こちらの作品は、『人形町ラプソディ』『裂雲の翼』のifクロスオーバー作品として執筆され、ご寄稿いただきました。
作者は入谷円斗様です。
※上演時の作者クレジットは「入谷円斗」様のお名前をご記載ください。
概要
空艇ギルドから受けた新世界地図作成依頼の中、とある町への調査を頼まれたブラック・ペレグリン号。そこは、ルディアスたちの島とは異なる文化・技術をもった町らしい。
船を降りるとそこには、人間そっくりのココロをもったロボット「ヒトガタ」が暮らしていて……
- 所要時間:約40分
- 人数:男性3、女性3、不問(少年)2
- ジャンル:SF、ファンタジー
登場人物
- エミリア
女性。エミリア・イアハート。飛空艇ブラック・ペレグリン号の船長であり飛行士。猪突猛進。訳あって「エマニュエル」と名前を変えて男装中。愛称は「エマ」。両足が義足。 - ルディアス
男性。ルディアス・エレクトロウス。飛空艇ブラック・ペレグリン号の整備士・機関士。苦労人。訳あって「ルディオ・ブルース」と名前を変えている。愛称は「ルディ」。エミリアの保護者枠。 - アネット
女性。アネット・ハーシュマン。飛空艇ブラック・ペレグリン号の航空士。クール系貴族のお嬢様。訳あって2人の船に乗っている。 - チハル
男性(少年)。ハシモト・チハル。人間。人形町に住むロボット整備士の少年。人間が嫌いでロボットの住む「人形町」に逃げてきた。 - ギントン
男性。警備型ロボット。大きくて重たい。情に厚い。人形町に住むヒトガタたちのリーダー。 - カスミ
女性。ハウスメイドロボット。華奢で高飛車。仲間を大切にするが外部の者に厳しい。 - ロッキー
男性。医療用ロボット。冷静で慎重。ヒトガタの中では最年長。最もココロシステムが成熟した大人。子どもに優しい。 - テンマ
男性(少年)。配達用ロボット。元気で好奇心旺盛。小型で走り回る。ヒトガタの中では最年少。げんきいっぱい。
本編
◾︎チハルの仮屋
カスミ「ハロー、ワールド。テクノメイトハートゼロシックス、スタンバイ。メモリをスキャン中」
カスミ「…おわった?」
チハル「うん、どうかな?」
カスミ「かなり良くなってるわ。チハルが何度も直してくれたから、最初と比べたら全然違う!」
チハル「なら、良かったよ」
カスミ「ほら、次、やることまだあるんでしょ、あんまり話しててもだから行ってきなさい」
チハル「わかった」
テンマ「たいへんたいへんたいへんたいへーーーん!!!」
カスミ「テンマ?」
テンマ「あ、えっと、今日の天気は曇り!」
テンマ「これから何日か曇りのままなんだって!大変だ」
テンマ「じゃなくて、えっとこれもたいへんだけど、もっとたいへん!!」
カスミ「(小さく笑って)なによ、もっと大変って」
テンマ「なんか変なの飛んできてる!!」
チハル「…変なの?」
テンマ「見たことないから分かんない!なにあれ!?」
チハル「ここからじゃ遠くてまだ見えないかな。とりあえず、センセイとギントン呼んできてくれる?」
テンマ「わかった!」
◾︎飛空艇ブラック・ペレグリン号
エミリア「珍しいわね、新世界地図作成の一部とはいえ、ギルドから行く場所を言われるのは」
ルディアス「(伝声管)それもだけど、僕たちより発展した文化があるから確認してきてって言われたでしょ」
エミリア「分かってるわよ。それで、あんた達はその町のこと、知ってるわけ?」
ルディアス「(伝声管)僕は知らないよ」
アネット「わたくしも、名前を知っているだけですわ」
ルディアス「(伝声管)とにかく、行ってみれば分かるんじゃない?」
アネット「急ぎすぎは厳禁ですからね」
エミリア「はーい」
◾︎寄合
ギントン「どうした?」
チハル「テンマが、変なの飛んできてるって言ってて。あ、あれじゃない?」
ギントン「…オレは見たことねえなぁ。センセイ、わかるか?」
ロッキー「ああ、あれは…」
◾︎ブラック・ペレグリン号
ルディアス「(伝声管)もうすぐ着くんじゃない?」
