ショップに縦書きPDF/Wordがまだない場合は、「作って!」とご連絡ください

『マスカレリアンズ 〜伊保典司の毒吐く〜』【♂2:♀1】30分

こちらの台本は、ヒスイさん企画で、2026年3月に行われた『ゲキアサ! -全員、メタモろーぜ-』という声劇シナリオ企画に参加した作品です。変身ヒーローと魔法戦士もののチームに分かれて作品を執筆し、ボイストランドに投稿しました。

当作品は追加シナリオです。

ロゴは天米わた様に制作いただきました!


『ゲキアサ! -全員、メタモろーぜ-』
公式追加シナリオ

▼企画詳細は特設サイトにて
ゲキアサ特設サイト

概要

街には、「ファンガス」と呼ばれる怪物が現れる。
キノコのような見た目をしたそれは、胞子を撒き散らし、人間に寄生し、精神を乗っ取るのだ。しかし、その過程において、「ヒトのように」振る舞える個体は一握り。


特殊菌糸類研究所のマスカレリアシステムを整備するエンジニア・伊保典司は、最近入ってきた新人オペレーター・朽葉颯のお悩み相談を聞いていた。なんと、新人戦闘員でもある彼の幼馴染・天草環子が「ベニテングラーメン」が食べたいと言い出したそうだ。絶対食わせるなと止める伊保に対し颯は、「キノコレシピをくれる女性と知り合ってベニテング狩りに行く」と言う…

  • 所要時間:約30分
  • 人数:男性2、女性1
  • ジャンル:コメディ、変身ヒーローもの

登場人物

  • 伊保
    伊保典司(いぼ・てんじ)▶(40代後半~ 50代)現・特殊菌糸類研究所のエンジニア。倉捨所長と同期の大学院生だった。毒キノコハンターで毒キノコを愛し毒キノコを食していた。食べすぎて肝臓と腎臓と脳が少しやられている。スギヒラタケで死にかけた。そこから愛憎入れ替わり「毒キノコを駆逐してやる」と、旧研究所を抜けて倉捨の元に参画。毒が効かない。

  • 朽葉颯(くちば・はやて)▶ (22歳)苦労人。研究所のオペレーター。スパダリ。事故で片腕をなくしたが、もとがスパダリなので処理速度が普通になった。釘つきのまな板があれば料理もできる。タマゴテングリングの適合者・環子の世話係で環子のお願い絶対叶えるマン。
  • リエ
    当銀リエ(とうぎん・りえ)▶(29歳)株式会社ホ(クト)の研究員。キノコ大好き。元気で子供っぽいギーク。暴走しがち。キノコ博士と呼ばれると嬉しい。エリンギのファンガスだが、エリンギと共生しており自我を保っている。毒キノコの安全な食べ方を真剣に研究しているが会社から止められてる。 兼役▶エリンギ 駄々っ子「〜なの!」口調。

本編

■とある山/秋

リエ:さぁ! 行きますよ颯さんっ! キノコが私たちを待っている!

颯:ええっ! 行きましょうリエさん! 新鮮なキノコを求めて!

伊保:(唸り)

伊保:(M)俺の名前は伊保典司(いぼ・てんじ)。
   特殊菌糸類 研究所に勤めるしがないエンジニアで、
   マスカレリアシステムの開発・維持を主な業務としている。
   まぁあれだな、ヒーローだヒロインだバトルだなんだとは無縁の、一般人だ。

伊保:(M)ただの職員である俺が、一体どうしてこんな状況に巻き込まれているのか。
   話は、3日前の正午までさかのぼる……

■3日前。特殊菌糸類研究所/整備部

颯:伊保さん。……あの、悩んでることがあるんです。

伊保:……おう、どうした朽葉。

伊保:(M) 最近研究所に入ってきたコイツ、朽葉颯(くちば・はやて)は、
   主に戦闘員・マスカレリアを補助するオペレーターだ。
   片腕が無いことから、壮絶な人生を歩んできた末にここにたどり着いたんだろう、
   と俺は密かに心を砕いていた。

颯:こんなこと……伊保さんに聞くのは、間違ってると思うんですけど……

伊保:(M)思い詰めた朽葉の表情に、
   タマゴテングのマスクを修理する手を止めて、向き直る。
   新人の泣きごとを聞くのもベテランの役目だからな。

伊保:……言ってみろ。聞くだけ聞いてやる。

颯:……毒キノコって美味しいんですか?

