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『マスカレリアンズ』【♂3:♀3】60分

こちらの台本は、ヒスイさん企画で、2026年3月に行われた『ゲキアサ! -全員、メタモろーぜ-』という声劇シナリオ企画に参加した作品です。変身ヒーローと魔法戦士もののチームに分かれて作品を執筆し、ボイストランドに投稿しました。

当作品はside HERO(変身ヒーロー)/女性主人公verです。

ロゴは天米わた様に制作いただきました!


『ゲキアサ! -全員、メタモろーぜ-』
公式シナリオ

カテゴリ:side HERO(変身ヒーロー)/女性主人公ver

▼企画詳細は特設サイトにて
ゲキアサ特設サイト

概要

街には、「ファンガス」と呼ばれる怪物が現れる。
キノコのような見た目をしたそれは、胞子を撒き散らし、人間に寄生し、精神を乗っ取るのだ。しかし、その過程において、「ヒトのように」振る舞える個体は一握り。
ファンガスを倒すのはガスマスクのような、ペストマスクのような、ベネチアンマスクのような、仮面をつけた女性戦士「マスカレリア」。
今日も彼女たちは、ファンガス撲滅のために、拳を振るう。

  • 所要時間:約60分
  • 人数:男性3、女性3
  • ジャンル:アクション、変身ヒーローもの

登場人物

  • 環子
    天草環子(19歳)(てんぐさ・たまこ) 「タマゴテング」「スギヒラ」の適合者。元財閥のお嬢様。家が放火されて颯と放浪中にリング適合可能性ありとしてスカウトされた新人。「守られるだけの弱い自分」が嫌い。兼役▶タマゴテング:オラオラ系男。 スギヒラ:高飛車お姉さん。
  • カレン
    炎上カレン(32歳)(えんじょう・かれん) 元研究所の被検体。サバサバ系。強い。戦うことでしか存在を許されてないと思い込んでいる。 「カエン」「シャグマアミガサ」「タマシロオニ」「オオワライ」の適合者。兼役▶カエンダケ型ファンガス

  • 朽葉颯(くちば・はやて)(22) スパダリ仕事人。環子の幼なじみであり、天草家の使用人。かつて環子を守り、右腕を失った。いまは研究所のオペレーター。颯にとって環子は「妹」
  • 倉捨
    倉捨熱(くらすて・あたる)(50歳) カレンと環子の所属する研究所の所長。ファンガスについて研究しており、撲滅を目指す。
  • ミツル
    毒島ミツル(ぶすじま・みつる)(??) 「ドクツル」の適合者。おっとりお姉さん。ドクツルタケにより「侵食」済み。カレー屋の店主。
  • 草夏
    草夏柊(そうか・しゅう)(年齢不詳) 表の姿は大学教授、真の姿は敵ボス。冬虫夏草により「侵食」済み。地球上の真の支配者はキノコだとおもっている。兼役▶研究所のシステムボイス

本編

■東京・某所。

  可能なら、環子とカレン以外はガヤ。
  「逃げろぉ!」「怪物よ!」「助けてぇ!」「早くどけよ!」「死にたくない!」「わああああ!」

カレン:新人。一般人の避難。

環子:承知いたしましたわ、カレン先輩! みなさん! こちらです!

  ガヤ入れてた場合はおさまる。

カレン:朽葉。聞こえる? 見つけた。

颯:聞こえてます。タイプとクラスはわかりますか?

カレン:ベニテング型ファンガス。クラスはS。

颯:Sクラス・・・・・・行けますか? カレンさん。

カレン:誰に口利いてんの?
    カエンリング起動。・・・・・・変身。

   カレンがリングを指で回すと、リングから胞子が吹き出す。カレンにまとわりついて鎧のようになる。

カレン:息苦しいんだよなぁ、このペストマスク。

颯:マスク装着確認。戦闘を許可します。

カレン:・・・はぁッ!(殴り)

  時間経過。環子、走って戻ってくる。

環子:お待たせしてすみません! 避難完了しましたわ!

