お引越し中につき、あちこち工事がおわっておりません(特にショップ)。ネット声劇・個人での練習以外でご利用の際はご連絡くださいませ。

『Who Dyed The Rose Black?』【♂2:♀1】40分

概要

町はずれに住む魔術師・ロゼットは、悪魔・ラストから魔力を供給されている。代償として血液を捧げなければならないため、貧血に悩まされていた。ある日、白髪の孤児・シャルロを拾い、供物兼小間使い兼弟子として育てることにした。シャルロはロゼットに恩を感じ、彼女の役に立ちたいと願っている。シャルロが青年に成長したころ、町では病の流行が始まる。ロゼットたち魔術師は占い師や薬屋、医者として町に溶け込み人間を守っているが、「魔女」の存在は人々から忌み嫌われていた。湖の浄化作業を見てしまった町人はロゼットを排除しようと動く。自分を逃がそうとするロゼットの思いに反し、ひとり町人に立ち向かうシャルロ。「先生の役に立ちたい」と願った青年は最期に悪魔に身をささげることを選んでしまうのだった。

  • 所要時間:約40分
  • 人数:3(♂2:♀1)
  • (少年期シャルロ、女性可。モブ3あり。兼役可)
  • ジャンル:ファンタジー、魔女狩り、魔女集会、悪魔、中世、バッドエンド

登場人物

  • ロゼット
       森にすむ魔術師の女性。年齢は任意。老けない。高飛車な物言いをするがそれは実力故。町では薬師を名乗っている。貧血気味。病気がはびこる時代において、魔術師たちは魔術学院卒業後、地域の「守り人」として派遣される。
  • シャルロ
    ロゼットに拾われる子供。作中で成長過程あり(幼少期、青年期の描写)。ボイスドラマではキャスト変更可能。声劇では演じ分け又はキャスト変更でも可能。 孤児院で暮らす少年。白髪故に迫害を受ける。ロゼットに拾われてから、「彼女の役に立つ」ということに異様に執着する。
  • ラスト
    ロゼットが契約している高位の精霊。人間界では悪魔。普段は羊の姿を好む。魔術学院では卒業試験で契約聖霊を呼び出す召喚術を行い、魔力供給契約を結ぶことができる。位によって強さがことなり、高ければ高いほど強力であるが、性格も扱いにくくなる。「王」の位を持つラストは「享楽」「美食」「色欲」を求める。ロゼットの「魂」が食べたくて仕方がない。
  • 町人たち
    町人1 ラストと兼役(できれば声を変えてほしい。できれば)
    町人2 ロゼットと兼役
    町人3 シャルロと兼役

