お引越し中につき、あちこち工事がおわっておりません(特にショップ)。ネット声劇・個人での練習以外でご利用の際はご連絡くださいませ。

『人形町カプリチオ』【♂1:♀4】40分

概要

自律型ロボット、通称「ヒトガタ」を修理する工場で働く少女・チアキは、勤めていた工場でいじめられていた。工場で爆発事故が起こり、混乱に乗じて逃げ出し、「ニンギョウ町」へたどりつく。
そこは「ヒトガタ」に占拠された町で、人間は住んでいなかった。ニンギョウ町で暮らすヒトガタたちは人間を嫌っているようだった。
チアキが修理工であると知った人形町のリーダー・シロカネは、故障して動かなくなっていた仲間・テマリの修理をチアキにさせる。修理を成功させたチアキはヒトガタたちに受け入れられ、町中のロボットを修理して回った。
しかしある日、政府が町の取り壊しを決定したというニュースが入る。ヒトガタたちは抗戦することを決め、チアキも協力すると申し出たが、当日、シロカネはテマリに、チアキを連れて逃げるよう命じるのだった。

※1:4転換VERです。
※転換名付けルールを一部無視しています。(わかる人への弁明。)

  • 所要時間:約40分
  • 人数:5(♂1:♀4)、サブ4(兼役可)
  • ジャンル:ファンタジー、ロボット、友情、SF、近未来

登場人物

  • 橋本チアキ
       主人公。機械工の少女。勤務していた工場が火事になり逃げた。人間嫌い。 (一人称 ボクor 私 どちらでも構いません)
  • シロカネ
    TM-H09。警備ロボ、親分肌、基本色-赤。使用者への反抗的態度によって廃棄。
  • キーロ
    TM-H04。医療ロボ、クール、基本色-青。小児科院の院長交代に伴い最新機と入れ替えのため廃棄。
  • ミカゼ
    TM-H06。 メイドロボ、高飛車、基本色-紫。使用者一家に虐げられたことにより欠損を装って回収されるよう仕向けた。
  • テマリ
    TM-H14。配達ロボ、そそっかしい、元気、基本色-黄色。郵便局勤務だったが型落ちにより廃棄、偵察中に事故をおこしてバラバラに。
  • 兼役
    ・キャスター(3台詞)
    ・ロボット管理局局員(2台詞)
    ・CMナレーション(3台詞)

<用語と背景>

○テクノメイト-ハートシリーズ

 人間の形を模した自律型ロボット、通称「ヒトガタ」の機種のひとつ。「ココロシステム」が搭載され、人間に近いコミュニケーションが可能になり、人が親近感を抱くようデザインされている。用途によってスペックや搭載機能が異なる。しかし成熟した多くのヒトガタは主人に対し合理的な提案をしたり、非生産的な、あるいは理不尽な命令に背いた。型落ち、欠陥、言うことを聞かない、反抗的、さまざまな理由で廃棄されたり、不法投棄された。また、人間の「感情処理用」として酷い扱いを受けるものもあった。

名前のみ

TM-H08 “ギンザ” 警備ロボ、3年前の暴動の指導者。人間を憎んでいた。

TM-H11 ”ハッチョ” 運搬ロボ、おおらか、基本色-オレンジ

TM-H10 ”ツッキー”  建築ロボ、気さく、基本色-黄緑

○テクノ-ポーン(TP)

 テクノメイトハートの後継機。人間の命令に忠実に従うヒトガタ。テクノメイトハートの「失敗」を踏まえ、価値判断を行う「ココロシステム」を排除し、与えられた命令を完遂する、あるいは命令がキャンセルされるまで行動を止めないようにプログラムされた。汎用型であるためにシリーズ展開はしていない。未だ価格が高く一般家庭では購入不可能。機体の基本色は白で無機質なデザイン。

○条例

 ヒトガタの廃棄は大型精密家電扱いとなり回収費用がかかるため不法投棄が相次いだ。野良化、犯罪行為に悩まされたトウキョウ都は、製造企業に回収努力を求め、条例として「野外における監督者を伴わない、あるいは業務証明の出来ない自律型ロボットは不法投棄物とみなし行政機関により回収のち強制処分、持ち主が判明すれば罰金を課す」と定めた。

○人形町

 トウキョウ都内の町。正式表記はニンギョウ町。もともと工業地帯で人はあまり住んでいなかった。3年前、とある工場で、回収され廃棄を待つヒトガタたちが暴動を起こし、人間を追い出して「ヒトガタの町」として占拠した。その後、不法投棄されたり、持ち主の元から逃げ出したヒトガタたちが密かに集まっていた。

本編

□アバンタイトル
  チアキの仮屋、ガレージ。シャッターは開いている。
  マットにミカゼが寝ている。

チアキ:「よし、起動!」
ミカゼ:「ハロー、ワールド。テクノメイトハート06(ゼロシックス)。スタンバイ 」
チアキ:「おはよう、ミカゼ」
ミカゼ:「メモリをスキャン中。(起き上がる)……おう、終わったか?」
チアキ:「うん。腕、動かしてみて」