エミリア「時間で考えてもそうね、あれかな?」
アネット「ええ、あれが…」
ロッキー「(同時に)飛空艇だね」
アネット「(同時に)人形町ですわね」
◾︎タイトルコール
エミリア『人形町シンフォニー』
チハル『それはあるはずのない出会い』
◾︎寄合
テンマ「ひ、くうてー?」
チハル「空飛ぶ船…なのかな…。飛行機みたいにも見えるけど…」
ロッキー「その通りだ。石炭と蒸気の力で飛ぶ船。私たちのような電気は使わない乗り物なんだ」
テンマ「へぇ…充電しなくていいんだ!あ、でもそしたら衛星もないしすぐ迷子になりそう。」
カスミ「地図使って確認するんじゃないの?人間たち、私たちがいないときはそうしてるじゃない。」
チハル「あは…は。でも、空を見るためにはすごく勉強しなきゃいけないって、本で見たことがあるな。同じ原理かはわからないけれど…パイロットと同じような感じなら、多分いっぱい機械を操作して、メーターを読んで…っていうのをしなきゃいけないから訓練がいると思うよ。普通に地図を見るのとはわけが違う…んじゃないかな?」
ギントン「ハハッ。やっぱお前は機械のことになると元気だよな」
カスミ「まあ、だからこそ、私たちのことをよく知ってて、私たちをしっかり直してくれてる。」
ロッキー「そうだね。だから私たちは今も動けているのだから」
チハル「あはは…ありがとう」
◾︎ブラック・ペレグリン号
エミリア「にしても…ごちゃごちゃしてるわね。」
エミリア「ほんとに『文化が進んだ町』なわけ?スラムにしか見えないんだけど」
ルディアス「(伝声管)僕たちがまだ使いこなせていない、電気の力を持つ人達がいるんだって」
ルディアス「(伝声管)…ねぇ。これ、ギルド長が言ってたはずなんだけど」
エミリア「ふんっ…そんなの興味ないわね。あんなおっさんが言ってたことなんてそうそう覚えてないわよ。」
アネット「そんなのだからいつまで経っても技術が伸びないんですよ」
エミリア「何を!?」
ルディアス「(伝声管・小声)はぁ…まーた喧嘩してる…」
エミリア「しゃーーーっ!!!」
アネット「はいはい」
アネット「ルディアスさん、降りる準備、お願いいたしますね」
ルディアス「(伝声管)了解」
エミリア「二人して無視するなぁあああ!!!」
◾︎町中
ギントン「降りてきたな」
カスミ「…あいつらみたいなのじゃなかったらいいけど」
チハル「ひとまず、話を聞いてみようよ」
カスミ「はぁ…そうね。」
―――ペレグリン号から降りてくる3人
ギントン「おい、お前らなにもんだ」
エミリア「…なんか見るからに普通の人じゃねえし、そっちこそなにもんだ?」
カスミ「出会って早々ご挨拶ね。あたしたちはTM-H(テクノメイトハート)心を持つヒトガタ」
チハル「なんだかそもそもの話な気がするね」
チハル「まずひとつ。君たちは、ヒトガタを知らない?」
エミリア「あぁ、知らないが」
アネット「…人で何かの型でもとったんですか?」
ギントン「…ホントに知らねぇみたいだな」
ギントン「俺たちは機械。ニンゲンに模した形で作られているからヒトガタ、それだけの話だ」
ロッキー「君たちはどこから来たんだ?」
ルディアス「僕たちは王都ハスケルの空艇士ギルドから調査に来ました」
ロッキー「ハスケル…聞いたことは無いね」
チハル「少なくとも日本ではないよね?」
アネット「…ここは二ホンというのですか?」
カスミ「なに?それすらも知らないわけ?」
エミリア「…いちいち癇に障るやつだな…」
ルディアス「エマ、落ち着いて」
エミリア「わかってるよ」
ルディアス「ほんとかな…?」
ルディアス「あ、えっと、説明が途中ですね」
ルディアス「僕たちは石炭と蒸気が普段使ってる原動力なんです」
ルディアス「だから、そうじゃない力、電気エネルギーを使う町がここにあるって話で、ギルドから指令があって」
ルディアス「だから、その…単語は分かるくらいで、キカイというのもよく知らなくて」
ギントン「…なるほどな」
ギントン「だそうだが、お前ら、どうする?」