    ※町人を他キャストで立てる場合、役番号を無視して自由にしていただいて構いませんが、町人1*(アスタリスクつき)セリフのみ、ラスト役の方にお願いいたします。

本編

□アバンタイトル 夜、町、狭い路地
   石畳に響くゆっくりなハイヒールの足音、ふらついている。
   ネズミ、馬車、猫、コウモリ、オオカミなど。

ロゼット「はあ、(荒い息)」

   足音、止まる。

ロゼット「ねぇ、邪魔なんだけど」

シャルロ(幼少)「……ごめんなさい」

ロゼット「……どいてくれない」

シャルロ (幼少) 「けほ…… うごけません、ごめんなさい」

ロゼット「きったない道のど真ん中に転がってんじゃないよ、
  ったく、ここ狭いんだからどけっての」

シャルロ (幼少) 「……跨ぐか、踏むかしてください」

ロゼット「はあ? あたしにエネルギーつかえって?
  こっちは貧血なのよ、ふらっふらなのよ」

シャルロ (幼少) 「……えっと、足が折れてるので、うごけないんです」

ロゼット「はああああああ!(溜息)
  ……ちっ、記憶消せばいっか。
  ”清らかな水のさざめき、風と星の唄、
  アルテミスの加護を”」

   魔法(回復イメージ)音。

シャルロ (幼少) 「えっ」

ロゼット「ほら足と、腕と、あと肋骨? 治ったでしょ、さっさとどいて」

シャルロ(幼少)「魔女?」

ロゼット「魔術師様とお呼び! まあどうせ忘れるんだからいいんだけど。
  ”煙の糸に巻かれて、紡ぎ燃ゆることのは”」

シャルロ (幼少) 「なんでなおしちゃったんですか」

ロゼット「……はあ?」

シャルロ (幼少) 「治っちゃったら、また折られるじゃないですか
  ……やっと死ねると思ったのに」

ロゼット「なに、あんた死にたいの」

シャルロ (幼少) 「……邪魔だし、役に立たないし、
  気持ち悪いし痛いし殴られるし。生きる意味、ない」

ロゼット「ふぅん。いらないのその命」

シャルロ (幼少) 「……いりません」

ロゼット「そう、じゃあ、」

ロゼット「あたしにちょうだい」

□タイトルコール

町人1*<Who Dyed  the Rose  BLACK?
  (フーダイド、ザ・ローズ ブラック?)>

□森の小屋 夜
   森のざわめき、フクロウの鳴き声。
   ドアの開く音。 暖炉の火が小さく燃える音。

ロゼット「ラストぉ! 帰ったわよ」

ラスト「めぇーめぇー」

   指を鳴らす音。
   暖炉の火が大きくなる。
   ハイヒールの音。
   グラスに液体を注ぐ音。

ロゼット「(グラスの液体を飲む)ぷはあ! まっずい……
  造血剤のストック、もうないじゃない…… また作り足さないと……」

ラスト「めぇええ」

ロゼット「あん?あんたへの生贄よ」

ラスト「めえええ」

ロゼット「ふっふっふ…… これで貧血ともおさらばだわ!」

シャルロ「……ひつじとしゃべってる」

ロゼット「なにボケっと突っ立ってんのよ、
  案山子じゃないんだから早く入りな」

シャルロ「あ、はい」

ロゼット「ドアはきちんと閉める!」

シャルロ「え、はい、ごめんなさい」

  ドアの閉まる音。

ロゼット「さて。座って」

シャルロ「はい」

ロゼット「私はロゼット。魔術師よ」

シャルロ「まじゅつし」

ロゼット「町では薬売りを名乗ってるわ。
  バレたらいろいろとめんどくさいからね。
  こいつはラスト。私に魔力を供給する契約を結んでる、精霊」

シャルロ「らすと、せいれい」

ラスト「きたねえ、くせえ、ヒョロガリ」

ロゼット「これからまともにすんのよ、しばらくは我慢してちょうだい」

ラスト「俺は不味いもん受け付けねえから」

ロゼット「肥やせばいいじゃない」

シャルロ「……ひつじがしゃべってる、え、ほんとにひつじ?」

ラスト「……おい、もふもふすんな。ちっ、躾が必要だな小僧」

ロゼット「はあ、あんた名前は」

シャルロ「白い悪魔、タダ飯ぐらい、忌み子、のろま、14番」

ロゼット「なんて呼ばれてたかはどうでもいいの。あんたの名前は」

シャルロ「なまえ……たぶんこれ……」

ロゼット「指輪? ……ドミニクとメアリよりシャルロへ。
  あんたシャルロっていうのね」

シャルロ「シャルロ?」

ロゼット「自分の名前知らなかったわけ?」

シャルロ「ぼく、孤児院で、白い悪魔って呼ばれてた」

ロゼット「髪の毛まっしろだから?しょうもな」

シャルロ「おかしいって。悪魔と契約したんだろって」

ラスト「くひひひひ、おめーみてーな小僧に召喚できるわけねぇーだろ」

ロゼット「ふー。まともな大人と喋ったことないわけ」

シャルロ「まともな」

ロゼット「もういいわ、なんとなくわかった。オウム返し禁止」

シャルロ「……はい」

ロゼット「私は魔力をもらうためにこいつに血肉を提供しなければ
  ならないんだけど、主に血液を渡してる。
  でも最近どうも貧血気味でね。
  ふらっふらするわ息切れするわ、
  疲れやすくてイライラするのよね」