伊保:……………………ハァ?

伊保:(M) ハァ???

伊保:毒キノコが、美味いかだと?

颯:すみません、所内随一のキノコ嫌いである伊保さんに聞くことじゃなかったですよね……。

伊保:食おうとしてるのか?

颯:いえ、僕じゃなくて環子(たまこ)ちゃん、
  あ、僕と一緒に入った、タマゴテングの適応者なんですけど……。

伊保:お嬢様のこたぁ知ってるよ。
   ……結論から言う。食うのはやめておけ。

颯:やっぱり、そうですよね。毒で死んだりしたら――

伊保:量さえ守れば死にやしねえ。問題はそこじゃねぇんだ。

颯:え?

伊保:……あいつら、美味すぎるんだよ。

颯:……え?

   伊保、颯の肩をがっ、と掴む。

伊保:どうしてそうなった。

颯:この間、とある怪人……ベニテングタケのファンガスと戦ったんですが、
  そのあとベニテングタケについて調べた環子ちゃんが
  「キノチューブで、ベニテングタケをつかってラーメンをつくる動画を見たんですの!
  美味しいのかしら? わたくしも食べてみたいですわ! 颯、おねがーい!」って……

伊保:お嬢様がよォ!!  お前も拒否しろ???

颯:いや僕は環子ちゃんの執事なので「環子ちゃんのお願いは絶対叶える」が信条なので。

伊保:もう執事と主人じゃねえだろ?
    戦士とオペレーターだろ? 目ぇ覚ませ!

颯:それでですね。

伊保:まだあんのかよ。

颯:この研究所に入って、キノコの怪人……ファンガスと戦うようになってから、
  めっきりキノコが食べられなくなっちゃって。

伊保:ああ。よくある症状だな。何人かいるよ、そういう奴。

颯:で、とりあえず普通のキノコから試してみようと思って、
  スーパーマーケットで買い物してたんです。

■回想。スーパーマーケット。

   颯、しめじを手に取る。

颯:……うっ、キノコ。

リエ:……しめじが、どうかしましたか?

颯:えっ!?  あ、ああ、すみません。邪魔でしたよね。どきます。

リエ:いえ、邪魔ではないです。そのしめじ、買わないんですか?

颯:あ、いや……えと、しめじって苦いよなぁ、って。思って。

リエ:ムム!!!! いまのしめじは!!! 苦くないのです!!

颯:へ?

リエ:(オタク特有の早口)たしかにお兄さんくらいのご年齢ですと
   子供の頃に食べておられたしめじは苦かったかもしれません
   でもいまのしめじは研究と開発が進んで
   昔と比べて苦味が抑えられているんです だから私のことは嫌いになっても
   しめじのことは嫌いにならないでください!!!!

颯:……へ?

リエ:ふーっ、ふーっ

■戻って/整備部

颯:ということがありまして、流れでその女性と連絡先を交換したんです。

伊保:なんでなんでなんで? なんで連絡先交換した?

颯:美味しいキノコレシピを教えてくれるっていうのと、キノコパーティしましょうって約束したのでつい……。

伊保:「つい」でナンパされるな。お嬢様が泣くぞ。

颯:え? なんで環子ちゃんが泣くんですか?
  リエさんはただ親切で毎日キノコレシピを押し付けてくるだけなんですよ。

伊保:押し付けてくるって自分で言ってるぞ。

颯:なので最近僕らの食卓、キノコまみれなんです。

伊保:あーそーかよ良かったじゃねぇかキノコ食えるようになって……ん?
   スーパーでキノコレシピを押し付けてくる……?