カスミ「…あたしは―――」
テンマ「うぉおおおお!!!」
カスミ「テンマ!?」
テンマ「たかーい!!すごいよ!カスミーー!!!」
エミリア「えっあっ!!勝手に船に!!」
アネット「あら、気づいてなかったんですか?」
ロッキー「それにスクラップまで積んで!」
ルディアス「ええっと…!あの子と前にある瓦礫何とかしてくるんでちょっと待っててください!」
チハル「お、俺も行きます!」
ギントン「ハハッ、こりゃ災難なことで」
◾︎飛空艇
───飛空艇内を探すルディアス
ルディアス「あの子、どこいったの?」
テンマ「(伝声管)おーーーい!!!きこえるーーー?!」
ルディアス「うぉ…!?びっくりした…!これは伝声管だよ。これがあれば、飛空艇内のいろんな場所で会話ができるんだ。」
テンマ「(伝声管)へぇ、すごいね!びびびってするやつみたい!」
ルディアス「びびび…?」
エミリア「(伝声管)ルディ!見つかった?」
ルディアス「うん、機関室にいるみたいだね」
ロッキー「全く…テンマ、迷惑かけないでくださいね?こけないでくださいね?」
ルディアス「大丈夫ですよ!僕らでしっかり見守ってますかr—–」
(ルディアスが目を離した背後で、何かが壊れる音)
ルディアス「…え?」
エミリア「(伝声管)おい!今の音なんだ!?やべぇんじゃねえか!?」
ルディアス「えっと…荷物室の扉、壊された」
エミリア「(伝声管)はぁ!?」
テンマ「あっ、ごめんなさい…、でも、チハルが直してくれるよ!」
エミリア「(伝声管)そういうことじゃない!!」
ロッキー「うん、もうお願いだから、降りておいでテンマ!」
ルディアス「ああもう、なんかほんとにごめんなさーい!」
ギントン「(同時に)…ガッハッハッ!」
アネット「(同時に)ふふふっ…!」
アネット「探検が楽しそうで何よりです。」
ギントン「うちのテンマがすまねえな。」
ギントン「オレはギントンだ、調査ってんならゆっくりしてけ」
アネット「ありがとうございます。私はアネット・ハーシュマンと申します。しっかりこの町のことは調査させていただきます。」
ギントン「…フッ。おーい!お前ら降りてこい!」
テンマ「えー?」
チハル「テンマは充電しないといけないから、降りるよ」
ロッキー「それに、また壊したらどうするんだい」
テンマ「あ、そっか。はーい!」
ルディアス「ふぅ。」
テンマ「あ、でもどうやって降りよう…」
エミリア「さ…さすがに抱えられないぜ?」
ギントン「ったく。カスミ、手伝え」
カスミ「はぁ…わかったわよ。全く…」
◾︎町中
ルディアス「えっと…いきなりお騒がせしてすみませんでした」
ルディアス「改めて、僕たちは空艇士ギルドから調査に来たブラック・ペレグリン号です」
エミリア「船長兼飛行士、エマニュエル・イアハートだ。」
ルディアス「整備士のルディオ・ブルースです」
アネット「航空士のアネット・ハーシュマンです。」
チハル「やっぱり、名前が外国の人みたいだね」
チハル「ああ、俺は橋本チハル、機械の修理工だ」
エミリア「よろしく。ハシモト。」
チハル「え?」
チハル「ああ、チハルで良いよ。君のイアハートに当たるのが橋本だからね」
エミリア「ん?でも…」
アネット「…なるほど。姓と名が入れ替わっているんですね。」
チハル「そういうことだと思う」
チハル「それで、この町にいるのは僕以外はヒトガタ、テクノメイトハートっていうロボット、機械なんだ」
エミリア「すごいな…そんなのがうじゃうじゃいるのか」
アネット「…だとしたら一つ疑問なのですが、…なぜこんなに荒れているのですか?」
カスミ「ニンゲンたちがね、あたしたちのことよく思ってないのよ。ただの道具のように扱って。それで…まあ…」
ギントン「オレのアニキが暴動を起こしちまって、それ以来オレ達ヒトガタを回収しようと動いてる。」
ギントン「ここはそういうのから逃げてきたヤツらが集まって作った町だ」
ルディアス「そんなことが…」
エミリア「…なんつーか。悲惨、だな」