ラスト「年のせいかと」

ロゼット「おだまり! で、あんたには代理契約を結んでもらう」

シャルロ「だいりけ、やく」

ロゼット「私の代わりにこいつに血を捧げる約束よ」

シャルロ「はぁ。どうぞ」

ロゼット「ついでに家事周りと、手伝いもしてもらうから」

シャルロ「へ?」

ロゼット「ここで生活すんだからあたりまえでしょ」

シャルロ「生活? まって、生贄って、食われておわり、じゃないの」

ラスト「あん?食われたいの?」

ロゼット「そんな非効率的なことするわけないじゃない、
   数日おきにちょーっと血をもらうくらいよ」

シャルロ「ぼくしねないんですか」

ロゼット「ご希望に添えずごめんなさいねぇ? あーはっはっはっは!」

シャルロ「ぼく、まだしねないんですか」

ロゼット「だから、アンタの命、私がもらうって言ったじゃない

シャルロ「ころしてくれるんだとおもったのに」

ロゼット「死んだも同然よ、
  私のいう通りに生きなきゃいけないんだからねええええ!
  かーわいそうに!」

シャルロ「……」

ロゼット「さあ! 命令よ、まずは風呂に入って、
  そのきったない顔と不潔な体どうにかすること。
  あとその服は捨てるわ。何がついてるかわかったもんじゃない

シャルロ「ふろ」

ロゼット「はあ……まあ、そうよねえ。今日は特別にお湯にしてあげる。ついてきな」

□回想、カットイン

ロゼット「ほらほらぁ! まだ入るでしょぉ!?」

シャルロ「も、むり……です」

ロゼット「ちっ、立ってジャンプしな!」

シャルロ「うぅ……うぷ」

ロゼット「ほぉら腹に隙間できた! 破裂するまで食うんだよ!!」

シャルロ「おえ」

ロゼット「腕立て100回! 終わったら腹筋!」

シャルロ「で、できないで、す」

ロゼット「ああ!? しょうがないわね!
  特別に10回からでいいわよ! 泣き言言ってんじゃないよ坊主!」

シャルロ「も、ころして」

ロゼット「もっともっと苦しみなさい!!おーっほっほっほ!!」

 ***

ロゼット「掃除は高いところから!二度手間でしょ!」

シャルロ「ごめんなさい……」

ロゼット「届かないなら踏み台使いな!」

シャルロ「はい……」

ロゼット「はあ。早くいろいろ覚えて、役立ちなさいよね」

シャルロ「ごめ、ごめんなさい」

ロゼット「ったくいつまでも泣いてないで。覚えたらいいのよ!もう!」

 ***

シャルロ「先生、これは……」

ロゼット「こっちは月光で干したハーブ。
  こっちは日光で干したハーブ。混ぜないこと」

シャルロ「はぁい。……今日って何作るんですか」

ロゼット「ん?変身薬をね?」

シャルロ「へんしん」

ロゼット「良い素材が入ったのよぉ!
  はあ、丁度普通の生き物に飽きてキたとこだったのよねぇ、
  これで、これで、うふふふふ」

シャルロ「先生こわいです…… えっこれ血ですか」

ロゼット「なんと、狼男の生き血!!」

シャルロ「狼男ってなんですか」

ロゼット「あらあ、そこからぁ。あんた仮にも弟子なら、本読みなさいね」

シャルロ「あの、ごめんなさい、字がよめません」

ロゼット「そうだった」

 ***

ラスト「ちゃんと野菜も食え。エサのバランスが悪いと肉がまずくなる」

シャルロ「えぇ……にんじんもほうれん草も嫌い……」

ラスト「テメー自分の立場わかってんのか?あ?」

シャルロ「はい……ごめんなさい……」

ロゼット「まだ食べ終わらないの? ふん、次は肉だよ!!」

シャルロ「先生、3食揚げ物は辛いです」

ロゼット「はあ?あたしに口答えする気!? 180年早いわよ!」

シャルロ「ごめんなさい」

 ***

シャルロ「いだい……いだい……」

ロゼット「(遠くから)なにへばってんのよー」

シャルロ「動けません……筋肉痛で……」

ロゼット「甘い!!」

   回復魔法の音。

シャルロ「あああなんで治しちゃうんですか先生!!」

ロゼット「ほら、着いたわよ」

シャルロ「うっわぁ、でっかい湖!」

ロゼット「湖の周りランニングしながら薬草摘んで来て。
  見分け方、わかるわね?」

シャルロ「……図鑑、お借りしたいです」

ロゼット「はいはい、ほら。」

シャルロ「うっ……おっも……」

ロゼット「いってらっしゃい、頼んだわよ(優しく)」

シャルロ「……いってきます」(嬉しい)