颯:(無視)伊保さんって、倉捨(くらすて)所長と同期だとお聞きしまして……
  嫌いとはいえキノコにお詳しそうですし、なにかヒントくれるんじゃないかって。
  そうですよね。ベニテングラーメンなんて作っちゃダメですよね。
  環子ちゃんの願いを叶えられないのは悲しいけど――

伊保:(遮り)ああーーーーっ!

颯:っ! いきなりなんですか、大声だして。

伊保:そいつ、知ってるわ。

颯:え? ベニテングラーメンのキノチューバーですか?

伊保:ちげえよ。そのナンパ女のほうだよ。

颯:リエさんはナンパ女じゃ――

伊保:リエ、苗字は、当銀(とうぎん)。当銀リエ。違うか?

颯:合って、ます。なんで知ってるんです?

伊保:数年前にも同様の事件があったんだ。

颯:事件。

伊保:スーパーでキノコ売り場にいると変な女に絡まれて、
   キノコ料理のレシピを押し付けられるっていう。

颯:……事件?

伊保:初めは普通のキノコ料理のレシピなんだが、
   仲良くなるにつれて毒キノコを使った料理を食わせようとしてきて、
   中毒被害者が急増したんだ。
   ……それで俺たちが調査することになった。
   結果、その女は、菌糸と完全に共生を果たした、
   ヒト型ファンガスだったとわかった。

颯:そんなことが……!?

伊保:ああ。俺たちも目を疑ったよ。
   キノコが侵食ではなく、共生を選ぶだなんて。

颯:それで、リエさんはどんなキノコと……?

伊保:(息を吸う)(鼻から出す)…………エリンギ。

颯:……えっ?

伊保:(間髪入れずに)エリンギ。

颯:ファンガスって毒キノコ以外にもいるんですか?

伊保:いる。性格が温厚で派手に活動しないだけでな。

   スマホの通知。

颯:あ。リエさんからだ。『今週末、キノコ狩りにいきませんか?』

伊保:断れ断れ。

颯:『ベニテングタケがとれるとこ、案内します』 はっ! 伊保さん!

伊保:おい、ラーメン作る話は言ってねぇんじゃねえのかよ。

颯:その場では言わなかったんですけど、仲良くなったんで昨日ぽろっとメッセージで。

伊保:朽葉ァ……断れ!

颯:いやです!!

伊保:ファンガスだぞ!

颯:でもいい人です!!

伊保:ふざけるな!

颯:ふざけてないッ! 環子ちゃんの願いを叶えたいんです!

伊保:(舌打ち)ッ!

颯:(真剣な眼差し)……!

伊保:勝手にしろッ……腹ぁ壊そうが、手ぇ震えようが、幻覚見ようが俺は助けねえからな。

颯:伊保さん……!

伊保:話は終わりだ。マスクは明日取りに来い。

颯:……失礼します。

   颯、退出後。

伊保:(電話)倉捨《くらすて》。ああ、伊保だ。またあのエリンギが活動してるらしい。
   ……そうだ。朽葉が遭遇してな……今週末に2人でキノコ狩りにいくんだと。
   マスカレリアを同行させろ。……あ? なんでだよ。お嬢様は?
   ……健康診断? 知ったこっちゃねえよ! カレンがいない今ッ

     「お前がついて行ってくれ、頼む」と言われた。

伊保:(電話)……は? おい、今のファンガスには、
   俺のガジェットはもう効かねえってわかってるだろ!

     「エリンギに戦闘能力はない、戦闘は必要ない。が、朽葉だけだと暴走したら止められない」と言われた。

伊保:(電話)~~~~~ッ! てめぇっ、貸しイチだからな!!