カレン:くっ、うアッ(蹴り飛ばされる) ・・・はっ、ハハハッ!
    効かねえなあ!? おるァ!!(再度殴り掛かる)

環子:先輩!? う、けほ(咳)

カレン:バカ! マスクしてから来い!

環子:すみませ、けほ

  環子は慌ててガスマスクを装着する。

カレン:は、はは。さすがにベニテングは強いなぁ・・・・・・。こっちだって・・・Sなのに・・・。
    (通信機に)朽葉、第2リング使用許可を。

颯:ダメです! カレンさんの身が持ちません!

カレン:新入りオペレーターのくせに指図するな! 環子が死んでもいいのか!

颯:環子ちゃん! 援護を! 戦闘許可します!

カレン:いらない!

環子:タマゴテングリング起動いたします!・・・ 変身ッ!

カレン:・・・うらァ!!(殴りかかる)  うあ、あ”あ”あ”!(腕を掴まれて毒を流される)

環子:先輩!屈んでくださいまし!

カレン:チッ(屈む)

環子:やァッ!(回し蹴り)

カレン:新人共がッ余計なことするな!

環子:助けたじゃありませんか! 落ち着いてくださいまし!

カレン:・・・シャグマ-アミガサリング起動。メタモルフォーゼ。

颯:カレンさん!?

カレン:(首に腕を回す)捕まえたァ。おれ、ろォ!

颯:ベニテング型ファンガスの機能停止を観測!

カレン:消えろ、消えろ、この、クソが!

環子:先輩! もう、死んでますわ。

カレン:(荒い息)ふーっ、ふーっ

環子:颯、リング回収いたしましたわ。変身解除。

カレン:変身、解除・・・ッ

颯:環子ちゃん、カレンさんの様子は?

環子:先輩、支えますわ。

カレン:触るな・・・(振り払う)

環子:…ッ!

カレン:一人で、立てる・・・ッ

環子:手の震え、発熱・・・・・・です。

颯:・・・許可のない第2リングの使用は規律違反だ。
  環子ちゃんと協力すれば倒せたはずなのに。

環子:・・・私が、弱いからですわ。弱いから、信頼してもらえないのね。

颯:弱くなんかないよ、現にカレンさんを助けたじゃないか。

環子:・・・わかってますの。でも、もっと強くなりたいのよ。
   ・・・颯、わたくしカレンさんの後を追います。所長にはうまく言っておいてくださいまし。

颯:・・・うん、頼んだよ。

■特殊菌糸類研究所

倉捨:朽葉くん。報告を。

颯:はい、倉捨所長。出現ファンガスはSクラス、ベニテング型。
  撃破後、リングを回収しました。
  戦闘員マスカレリア、天草環子、炎上カレンともに目立った外傷はありません。ただ……

倉捨:どうした。

颯:環子ちゃんが避難誘導から戻った際…マスク未装着のまま戦闘エリアに進入し、
  胞子を少量吸入してしまいました。……あと、カレンさんの暴走が。

倉捨:(ため息)またか。今回は何だ。

颯:第2リングの無許可使用です。

倉捨:……カレン。

颯:あの……カレンさんは環子ちゃんを気遣って――

倉捨:いい。わかっている。「新人のくせに生意気だ」とでも言ったんだろう。

颯:……お見通しですね。正確には「新人共が余計なことをするな」ですが。

倉捨:君も込みか。

颯:ええ。……信頼、されていないのでしょうか?

倉捨:いや。君たちはよくやっている。
   特に朽葉くんはオペレーターとして冷静で的確な判断が出来ている。

颯:ありがとうございます。天草家も、まあ、わりと戦場みたいな家でしたので……。

倉捨:……天草環子の使用人、だったな。

颯:はい。

倉捨:入所のときには触れなかったが、その右腕はどうした。

颯:焼け落ちました。環子ちゃんを守ったときに。

倉捨:……そうか。

颯:所長。正直……環子ちゃんに戦って欲しくないんです。守りたいんです、僕は。

倉捨:すまない。だがファンガスリングの適合者は絶対数が少ない。

颯:僕にも適合試験を受けさせてください。

倉捨:……それはできない。

颯:なぜですかッ!