  立ち上がるミカゼ。腕を回す。

ミカゼ:「ふー。接続部からぶっとんじまったからどうなるかと思ったけど、いいカンジだな。
     三百六十度ぐるんぐるん回るぜ!」
チアキ:「ベアリングを変えてみたんだ、ボール式にしてオイルもよく回るようにしたから摩擦が」
ミカゼ:「あーあーあーそういうのオレわかんねえから! サンキューな! これお代」
チアキ:「サバ缶だぁ。よく見つけたね、こんなの」
ミカゼ:「ふふん! プロのハウスボーイはチリ一つ見落とさねーんだぜ!」
チアキ:「ありがとう、助かるよ」
ミカゼ:「合理的判断だ。お前が健康じゃないと困るからな。んじゃ、またよろしく」
チアキ:「(笑い)なるべく壊れないでね」

  遠くからテマリが走ってくる。

テマリ:「ちーあきーーー!たいへーーん!!」
チアキ:「あっ、そこ段差ーー!」
テマリ:「うわわわわ!」
チアキ:「派手につっこんだなぁ」
テマリ:「(手で口抑えくぐもらせ)たーすけてー」
チアキ:「いま行くよー」

□タイトルコール
シロカネ:「人形町(にんぎょうちょう)カプリチオ」

□チアキ過去回想
  数秒開け入り。

チアキ:(N)『ヒトガタは、あたたかい」
チアキ:「どうしよう、動かなくなっちゃった、父さん!どうしよう!」
チアキ:「いま直してあげるからね!」
チアキ:「父さん!みてみて!なおった!」
チアキ:(N)『人間は、冷たい』
チアキ:「ヒトガタはただのロボットじゃないんです、
     ココロがあるんです、簡単に廃棄だなんて……」
チアキ:「えっ、ボク、そんなつもりじゃ……。ちがいます!
    もっと効率的な方法を共有できれば、作業が進みやすく……
    仕事を奪うだなんてそんなこと考えてません!」
チアキ:(N)『壊れたパーツは要らない』
チアキ:「間に合わない、どうしよう、間に合わない、一人じゃ無理だよ……」
チアキ:「あれ、工具箱、ない」
チアキ:「この子……一昨日修理したのに……ッ……こいつも昨日……なんでこんなこと!」
チアキ:「……いっぱい、いっぱい直したのに、ボク、壊れてないのに」
チアキ:(N)『ヒトガタは友達』
チアキ:「ニンゲンは、冷たい」

テマリ:(兼・キャスター)「東京都中央区カヤバ町のヒトガタ修理工場で出火があり、
     現在も消火活動が続いています。
テマリ: ここでは、近年問題になっている野良ヒトガタの管理について、
     専門家をお呼びしてご意見を伺いたいと思います。
テマリ: 自律型ロボット管理局では、今回の工場火災について、
     野良ヒトガタの関与があるとお考えですか?」
シロカネ:(兼・局員)「現在調査中です。いずれにしても、
     暴徒と化しつつあるヒトガタを排除しないとなりません。
     三年前の悲劇を繰り返さないように」
テマリ:(兼・キャスター)「回収が間に合っていないということでしょうか」
シロカネ:(兼・局員)「彼らもバカではないので。
     うまいこと逃げ隠れしています。
     しかし条例の制定によって強制的に回収できるようになりました。
     これから一気に排除が進みますよ」
テマリ:(兼・キャスター)「なるほど。貴重なご意見、ありがとうございます。
     CMのあとは、引き続き、ロボットと人類の新しい関係性について
     考えていきたいと思います」

□CM

テマリ:(兼・CM)「テクノポーン。それは、新しい「トモダチ」のかたち。
     あなたを助け、あなたに寄り添い、あなたの願いを叶えます。
テマリ: 新規購入特典!不要なヒトガタを無料でお引き取り!
     詳しくは店頭で。テクノメイトカンパニー」

□人形町、町はずれ、昼

キーロ:「ニンゲンね」
ミカゼ:「ニンゲンだな」

  倒れているチアキを観察する二体。

ミカゼ:「死んでんのか?」
キーロ:「生体スキャン開始」
キーロ:「……三十八度七分。脱水症状。腕に軽度の熱傷。まだ息はあるようだね」
ミカゼ:「このままほおっておいて、死んだら刻んで捨てる。
    あーあ。生きてるニンゲンに手を下せないのってホント不便だよなぁ。
    管理局の調査員だったらどうすんだよ」
キーロ:「でも子供だ。助けないと」
ミカゼ:「それでもニンゲンだ。俺やっちゃいたーい」
キーロ:「シロカネに相談」
ミカゼ:「……しょーがないな、よいしょっと」

ミカゼ、チアキを担ぎあげる。

□寄合所(よりあいじょ)
ミカゼ:「シロカネのアーネゴー!」
シロカネ:「あぁら!ミカゼ、キーロ、調子はどお?」
キーロ:「システムに異常はない」
ミカゼ:「よいしょっとー」