伊保:(M)そんなこんなで、俺はエリンギのファンガスと、
   ポンコツ執事のキノコ狩りに巻き込まれたのだった。

■山。

リエ:ムム! 颯さん! あそこにきのこが!

颯:お! さっそくですか。

リエ:……これはッ、なめ(こですね)

伊保:(さえぎる)なめこだな。

リエ:ム!?

颯:野生のなめこってこんなに大きいんですね!
  うわぁ……。いっぱいある……

リエ:ちょっと、おじさん。勝手についてきた上に出しゃばらないでください。
   颯さんは確かに歳の割に可愛いらしいですよ?
   でも、れっきとした成人です。保護者同伴の必要あります?

伊保:誰が付き添いのパパだ。……たく、キノコ狩りに素人だけで行かせられるか。

リエ:私という専門家がいるのでおじさんは不要です。お帰りください。

伊保:どの程度の『専門家』か分からんやつに、大事な同僚は任せらんねぇな。

リエ:ムムム!

伊保:へっ。

颯:肉厚でおいしそうですねえ。

伊保:全部は取るなよ。来年も収穫できるようにな。

颯:なるほど。あのーどちらか、籠を持っていただけると……

リエ:はいっ!私がッ!

颯:ありがとうございます、リエさん。
  片手だと、どうも上手くいかなくて……リエさんがいてくれてよかったです。

リエ:……きゅん。

伊保:きゅん?

颯:よし、あらかたとれましたね! なめこゲットです!

リエ:おじさん……さっきの、取りきらないようにって注意……
   よくわかってるじゃないですか……

伊保:若ぇころはキノコハンターと呼ばれてたんだ。お前さんとは年季が違うんだよ。

リエ:わ、私だって現役研究員です!

伊保:ほお?

リエ:だれもが知ってるあの大企業「ホ」(クト)

颯:(言わせないように)お二人ともーこっちにもキノコがありましたよー! これは食べられるのかなあ。

リエ:颯さん~! 野生の9割は食べられません! 1人でとらないでくださぁい!

伊保:おおー。そりゃクリタケだな。食えるぞ。

リエ:ムム!

颯:こっちは?

リエ:ムキタケですね! 食べられます!

伊保:いや、こいつはよく似ているがツキヨタケだ。
   根本を見ろ、黒いシミがある。こっちがムキタケだ。シミがねえ。

リエ:え!?

颯:わあ、どっちがどっちかわかりませんね。

伊保:ふ。知識だけあっても間違えやすいキノコだ。
   まあ~、「お嬢ちゃん」じゃ見間違えても無理はねえなあ。

リエ:ムムゥ! 知ってたのに……っ

伊保:ツキヨタケは嘔吐、下痢、腹痛といった、消化器系の症状を引き起こす。
   毒成分はイルジン類、1mg摂取で中毒になる。ちなみに美味い。

リエ:た、食べたことが!? どどどどうやって

伊保:イルジンは水溶性だからな。
   塩漬けと水にさらすのを繰り返して、毒抜きに成功した事例がある。

リエ:ほんとに!? 知りたい! 食べたいです!!

伊保:食うな。ぜってえ食うな。

颯:ツキヨタケ……聞いたことあるな……

伊保:(小声)ファンガスリングになってるだろ。ランクSだ。

颯:(小声)ああ! え、食べれるのにSなんですか?

伊保:(小声)食えるキノコとよく似ていて日本におけるきのこ中毒の8割を占めるからだ。死亡例もある。

颯:(小声)こわッ

颯:お、これはさっきのクリタケですね!

リエ:待ってください! はむ!

颯:えっ!? リエさん!? キノコを生で食べるのは

リエ:にがっ! ぺっぺっ! これはニガクリタケです!
   猛毒キノコです! 残念ながらたべられません……苦くて……

伊保:残念がるな。食おうとするな。

颯:すごい……まさか味覚で確かめるとは……さすがです、リエさん! よっ! キノコ博士!

リエ:むふふん!