倉捨:男性の適合例は、ないんだ。

颯:……これまでになくても、可能性はあるかもしれないじゃないですか。

倉捨:(言葉をつまらせる)……無いんだよ。……ただ一例を除いて。

颯:え?

倉捨:いや、なんでもない。報告、ご苦労だった。天草くんには後ほど検査を受けるよう伝えてくれ。

颯:……承知いたしました。失礼します。

倉捨:ああ、そうだ。もう一つ。

颯:はい?

倉捨:新しいマスカレリア候補が見つかった。これが資料だ。

颯:名前は……毒島(ぶすじま)ミツル。

■カレーショップ・クレイン

ミツル:はい、おまちどおさま。カレンちゃんのポークビンダルーと、環子ちゃんの秋のきのこカレー!

カレン:(このシーンすべて頭痛とだるさ抱えながら)どうも。

環子:わあ~! キノコたっぷりですわね!

ミツル:そうなのよ~! 秋といえばやっぱりキノコよね~!

カレン:……環子、よく食えるな。

環子:キノコは低カロリーで栄養価の高い、健康食品ですのよ? 
   しかもこのカレーには、えのき、しめじ、しいたけ、舞茸が入っていて、
   さながら秋の宝石箱ですわぁ! 
   ……というかカレン先輩、ビンダルーってマニアックすぎませんこと? 

カレン:インド、ゴア地方の名物だよ。このあたりではここでしか食べられないくらい、珍しい……。

ミツル:豚肉をビネガーに漬け込むなんて独特よねえ。ちょうどいい酸っぱさにするの大変だったわ~。

環子:へぇ……。こんなところにカレー屋さんがあるなんて、わたくし知りませんでしたわ。
  最近オープンしたのですか?

ミツル:ええ。実は私、あちこちでお店を出していて、先月末にここに落ち着いたのよ。
   ここ、夜はバーをやっていてね、平日の昼の間だけ、私が借りているの。
   シェアキッチンてやつね。お店とキッチンは貸してもらえて、食器は全部持ち込みなの。

環子:すばらしいですわ。今はそんな方法があるんですのね。

ミツル:そうなの。カレンちゃんが最初の常連さんで……お友達を連れてきてくれるなんて嬉しいわ。

カレン:友達じゃ……あッ!(水のグラスを取り落とす)

ミツル:大変! 動かないで、すぐに破片、片付けるわね

環子:先輩! 服に水かかっちゃってます、大丈夫ですか?

カレン:あたしは、大丈夫……ごめん、ミツルさん。綺麗なグラスが……

ミツル:気にしないで。形あるものはいずれ壊れるのよ。

カレン:(震える手を見つめる)……クソ。

ミツル:……体調、悪いの?

カレン:いや、まあ、最近。定期的におかしくなるんです。

ミツル:(変な間)……どんなふうに?

カレン:え? ああ……手がしびれたり、めまいがしたり、
    イライラしてちょっとのことでキレたり、逆に憂鬱で無気力になったり……

環子:先輩、それって――

カレン:シッ。

ミツル:ねえ、それ、PMSじゃない?

カレン:P、なんですか?

ミツル:月経前症候群。女性にはよくあることなんだけど、
    症状がひどいなら婦人科にいったほうがいいわ。

カレン:……婦人科。

ミツル:私も若い頃は重くてね、生理前はいっつもイライラしてたの。
    周期的にイライラするなあ、って思ってたらホルモンのせいだったのよ。
    だから、一度検査してみて。ね?

カレン:……ありがとうございます、そうします。

颯:ごめんください。

環子:颯! こっちこっち!