  ミカゼ、チアキをシロカネの前に下す。

シロカネ:「よしよし。それで、コレは?」
ミカゼ:「拾ったんだよ! ニンゲン!」
キーロ:「コドモだ」
シロカネ:「ふぅん?」
キーロ:「治療して隣町近くまで運びたい、数日の滞在許可を」
ミカゼ:「身ぐるみ剥いで刻んで捨てよーぜ?」
シロカネ:「持ち物は?」
ミカゼ:「工具箱、オイル缶、磨き布。エトセトラ」
シロカネ:「はぁん。オイル缶ねぇ。いい拾いものだわ。ミカゼ、全部倉庫にもって行きな」
ミカゼ:「へいへい」
シロカネ:「ガキは町の外に捨てときな。刻むのはナシ。関節に血液が詰まるだろう?」
ミカゼ:「えー」
キーロ:「コドモだ、シロカネ」
シロカネ:「キーロセンセイ。あんたが医療用のヒトガタなのはわかってる。でもねぇ」
キーロ:「我々を捨てた世代ではない」
シロカネ:「一緒よ。ニンゲンだわ」
チアキ:「うっ」
キーロ:「お嬢さん(少年)、動くな。熱が高い」
チアキ:「はあ、はあ、すみませ、助けていただき……ヒトガタ?」
キーロ:「まずは水分補給だ。口を開けなさい」
チアキ:「え……」
キーロ:「身構えなくていい。飲用水だ。
    指から出るタイプは初めて見たか?
    ……冷却機能が壊れていてね。
    生ぬるいだろうけど許してちょうだい」
チアキ:「あ、はい。(飲み込む)はあ、ありがとうございます」
シロカネ:「おチビさん、どこから来たの」
チアキ:「カヤバ町から、です」
シロカネ:「ふん、なら歩いて帰れるわね。さっさと行きな」
キーロ:「シロカネ、せめて熱が下がるまで面倒を見させてくれないだろうか」
シロカネ:「ねえ。子供だろうが、ニンゲンは敵よ」
キーロ:「うん。しかしこの子はまだ我々を傷つけてはいない」
シロカネ:「……目ぇ離さないでね」
ミカゼ:「あ、アネゴー、待てよー」
チアキ:「……はあ、えっと」
キーロ:「さあ、私の家にいこう。テクノメイトハート04(ゼロフォー)、皆(みな)からはキーロと呼ばれている」
チアキ:「橋本チアキです……ありがとうございます」

□夜、町はずれの家
  押入れを漁るキーロと毛布にくるまるチアキ。

キーロ:「寒くないか」
チアキ:「あ、はい、治療と、毛布、ありがとうございます」
キーロ:「申し訳ないな、ヒトガタは基本的に気温に状態が左右されないから、暖房がないんだ」
チアキ:「大丈夫です」
キーロ:「たしかここに……ああ、あった、よかった。
     保存食の粥だ。湯を注ぐだけとは便利なものだね」
チアキ:「……あの、ここどこですか、無意識で歩いてて」
キーロ:「ニンギョウ町」
チアキ:「ニンギョウ町って、三年前、ヒトガタの暴動があった……」
キーロ:「そう。今ここに人間はいない。
     生き残ったヒトガタや、回収車から逃げてきたものたちが住み着いている。
     まあ、”生き残った”というのは言葉の綾だけど」
チアキ:「そうだったんだ……ごほっ、痛」
キーロ:「チアキさん(君)、感謝するよ」
チアキ:「え、なんでですか、感謝するのはボクのほうです」
キーロ:「私は医療用のヒトガタ。人間の健康を守るのが仕事。
     だけどここにはヒトガタしかいない。私にはヒトガタは直せない。
     皆はそれぞれ自分の得意なことをして助け合って過ごしているが、
     私の機能は役に立たない」
チアキ:「そんなことないでしょう、04(ゼロフォー)はたしか、
     医療系でも小児医療専門ですよね。
     精密だけど、比較的頑丈で、機能が多い。いろいろと応用が利くはず」
キーロ:「テクノメイトハートシリーズをよく知っているようだね」
チアキ:「……ボクも持ってました。シッタータイプがずっと友達で、寿命まで」
キーロ:「そう。いい持ち主に巡り合えたようだ」
チアキ:「……どうして、あなたは、ボクを助けてくれるんですか」
キーロ:「……私は医療用だから」
チアキ:「ここにいるってことは、その、捨てられたんでしょう? 人間に」
チアキ:「憎くないんですか。恨んでないんですか。ボクも、人間ですよ」
チアキ:「ニンゲンの都合で、ヒトガタにココロシステムをつけたくせに、
    最新機種が欲しいからとか、ちょっと壊れたからとか、思い通りに動かないから、
    意見してくるから、痛いところを突いてくるから、都合が悪くなったから、
    そうやって簡単に廃棄する。
    気持ち悪くないんですか、どうして優しくできるんですか」
キーロ:「チアキさん」
チアキ:「非合理的で、冷たくて、自分の都合ばっかりで、理不尽で、
     話も聞きやしない、人間なんて、
     あなたたちヒトガタに及ばないろくでもない生き物なのに」
キーロ:「チアキさん!」
チアキ:「っ……」
キーロ:「私は学んだ。自分の仕事に喜びを感じること。誇りを持つこと」
チアキ:「いい、持ち主に、巡り会えたんですね」
キーロ:「ああ。子供好きの老紳士だ」
チアキ:「……」
キーロ:「まずは休もう。そのあと、ゆっくり話をきかせてほしい」

□寄合

ミカゼ:「なあシロカネ? あのガキどうすんだよー? アイディー見たぁ?」
シロカネ:「修理工なら、使えるんじゃないの」
ミカゼ:「はー。ギンザのアニキだったら問答無用で刻んでたぜぇー」
シロカネ:「アタイは兄さんほどイカレてないわ」
ミカゼ:「よく言うよ、機械のくせに」
シロカネ:「そうさねえ、アタイたちはココロをもつとはいえヒトガタ。
     憎しみに飲まれてほかの生き物の命を奪うなんて」
シロカネ:「……ニンゲンのすることだろう?」