伊保:(小声) ニガクリタケはランクCだ。

颯:(小声)猛毒なのに?

伊保:(小声)苦すぎて食ったら気づくから誰も死なない。

颯:(小声)ランクって誤食しやすさで決めてます?

颯:白いきのこがありますね。

リエ:お!? 食べれるかも!?

伊保:ぜってえ触るな。

リエ:なんでですか! 美味しいシロマツタケモドキかもしれないじゃないですか!

伊保:白いきのこには基本触るんじゃねえ。ドクツルタケ、
   シロタマゴテングタケ、
   日本では少ないがタマゴテングタケと見分けが付きにくい。見た目はほぼ一緒だ。

颯:タマゴテング……!(環子ちゃんのだ、と喜び)

伊保:目を輝かすな。どれも1本で成人男性の致死量を超える。
   症状は嘔吐、下痢、腹痛。一旦、
   回復するが数日後に肝臓と腎臓をやられて死に至る。

リエ:・・・ひっ

伊保:ちなみにドクツルタケは美味い。

リエ:エッ

伊保:俺は3g口に入れて吐き出したが内臓をやられた。以来、酒も控えてる。

颯:体張りすぎでは!?

リエ:美味しい……のかぁ……

伊保:絶対食うな。試すな。口に入れるな。俺みたいになりたいか?

リエ:うぅ……でも私……(ファンガスだしいけるんじゃ、の意味)

伊保:死にたくなかったらやめとけ。(ファンガスでも死ぬぞの意味)

颯:この辺は木の種類がちがいますね。*白樺《しらかば》、ですか?

リエ:はい! 今回の大本命! ベニテングタケの生えているエリアです!
   ベニテングタケは白樺と根っこで栄養をやり取りしているのです!
   毒成分は『イボテン酸』など数種類の複合です!
   症状は消化器系に加えて、めまい・錯乱・幻覚・痙攣《けいれん》など!

颯:すごい! 詳しい! さすがキノコ博士!

リエ:むふふん!!
   イボテン酸は昆布の旨み成分・グルタミン酸の10倍の旨味をもちます!
   つまり!美味しい!

颯:おお!!

リエ:そして死亡例が少なく即死級ではないのです!
   つまり! 食べれる!

颯:おおお!!

伊保:だから食うなっつってんだろ。

颯:なんでですか!
  伊保さんもどうせ食べたことあるんでしょう!?

伊保:あるに決まってんだろ。

颯:じゃあいいじゃないですか!!

伊保:良くねえ!

伊保:(小声)Sランクなんだぞ。

颯:(小声)死なないからって食べ過ぎて体を壊すからSなんですよね?

伊保:(小声)んなっ! なんでわかった!?

リエ:むふふん。私も、ベニテングタケは食べたことあります。
   まかせてください。

颯:さすがキノコ博士!

リエ:大丈夫ですぅ、死にませんからぁ。
   ちょーっと気持ちよくなるだけですよぉ。

颯:昆布の、10倍の旨み・・・ッ!

伊保:朽葉ァ! 引っ張られるなァ!

颯:ずるいずるいずるいです! 僕も10倍味わってみたいです!

伊保:ダメだダメだ! すっげえ美味いけどダメだ!

颯:止めたいなら美味いとか言わないでくださいよ!

リエ:(囁き)颯さん、私、安全な食べ方知ってますよ。

颯:えっ。

リエ:一緒に、食べましょう?ベニテングタケ。

颯:リエ、さん。

リエ:そんなおじさんよりも、私を選んで……

颯:……ッ

リエ:(エリンギ) ……颯くんと一緒に食べたら、きっと、もっと美味しいとおもうの。

颯:そ、れは

伊保:ッ! 朽葉、離れろ、正気に戻れ!

リエ:(エリンギ) それで、颯くんも、リエのものになるの。
  リエとずっといっしょにいるの。
  リエが美味しいキノコ料理をずっとつくってくれるの。

颯:……え?