カレン:朽葉……。

颯:カレンさん、薬です。医療部からもらってきました。

カレン:……ありがと。

颯:環子ちゃんはあとで検査室に行ってね。念の為。

環子:わかりましたわ。

ミツル:こんにちは。二人の友だち?

颯:同僚?ですかね。

ミツル:そうなの! 私、毒島(ぶすじま)ミツル。よろしくね。

颯:! ……僕は、朽葉颯っていいます。
  カレンさんにおいしいカレー屋さんがあるって聞いて、
  いつか来たいと思ってたんですよ。おすすめはありますか?

カレン:ポークビンダルー。

環子:秋のきのこカレーですわ!

颯:……アー。

ミツル:ふふ、バターチキンカレーなんてどう?

颯:それにします。ありがとうございます。

環子:どうしてですの!?

颯:いまキノコの気分じゃなくて。

カレン:ほら。わかるよ朽葉。環子がおかしい。

環子:んもう! ひどいですわ!

カレン:・・・・・・あの、2人とも。さっきはごめん。

   環子と颯は顔を見合わせる。

環子:大丈夫ですわ。私たち、カレン先輩が優しいこと、知っていますもの。

カレン:最近、ダメなんだ・・・・・・怖い・・・・・・自分が、自分でなくなるみたいで・・・・・・

颯:カレンさん、気を強く持ってください。
  医療部で検査を受けられるように、手配しておきますから。

カレン:・・・・・・ごめん、情けないや。

颯:そんなことないですよ。
  誰だって、疲れているときは弱気になるんです。

■北都大学・講義室

  可能なら草夏とカレン以外はガヤ。

草夏:約3億6000年前。地球は樹高30から40メートルの巨木に覆われていました。
   自分の重さを支えるため、植物は「リグニン」という成分を作ったんです。
   鉄筋コンクリートでいうコンクリートの部分ですね。
   しかし地球にはこの成分を分解出来るものがおらず、
   倒れた樹木は地中に埋まり、石炭となっていきました。
   そのリグニンを分解できる能力を身につけたのが・・・キノコです。

カレン:へぇ・・・・・・。

草夏:植物が増えた地球は酸素が多くなり、植物自身にとっても生きにくい環境。
   キノコはリグニンを分解する際、二酸化炭素を放出します。
   こうして地球の生態系はバランスを取ってきたのです。
   つまりキノコは・・・・・・救世主なんです!

  講義室、クスクス笑いが起こる。

カレン:ふふっ

草夏:その救世主はいま、小さくなって森の隅に追いやられている。
   なぜだか分かりますか?・・・・・・そう! 足がなかったからです。

   講義室、どっと湧く。

カレン:ふはは

草夏:僕が思うに、足がなかったからこそ、いくつかのキノコたちは毒を持ったんでしょうねぇ・・・・・・。
   ああ、薬になるキノコもあるんですよ。
   冬虫夏草(とうちゅうかそう)とか。
   実は僕の専門はこの冬虫夏草の寄生メカニズムでして・・・・・・

  時間経過。講義後。

カレン:草夏教授。今日も面白い講義でした。聴講させていただきありがとうございました。

草夏:それは良かった。炎上さんはうちの学生以上に熱心に聞いてくださるので嬉しいですよ。
   今日はお仕事はお休みですか。

カレン:休み、というか、呼ばれるまでは自由なので・・・・・・。

草夏:そうですか。それは逆にいえば、
   いつ呼ばれるかわからない緊張感が常にあるということです。
   頑張っているんですね。

カレン:……あ、どうも。

草夏:そういえば、以前炎上さんがおいしいと言っていたカレー、食べてみたんですよ。

カレン:…! どうでしたか。

草夏:…………独特な味わいでした。

カレン:(苦笑い)あー。……あの、聞きたいことがあって。
    例えばの話、キノコに足が生えていたら、この地球はどうなっていたと思います?

草夏:え?

