ける。
ユニ:うちの、お・み・せ。
夜、来てねぇ。はい、カードあげる。
テトラ:バー、サイクロプス。
ビビ:わー、悪趣味なカラーだね!
ユニ:失礼ね! おこちゃまにはわかんないのよ!
ビビ:オイラァ、ツツジの蜜が飲みたいなあ。
素敵な一つ目さぁん。
ユニ:はいはい、用意しとくから。
ビビ:あとテトラにテントウムシのから揚げね!
ユニ:わかったってば、がめついチビちゃんね!
ユニ、去る。
テトラ:……勝手に約束をするな。
ビビ:でも情報あるって言ってたよ?
テトラ:サーティーンスに、
僕たちが探っていることを知られるのが問題なんだ。
ビビ:なんで?
テトラ:いいか、ティーンナンバーは
奪った目の数を考えても確実に殺しをしている。
今まで僕が相手にした中で、
殺しをやってたのはセブンスだけだった。
ビビ:んー、強いってこと?
テトラ:容赦がないってことだ。
ビビ:テトラより強い?
テトラ:おそらく。
ビビ:テトラだって今、十三個でしょ。
テトラ:サーティーンスということは、奪った数が十三個。
もともとの目の数がわからないから、十四でもギリギリだ。
ビビ:んー。じゃあ、そのときはオイラの目をあげるよ。
テトラ:はあ?
ビビ:それで十五でしょ?
テトラ:お前、すべての目を奪われるってことが
どういうことかわかってないな。
ビビ:わかってるよ。オイラの目の前で、
お母ちゃん、とられちゃったからね。
テトラ:・・・・・・そうだったのか。
ビビ:ん。お母ちゃんの目、
取り返してくれてありがとうね。
テトラ:いや、間に合わずすまなかった。
ビビ:いいのいいの!
オイラぁ、やることなくなっちゃったから、
できることあったら言ってほしいなあ。
テトラ:……僕は、あいつらと同じことはしない。
いくら強くなれるとしても、
他人の目は奪わない。あいつらとは違う。
ビビ:そっかあ。強いね! かあっこいい!
テトラ:やめろ。
■ハンディズ・ハウス
ハンディ:左)随分ご機嫌だね、ライティ。
ハンディ:右)あんたもねぇ、レフティ。
ハンディ:左)やっとだね。
ハンディ:右)やっとだねぇ。
ハンディ:左)うまくいくかね?ハンディ:右)うまくいかせるんだよぉ。
ハンディ:左)何年ぶりだろうねぇ、見えるのは。
ハンディ:右)楽しみだねぇ、何を見ようか。
ハンディ:左)鏡、鏡だよ。
ハンディ:右)ああ、あたしたちの顔。
ハンディ:左)美しい顔。
ハンディ:右)楽しみだねぇ。
■バー・サイクロプス、夜
モノ:本当に、やるのぉ?
ユニ:やるんだよ。アイツ、アタイのこと見下した……!
モノ:絶対うまくいかないと思うけどなあ。
ユニ:馬鹿だねぇ!
サル酒(さるざけ)が嫌いなやつなんているかい?
モノ:そっちじゃなくてぇ、
おれ、マジックなんてできないよ。
ユニ:マジックは適当でいいのさ!
アイツの目を眩ませ(くらませ)るのが大事!
モノ:うう。ライトの位置どこだっけ?
ユニ:左右、正面!
大丈夫、アンタの大きな目にかかってるよ、モノ・ジョリー。
ドアベルが鳴り、テトラとビビが入ってくる
テトラ:一つ目、来たぞ。
ビビ:こーんばんわー!
ユニ:よく来たねぇ! お席はこっちだよ。
テトラ:常連とやらはどこだ。
ユニ:そんなに急ぐもんじゃないよぉ。帽子とコートを預かろうか?
テトラ:いや、いい。
ユニ:遠慮しないで、ほら!