リエ:(エリンギ)リエは喜んでるの。今までみぃんなウザがったのに、
   颯くんだけ、ちゃんと渡したレシピ、全部作ってくれたって。

颯:あなた、だれですか。リエさん、じゃない……

リエ:(エリンギ) リエが颯くんを欲しがってる。
   だからね、リエのものに、してあげるの。(キスしようとする)

颯:ッ!

伊保:下がれ! オラァ!(捕獲網GETボールくんを投げる。)

リエ:(エリンギ)きゃあああっ!

颯:うわっ、網!?

伊保:ふぅ……。

颯:い、伊保さん、これは。

伊保:ファンガス用捕獲網(ほかくあみ) GETボールくんだ。

颯:なんて?

伊保:ファンガス用捕獲網 GETボールくん。

颯:……。えっと。

伊保:あれがエリンギだ。

颯:え?

伊保:語尾が「なの」、幼い話し方。
   世話焼きで宿主《やどぬし》の願いを叶えたがる。
   ……無毒だが、厄介なファンガスだ。
   菌糸類の寄生方法は、胞子を吸わせること。
   キスされてたらエリンギとはいえヤバかったぞ。

颯:……。

リエ:(エリンギ)やぁなの! なんなの! これとってなの!

伊保:よう、エリンギ。覚えてねえようだから自己紹介してやる。
   4年前。テメーに抑制剤を打ってやった伊保典司(いぼ・てんじ)だ。

リエ:(エリンギ)いぼ、てん……?
   伊保典司……! 老けてるからわからなかったの!

伊保:うるせェ! 男子三日会わざれば刮目《かつもく》せよって言うだろ!!

リエ:(エリンギ)まえはもっとハンサムだったの!! 今はつかれたおっさんなの!

伊保:4年もたちゃな! それはどうでもいいんだよ。おいエリンギ。

リエ:(エリンギ)なんなの。

伊保:俺ぁあんとき忠告したぞ。
   次に欲望に負けて宿主から主導権を奪い、
   新たなファンガスを作ろうとしたら……消すと。

リエ:(エリンギ)・・・ッ

伊保:弁明は受け付けない。

リエ:(エリンギ)リエ、一人ぼっちかわいそうなの。
   会社でも「キノコガチすぎて引く」って言われてるの。
   だからエリンギだけは、リエの願いを叶えるの!

伊保:弁明は、受け付けないと言った。

リエ:(エリンギ)ひぇ……

    注射器を取り出す。

伊保:……さて。こいつはグラステン水和剤《すいわざい》由来のファンガス用 除菌薬だ。
   人間にどう作用するかは、わからん。

颯:い、伊保さん、この件、倉捨《くらすて》所長は――

伊保:知ってる。俺が着いてきたのはアイツの指示だ。タマゴテング……天草環子(てんぐさ・たまこ)が今日は動けねえからな。

颯:消す、というのは。

伊保:わかるだろ。菌床《きんしょう》ごと、エリンギを処分する。

リエ:(エリンギ)り、リエを、殺すの?

颯:……ッ

伊保:他のファンガスと同じだ。

颯:や、やめてください!

伊保:ア?

颯:た、たしかに、エリンギさんは約束を破ったかもしれません。
  けど、僕は、僕はまだ、リエさんとキノコパーティをする約束を果たしていません!

リエ:(エリンギ) 颯、くん?

伊保:ああ!? お前、こいつにファンガスにされかけたんだぞ!

颯:はい! たしかにエリンギさんは、リエさんの願いを叶えたいという欲に負けて、
  リエさんの体を乗っ取りました。でも! 僕には分かるんです。その気持ちが!

伊保:お前……

颯:環子ちゃんに、ベニテングラーメンを食べてもらいたい。
  環子ちゃんの願いは全部叶えてあげたい。
  僕が、環子ちゃんのことを大切に思ってるからです。

リエ:(エリンギ) 颯くん、大切な人が、いるの?