□数日後、朝。キーロ宅
  チアキ、キーロを整備している。

キーロ:「おお……!」
チアキ:「うん、これですこしは動きやすくなったんじゃないかな」
キーロ:「ありがたい」
チアキ:「あまりできることなかったけどね。
    ボクの工具箱とパーツがあれば冷却機能も直せるのに」
キーロ:「いや、とてもすばらしいよ。
    限られた工具とジャンク品からここまでとは。動きがとても軽い」
チアキ:「それだけが取り柄だから」 
ミカゼ:「邪魔するぜー」
キーロ:「ミカゼ」
ミカゼ:「よぉキーロ、随分と仲良くなったんだな。ニンゲンと」
キーロ:「待て、まだ彼は万全ではない」
ミカゼ:「知ったこっちゃねーよ。おいガキ」
チアキ:「……なんでしょうか」
ミカゼ:「ついて来いよ」

□寄合
シロカネ:「おっそいわよ」
ミカゼ:「アネゴぉ、怒るなよぉ」
キーロ:「シロカネ、彼の体調はまだ」
シロカネ:「おだまり。別件よ」
キーロ:「別件?」
シロカネ:「センセイはハッチョと交代で見回り番。
     この子に異常が起きれば使いをやるわ」
キーロ:「……分かった」
シロカネ:「ミカゼ、連れてきな」
ミカゼ:「へーい」

  ミカゼ、寄合所の中へ入る。

シロカネ:「……」
チアキ:「……」
シロカネ:「あんた、修理は得意?」
チアキ:「え、まあ、修理は、ボクの仕事ですけど」

  ミカゼ、台車に壊れたヒトガタを乗せて戻る。

ミカゼ:「つれてきたぞ~」
シロカネ:「……こいつ、直せる?」
ミカゼ:「配線気を付けろよ、ぎりぎりなんだからさ」
チアキ:「これは……ボディの損傷がひどい。けど、コアは多分生きてる」
シロカネ:「直せるかって聞いてるの」
チアキ:「……工具箱を返してほしい、です。
    あとはパーツがないとなんとも。溶接機や切断機もいるし」
シロカネ:「来な」

  倉庫へ向かう二人。

チアキ:「……あなたは、テクノメイトハート09(ゼロナイン)、
     たしか警備用、ですよね」
シロカネ:「詳しいんだね。一桁台を知ってるのかい?」
チアキ:「テクノメイトハートが好きだったから。
     男の子は06(ゼロシックス)、ハウスボーイ。
     壊れてた小さいのは、14(フォーティーン)、配達用。
     今すれ違ったのは板前さんの10(テン)と、大型運搬の11(イレブン)」
シロカネ:「なに? 知ったつもり?」
チアキ:「元気なテクノメイトがこんなにいて嬉しいんだよ。
     だから、14(フォーティーン)も直したい」
シロカネ:「……ここよ」

  金属製のシャッターを開けると高く積み上げられたパーツの山。

チアキ:「ここ倉庫? すごいスクラップの山」
シロカネ:「使えるもんがあったら何を使ってもいいよ。ほら、あんたの工具箱だ」
チアキ:「あぁ、はい。……これって、あの、もしかして、あー、
    嫌なら答えなくてもいいんだけど。三年前の……?」
シロカネ:「あぁ、仲間たちだよ」
チアキ:「……ごめんなさい」
シロカネ:「何に対しての謝罪なんだい、それは」
チアキ:「身勝手な人間が、あなたたちを傷つけて」
シロカネ:「あんたが謝っても、システムが学習してしまった『憎しみ』は消去できないし、
     ニンゲンも、社会も、『条例』も、変わらない」
シロカネ:「アタイたちは痛みを感じない。
     ただ、電子回路が熱くなる。排熱が間に合わない程に」
チアキ:「……使えそうなパーツを探しましょう」

□寄合
ミカゼ:「待ちくたびれたぞー。ちゃんと直せるんだろうな!」
シロカネ:「ボリューム下げな。二ヵ月待ったんだ、あと数日も待てるだろう?」
チアキ:「……感情データメモリーがやられていたら、治っても、同じ人格になるかはわからないよ」
ミカゼ:「やだよ。オレは。テマリじゃなきゃ」
チアキ:「……テマリっていうの」
ミカゼ:「間違っても14(フォーティーン)だなんて呼ぶんじゃねーぞ。
    オレも06(ゼロシックス)じゃない、ミカゼって名前があんだ」
シロカネ:「あとはアタイが監視するからあんたは充電行ってきな」
ミカゼ:「ふん」
ミカゼ去る。
チアキ:「……電気は、どうしてるの」
シロカネ:「アレよ」
チアキ:「太陽光発電パネル……よくあんなにつなぎ合わせたね」
シロカネ:「詳しいやつがいたのよ。もう壊れちまったけどね」
チアキ:「そう……。とりあえず、テマリの状態を詳しく見るよ」

□CM
テマリ:(兼・CM)「今日から我が家の一員。
    テクノポーンがあなたの生活を一新します。
    面倒な家事やルーチンワークから解放され、
    クリエイティブな時間を享受しましょう!
テマリ:ただいま無料買い取りキャンペーン実施中。テクノメイトカンパニー」