テトラ:(圧かけて)触るな。
ユニ:……そ、そうかい、じゃあ、
ウェルカムドリンクを用意するよ。
ビビ:わー! メニューいっぱいだね!
テトラ、ほら! おいしそう!
テトラ:(ため息)適当でいい。
ビビ:どれが好き?
テトラ:……知らん。
ビビ:まーたーそーれー!
ちゃんと見て、ほら! 今、どれ食べたい?
テトラ:……。
ビビ:わかんないかー、
もー、しょうがないなーテトラはー。
ユニ:キュートな二つ目ちゃんには、
ほおら、ツツジの蜜。
イカした三つ目さんは、お酒はイケる?
テトラ:なんでもいい。
ビビ:覚えててくれたの! ありがとう!
ユニ:もちろんさ。食べ物は決まった?
ビビ:テトラはなあんにも自分の好きなものが
わからないからなー。テントウムシ以外。
テトラ:このチビ。
ビビ:じゃあねー、ヤマモモのピクルスとー、
イモリのカリカリ揚げと、
カブトムシの幼虫ソテーとー、
ヤマゴボウゼリーと、花粉だんごとー。
テトラ:僕の金だぞ。
ユニ:仲良しなんだねえ。
テトラ:その目は節穴か?
ユニ:あら、一つしかなくても、
アタイの目はよぉく見えてよ、三つ目さん。
テトラ:ふん。
モノ:れ、レディースあーーんどジェントルメーン。
一つ目さんから三つ目さんまで!
今宵はこのモノ・ジョリーが、
不可思議ミラクル、奇妙キテレツな世界にぃ、
お招きするぜぇイェアアア!
ビビ:(棒読み)わあ。すごいテンション。
モノ:最初のマジックはぁ、そう、
みんな大好きカードマジックだあ!
お客様のなかに、
協力してくれるかわいこちゃんはいるかなァ!?
ビビ:はい! はいはーい!
テトラ:こら、お前っ
モノ:お、しっぽがキュートな二つ目ちゃんだねぇ!
こっちへ来てくれるかな?
ビビ:おっけおっけー!
テトラ:(ため息)
モノ:今からカードをシャッフルするぜぇ、君は
ビビ:ストップ!!
モノ:おぉう……察しがいいねえ。
じゃあこのカードを、
ビビ:オイラそっちじゃなくてこっちがいい。上の。
モノ:お、おう、そうかい?
じゃあ、こっちのカードを見て、覚えてくれ。
ビビ:ん! 覚えた!
モノ:よおし、デックに戻すよー。
お客さんが選んだカードをぉ、シャッフルして。
さあ、どこにいったかわからなくなっちゃったよぉ。
デックから透明なカードを一枚とる。
そして、投げる!
ビビ:わ、投げたの!? 見えなかった!
モノ:そうさ、そしてそのカードはー、
君のお連れさんのー、コートの内ポケットに入ったー!
ビビ:えー!
テトラ:はあ?
ユニ:三つ目さぁん、カード、探してみなよぉ。
なんならアタイが手伝おうか?
テトラ:いい。触るな。
ユニ:ちっ。
テトラ:(探しながら)透明なカードだと、そんなもん……。
ユニ:(小声)コートを脱がなきゃ目玉がどこにあるかわからないじゃないの……。
テトラ:あ?
ユニ:な、なんでもないよぉ!
テトラ:……あった。
ビビ:えー!? 何のカード!?
テトラ:スペードのジャック。
ビビ:……。
モノ:あー、君がぁ、引いたのは?
ビビ:(溜めて)スペードの、ジャックーー!! すごーーい!
モノ:おおおおおう! (小声)よかった。
テトラ:内ポケットにはなかったがな。
モノ:……今日はカード投げが
うまくいかなかったみたいだ!
はっはっはぁ!
ビビ:でも当たったよ! すごい!
オイラ、目だけはいいのにわっかんなかった!
モノ:魔法だから、さ!