ロゼット「まったく」

   水音。

ロゼット「……水質、変化なし。水温、異常なしね。
  さて、今日もキレイキレイしましょう」

   浄化魔法イメージ音。

ロゼット「”シルフのはばたき、ウンディーネの子守歌、
  小さきものよ、穢れを抱いて、静かにお眠り”」

□夜、小屋
 暖炉の音。

ラスト「お、ちゃんと食ってるな。いいぞもっと食え」

シャルロ「なんでそんなに食べさせたがるの」

ラスト「おめーあいつの役に立ちたいんだろぉ?」

シャルロ「うん」

ラスト「良いこと教えてやるよ。あいつなあ、すっげえ還元効率悪いんだ」

シャルロ「カンゲン・・・なに?」

ラスト「魔力と結果のバランスが悪いっつーこと」

シャルロ「ふうん」

ラスト「つまり1回の魔法でめちゃくちゃ魔力を食う。
  しかも自己魔力生産力も低い」

シャルロ「じぶんで、まほうを作れないってこと?」

ラスト「ちょっとしか作れないってことだ。代わりにめちゃくちゃ溜め込む」

シャルロ「ふぅん。でなんで僕がいっぱい食べることになるの」

ラスト「俺はグルメだからよう、捧げ物が美味ければ、
  貸してやる魔力、サービスしちゃってもいいんだぜぇ」

シャルロ「……それより適当な人間 攫ってきて
  ラストにあげちゃった方が貰えるんじゃないの?」

ラスト「その通り!お前頭いいな。だが、あいつお人好しなんだよなあー」

シャルロ「おひとよし……どこが……?」

ラスト「まっ、お前は頑張ってうまい肉になって、俺を満足させてくれ。
  そしたらあいつも本契約できるようになる」

シャルロ「本契約って?」

ラスト「本契約ってのはな……俺様の魔力を自由に使えるようになるってことさ」

□5年後、夜
  暖炉で薪がぱちぱち鳴る

シャルロ(青年)「先生、お食事です」

ロゼット「あら、今日は何?」

シャルロ「行商人が来ていて、魚が出ていたのでハーブ焼きにしました」

ロゼット「魚あ?肉にしなさいよ。おいしいわねこれ」

シャルロ「ほんとですか!」

ロゼット「あとでレシピ教えなさいよ」

シャルロ「秘密です」

ロゼット「生意気にそだちやがってこの坊主」

シャルロ「僕がずっと作りますから、先生が覚える必要ないでしょう?」(不満げに)

ロゼット「・・・まあそれもそうね」

   ぽん、となにかが弾ける音。

ラスト「あーーー疲れたァ」

ロゼット「お勤めご苦労」

ラスト「おーい小僧、血ィ」

シャルロ「はい、どうぞ、今日はカップ1個分でお願いします」

ラスト「おーいっただきまーす」

   手首に噛みつく。

シャルロ「いっつ」(痛い)

   血液を吸い、飲む。

ラスト「(啜る)いやーやっぱ若者のほうがうめーなー、
  俺ごのみの味に育てたかいあるぜー」

ロゼット「……ん?ちょっと多くない?魔力」

ラスト「気のせい気のせい(啜る)」

ロゼット「気の所為なわけないでしょ、何年これやってると思ってんの」

ラスト「いやーだって、今日召喚されたジジイの血がー不味くてーーー」

シャルロ「あっ、やっぱりちょっと多く取りました?」(笑い)