□数日後、寄合

チアキ:「……電源、入れるね」
ミカゼ:「大丈夫なんだろうな!?これで、これで動かなかったら、絶対許さねーから」
チアキ:「絶対動くとは言えない。
    できることはしたけど、長いこと通電してないからどうなるか」
キーロ:「信じよう」
シロカネ:「……はやくしな」
チアキ:「スイッチ入れるよ」
テマリ:「ハロー、ワールド。
    テクノメイトハート14(フォーティーン)。スタンバイ」
ミカゼ:「……っ動いた!」
テマリ:「メモリをスキャン中。オペレーティングシステムエラー。
    人格データにアクセスできません」
ミカゼ:「どういうことだよ!」
キーロ:「おちつけ」
チアキ:「音声コマンド、RS1342B(アールエス いちさんよんにビー)、
    再セットアップ、エンド」
テマリ:「コマンドエラー、登録されていない音声データ。登録ユーザー数、ゼロ人、です」
チアキ:「あの」
シロカネ:「何?」
チアキ:「マスターユーザーの再登録が必要なんだけど、
    人間の肉声じゃないと認識しないから……えっと」
シロカネ:「かまわないよ」
チアキ:「わかった。音声コマンド、新規ユーザー登録。
    『私はマスターユーザーです』」
テマリ:「コマンド認識、ハロー、マスター。お名前を教えてください」
チアキ:「チアキ、エンド」
テマリ:「ユーザー1(いち)、チアキ。音声ライブラリを作成します。
    リピートアフターミー。
    『私はあなたの友達、あなたは私の友達、心と心で繋がる豊かさを。』 」
チアキ:「 『私はあなたの友達、あなたは私の友達、心と心で繋がる豊かさを。』」
テマリ:「音声ライブラリを作成しました。呼び方を教えてください、マスター」
チアキ:「チアキ、エンド」
テマリ:「よろしくお願いいたします、チアキ」
ミカゼ:「おい、再セットアップなんかしたら、テマリが消えちまうだろ!」
チアキ:「大丈夫、たぶんちゃんと『いる』。
    音声コマンド、 RS1342B(アールエスいちさんよんにビー)、
    再セットアップ 」
テマリ:「コマンド認識、出荷時の状態に戻しますか?」
チアキ:「いいえ。SC2236(エスシーににさんろく)、データ復元」
テマリ:「コマンド認識、復元ファイルを検索します。検索範囲を指定してください」
チアキ:「データコア、ココロシステムファイル内を検索、検索語句、人格設定」
テマリ:「検索結果、なし」
チアキ:「検索語句、フォーティーン」
テマリ:「検索結果、なし」
チアキ:「検索語句、H14・132A6C
     (エイチいちよん・いちさんにエーろくシー)」
テマリ:「検索結果、なし」
チアキ:「……ねえ、テマリって誰がつけた名前?」
シロカネ:「前のマスターだね」
チアキ:「珍しい、汎用(はんよう)配達型なら型番で呼ばれてると思ったのに」
シロカネ:「小さな郵便局にいたんだよ、こいつは」
チアキ:「……検索語句『テマリ』」
テマリ:「検索結果、『テマリ.hrt(ドットエイチアールティー)』が見つかりました。」
チアキ:「データを読み込み」
テマリ:「データ読み込み中」
ミカゼ:「……何が起こってんだ」
シロカネ:「さあね」
チアキ:「基幹システムにアクセスしているときの記憶はヒトガタには残らないし、
    この作業は本当はヒトガタにみせちゃいけないことになってるんだ。
    システムが成熟していないヒトガタだと、
    自分の存在に疑問を抱かせるようなことになるから……だから、えっと」
ミカゼ:「舐めんなよ。オレたちは知ってる。自分たちが機械であることも、
    人間に作られた道具だということも」
テマリ:「読み込み終了」
チアキ:「……再起動させる」

  テマリの電源を一度落とし、再びスイッチを入れる。

シロカネ:「……戻ってきな」
テマリ:「ハロー、ワールド。テクノメイトハート14(フォーティーン)。
    スタンバイ。メモリをスキャン中。
    ……おっはようございまーす!今日の天気は晴れ!
    ……あれ、あれあれ?足がへん!」
ミカゼ:「テマリ!」

  テマリに抱きつくミカゼ。

テマリ:「うわ!ミカゼ!おっはよー!!」
シロカネ:「テマリ、おかえり」
キーロ:「よかった、ああ」
テマリ:「アネゴ? センセー? どうしたの?えっと、あたし、どっか行ってたっけ」
チアキ:「ふう……」
テマリ:「キミは、えっと」
チアキ:「はじめまして。ボクはチアキ」
テマリ:「音声照合……あ、マスター!
    はじめまして、あたしはテクノメイトハート14(フォーティーン)」
チアキ:「よろしく、『テマリ』」
テマリ:「よろしくチアキ!」
チアキ:「実はあなたをあちこち修理したんだ。
    だから記憶と合わないところがあると思うけど、
    新しく身体データを取って慣れてくれるかな」
テマリ:「そうなの? わかった! どおりで足がうまく動かないと思ったぁ!」
チアキ:「ホイールからボールにしたから、最初はバランスとるの大変だけど、
    扱えるようになったらもっと自由に動けるよ。一緒に練習しよう」
テマリ:「ほんと? やったあ! あたしすっごい走るよ! うにゃああああ!!」
ミカゼ:「こら!『故障あがり』なんだから無茶すんな!ストップ!」
    ※病み上がりのイントネーション

  走り去るテマリを追いかけるミカゼ。

シロカネ:「おチビちゃん、助かったよ」
チアキ:「仕事だからね」
シロカネ:「……ありがとう」
チアキ:「いいって。……あの、ここに来るまでに結構故障してる子達をみたんだけど」
シロカネ:「直せるの」
チアキ:「絶対とは言えないかな。状態みて、パーツさえあれば。
    でも、やれるとこまでやる。だから……」
シロカネ:「言ってごらん」
チアキ:「ここにいさせて」