ビビ:まほう……!
モノ:お次はー、(ユニを伺う)
ユニ:(小声)ま、だ!
モノ:……魔法のボックスショー!
ビビ:わあー! ぱちぱちぱちー!
ユニ:お待たせしたね、料理だよ。
テトラ:茶番に付き合っている暇はないんだが。
常連とやらはいつ来る。
ユニ:もうちょっとで来るよぉ。
テトラ:(ため息)
ユニ:それまで、アタイとお話ししない?
テトラ:しない。
ユニ:うぎっ……あ、そ、そーだ、
目玉狩りならねえ、噂くらいなら聞いたよぉ。
テトラ:なんだ。
ユニ:目玉狩りは、コートを脱がないってハナシ。
テトラ:そうか。
ユニ:アンタも、そうじゃない?
テトラ:(息(いやそうに身を引く)
ユニ:そのコートの下、アタイ、見たいわぁ。
テトラ:やめろ。
ユニ:あら、見せられないような、だらしないカラダなの?
テトラ:そうじゃない。お前の身のためだ。
ユニ:そう。ざぁんねん。
ビビ:鳩ーー! すごぉい!
モノ:(焦り)さあて、そろそろクライマックスだ!
ユニィ! まだなのぉ!?
テトラ:ん? あ、この、酒、お前っ。
ユニ:ええい! モノ、やりな!
モノ:ライトアーップ! ビッグ・アイ! カッ!(目を見開く)
ユニ:ほおら! 全部反射しな!
テトラ:くっ、光がっ
ユニ:はっは! 見えなければなぁんにもできないだろ!
ビビ:(箱に入れられる)えっ、わぷ!
モノ:おチビちゃんは箱にいな!
ユニ:目玉はもらうよぉ!
テトラ:やめろ!
ユニ:(悲鳴)腕にはじかれた)うぎゃっ!
モノ:ユニ!?
テトラ:(抑え込む呻き)う、ぐ、ぐぐぐ、
モノ:あ、あんた、その体……!
テトラ:(荒い息)ふー、ふー、触るな、と、言っただろうが!
モノ:形が、定まってねえじゃねえか!
テトラ:(荒い息)制御がきかないんだ……。
モノ:う、う、め、目玉をよこせ!
テトラ:う、ぐ、ぐあ!(腕が出た)
モノ:(首つかまれた)んぐ!
テトラ:食いたい、食いたい、食いたい
……ああ、大きな目玉だなぁ、いいなあ……。
モノ:(耐えている)んぐぐぐぐぐ……。
ユニ:いたた……モノ!?
モノ:ユニぃ……だめだ、こいつ、強すぎる!
ビビ:(箱の中)ライト! 消して!
ライト! 影が濃すぎるの!
ユニ:ちっ!
ユニ、ライトのプラグを抜く。
モノ:(腕をほどいてなげる)ふん! よいしょぉ!
テトラ:(叩きつけられた)うぐっ
ビビ:(箱の中)コート!
ジッパーぜんぶ上げて! コート!
ユニ:あ、ああ!
テトラ:(荒い息)ふー、ふー、ふー……。
テトラ:(ぐったり)……。
ユニ:あんた、いくつの目玉を……。
テトラ:……十三、だ。
モノ:三つじゃなかったのぉ、ユニ。
ユニ:持ってるったって
からだに埋めてるとは思わないだろ!?
テトラ:お前ら……。
モノ:ひぃっ(ユニの後ろに隠れる)
ユニ:め、目玉を、二つ、よこしな!
モノ:や、やめようよぉ。
ユニ:何ビビってんだい、やっと二つ目になれるんだよ!?
ユニ:弱ってる今なら、あ、アタイたちでも、いけるよ!
テトラ:……やめておけ。
ユニ:うるさい! アンタに、一つ目の気持ちなんかわからないだろうよ!
ユニ:アタイたちには、どうしても目が必要なんだ!