ロゼット「気をつけてよね!シャルロがぶっ倒れたら
  あたしのおやつは誰が作るのよ」

シャルロ「ちゃんと買ってきてありますよ」

ロゼット「バカねえ、出来たてのほうが美味しいに決まってるじゃない」

シャルロ「ふふっ」

ラスト「じゃ、俺はこのへんで」

   ぽんっ

シャルロ「僕、先生のお役に立てていますか」

ロゼット「……あたしの役に立とうなんて、180年早いわよ」

□朝、森の小屋
  薪割りの音。
  ドアが開く音。

シャルロ「おはようございます」

ロゼット「おはよう」

シャルロ「今日のご予定は」

ロゼット「湖の水質検査と浄化に行ってくる。
  アンタは町で薬を売ってらっしゃい」

シャルロ「かしこまりました」

ロゼット「いい?間違っても、安売りすんじゃないわよ、
  あと出かける前に毛染め薬を飲むの忘れないこと」

シャルロ「はい」

ロゼット「よろしい」

□町、昼
   喧騒ガヤ。

シャルロ「紅バラ印のお薬です、いかがでしょうか」

シャルロ「はい、どうぞ」

シャルロ「・・・ごめんなさい、値下げはできないんです」

シャルロ「あ・・・はい、すみません」

シャルロ「いえ、材料が珍しいものなので・・・このお値段以下には・・・」

シャルロ「ふう・・・」

   喧騒。

シャルロ「・・・なんだろう?」

町人1*(ラスト兼)「・・・呪いだ」

シャルロ「え」

町人1*(ラスト兼)「・・・聞いたぞ、隣町で魔女が処刑されたって」

シャルロ「魔女・・・?」

町人2(ロゼット兼)「ここにもきたんだ」

町人3(シャルロ兼)「呪いだ!」

町人2(ロゼット兼)「追い出さなきゃ」

町人1(ラスト兼)「審問官を呼べ!」

シャルロ「これは呪いじゃない、病気ですよ」

町人2(ロゼット兼)「悪魔をかくまっているやつがいるんだわ!」

町人3(シャルロ兼)「恐ろしい!」

□森の家、夜
   ドアの開く音。

シャルロ「おかえりなさい、先生」

ロゼット「ええ・・・ふー」

シャルロ「遅かったですね、お食事は・・・」

   倒れこむ音。

シャルロ「せ、先生!?」

ロゼット「糖分」

シャルロ「はい?」

ロゼット「緊急よ、糖分。ミルクティでいいわ、激甘で」

シャルロ「は、はい!」

   ソーサーにカップを置く音。

ロゼット「はーーー。魔力が体内を巡る音がする」

シャルロ「いったいどうしたんですか」

ロゼット「湖の水質がね・・・思ったより深刻よ。
  上流の村から、汚染水が流れ込んできてる。明日もう一回行かないと」

シャルロ「・・・汚染水って」

ロゼット「多分灰ね。大量の死体を焼いて、川に流したんだわ」

シャルロ「あっ」

ロゼット「何?」

シャルロ「いえ、関係あるか分かりませんが、
  今日、町で、複数の死体がでまして・・・」

ロゼット「どんなだった?」

シャルロ「首もとが腫れていて、皮膚が黒くなっていました」

ロゼット「焼いてた?」

シャルロ「いえ、埋葬するそうで・・・」

ロゼット「はあ、まずいわね」

シャルロ「なにがですか」

ロゼット「シャルロ、黒い風が来るわ」

□交信部屋
  レコードノイズのような音。(魔法通信のイメージ音)

ロゼット「(ドア越し)ええ、ついに来ました。・・・やはりローマの・・・
  当時は確か・・・一応資料は読みましたが
  ・・・はい。もちろん。・・・ええ、そうですか、はい。
  有益な情報ありがとうございます。こちらの状況もわかり次第。
  はい。では」

   ノイズ停止、ドア開く。

シャルロ「わっ、ど、どうでしたか」

ロゼット「各地の魔術師から、黒い風の広がり方が
  加速していると報告が上がってるらしいわ」

シャルロ「町の人々は酷く不安がっていて、パニックを起こしてる人も・・・」

ロゼット「いい?これは感染病よ」

シャルロ「かんせん、病?」

ロゼット「病気をもった人や動物から、病原が移って広まる病だということ」

シャルロ「ど、どうすれば

ロゼット「文献では、大昔にも一度あったのだけど、まだ治療法は見つかっていない。
  感染してから死に至るまでが早すぎるの」

シャルロ「それって、病気をもらったら終わり、ってことですか」

ロゼット「その通り。私達は絶対に感染してはならない。
  今から言うことをよく守るのよ」

シャルロ「はい」

ロゼット「いつもの生活を崩さないこと」

シャルロ「え」

ロゼット「ちゃんと食べる。ちゃんと寝る。清潔にする

シャルロ「それだけですか」

ロゼット「・・・それがどれだけ難しいか。
  あとは、死体や病人に素手で触らない事ね」

□町

シャルロ「みなさん!紅(べに)バラの薬屋から、
  流行病(はやりやまい)に関する注意です!」

ロゼット「身の回りを清潔にすること。糞尿も収集場にちゃんと捨てる!
  それからきちんと食事をとること!」

シャルロ「着物はなるべく洗ってください!毎日がベストですけど
  三日に一回でもいいです!あと体も!」

ロゼット「動物や人間の死体に触らないこと!この病は伝染します!
  処理するときは、グローブをして、肌を露出しないで!
  患者が使ったシーツや服は焼却処分して!」

町人1*(ラスト兼)「隣村(となりむら)のやつからは悪魔の呪いだってきいたぞ」

町人3(シャルロ兼)「薬の先生が言うんだ・・・従った方がいいんじゃないか」

町人1(ラスト兼) 「でも神父様と言ってることが違う!」

町人2(ロゼット兼)「毎日なんて洗ってられないよ」

町人1(ラスト兼) 「シーツだって貴重なんだよ!」

ロゼット「何かを洗う時は綺麗な水をつかうのよ。
  飲む前にはかならず一度火にかけて、冷ましてから口にして!
  森の湖は綺麗だからそっちから汲むといいわ」

町人2「一日どれだけの水を使うと思ってるんだい!!」

町人1「薬屋なら、病気を治す薬を配ってくれよ!!」

町人3「そうだ!治してくれよ!」

ロゼット「残念だけど、それは出来ない。私は万能じゃない」

町人1「ちっ、食事ったって毎年毎年不作で、
  もう草しか食えるもんねぇんだ、そんな贅沢できるか!」

シャルロ「贅沢じゃないんです!体が丈夫じゃないと、病気に負けてしまう!

