概要
ジュンが帰宅すると、さつきはてるてるぼうずをつくっていた。「雨雲消去レーザー」の発明によって「毎日快晴」を達成したこの現代なのに、さつきは雨が好きだという。しかし、酸性物質に侵された大気を通り抜ける雨は、地上の生物には死をもたらす毒になる。
- 所要時間:約5分
- 人数:2(♂1:♀1)
- ジャンル:シリアス、終末、SF
登場人物
- さつき
雨が好きな女性。ジュンの恋人、あるいは妻 - ジュン
雨雲消去レーザーの開発者。研究員。
本編
□アパートの一室、夕方
雨音と音楽が鳴っている。
さつき「あーめあーめふーれふーれ・・・」
ドアが開き、閉じる。
ジュン「ただいまー・・・なにやってんの、さつき」
さつき「おかえりジュンくん。てるてるぼうず」
ジュン「(笑い)雨の歌歌いながらてるてるぼうず?
なんのためにそんなもんつくってんのさ」
さつき「いやー。せっかく梅雨入りしたしー
逆さに吊るすの」
ジュン「・・・え」
さつき「雨降ってほしいから」
ジュン「やだよ、仕事が遅れるじゃん」
さつき「小雨だったらそうだけど、
大雨になったら休みになるでしょ」
ジュン「そりゃまあ、休みになるんじゃない。
仕事のために死ねるなんてやついないし」
さつき「雨降ったらずっと一緒にいられるって思って」
ジュン「あぁ、そういうこと」
さつき「うん」
ジュン「(笑い)僕と一緒にいるためにほかの生き物は
犠牲になっていいって言うの」
さつき「うん」
ジュン「薄情者だなぁ」
さつき「だってほかの生き物なんてもういないじゃない」
ジュン「わかんないよ、ものすごい強アルカリ性の
粘膜を持つナメクジとか」
さつき「それだったら雨降っても生き残るじゃん」
ジュン「たしかに」
雨音と音楽にノイズが混じり、プツッと止まる。
さつき「あー!また?このデッキもうだめかな?」
ジュン「雨の音ばっかり聞いてるね」
さつき「落ち着くから」
デッキをいじる音。
ジュン「世間一般の人は晴れの方が好きなのに。
やっぱさつきはズレてんな」
さつき「んー。それは悪いこと?」
ジュン「いいや?じゃあ今度は
中性雨(ちゅうせいう)を降らせるマシンでも作るかー」
さつき「本当!?」
ジュン「雨雲の中で中和するか、それとも酸性物質を
取り込まない液体を降らせるか・・・」
さつき「雨が降ったらやりたいことがあるの!」
ジュン「何?」
さつき「これこれ」
DVDのケースを取る。
ジュン「雨に唄えば?」
さつき「しーんぎんいんざれーいん」
ジュン「じゃあ傘も探さないと」
さつき「どこかにまだあるかな?」
ジュン「んーばあちゃんちにあったかも」
さつき「やった!」
警報、または広域サイレンが鳴る。
放送 「ゲリラ性・・・大型雨雲の・・・発生を・・・確認・・・
消去します・・・住人の皆様は・・・直ちに・・・
屋内へ・・・避難してください・・・
ビーム発射まで・・・5・・・4・・・
3・・・2・・・1・・・」
雷のような音、遠くから地響き。
さつき「はー・・・今週もう5回目だよ。心臓に悪い」
ジュン「うん。快晴快晴。本日も、梅雨前線異常なし」
〈おわり〉
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強酸性雨に侵された星での、ある6月のおはなし。
18.06.08