チハル「そうかもね。それで、そんなことがあったから、皆ニンゲンを嫌ってるんだ」
チハル「だから最初に君たちが降りてきた時、ちょっと強く当たってしまったんだ。ごめんね」
アネット「そんな事件があったんですもの。仕方ありません。」
(テンマをなでながら)
テンマ「ん?えへへ~」
カスミ「何やってんのよ…テンマ…。」
テンマ「だってこのお姉ちゃんといるとあったかいもん!」
ロッキー「はぁ…なんだか懐かれているようですね。アネットさんでしたね。ここにいる間だけでも構わないので、その子の面倒を少し見てあげてくれませんか?」
アネット「わかりました。」
テンマ「やったー!いっしょにいよう!」
ルディアス「…じゃあ、その間に僕たちはこの町のことを調べようか」
エミリア「はいはい」
ルディアス「じゃあ、少しの間ですが、よろしくお願いします」
チハル「うん、よろしく」
カスミ「なら、私も見回りついでに充電しに行こうかしら。行きましょ。ギントン」
ギントン「ああ。お前ら、気になることがあったらいつでも聞いてくれよ」
ルディアス「エマ」
エミリア「何よ」
ルディアス「何とか受け入れてもらえて良かったね」
エミリア「そうね。癪だけど、あいつのおかげもあるわね」
ルディアス「癪とか言わない」
エミリア「それで、ここからどう動くの?」
ルディアス「僕はこれから、ここにいる人…?達に色々聞いてみようと思うよ。エマも来る?」
エミリア「そういう凝ったことはあなた達二人で勝手にやってて。私も適当に見てくるから。それじゃ」
ルディアス「いつまでも適当だったら知識付かないよ…ってもう居ないし」
ルディアス「ああでもまずはあのテンマって子が荒らしちゃったのを片付けなきゃかな…ってあれ?」
カスミ「…」
ルディアス「えっと、カスミさん、でしたっけ?」
カスミ「何?」
ルディアス「見回りと充電に行ってたんじゃ」
カスミ「終わったわよ」
ルディアス「じゃあなんでここに?」
カスミ「…」
ルディアス「あ、えっと、もしかして」
ルディアス「……….飛空艇、興味あります?」
◾︎寄合所
テンマ「アネットおねーちゃん!」
アネット「ふふっ。暴れないでくださいね。」
テンマ「はいっ!」
アネット「あなたはテクノメイトハート14(フォーティーン)、配達用なんですってね」
テンマ「うん!遠いところでもばびゅーん!!って届けるよ!」
アネット「素敵ですね。」
アネット「私たちもあなたと同じように、空図を使って配達物を届けたりするの」
テンマ「くーず?」
アネット「ええ、地上の図で”地図”、同じように空の上の図で”空図”」
テンマ「そっか!おねーちゃん達はひくーてーで飛んでるから空図なんだ!」
アネット「理解が早いですわね。さすがヒトガタ、と言ったところなのでしょうか?」
テンマ「えっへへー!」
ロッキー「…随分と懐いてしまったようだ」
テンマ「あ、ロッキーセンセイだ!」
ロッキー「……迷惑じゃないかい?」
アネット「いいえ、むしろ少し楽しんでしまっています」
ロッキー「それなら良いんだが…」
テンマ「おねーちゃんたちすごいんだよ!メールを使わなくても、でんせーかんっていうので色んなところでお話できるんだって!」
アネット「あくまでそれが付いている船の中だけ、ですよ」
テンマ「へー!」
ロッキー「そういえば、この街には電気エネルギーを学びにきたのが目的だ、そう言っていたね」
アネット「ええ、そろそろそちらの方も進めたいのですが」
アネット「(テンマを見下ろしつつ)この様子だと、なかなか動けそうに無いですわね…」
ロッキー「テンマ、離れなさい。アネットが動けないよ」
テンマ「やーだー!」
アネット「ふふっ。また後で遊んであげますから」
テンマ「…ほんとに?」
アネット「本当に」
テンマ「…わかった!」
ロッキー「やれやれ、残り二人も探そうか」
◾︎飛空艇傍
カスミ「…ないわよ。テンマじゃないんだから」
ルディアス「そう、ですか。」