    喧騒FO

□森の家、夜
  暖炉で火が弾ける静かな音。

ラスト「めぇー」

ロゼット「・・・うるさい」

ラスト「めぇーーー」

シャルロ「・・・先生、少し休みましょう」

ロゼット「今休んでるわ」

シャルロ「湖を浄化して、町の清掃もして、呼びかけもして、
  人間のために、町のために、
  先生がそんなんになることないじゃないですか」

ロゼット「ふん・・・」

シャルロ「なんでそんなに無理できるんですか」

ロゼット「・・・この地域を守ることが、私の仕事だから。
  ここで止めないと、山を越えたら一気に広まってしまうわ」

シャルロ「でも、倒れてしまったら!」

ロゼット「覚えておきなさい。大きな力を持つものには、責務があるのよ」

ラスト「おーおー随分やつれたな?え?本契約するぅ?」

ロゼット「絶対しない。こういう時のために、ある程度は魔力を貯めてあるの、
  余計なこと言わないで」

シャルロ「先生、僕は大丈夫ですよ」

ロゼット「おだまり。口答えなんて180年はやいわよ」

シャルロ「・・・お役に立ちたいんです」

ロゼット「なら激甘マフィンでも作ってなさいよ」

ラスト「はぁーうまい肉がくいたいなあ、ちょーっとでいいんだけどなあー、
  今なら出血大サービス、すぐに使える3ヶ月分の魔力に加え
  守護結界もお付けして、なんと! おねだん! 脚1本!」

ロゼット「いらないって言ってるでしょ」

ラスト「はーしょうがねえなあ、指一本でいいよぉ」

ロゼット「シャルロ、ナイフ置きなさい。ダメよ」

シャルロ「・・・えー」

ラスト「ちっ、うまい肉に死なれても困るしなあ・・・
  まあ今回だけ、すこーしだけ、分けてやるよー」

ロゼット「・・・ありがとう」

ラスト「なんだよ普通に善意だよ」

ロゼット「悪魔に善意なんてあるのかしらね」

ラスト「俺様、精霊だって」

□森、朝
  荷車の音、木々のざわめき、鳥の鳴き声。
  石鹸を積んだ荷車を引くシャルロ。

ロゼット「お守り、免罪符、喜捨・・・ふん、バカね、教会っていつもそう。
  どうしてすぐ信じるのかしら」

シャルロ「結構、みなさん、こういうときは何かに縋りたいものですよ」

ロゼット「私たちの話は聞かないくせに」

シャルロ「そうですね。直感的に受け入れられるものを
  人は選んでしまうのかも」

ロゼット「めんどくさいったらありゃしない」

 

   荷車の音。

シャルロ「・・・聞きました?異端審問官が来るって」

ロゼット「ええ」

シャルロ「信仰心の厚い方みたいで」

ロゼット「らしいわね」

シャルロ「魔女を見つけたら、報酬を出すって。
  ・・・きっと、これから無実の人が沢山殺される」

ロゼット「不安?」

シャルロ「人間は時に、感情を適切に表現できません。
  飢えへの恐怖、病気への恐怖、戦争への恐怖。恐怖は怒りに変わる。
  怒りには、矛先が必要だ。だから、それを押し付けられる異形を探す。
  ・・・告発されたら、逃げられない」

ロゼット「私の所有物に手を出させるわけないでしょ。
  人間の愚かさはよく知ってる」

    荷車の音、止まる。分かれ道。

シャルロ「・・・先生、僕は」

ロゼット「さて。私は湖へ行くわ。道端の死体は一箇所に集めること。
  石鹸はひとり一個。頼んだわよ」

□町

シャルロ「みなさん!流行り病の予防を!体を清潔にしてください!
  病気の方を看病するときは、素手で触らないでください!」

シャルロ「石鹸どうぞ、ええ、ひとり一個です。
  すみません、ご家族の方もお連れになってください。
  みなさんに行き渡らせたいので・・・ごめんなさい。
  お次の方、どうぞ」

町人1*(ラスト役)「魔女だ! 魔女を見つけた!」

町人2(ロゼット兼)「なんだって!?」

町人3(シャルロ兼)「ほんとうか!?」

町人1*(ラスト役)「やっぱりだ! あの薬屋の女だ!
  湖でなんかしてやがった! 毒を撒いてるに違いねぇ!」

シャルロ「ち、ちが・・・あれは! 水を綺麗にしてるんです!」

町人1*(ラスト役)「俺は怪しいと思ってたぜ!!つまり!
  こいつも魔女の仲間ってことだ!!」

シャルロ「・・・」

町人1*(ラスト役)「俺たちを呪いにかけて、薬を売りつけようって魂胆だろ!?
  どうだ! なあ、みんな!」

シャルロ「違う!勝手な事を言わないでください!
  毎日毎日だれが水を綺麗にしてると思ってるんですか!?
  なんのためにこうやって、喉をからしてると思ってるんですか!!」