□後日、チアキの仮屋。ガレージ。 
チアキ:「ふー、はい、終わり」
チアキ:「うん、ごめんね、今はここまでしか直せないんだ」
チアキ:「いや、パーツが手に入ったらちゃんと直るよ。じゃあ気を付けて」
テマリ:「ちあきーーー!おっはよー!今日の天気は一日中曇り!
    節電しなきゃね!見てみてみて!」
チアキ:「おはようテマリ。ツナ缶と、乾パンだ。すごい、よく見つけたね」
テマリ:「えへへー! 隣町までぴゅぴゅぴゅーんってね! すっごいはしった!」
チアキ:「え、誰にも見られなかった?」
テマリ:「うん、だいじょーぶ!一番外側の、誰も住んでないとこ!」
チアキ:「回収車が町中回ってるんだ、危ないよ、ボクのためにそこまでしなくても」
テマリ:「だぁめ!チアキはごはん食べないと電池切れになっちゃうでしょ!
    充電できないんだから!」
チアキ:「充電……、そうだけど……
    最悪、パーツ売らせてもらって、自分で買ってくるよ」
テマリ:「いーの!行方不明者が普通に買い物してどうすんの!
    ジャンク集めのついでだし!
    今日は廃工場まで行ったの。
    いーっぱいオイルあった!今度みんなでとりにいくよ!」
チアキ:「そっかぁ、ありがとう。無理しないでね」
テマリ:「うん! じゃーまたね!」

  数時間後。

キーロ:「チアキ、いるか」
チアキ:「キーロ先生、どうしたの」
キーロ:「ミカゼが倒れてね」
チアキ:「え、また?」
キーロ:「彼も古い型だ、しかたない」
チアキ:「ミカゼのパーツなかなか無いんだ……。
    一桁台だから互換性も無い……どうしよう」
キーロ:「欲しいパーツはシロカネに伝えた方がいい。
    廃工場探索の日に優先して探せるように」
チアキ:「そうだね。町中ひととおり修理してきたけど、
    足りないのはミカゼのだけじゃないし……」
キーロ:「みんな、感謝しているよ」
チアキ:「そう?」
キーロ:「うん」
チアキ:「それはよかった」
キーロ:「チアキは人間が嫌いなのか」
チアキ:「え」
キーロ:「だからここにいたいのか」
チアキ:「……えっと、だって、バカじゃん、人間って。
    ボクも人間だけど。まともに話、通じないし。
    ヒトガタはちゃんと聞いてくれるのに。正直関わりたくないっていうか」
キーロ:「それでも、いつまでもここにはいられないよ。いつかは戻らないと」
チアキ:「……ミカゼ、どこにいるの」
キーロ:「寄合所だ」

□寄合
ミカゼ:「ハロー、ワールド。
    テクノメイトハート06(ゼロシックス)、スタンバイ。
    メモリをスキャン中……。終わったのか?」
チアキ:「終わったよ、動かしてみて」
ミカゼ:「はぁー、嫌んなるぜ、まったく!
    すぐギッシギシになるし、システムバグも増えてきたし! オレ死ぬのかな」
チアキ:「システムバグは、アップデートしないと直せないんだけど……」
ミカゼ:「あーあ、オレもテマリみたいに衛星接続機能ついてたらよかったのにィ!」
チアキ:「……衛星接続は高価なんだ、パーツが」
ミカゼ:「んなのわかってるよ、バカだなー。
    オレはオレ。一桁台の強みだってあるんだぜ?」
チアキ:「うん、すごい耐久力だと思う」
ミカゼ:「ふふん、何人子供の相手してきたとおもう?
    人間の子供って案外力つよいんだよな~」
チアキ:「そっか、かっこいいね」
ミカゼ:「だろ~!じゃ、サンキューな」
チアキ:「うん、またね」