ルディアス「あ、そうだ。この船の中をテンマ君が走り回ったせいで、色々と片付けなきゃいけないんですよ。」
カスミ「それは、悪いことをしたわね…」
ルディアス「…なので、それを手伝ってもらえないですか?」
カスミ「良いわよ。アタシはハウスメイド。掃除なんてお手の物よ」
カスミ「さ、行きましょ」
ルディアス「…あれ、意外と乗り気」
ルディアス「たしかにハウスメイドだからっていうのもありそうだけど」
ルディアス「もしかして、カスミさんとエマってちょっと似てたり…する?」
ロッキー「カスミ、ここにいたのか」
カスミ「ロッキー…と、アネットね。どうしたの?」
アネット「エマニュエルさんとルディオさんを探しています。」
カスミ「ルディオなら船の中を片付けてるわ。アタシも手伝ってたの」
アネット「であれば、ここから呼び出せるでしょうか」
ロッキー「さっきテンマが言っていた伝声管、という器具だね」
アネット「ええ、あちらの方にあります」
アネット「せっかくですし、おふたりも使ってみては?」
ロッキー「…なら、使わせていただこうかな」
ロッキー「ルディオ君、聞こえるかい?」
ルディアス「(伝声管)…はい!、えっと、その声は…」
ロッキー「ロッキーだ。」
ルディアス「(伝声管)ロッキーさん!それで、なにかありました?」
ロッキー「君たちに電気の仕組みを教えようと思ってね、来てくれるかい?」
ルディアス「(伝声管)ありがとうございます!ちょっと待っててください!」
ルディアス「お待たせしました。行きましょう」
カスミ「もう1人は呼ばなくていいの?」
ルディアス「そういうのは二人でやってきて、だそうで」
アネット「はぁ…相変わらずですわね」
ロッキー「カスミはどうする?」
カスミ「行っても邪魔になるし、不都合がなければここの片付けを進めるわ」
ルディアス「…まさかですが、中を見て回りたいだけだったり(しませんか)?」
カスミ「(食い気味に)そんなわけないでしょ。ほら、さっさと行ったらどうなの?」
ロッキー「あぁ。じゃあ、行こうか」
◾︎町中
ロッキー「君たちの乗り物、飛空艇は、石炭と蒸気の力で飛ぶ」
ロッキー「前に読んだ書物に書いていたけど、実物は初めて見たね」
ルディアス「まあ、こんなに発展した町に石炭の力なんていらないでしょうからね」
ロッキー「いらない、なんて事はないと思うよ。必要な設備が少ない分、緊急時なんかに使えたりはしそうだ」
アネット「充分な燃料があれば、の話ですわ。蒸気機関は燃料から出るエネルギーの九割近くが熱として逃げる、効率がとても悪い設備です」
ロッキー「なるほど、一長一短ということかな」
ロッキー「僕たちの使っている、太陽光のエネルギーを使った発電は、受け取るエネルギーだいたい15から25%を電気に変えられると言われているね。」
ロッキー「効率は格段に良いという訳では無いが、燃料を必要としないのは大きな利点だ」
アネット「太陽の光を使った発電…少し楽しみです」
ルディアス「…なんかアネットがいつもよりも元気」
アネット「悪いですか?」
ルディアス「悪いなんて言ってないけど」
エミリア「あれ、ルディじゃねえか」
ルディアス「エマ。今から電気の仕組みだったり、色々見に行くんだけど」
エミリア「パス」
ルディアス「はぁ…だよね…」
ロッキー「エマニュエル君、どうしてそこまで嫌がるんだい?」
エミリア「めんどい。あと、多分聞いても分からない」
アネット「それを聞いて分かるようにするのがあなたの役目です」
エミリア「めんどい。やだ」
アネット「はぁ…」
エミリア「てことで、二人で見てきてくれ、オレは適当に周り見てくる」
ルディアス「逃げ足早いな…相変わらず」
エミリア「(なにかにつまずく)あだっ」
ルディアス「エマ!大丈夫?」
エミリア「いったた…」
アネット「また随分と派手に転んだものですね」
エミリア「笑い事じゃねえよ。って、あれ?」
ロッキー「どうしたんだい?」
エミリア「義足に石が挟まってる。マジか…」