モノ:ユニ……。
ユニ:もう目の数で見下されるのはこりごりだよ! だから、よこしな!
テトラ:……憐れだな。
ユニ:憐れんでくれるなら、ちょうだいよ。
テトラ:いいか、目が欲しいなら、覚悟をすることだ。
他人の目を取り入れるということが、どういうことか。
テトラ:自分の形がわからなくなる。一つ取り込むだけでもだ。
テトラ:それでも、欲しいか?
モノ:……ユニ、やめよう。
ユニ:……でも、アタイは、アタイは。
テトラ:……二つ目に追い詰められたのは初めてだ。
モノ:二つ目? おれたちは一つ目だよ。
テトラ:モノ、とユニ、だったか? 二人で、二つ目だろ。
モノ:あんた……。
テトラ:お互いが見えてるのはいいことさ。
さて、ん、目玉ども、落ち着いたかな。
ビビ:(箱の中)開けてー! ねー! 開けてよぅ
モノ:ごめんねぇ、おチビちゃん。
ビビ:ぷはぁ! テトラ! 大丈夫!?
テトラ:ああ。ビビ:もー! テトラいじめちゃだめ!
ユニ:もう、しないよ、おチビちゃん。
ビビ:ほんとに?
モノ:ほんとに。
ビビ:テトラが暴れたからせっかくのツツジの蜜がだいなし!
テトラ:お前……。
ビビ:だから怒らせちゃだめなのー!
ユニ:おチビちゃん、あの箱の中でよく指示が出せたね。
ビビ:へ?
ユニ:見えてたのかい?
ビビ:見えてないよ? 見えてないけど、テトラのことだからたぶんそうかなーって思っただけ。
ユニ:良い目を持ってるねぇ。
ビビ:そう?
モノ:なあ、ユニ。片づけしようよ。
ユニ:そうだね、お詫びに、何でも好きなものだしてあげるよ。
ビビ:ほんと!? イモリのカリカリ! 山盛り!
■ハンディズ・ハウス、屋根裏
ハンディ:右)あと一日ですねぇ。サーティーンス様。
ハンディ:お加減は?
ハンディ:サーティーンス様?
ハンディ:おいたわしや……。
ハンディ:お約束ですよ。必ず、よろしくお願いいたします。
ハンディ:満月の夜、お力が、お戻りになる。
ハンディ:やっと、やっと!
■バー・サイクロプス、昼
ドアベルが鳴り、テトラ、ビビが入ってくる。
ビビ:ユニ~!
ユニ:ああビビちゃん、いらっしゃぁい。
テトラ:情報は?
ユニ:気が早いねえ。モノ!
モノ:はいはぁい、まとめといたよぉ。
テトラ:ふむ。
ユニ:サーティーンスは今、
ハンディズ・ハウスの屋根裏にいる。
テトラ:やっぱりか。あの手ども……。
確かなんだろうな。
ユニ:これは確かだよ。
アタイが窓からこの目で確かめた。
だいぶ、形は崩れてたけどね。
この間のアンタみたいにさ。
テトラ:やめろ。
モノ:ダスクタウンから来たらしいよ。
一つの赤目と、一つの金目がやつ自身の目だってさぁ。
テトラ:赤目と金目。ダスクタウン……二つ目ということは。
ユニ:奴は、15個の目を持ってる。
ビビ:やったね!
モノ:ビビ?
ビビ:オイラを食べれば、15だね!
ユニ:え?
ビビ:約束だもんね! いいよ!
よかった! 16だったら勝てなかったもんね!
テトラ:いらん。
ビビ:え? なんで?
テトラ:言ったろうが。僕はあいつらみたいなことはしない。
ビビ:いまさらだよ。テトラ:あ?
ビビ:だってテトラ、もう10個、食べちゃったじゃん。
テトラ:それは、目玉狩りの目だからであって……。
ビビ:一緒だよ。だから、
いまさら二つ目一匹食べたって変わらないよ。
テトラ:……。
ユニ:ふふ、じゃあ、
アタイたちなら食べられるかい?