颯:はい。僕には大切な人がいます。
  キノコの毒を飲んででも、胞子を吸ってでも、
  願いを叶えたい、助けたい、大切な人が。

伊保:朽葉……お前ってやつは……。

颯:エリンギさんも、リエさんが大切なんですよね?
  だから前の時も、今も、自分の出来ることで、願いを叶えてあげようとした。

リエ:(エリンギ)……そうなの。

颯:(エリンギに向き直る) エリンギさん。
  僕は、環子《たまこ》ちゃんという大切な人がいるので、
  リエさんのものになることはできません。

リエ:(エリンギ)……。

颯:……でも、友達にはなれます。

リエ:(エリンギ)え?

颯:リエさんのキノコへの熱意。僕は、尊敬しているんです。
  リエさんのレシピのおかげで、僕はまたキノコを食べられるようになりました。
  リエさんの研究のおかげで、環子ちゃんを喜ばせることが出来ました。
  だから、尊敬してるし、友達になって、もっと料理の話がしたいんです。

リエ:(エリンギ)颯くん、リエの、ともだちになってくれるの?

颯:はい。

伊保:……はぁーーー。おいエリンギ。

リエ:(エリンギ)……なんなの。

伊保:……当銀リエに体を返せ。そしたら、今回は、こいつに免じて見逃してやる。
   倉捨《くらすて》には、「エリンギは発現しなかった」と報告する。

リエ:(エリンギ)え……?

颯:伊保さん……!

伊保:……けっ。最近の若えもんは。

リエ:(エリンギ)……ごめんなさいなの。
   エリンギが余計なことしなくても、リエは友達、作れたの。

颯:そうですよ。リエさんのことを、信じてあげてください。

リエ:(エリンギ) エリンギ、颯くんのこときにいったの。リエをよろしくなの。(気絶)

颯:(受け止める)あっ……と。

伊保:気い失ったか。おら、網外すの手伝え。

颯:……はい。伊保さんって、もっと厳しい人かと思ってました。

伊保:うるせぇなぁ。情くらいあるわ。

颯:(小さく笑って)こんな大人になりたいなあ。

伊保:20年はええよ。

■後日。

伊保:(M)気絶した当銀《とうぎん》リエを背負って下山し、俺は約束通り倉捨《くらすて》には嘘の報告をした。
朽葉によると、ベニテングタケを採取できなかったことをお嬢様に伝えたところ、
お嬢様は数日間続いたキノコ料理に辟易《へきえき》し、「もうしばらくキノコ料理はいい」と言い放ったそうだ。

伊保:(M) 平穏な日々が帰ってきたと、安心していたころ――

颯:伊保さん!

リエ:おじさん!

伊保:あ!? なんだお前ら……

颯:あの、お願いがあるんですよ。一緒に来て欲しいんです。

伊保:ん?

リエ:まあ? 私がいれば? 大丈夫だけど?
   一応? おじさんも呼んであげようかとおもって?

颯:ベニテングタケ、送ってもらったんで。

伊保:送ってもらった?

リエ:ベニテングラーメン、作るから、手伝って!

颯:手伝って!

伊保:はぁああああ!?

リエ:颯くんがどうしても食べたいっていうから!
   あの山の持ち主に頼んだの! 一応?
   私も? 知識あるけど?
   ほら、経験豊富な人がいた方がいいとおもったの!
   だから呼びに来たの! ねー!

颯:ねー! 

伊保:いやいやいやいやだから……

伊保:毒キノコを食おうとするなぁあ!

おわり

2026.03.19.

面白かったらフォローよろしくです。
NO IMAGE

簡易利用規約

サイト内の文章は、
・非営利目的の利用の場合:無料・報告不要
・商用利用の場合:有料
・比率/人数変更:可
・演者の性別は問わない
・役の性別の変更:台本による
・軽微な変更:可
・アドリブ:可
→詳細は利用規約をご確認ください。