ルディアス「え!?でも、今日工具持ってきてないし、こんなところじゃ何も出来ないよ」
ロッキー「…チハルのところに行きなさい。義足なら直してもらえるだろう」
エミリア「…いいのか?」
ロッキー「旅人が怪我をしたまま帰るのは、チハルが許さないだろうさ」
ロッキー「自分が直せるものなら、尚更ね」
エミリア「…助かる」
ロッキー「テンマを呼ぼう。寄合所まで運んでもらいなさい」
エミリア「わかった」
ロッキー「僕たちはこのまま太陽光パネルの方に…行けるかい?」
ルディアス「………」
アネット「ルディオさん?」
ルディアス「あ!すみません!」
ルディアス「(頬を2度叩く)大丈夫です。行きましょう」
◾︎チハルの仮屋傍
テンマ「ばびゅーーーーん!!!!」
エミリア「お、おい!もうちょっと静かに運べ!義足とはいえこっちは怪我人だぞ!」
テンマ「でも、ロッキーセンセイが急いでって言ってたから!」
エミリア「だからって限度を考えろって言ってんだよ!!」
テンマ「ーーーーっと、ついた!」
エミリア「ったく、無茶な運び方すんじゃねえよ」
ギントン「来たか」
テンマ「あ、アニキ!」
ギントン「話は聞いてる、そいつを一旦下ろして、今度はスクラップを取りに行くのを手伝って欲しい」
テンマ「分かった!いってきまーす!」
ギントン「…まだどんなのがいるか言ってねえだろ」
チハル「…えっと、大丈夫?」
エミリア「大丈夫に見えるか?」
チハル「…見えないね。ごめんね?」
エミリア「…そんで?これ、直せるのか」
チハル「そうだね、まずは詳しい状況を見せてほしい」
エミリア「…はいよ」
チハル「…なるほど」
チハル「うん、直せるとは思う。けど、一度分解する必要はありそうだね」
エミリア「…分解するって、簡単に言うのな」
チハル「直すための最適な方法なら、ね」
チハル「今、二人がパーツを取りに行ってくれてるから、その間に準備をしようか」
エミリア「…」
◾︎町中 太陽光パネル
ロッキー「さて、ここだ」
ルディアス「…なんだか、黒い板が沢山並んでいますね」
ロッキー「ああ。このパネルに太陽の光が当たることでパネル内の電子が回転し、電気を生み出す仕組みだ」
ルディアス「…いきなり言われても難しいですね」
ロッキー「飛空艇の仕組みになぞらえると、太陽の光が燃料、電子の動きが水蒸気、生み出される電気が推進力、と言ったところかな」
ルディアス「な、なるほど」
アネット「…せっかく目の前に設備があるのに、説明を聞くだけなのはつまらないですわ」
アネット「分解して中を見てもいいでしょうか?」
ルディアス「ダメだと思うよ!?」
ロッキー「それは…困るかな」
ロッキー「かわりと言えるかは分からないけど、持ち歩けるサイズの小型モデルと設計図を持って帰るといい」
アネット「ありがとうございます。では喜んで」
ルディアス「(独り言)アネットって、あんな事言うんだ、知らなかったな」
ルディアス「エミリアもあの調子だし、この後大丈夫かな…」
ロッキー「今日が曇りなのが難点だね。これだと発電量が少ない。」
ルディアス「太陽の光が弱いから、ですか」
ロッキー「そうだ。」
アネット「だとすれば、私たちの国で使うのは難しいかもしれませんわね」
ルディアス「そうだね。でも、全くできないってことじゃ無さそうだし、何かに使えるかもしれない」
ロッキー「ぜひ役立ててくれ」
ロッキー「他になにか、気になることはあるかな」
アネット「でしたら…」
◾︎チハルの仮屋
ギントン「ほいよ、こんだけありゃ足りるか」
チハル「うん。ありがとう、ギントン」
ギントン「まだ手伝えることはあるか」
チハル「こっちはないかな。ロッキーたちの話ももうすぐ終わると思うから、呼びに行ってほしい」
チハル「多分、この義足は普段ルディオさんがメンテナンスしてるだろうから、最後に見てもらいたい」
ギントン「はいよ」
エミリア「…なあ」
チハル「?」
エミリア「…お前らのこと、まだわかんねーことだらけだけどよ」
エミリア「でも、ちょっとは分かった」