モノ:ユニ!?
テトラ:ああ、食える。
モノ:テトラ!?
ビビ:やだ!
一同、ビビを見る一間。
ビビ:オイラが、テトラの力になるの!
ビビ:ユニ、余計なこと言わないで。
ユニ:ふふ。
ビビ:ねえ、テトラ、本当に、いいんだよ。
ビビ:赤と金の目だよ。取り戻すんでしょ!
ユニ:話が見えないねえ。
ビビ:赤と金の目玉狩りは、
テトラの目を持ってるんだよ。
テトラ:よく覚えてるな。
ビビ:覚えてるよ!
テトラのことならなんでも覚えてる!
モノ:どういうこと?
ビビ:テトラは、もともと四つ目だったの。
ユニ:四つ目? それはありえないでしょ。
モノ:三つ目までしか生まれないよね?
ビビ:オイラ覚えてる。
ダスクタウンの、四つ目のテトラ。
助けに来てくれた時は、三つ目になってた。
テトラ:勝手にしゃべるな。
ユニ:ここまで聞いといてお預けはないよ。
モノ:うんうん。
テトラ:はあ。……僕の町は、
三つ目が生まれやすい街だ。
その中で僕は双子で生まれた。
テトラ:僕は四つ目で、兄は死産。
兄の目はなかった。
モノ:つまり、どういうことぉ?
ユニ:母親の腹の中で、兄弟の目を奪ってしまった、と。
テトラ:そういうことだ。
ビビ:テトラと関わっちゃだめって、
オイラの住んでる隣町まで聞こえてきたもんねー。
テトラ:赤と金の二つ目は、近所のやつだった。
口車に乗せられて僕は自分の目玉を差し出した。
テトラ:みんなと一緒になれると思って。
そうしたら、アイツ、自分の町を襲いやがった。
ユニ:三つ目の町を襲おうだなんて……。
テトラ:僕のせいだ。だから、返してもらう。全部。
ビビ:だーかーら! オイラを食べて!
テトラ:いらん。
ビビ:あーもう! わからずや!
ユニ:わかった。アンタ、ビビだから食べられないんだろ。
ビビ:へ。
テトラ:あ?
ユニ:アタイとモノみたいなもんさね。
モノ:え? なに? どんなもん?
ユニ:大切だってこと。
言わせるんじゃないよ、恥ずかしい。
アンタにとって、もうビビは
ただの二つ目じゃなくなっちまったのさ。
ビビ:そうなの?
モノ:なあんだ! 仲良しか!
ビビ:そうなの?
テトラ:知らん。
ユニ:あっはは!
こぉんな大切なことも見えないなんて!
目がたくさんあったってちゃあんと見ないとダメだねぇ。
テトラ:知らん!
ビビ:そうなの!? ねえテトラ! そうなの!?!?
テトラ:うるさい!
ユニ:ねえ、モノ。
モノ:なんだいユニ。
ユニ:アタイたちも協力しようか。この、不器用な三つ目さんに。
モノ:いいなあ。それ。
テトラ:だから、僕は一人でやる、誰の力も借りない……。
ユニ:アタイたちの目を合わせて!
テトラ:……。
ユニ:17個だ。
ビビ:勝てるね。
モノ:勝てるなぁ。
テトラ:はあ、馬鹿ばっかりか……。
■ハンディズ・ハウス前、夜
テトラ:いいか? 左右から光をあてて、影を飛ばせ。
ユニ:任せな! ライトはアタイの手の内だよ!
ビビ:オイラは? オイラは?
テトラ:ユニといろ。今日は、満月だ。明かりが強い。モノ。
モノ:なんだい?
テトラ:僕がまた暴走したら、頼む。
モノ:……まかせろ。
テトラ、ドアを開ける。
ハンディ:左)今日は遅かったねえ、三つ目さん。食事は?