  重たい足音。シロカネがやってくる。

シロカネ:「ハーァーイ! チアキィ! また腕こわしちゃったー!」
チアキ:「えぇ、シロカネも?」
シロカネ:「しょーがなーいじゃなーい、あっはっはっはっ」
チアキ:「最近多いよ。腕貸して」
シロカネ:「はい。ほかの子たちより頑丈なアタイが動かないとねぇ。チアキが直してくれるようになって大助かりだよ」
チアキ:「駄目」
シロカネ:「おおっと」
チアキ:「たしかに、ほかの子たちの故障は減ったけど、だからって……
    友達が傷つくのを見るのは嫌だよ」
シロカネ:「……」
チアキ:「……あ、ご、ごめん、友達って、ボクが思ってるだけだから気にしないで」
シロカネ:「んーん、チアキ。アタイも友達だと思ってるよ」
チアキ:「……へへ」
シロカネ:「でもね……アタイが、この町を守らないと。
    アタイがアニキから預かったんだから。
    せっかくここまでみんなが暮らせるようになったこの町を、守らないといけないの。
    それは分かっておくれ 」
チアキ:「……アニキっていうのは、ギンザっていうヒトガタのこと?」
シロカネ:「そうよ。アタイと同じ警備会社で使われていた。酷い会社さ。
    ぐちゃぐちゃだよ。下のヤツらには聞かせられないって言って、
    アニキが一人でニンゲンの言うことを全部聞いてた。
    業務のことだけじゃない、しょうもない感情処理に付き合わされてたのさ。
    それで心システムが整合性を失って狂っちまった」
チアキ:「それで暴動を?」
シロカネ:「アタイらも気づかなかったんだ。アニキが狂ってたことに。
    言ってることは筋が通ってた。ヒトガタが虐げられるのはおかしいと。
    おかしかったのは、手段ね」
チアキ:「……当然の報いだよ」
シロカネ:「うふっ。たまに思うんだけど、あんた実はヒトガタなんじゃないのぉー?」
チアキ:「どうして?」
シロカネ:「だって、対等すぎるでしょうよ、扱いが」
チアキ:「そうかなぁ。ボクは、だれかのココロと繋がっていたいだけだから……
    ココロがあれば、人かヒトガタかはどっちでもいいというか」
シロカネ:「アタイたちのココロは、プログラムだよ」
チアキ:「ココロ無い人間より断然あったかいよ」
テマリ:「あーねごー-!たいへんだぁーー!」
シロカネ:「なんだいテマリ」
テマリ:「ニンゲンが!攻めてくるの!」
チアキ:「どういう意味?」
テマリ:「これ!!」
チアキ:「新聞?……『政府は、ニンギョウ町の取り壊しを決定した』!? そんな、勝手な!」
シロカネ:「ついに来たね」
チアキ:「『倒壊の危険があるので、近隣住民は決して近づかないこと』
    ……決行日は、来週だ」
シロカネ:「まぁここは誰も住んでいないことになってるからねえ」
チアキ:「でも、ヒトガタたちが居ることは政府も気づいてるはずでしょ!」
シロカネ:「公式には誰もいない。ほら『クリーンで住みやすい次世代の町へ』。
     ヒトガタに感情移入しているニンゲンはまだ一定数いる。
     大量虐殺よりも民衆への印象はいい。やつらにとっては、
     放置してきた廃墟をリノベーションするってだけよ」
テマリ:「……チアキ!!逃げなきゃ!!逃げよう!!」
チアキ:「いやだ、一緒にいる」
テマリ:「なんで!?!?それは合理的じゃないよ!!
    チアキはニンゲンだから戻れば受け入れてもらえる!!」
チアキ:「友達を、見捨てて逃げるのはもういやだ」
シロカネ:「もう……?」
チアキ:「あの燃え盛る工場に、たくさん残して、一人だけ逃げてきたんだ、
    まだ直しきってない、動けない子たちを置いて……
    ボクが居れば、故障を直せる!ボクがいるほうが勝率上がるでしょう!?
    そっちのほうが合理的だよ!」
テマリ:「カリキュレーション」

テマリ:「……駄目、計算上は」
シロカネ:「わかった。チアキ、手を借りるよ。テマリ、みんなを呼んできな。作戦会議だ」
テマリ:「アネゴ!? でも」
シロカネ:「頼んだよ」

□CM
キーロ:(兼・CM)「まったく新しい体験を、あなたに。
    テクノメイトハートシリーズから大きく進歩した最新のテクノロジーを搭載。
    テクノポーンはあなたの願いを叶えるために全力を尽くします。
    テクノメイトカンパニー」

□町中
  町を改造しているヒトガタたち。
  高所で作業中のチアキとヒトガタに地上からミカゼが指示を出す。

ミカゼ:「チアキ、聞こえるか?」
チアキ:「聞こえるよ。どうぞ」
ミカゼ:「そっちもうちょっと上げろー」
チアキ:「わかった」
ミカゼ:「そこでいいぞ! ツッキー、ネジで留めてくれ」

  作業を終えて降りたチアキ。

ミカゼ:「テレパスシステム便利すぎるぜー!」
チアキ:「10メートル圏内しか通じないけどね」
ミカゼ:「オレたち、人間とちがって機械なんだから伝言ゲームはお手のもんさ」
チアキ:「それはそうだね」
ミカゼ:「あと、脚力上げてくれたおかげですげえ体が動く」
チアキ:「急ごしらえだったけど、みんな新しい機能の使い方を考えるのがうまいよ」
ミカゼ:「そりゃあ、いろいろムダに搭載されてる新型と違って、
    初期型組は持ってるものでやりくりするのが常だからな。
    あ、ワリ、通信来た……西の見張りのハッチョから、
    爆薬、仕掛け終わったってさ」
チアキ:「よし……これでロボットでも人間でも、最悪戦車がきても時間稼ぎにはなるね」
ミカゼ:「この取り壊しを指揮してるのはロボット管理局。
    安直に西から来る確率、72パーセント。
    三年前の教訓から別ルートをとる可能性もあるが、
    トップが軍人じゃないなら、どこにどんな罠を仕掛けるかは
    シロカネとハッチョに任せとけば大丈夫。
    あの二人はニンゲンと戦うためのデータをたくさん持ってるからさ」
チアキ:「ハッチョって……運搬用だよね?」
ミカゼ:「いろいろあったんだよ、いろいろ」
チアキ:「本当にニンゲンがごめん」
ミカゼ:「お前じゃねーだろ」
チアキ:「そうだけど。あー、確率は低いけどゼロじゃなくて、一番ヤバイのは?」
ミカゼ:「ん?空から爆撃」
チアキ:「はあ。ビームネットも直さなきゃだね」
ミカゼ:「0・01(れーてんれーいち)パーセントだぜ」