町人2(ロゼット兼)「そうだ・・・魔女だわよ・・・
  どおりでただの薬にしては高いと思ったわ!」

町人3(シャルロ兼)「訳の分からないことばっかり言うし!ああ恐ろしい!」

町人1(ラスト兼)「そいつもひっとらえろ!!」

シャルロ「くっ、やめ、やめろっ」

    強い風の音。着地音。 ガヤが消える。

シャルロ「せん、せ」

ロゼット「帰るわよ」

□森小屋の前。
    荷車の音。止まる。

シャルロ「せんせ、ごめんなさい、ぼく」

ロゼット「あーあ、やっぱり夜にすべきだったか・・・案外早かったわ。
  あの人数じゃ記憶抜いてもかみ合わなくなるし・・・
  とにかくあんたが無事でよかった」

   ドアの開く音。

シャルロ「ごめんなさい、余計なことを」

ロゼット「そんな所で突っ立ってないで、案山子じゃないんだからさっさと入りな」

   ドアの閉まる音。

ラスト「めぇーめぇー」

ロゼット「あらご機嫌ね」

シャルロ「先生!」

ロゼット「おやつにしましょ。ミルクティーいれてくれるかしら。激甘で」

シャルロ「せんせ」

ロゼット「シャルロ、いいこと教えてあげるわね。私、死ぬのは慣れてるのよ」

シャルロ「え」

ロゼット「といっても3回だけだけどね」

シャルロ「どういう」

ロゼット「自己蘇生の術ってのがあってね。だから、別にいいのよ。
  あたしが処刑されて、収まるなら」

シャルロ「先生が死んでも、病気は止まらない」

ロゼット「そうね」

シャルロ「そうしたら次の誰かが魔女にされるだけです」

ロゼット「かもしれないわね」

シャルロ「無駄死にじゃないですか・・・!」

ロゼット「数日は落ち着くでしょ。私も動けるようになるだろうし。
  その間に、あんたは逃げな」

シャルロ「は・・・?」

ロゼット「ありったけの薬をもって、リヨンに向かいなさい。
  あっちのハーブ商人で、ジョセフって男と話がついてるから、
  そこで使ってもらいな」

シャルロ「待ってください」

ロゼット「夜明けには出ないと」

シャルロ「勝手すぎます!!」

ロゼット「・・・」

シャルロ「僕の話は聞いてくれないんですか?
  もうここに来た頃の子供じゃないんです、ちゃんと意見も考えもある。
  僕は先生の生贄ですよね!?僕がいないと困るのは」

ロゼット「おだまり」

シャルロ「っ」

ロゼット「・・・口答えしようなんて、180年早いわよ」

シャルロ「・・・」

    足音。ドアの開く音。

ロゼット「準備しておくように」

    ドアの閉まる音。

シャルロ「・・・」

ラスト「めぇー」

シャルロ「なにがそんなに楽しいんですか」

ラスト「いやぁ?別にぃ」

シャルロ「先生、生き返ったってほんと」

ラスト「あー1回目は斬首だったなあ、
悲鳴が聞けなかったのは残念だったがほとばしる血飛沫(ちしぶき)を
かぶったあの虚ろな目、最高に可愛いかったなあ。
2回目は火あぶりだったんだよ、叫び声がマジでヨかった!
3回目は拷問が長くて見応えあったぜーーー
素っ裸にして針刺してくやつなぁ、考えたやつ天才」