テトラ:済ませてきた。
ハンディ:左)あらそうかい、二つ目ちゃんは?
テトラ:帽子の中で寝てる。
ハンディ:左)毎日ご苦労様だね。
早く目玉狩りが見つかるといいんだけど。
ああそうだ。
ライティ! 三つ目さんのお帰りだよ。
テトラ:……。
ハンディ:右)おやおやまあまあ、
ずいぶんと遅いお帰りだこと。
あんたへのお客さん、待ちくたびれてるよぉ。
テトラ:客? 聞いてないが。
ハンディ:右)お昼にねぇ、
到着して待ってたんだよぉ。
ずっと、ずっとねぇ。
テトラ:どこにいる?
ハンディ:右)こっち、こっちだよぉ。
■ハンディズ・ハウス、屋根裏
テトラ:屋根裏に客を案内するのか。しゃれたゲストハウスだな。
ハンディ:右)あのお方のご希望でねぇ。
ハンディ:右)お連れしましたよ。
ハンディ、屋根裏のドアを開ける。
サーティーンス:(うめき声)ひゅー、ひゅー。
テトラ:……。
ハンディ:右)さあ、さあ! 狩ってしまってください!
テトラ:原型をとどめていないな。
サーティーンス:(うめき声)ぐごごごええええあああ・・・。
ハンディ:右)目玉狩り様? シャドウ・ライトですよぉ?
ハンディ:早く、早く、この忠実なしもべに、目をお与え下さい!
テトラ:ハンディ・ライティ。やはりグルだったか。
テトラ、ジッパーを下す。
ハンディ:右)レフティ! レフティ!
うぐ! なんだい、これ、縄ぁ?
テトラ:残念だが、レフティも今頃縛り上げられているだろうよ。
ハンディ:右)目玉狩り様! 起きて! お助けください!
サーティーンス:うぐぐぐぐぐ
テトラ:さて、返してもらおうか。僕の目玉を。
ハンディ:右)お逃げ、ください!
窓が割れる音
サーティーンスとテトラを窓の外に投げるハンディ。
テトラ:うおっ、どこにこんな力がっ
サーティーンス:うぐぐぐごおおお!
テトラ:まずい、雲の切れ目が!
ユニ:テトラ!?
テトラ:ライトだ!
ユニ:あいよ! モノ! 反射!
モノ:まかせてぇ! カッ!(目をかっぴらく)
つぶれて落ちる音。
テトラ:くそ、この、死にぞこないめ!
ビビ:テトラ!
テトラ:こいつの手が伸びたところに光を当てろ!
モノ:わ、わ、わかった!
ユニ:アタイらのコンビネーション、みせてやるんだよぉ!
テトラ:くそ、消えろ、消えろ、消えろォ!
ビビ:影が消えない! これでライト最大なの!?
ユニ:最大だよ!!
モノ:ユニ! もっと右だ!
ユニ:あああうるっさいねぇ!
テトラ:ぐ、ぐ、くそ、
お前ら……もう僕の目玉だろうが……!
くそ!
テトラ:(目玉一個食われた、痛み)ぐあああ!
ビビ:うううう! テトラ!
モノ:ビビ! 行っちゃダメだ!
テトラの口の中にビビが飛び込む。
テトラ:何して、んぐ!
ビビ:飲み込んで!
テトラ:んぐ。
ユニ:ビビ!
テトラ:う、うぐぐぐう
ユニ:あ、あ、ま、まずいよこれ……。
モノ:テトラが暴走しちまう……!
サーティーンスの目玉を踏み潰すテトラ。
テトラ:殺す……殺す、殺す、殺す!
目玉がつぶれる音。
テトラ:(呻き)うごああ。
テトラ:うぐ、ぐううう、
食う、殺す、目玉、目玉ぁ
テトラ、ユニのほうへ歩き出す。
ユニ:テトラ! 終わったよ! もう、全部潰れた!