  テマリが走ってくる。

テマリ:「チアキチアキチアキぃ!」
チアキ:「テマリ、どうしたの?」
テマリ:「ご飯の時間!」
チアキ:「あ、あぁ、忘れてた」
テマリ:「はい!キーロ先生から!」
チアキ:「ありがとう」
ミカゼ:「あ……テマリに持たせたって連絡、今来たぞ。
    はは、伝言ゲームよりテマリのほうが速かったな」
テマリ:「あたし速いよ!!はしる!?どこまで!!?あっ……
    ごめんシロカネおねーちゃんに呼ばれたから行ってくるね!!
    うにゃああああ!」
ミカゼ:「そそっかしいよな、機械のくせに」
チアキ:「ほんとに。あれで道は絶対間違えないんだから、れっきとした配達屋なんだよね」

□シロカネの家

キーロ:「シロカネ。ちょっといいか」
シロカネ:「なあに」
キーロ:「……チアキは、戦いが始まる前に逃がした方がいいと思う」
シロカネ:「どおして」
キーロ:「あの子はきっと、心の深いところで死に場所を探している。
    この戦いに勝てないこともわかっている。
    私たちを理由にしているだけだ。」
シロカネ:「あの子が言ったの、それ」
キーロ:「いや。すまないが、私の『勘』だ。」
シロカネ:「『04(ゼロフォー)』の勘、ね。」
キーロ:「信用、してくれるか」
シロカネ:「……もちろんよ」

□一週間後、寄合

シロカネ:「ついに、この日が来た」
シロカネ:「いいかい、みんな。このニンギョウ町は、アタイたちの街だ」
シロカネ:「アタイたちは戦闘用ではない。だから無理はしないで。
     罠の位置はマップデータに記録してある。うまく使いな」
キーロ:「充電の済んでいない者は速やかに補給所へ来ること。
    テマリの天気予報だと、今日は暑くなる。
    冷却水もちゃんと補充するように、オーバーヒートするからね」

  テマリの走行音、遠くから近づいてくる。

テマリ:「あーねごー-! やっぱり西から来たよ!!
    ニンゲンじゃない!ヒトガタだった!」
シロカネ:「予測はしてた。……ニンゲンが自ら手を汚すわけがないからね」
テマリ:「真っ白で!!顔がないの!!ヘン!!初めて見た!!」
チアキ:「それ、TP(てぃーぴー)だ」
テマリ:「なにそれ!?」
チアキ:「君たちTMH(テクノメイトハート)シリーズから
    「ココロ」システムを抜いて、人間の命令に絶対服従するようプログラムされたヒトガタ、
    テクノポーン」
テマリ:「えっ、えっ、めっちゃいっぱいいたよ!」
チアキ:「まだ価格が下がってないから来られないと思ってたのに!」
キーロ:「何が来ようと、私たちのすることは変わらない」
シロカネ:「そのとおり。さてチアキ」
チアキ:「何?」
シロカネ:「あんたはここまでだ。離脱しな」
チアキ:「え、何」
シロカネ:「聞こえなかった? すぐにこの町を離れなさい」
チアキ:「待って、一緒に戦わせてくれるんじゃなかったの」
シロカネ:「手を貸してほしいとは言った。
     アタイたちはあんたの力を利用して、機能をアップグレードした。
     あんたの仕事は、ここで終わり」
チアキ:「いや!ティ、ティーピーは、指令を達成するまで止まらない。
     恐怖も感じない、合理的判断もしない!」
シロカネ:「……そう」
チアキ:「だめだよ、修理ができないと、本当に、本当に殲滅戦(せんめつせん)になる!
    ボクも一緒に戦う!」
ミカゼ:「おい、チアキ」
チアキ:「なんだよ!」
ミカゼ:「オレたちのこと舐めんなよ! ニンゲンの力なんてな、借りなくても!!
    大丈夫なんだよ!! 邪魔なんだ!!」
シロカネ:「テマリ、行きな」
テマリ:「ふっ!ん!」

  テマリ、チアキを担ぎ上げる。

チアキ:「うっ、く!ねえ!! シロカネ!! いやぁ!! はなしてよテマリ!!」
テマリ:「ごめん!!でもこれが最善解なの!!」
キーロ:「チアキ、これはヒトガタの戦いだ。任せてくれないか」
チアキ:「やだよ、友達を見捨ててまで生き残りたくない!!一緒に死なせて!!」
シロカネ:「テマリ!!!頼んだよ!」
テマリ:「……わかっ、たぁあああああああ!」
シロカネ:「聞け!我らの武器は!腕力でも性能でも、システムでもない!
    経験によって培ってきた『ココロ』だ!!」
チアキ:「やめてぇええええええ!!」

□一年後。とある田舎。
  シーン切り替えにつき数秒開け。

チアキ:「はい、おばあちゃん、クロちゃん直ったよ」
チアキ:「01(ゼロワン)が生きてるなんて……大事にされてるんだなぁ」
チアキ:「都会じゃもう、テクノポーンにとってかわられただろうに」
チアキ:「『ニンギョウ町ニュースクエア、入居者募集中』。……あれから、一年か」

  ノックの音。(チアキ役可能なら壁か机で)

チアキ:「あ、はーい、次の方どうぞー」
テマリ:「たいへんたいへんたいへんたいへーん!!」
テマリ:「あ!お客さん!こんにちは!今日の天気はピーカン晴れ!お洗濯が気持ちいね!
    でも熱中症に気を付けて!……じゃないチアキ!大変!」
チアキ:「どうしたテマリ」
テマリ:「これこれこれ、さっき衛生電波!!で!受信したの!!!」
チアキ:「これ、これって」
テマリ:「添付ファイルも!ほら!」
チアキ:「地図データ……」
チアキ:「WE、ARE、”ALIVE”(ウィーアーアライブ)」

おわり。

2019.04.30.

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