カレン:さっきの、ジョークが面白くて・・・・・・えっと、忘れてください。

草夏:そうですねぇ・・・・・・足があれば、生態系の頂点は、キノコだったでしょうね。

カレン:そんな・・・・・・はは、やっぱり面白いです、教授。

草夏:ジョークではありませんよ。

カレン:え?

草夏:おや、信じられませんか? もし興味がおありなら、
   (カレンの耳元で) 僕の研究室で、詳しく教えてあげますよ。

■特殊菌糸類研究所・環子と颯の部屋。/環子の夢の中

環子:お父様、お母様!

颯:お嬢様、もう火が回ってきてます、逃げますよ!

環子:いや、颯、離して!

颯:離しません!

環子:いや、いやあああ!

颯:旦那様と約束したんです、僕がお嬢様を守るって。
  (周りを見る)こっちはまだ通れそうです!

環子:いや、一緒に死にたい、置いてってよ、颯。

颯:バカ言うな!

環子:(怯え)ひっ

颯:ここで死んだら、2人が報われません。貴方を逃がすために残ったんですよッ

環子:(震える息)

颯:いきましょう!

環子:ッ! 颯、柱が!

颯:ぁああッ熱ッ

環子:颯!  颯!

――

颯:(現実)環子ちゃん!

環子:(目を覚ます) はあっ、はあっ

颯:よかった、すごい魘されてたよ。

環子:生きてる?

颯:え? (察した)・・・・・・またあの日の夢を見たんですね。

環子:・・・・・・右腕が、わたくしのせいだわ、さっさと逃げなかったから。

颯:大丈夫、僕は生きてますよ。腕なんか2本あるんですから大して問題ありません。

環子:・・・・・・・・・・・・

颯:環子ちゃん?

環子:マスカレリアになって、戦う力を得たのに、わたくしは…弱いままだわ。

颯:・・・。

環子:いつまでも、お前は守られる側だって、この夢に突きつけられるの。

颯:そんなこと――

環子:わたくし、もっと強くなりたい。大切な人たちを、今度は自分の手で守れるように。

颯:・・・・・・強くなりすぎないで。頼られないのは、寂しいからさ。

環子:颯?

颯:僕はもう使用人じゃなくなったけど、僕はまだ、
  環子ちゃんのこと守りたいと思ってる。
  体も、心も。ひとりで背負わないで。

環子:・・・・・・ありがとう。ふふ、カレン先輩に修行をつけてもらうわ。

颯:ねえ僕の言ったこと聞いてた?

環子:ええ。だから弱いわたくしは、あなたの所に置いていく。

颯:はあー。あのかわいらしかった環子お嬢様がかっこよくなっていく・・・・・・。

環子:惚れ直しまして?

颯:あーはいはい。惚れ直しましたよ、環子ちゃん。

環子:また! そうやって! 妹扱い!

■カレーショップ・クレイン

カレン:ポークビンダルーひとつ。

ミツル:はあい。今日は1人なのね。カレンちゃん。

カレン:環子が修行つけろってうるさいから・・・・・・逃げてきたんです。

ミツル:修行? ・・・・・・気になってたんだけど、カレンちゃんと環子ちゃんってどういう関係なの?

カレン:職場の後輩です。最近入った新人で・・・・・・。
    うち結構特殊な職場なんですけど、あたししかできない仕事なんで休みも少なくて・・・・・・
    そこに新人育成も入ってきたから・・・・・・
    人が増えてありがたいですけど、ちょっとしんどくて・・・・・・。

ミツル:ふぅん・・・。大変なのねぇ・・・・・・。

カレン:(小さく笑う)大変ですよ。世間知らずのお嬢様・・・・・・
    正義感だけは強くて、すぐ首を突っ込んでくる。

ミツル:お嬢様?

カレン:あー・・・・・・

ミツル:聞かないでおくわ。

カレン:ありがとうございます、そうしてください。

ミツル:お嬢様の、環子ちゃん・・・・・・ふふ。

カレン:どうかしました?