エミリア「ギントンも、テンマも、カスミもロッキーも、みんな人間じゃねえって。しかも、ここにいるのはその人間に捨てられたやつらの集まりって、そう言ってたよな」
エミリア「なのにああやって人間みたいに、自分が出来ることをやって」
エミリア「それって、ホントはすげーことなんじゃねえかってな」
チハル「…それが、ヒトガタだからね」
エミリア「お前も、そんなやつらと一緒に過ごして」
チハル「そうやって、生きてきたから。みんな」
チハル「それで、頑張ってるみんなをメンテナンスするのが俺のやること」
チハル「これだって、普段やっている事の応用で出来たりするから、結構楽しいよ」
エミリア「それ、オレにとっては結構大事なやつなんだよ」
エミリア「楽しむのはやめてくれ」
チハル「あはは、ごめんね。でも、ちゃんと直すから。安心して」
エミリア「…ならいいけどよ」
◾︎町中 太陽光パネル
ギントン「よォ~!お前ら!話は終わったか?」
ロッキー「ギントン、エミリア君は大丈夫なのか」
ギントン「嬢ちゃんならチハルが見てくれてる。」
ギントン「義足もバッチリだ。安心しろ」
アネット「良かったですわね」
ルディアス「…そうだね」
ギントン「ただ、普段あれのメンテナンスしてるのお前だろ?最後に見てくれってよ」
ルディアス「分かりました」
ロッキー「なら、こちらの話は大方済んでいるし、寄合所に戻ろうか。」
◾︎チハルの仮屋
チハル「さて、これでどうかな」
エミリア「…おぉ、すげー」
エミリア「ルディがやってくれたのとほぼ変わんねえよ、こりゃあ」
チハル「それだけが取り柄だから」
エミリア「…『だけ』とか言うなよ。こんだけの…ロボット?達をまとめてみんなで暮らしてるの、立派な力じゃねーか」
チハル「…そうかもね、ありがとう」
ロッキー「おや、こちらもちょうど終わったところかな」
チハル「ロッキーセンセイ」
ルディアス「エマ。足、大丈夫かな」
エミリア「ああ、義足の方はひとまず問題なし、体も怪我はほぼないから気にすんな」
チハル「あ、でも。ギントンにも言われてると思うけど、最後に確認だけしてもらえるかな」
ルディアス「そうですね、後で見てみます」
ロッキー「あとは、カスミとテンマだね。カスミは飛空艇の方にいるはずだが、テンマは…」
アネット「テンマならここに居ますわよ」
エミリア「うわぁ!いつの間に!!」
テンマ「えへへ~!アネットお姉ちゃんと遊ぶの!」
ロッキー「やれやれ、仕方がない。アネット君、もう少し面倒を見てあげてくれないかな」
アネット「喜んで。」
カスミ「遅い!いつまでかかんのよ!」
チハル「カスミ?どうしたの」
カスミ「どうしたもこうしたもない!アタシがせっかく飛空艇の片付けしたのに、いつまで経っても来ないから呼びに来たの!」
ロッキー「それは悪かった。おそらく、君たちの帰りの時間も近づいているだろう。あちらへ向かおうか」
◾︎飛空艇
カスミ「ほら、早く入りなさい」
エミリア「いや…ほんっとに綺麗になってんじゃん」
ルディアス「本当に中を見たかっただけじゃなかったんですね、カスミさん。」
カスミ「さっきから違うって言ってたでしょ。」
カスミ「アタシはハウスメイド。アタシの出来ることをしただけ」
カスミ「…まあ、気になってたのも本当だけどね」
アネット「ただ整理されてるだけじゃなく、効率よく作業できるようにものが置かれてますわね」
エミリア「なんつーか、さっきも思ったけど、お前らってすげーんだな」
ギントン「これがオレたち、テクノメイトハートの力だよ」
チハル「少しでもこの町を、ヒトガタの事を気に入ってくれたら嬉しいな」
エミリア「…ああ、いいもんが見れた、って感じだ」
アネット「そうですわね」
ルディアス「じゃあ、みんな揃ってるし、このまま離陸の準備をするよ。」
エミリア「(同時に)おう」
アネット「(同時に)ええ」
テンマ「お姉ちゃん行っちゃうの、やだ。」
アネット「…きっと、またいつか会えます」
テンマ「…ほんとに?」