シャルロ「どうやって生きかえんの」

ラスト「んっんー。身体の一部分が残ってれば、そっから再生するぞ?
事前に仕掛けとくタイプの魔術だな〜」

シャルロ「・・・」

ラスト「まっ今回はァ」

シャルロ「・・・」

ラスト「ショージキ足んねえんじゃねえかなあ?魔力」

シャルロ「・・・」

ラスト「はぁー死体も可愛いからいいけどぉ、
  俺様的にはぁまあ心臓が動いてる方がいいかなー」

シャルロ「・・・ラスト、僕と契約しよう」

ラスト「ふっ・・・おもしれぇな。どんな?」

□森、小屋の前
  小鳥の鳴き声。

シャルロ「・・・ん、夜明けか」

町人2(ロゼット兼)「ここだよ!」

町人1(ラスト兼)「おい、魔女を出せ!」

シャルロ「弓に、斧に、ナイフ・・・物騒ですね。魔女なんていませんよ」

町人2(ロゼット兼)「白い髪・・・あんたまさか・・・
  孤児院の白い悪魔!野垂れ死んだんじゃ」

シャルロ「懐かしいなあ、その呼び名。そう、ここにいるのは悪魔だけ」

町人1(ラスト兼)「悪魔がいるなら魔女もいるはずだ!」

町人2(ロゼット兼)「あたしたちの町をめちゃめちゃにしやがって!」

シャルロ「お引き取り願えませんか」

町人1(ラスト兼)「かまいやしねえ!やっちまおうぜ!!」

     群衆の雄たけび。

シャルロ「しょうがないですね」

    背後で木のドアを激しくノックする音。

ロゼット(こもり音声)「シャルロ!?そこにいるの!?開けなさい!!!」

  瓶からコルクを抜く音。

シャルロ「不味いんだよなあ、これ。
  ……恨むなら、自分たちの無知を恨んでくださいね」

ロゼット(こもり音声)「なにやってるの!?なんで逃げてないの!!!」

  液体を飲み下す。骨が軋む音。
可能ならシャルロ、狼の遠吠え。
  戦闘BGM IN

  民衆の悲鳴。

  BGM FO

  木の折れる(割れる)音。

ラスト「あは、あは、あは!!やるなあ小僧!」

ロゼット「シャルロ!!!」

  しゅうしゅうと煙が上がる音。
  シャルロ、可能なら狼(獣)の唸り声、巻き舌でもok。

シャルロ「ぐるるる」(無理なら飛ばし)

ロゼット「終わったわ、もういい、シャルロ」

シャルロ「せん、せ」

  大きなものが倒れこむ音。

ロゼット「この馬鹿弟子!!試作品を飲むなんて!!!
  体への負担もちゃんと戻れるかも検証してなかったのになんてこと」

シャルロ「せんせ、これで、にげる、じかんが」

ロゼット「おだまり!”清らかな水のさざめき、星と風の」

シャルロ「ラスト、契約を」

ラスト「くひひひひ! いいよぉー!」

 地鳴りと風が渦巻く音。 

ロゼット「は?」

シャルロ「せんせ、お役、に、立てましたか」

ロゼット「何言ってるの!?何よ契約って!ラスト!?」

シャルロ「ぼく、せん、せ、だいす、き、です」

シャルロ「生き返っても、せんせーが、痛いのは、いや」

  バチン、という電気のような音、草の上をすべる音。

ロゼット「いっ・・・結界ッ」

  ぽんっと弾けるような音。(ラスト変身音)

ラスト(巨大化)「はーーやっぱこっちの体の方がしっくりくる」

ロゼット「あんたその姿ッ・・・どういうこと、説明しなさいよ!」

ラスト「ロゼット、こいつは!自身の肉体すべてを、俺に差し出す契約をした!!」

ロゼット「なに、なに、勝手に」

ラスト「おいシャルロ、俺様は割とおめーのこと、気に入ってたぜ」

ロゼット「ラスト、やめて」

シャルロ「先生、僕、お役に」

ロゼット「やめてええええ」

ラスト「いっただっきまーす」

  シャルロを食べるラスト。

ラスト「ああああうんめえーー! 
  最高最高!ちょっと固くなりすぎたなあ」

ロゼット「あんた、あんた」

ラスト「くひひひ、忘れたか? 俺は悪魔だぞ、魔術師」

  ドン、と重いものが落ちる音。
  魔力の暴走イメージ音(風、電気、地鳴り音の混合)。

ロゼット「・・・あああああ、や、力が、こんな、やめてラスト!抑えきれないッ」

ラスト「あーあ腹いっぱいだあ!さあどうする!?いまなら本契約できるなあ!
  肉体が壊れる前に決めろ!!」

ロゼット「はあ、はあ、・・・ぐ、うううう」

ラスト「悔しくないのかよ?復讐したくないのかよ??
  お前の愛しいものを奪った愚民どもに、苦しみを味あわせたくないのかよ!!
  俺様によこせ!!その怒りを!!甘美な憎しみを!!」

ロゼット「・・・本契約よ」

ラスト「おっ!!いいぞぉ!!」

ロゼット「あんたの魔力、ありったけよこしな」

ラスト「お前の魂、すなわち時間、未来永劫、俺の物だ」

ロゼット「くれてやる」

ラスト「ははははは!!やっとだ!!この魂の芳しき(かぐわしき)匂い!
  ずーーーーっと喰いたかった!!大変だったなぁ!?お前の理性を崩すのは!」

ロゼット「そういうこと」

ラスト「おめでとう!!俺からのプレゼントは!!・・・『永遠の死』だ」

ロゼット「・・・くっ」

ラスト「さあ教えてくれ、ロゼット!!お前の本当の名前を!!!」

ロゼット「・・・我が真名、ウンディーネ・ロズワール」

ラスト「我が真名、アスモデウス!!」

ラスト・ロゼット「契約を」

  魔法(風、電気、地鳴り音の混合)が収束する。
  森のざわめき。

ロゼット「うふふ、あはははははは!!
  私が、なってあげるわ。お前たちが望む、本物の魔女に!!」

 町が燃える音。 BGM、環境音カットアウト。

ラスト「(町民1の声で)はてさて、紅薔薇(べにばら)を黒に染めたのは

   ーーー(羊ラストの声で)だぁれだ」 

<おわり>

2019.04.13.
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