ミツル:いいえ。なんでも。その後、体調はどう?

カレン:婦人科には・・・・・・行ってないんですけど。
    かかりつけの医師に診てもらって、暫く休養を、と。

ミツル:そう・・・・・・。ねえ、カレンちゃん。

カレン:はい?

ミツル:知り合いがやってるサロンがあるんだけど、このあと一緒に行かない?
    『特別な』アロマを使ってて、香りがとっても良くてね、気分が落ち着くかも。

カレン:え? お店は・・・・・・

ミツル:いいのいいの! 一日くらい休みにしたって誰にも迷惑かからないわ。
    今はお店より・・・・・・カレンちゃんの力になりたいの。

カレン:どうして、そこまで・・・・・・

ミツル:大切な常連様だからこそ、よ? 誰にでもこんなことしないわ。

カレン:・・・・・・ミツルさん。

■ファンガス本部

ミツル:柊様。見つけましたわぁ〜。天草のお嬢様。

草夏:どこにいた。

ミツル:それが、特殊菌糸類研究所に、取られてたみたいなんです。

草夏:何?

ミツル:私たちが先に目をつけたのにぃ。横取りするなんて酷いですよねぇ〜。

草夏:・・・・・・倉捨熱か。

ミツル:やっぱりあの子、適合者でしたわぁ。タマゴテングを持ってます。

草夏:厄介だな。

ミツル:まだ菌糸が根を下ろしていないようです。
    本当に邪魔ですわね、人間の意思ってものは。

草夏:・・・・・・炎上カレンはどうした。

ミツル:ふふ。『仕事中』ですよ。

草夏:使えそうか?

ミツル:そりゃあ、なんてったって触れるだけで爛れる「カエンリング」を手懐けていますから。

草夏:・・・は、つまり彼女がマスカレリアか。

ミツル:ふふ。ええ。つまり彼女が、「被験体NO.37」。

草夏:はは、ははははは! ただの適合者かと思ったが。世間は狭いものだな。

ミツル:いいえ、菌糸は引き合うのです。 あなたがそう言ったのでしょう?

草夏:そうだ。お前たちは皆、私の子実体(しじったい)なのだから。

ミツル:……ねえ柊様? カレンちゃんを落とすには、
    最後の「枷」を外さないといけないと思いません?

草夏:「意志」か。

ミツル:ええ。

草夏:……ならばそれは、僕がやろう。

■特殊菌糸類研究所

颯:ファンガス出現兆候、観測しました!

倉捨:どこだ。

颯:座標送ります。環子ちゃん、カレンさん、聞こえる?

環子:(通信) はい! 出動ですの?

颯:うん。スマホに座標送るから直接向かって。

環子:(通信) わかりましたわ!

倉捨:天草くん、カレンは一緒じゃないのか。訓練予定が入っていたが。

環子:(通信) それが、連絡が取れないんですの。
   職員さんが言うには、7時ごろリング管理部に来たからいつものようにリングを貸与したそうです。
   わたくしも第2リングの使用許可が出たので、さっそく見て欲しかったのですが・・・・・・

颯:所長。合流してから行かせた方が良いのではないでしょうか。

倉捨:・・・・・・いや、天草くんは先に現地へ。朽葉くん、カレンに通信を続けてくれ。

颯:承知しました。環子ちゃん、無理はしないで。

環子:(通信) はい!

颯:・・・・・・一人で、大丈夫でしょうか。

倉捨:君が信じてあげないでどうする。

――環子サイド

環子:ここですわね。っと、先にガスマスクを。

  環子、マスクを付ける。

環子:指定座標に到着。周囲に一般人はおりません。
   ・・・・・・何故このような人気のないところに?

倉捨:(通信)ファンガスの目的は「増殖」だ。
   人間に胞子を吸わせて支配する。・・・・・・罠かもしれん。

颯:(通信)慎重にね。環子ちゃん。

環子:・・・・・・来ましたわ。あれは・・・ベニテング!?