アネット「本当に。ね?」
エミリア「ああ、この空は繋がってる。心配すんなよ」
ロッキー「結局最後まで付きっきりになってしまったね。申し訳ない」
アネット「構いません。とても楽しかったです」
カスミ「せっかく片付けたんだから、ちゃんと整理しなさいよ!」
エミリア「まあ、出来るだけ気をつけるよ」
カスミ「なんか信用なんないわね」
ギントン「なあ、おふたりさん」
エミリア「ん?」
チハル「どうだったかな、この町は」
エミリア「…楽しい町、じゃねえのか。難しいことはわかんなかったけどな」
アネット「とても勉強になりました。ありがとうございます」
チハル「こちらこそ、だよ」
ギントン「ああ、オレたちも楽しかったぜ」
チハル「さ、ルディオくんを待たせるのも悪いし、そろそろ行って」
エミリア「ああ、そうだな」
アネット「それでは、またどこか…いいえ、またここで」
◾︎寄合
テンマ「…行っちゃったな」
カスミ「珍しいわね。テンマがここまで落ち込むなんて」
ロッキー「テンマ。アネット君も言ってたじゃないか。またここで、とね」
ロッキー「いつかまた、来てくれるさ」
テンマ「…うん!」
チハル「……」
ギントン「チハル?どうした?」
チハル「ううん。なんでもない」
チハル「俺たちの教えたことが、あの子たちの国でどう使われるのかは分からないけど」
チハル「悪いようにはならないでほしいって、願うことしか出来ないからね」
ギントン「…オレたちを捨てたニンゲンのように、あいつらのとこにも悪い奴らはいるだろうよ」
ギントン「そういう事もあっての技術の進歩だ。考えてもどうしようもねえよ」
チハル「…そうかもしれないね」
ギントン「良くやったよ。あれだけニンゲンが嫌いだったお前が、突然来たニンゲン達のことを迎え入れて。義足のトラブルまで直して」
チハル「…みんながいたから、だよ。ありがとう」
ギントン「…おうよ」
チハル「…いつまでも振り返ってちゃいけないね、俺たちもいつも通りに戻ろう」
◾︎飛空艇ブラック・ペレグリン号
エミリア「…で、何か収穫はあったわけ?」
アネット「太陽光発電の模型と設計図をいただきました」
ルディアス「(伝声管)使う材料を見る限り、すぐには作れなさそうだけどね」
エミリア「ふーん。ひとまず、それをギルドに持って帰るのが先決かしらね」
ルディアス「(伝声管)そうだね。燃料も多少貰ったとはいえ、そこまで移動できる訳でもないし」
ルディアス「(伝声管)…それと、足はどうなの?エマ」
ルディアス「見た感じ大丈夫そうだけど」
エミリア「見たまんま。少なくとも今の感じだと問題ないわね」
アネット「災難でしたわね」
エミリア「その一言で済んだら良かったってのに」
アネット「済んでいませんか?直してもらいましたし」
エミリア「直してもらったのが申し訳ないって分かんない?」
アネット「あの場ではそれしか方法が無かったではありませんか」
エミリア「それは…否定しないわ」
ルディアス「(伝声管)(小声)…珍しくすんなり落ち着いた」
エミリア「聞こえてるわよルディ」
ルディアス「(伝声管)あ、ごめん。」
ルディアス「(伝声管)とにかく、一応チハルさんにも言われたから、帰ったら確認はしようか」
ルディアス「(伝声管)あ、それともうひとつなんだけど」
ルディアス「(伝声管)荷物室の扉、直ってたけどいつの間に?」
アネット「私たちが発電機の見学をしている間に、ギントンさんが直してくださいました」
ルディアス「(伝声管)え、あの人警備用って聞いたんだけど」
アネット「色々あったんですよ。きっと」
エミリア「それで済ましていいの?」
アネット「それで済ませるしかないんです。あの方たちには」
エミリア「…そういうことなら。」
アネット「さ。ここからはおそらく無駄話する余裕はないですよ」
エミリア「そうね。2人とも、いつも通り頼んだわよ」
ルディアス「(伝声管)了解」
エミリア「目的地は、ハスケル、空艇士ギルド!」
2026.04.04.寄稿