テトラ:ふーふー……。
モノ:ユニ、下がって!
テトラを押さえるモノ。
モノ:ふん! て、テトラ……
うぐぐ、正気に戻ってぇ!
どうしよう、意識ないよぉ!
ユニ:どうしようったって!
そ、そうだ、ライト消して……
コート! ほら、モノ!(投げる)
モノ:お、おう! じ、ジッパーあがんないよ!
ユニ:力込めな! なんのための図体だい!
モノ:あがったぁ!
テトラ:ううううう(気絶)
間
ユニ:ビビ……。
モノ:(鼻をすする)。
テトラ:(起きる)ん。
モノ:テトラ、大丈夫かい?
ユニ:あんた、取り戻すって言ってた
自分の目玉もつぶしちまったよ。
テトラ:……ビビは?
ユニ:飲み込んだろ。
テトラ:ああ、そうか。
間
テトラ:なあ、ビビの目、何色か、覚えてるか。
モノ:え?
テトラ:僕、覚えてないんだ。
ユニ:ビビの目は、紫に、ふちがオレンジだよ。
テトラ:……ヒカゲソウみたいな?
ユニ:そう、ヒカゲソウみたいな。
テトラ:(コートを脱ごうとする)。
モノ:なんでまたコート脱ぐのぉ!?
テトラ:もう大丈夫だ。なあ、ビビの目、探してくれないか。
ユニ:ああ、いいよ。ほら、モノ、探しな。
モノ:う、うん。
二人、目を探す。
ユニ:あった、あったよ。
テトラ:よし、じゃあ、ビビの目の周りの影、伸ばすから切ってくれ。
モノ:へっ、ど、どうやって?
テトラ:ライトを真上から当てるんだ。
ビビに当たらないように、モノは間に立って壁になって。
モノ:わかった。
離れるモノ。
ユニ:(遠くに)モノ! いいかい!
モノ:いいよ!
ユニ、ライトを付ける。
モノ:うわ! き、切れたよ!
ユニ:消すよ!
モノ:テトラのしっぽが切れて、
影のボールみたいなものが、ほら。
ユニ:これで、どうなるんだい?
テトラ:前に僕の影に沈めたときに、
なんでもない顔して泳いでたから、もしかしたら……。
間
ビビ:ぷあーーー。……あれー? オイラ死んだ?
ユニ:ビビ、生きてる、の?
ビビ:生きてるの? さあ?
モノ:めだま、何個に見える?
ビビ:モノとユニで、二個ー!
テトラ:ビビ。
ビビ:テトラ! あれ? 名前で呼んだ?
テトラ:お前、やっぱり馬鹿だな。
ビビ:へへ、助けたでしょ?
テトラ:ああ。
■ミッドナイトタウン、翌朝
連行されるハンディ(本体)。
ハンディ:左)いやだ、いやだよう、
あたしはしらない! 何も見てない!
ハンディ:右)嘘つき! 嘘つきぃ!!
シャドウライトを連れてきたら目をくれるって言ってたのにぃ!
テトラ:世話になった。
ユニ:また狩りにでかけるのかい?
モノ:「目玉狩り」狩りに?
ユニ:そうそう、目玉狩り狩り。
テトラ:ああ。
ユニ:ドーンタウンにバー・サイクロプスの姉妹店があってね。
そっちに行くことがあったら
力になってくれるよう、口利きしとくよ。
テトラ:それは助かる。
モノ:元気でな。
テトラ:モノ、本当に、ありがとう。
モノ:おれみたいな一つ目でも誰かの助けになれるんだな。
テトラ:二人とも、いい目を持ってるよ。
ユニ:でしょ。
ビビ:テトラー! お花! お花! 見て!
テトラ:じゃあ、行くよ。
ユニ:またね。
モノ:またな。
ビビ:あー! きれいなちょうちょさん!
あーーーむ!
うえー……やっぱおいしくないや。
【END】
2021.04.15.
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