倉捨:何!?

環子:どうして、この間カレン先輩が倒したはずですわ!

倉捨:リングは、分析と慣らしのためにカレンが持っていた。まさか・・・・・・。

カレン:(分身) ・・・・・・はぁあ

颯:環子ちゃん、戦闘を許可します。

環子:は、はい! タマゴテングリング起動、変身ッ!

カレン:(分身)タス・・・ケテ・・・・・・

環子:・・・え?

カレン:(殴り掛かる) ハァッ!

環子:(受ける) ッグゥ! ・・・(蹴り上げ)ハッ!

カレン:(下がり避け)・・・ふぅ

環子:今度はこちらから行きますわ、よっ!(走り出し)

環子:ふん!(回し蹴り)

カレン:(受け流し)ッ!

環子:(バランス取り受け身)きゃあっ

カレン:(殴り)ゥらァ!

環子:(避け) フッ、ここ!(蹴り上げ)

カレン:(食らう) ガッ

環子:やった! ・・・え!?(足掴まれ)

カレン:(足掴んで投げ) うオラァ!

環子:きゃあッ! がはッ(壁に背中打ち付け)

カレン:・・・ふッ(首掴んで持ち上げ)

環子:う、く、はなし、なさいッ

颯:環子ちゃん!

環子:ん!!(足を首にかける)

カレン:ングッ(首しまる)

環子:耐久、勝負、ですわよッ

カレン:ウグァ!(手を離して振り払う)

環子:はっ、(手を着いて着地) 颯、カレン先輩はみつかりませんの!?

颯:探してる!! GPSも切ってるみたいなんだ!

カレン:(息吸い)

環子:なんか、このベニテング戦い方が・・・、ッ!

カレン:(胞子を吹く)ふぅーーー!

環子:ガスマスクがあるから効きませんわ、よ、・・・い゛ッああ!(焼けるような痛み)

倉捨:どうした!

環子:胞子、がっ、触れたところ、ただ、れて

倉捨:何?ただれ?

颯:環子ちゃん!

倉捨:天草くん、第2リング使用を許可する。

颯:所長!? それはッ

倉捨:今の君では勝てない!

環子:スギヒラ、起動ッ、メタモルフォーゼ!

颯:ダメだ!

カレン:ッ!?

環子:……ふふ、あはは、あははははっ!

倉捨:耐えろ天草くん! 飲み込まれるな!
    朽葉くん、端末を準備しろ! 出る!

颯:え!? どこにです!?

環子:あらあ、治りましたわね。なんだかとってもいい気分ですわ。

カレン:・・・すぅー(吸い)

環子:またそれですの?

カレン:ふぅーーーッ

環子:はい。(扇を振る)

颯:うっ、音が・・・これは、扇?

倉捨:スギヒラタケ、『天使の翼』という異名をもつ。

環子:あははははは! このまま、風の刃で切り刻んであげますわ!

カレン:ウグっ!

環子:ほら!ほら! ほらァ!

カレン:ウガアッ・・・・・・ア、アァッ

環子:うふふふふッ

颯:環子、ちゃん?

倉捨:天草くん、戦闘終了だ。ベニテングは倒れた。

環子:足りない、足りないですわよ、もっと、もっと、

倉捨:まずい。行くぞ、朽葉君。私の車に乗れ。

颯:えっ!?

環子:もっと、殺したい・・・わたくしの強さを、見せつけたい、わたくしは、強いんですの!

環子:あはは! あはははは!

■倉捨の車の中(移動)

颯:倉捨さん、どういう事ですか、環子ちゃんに何が起きてるんです!

倉捨:第2リングを初めて使った時に起こる「精神汚染」だ。
   カレンにも・・・・・・他の実験体にも起こった。

颯:他の、実験体・・・・・・?

倉捨:なぜ適合性のない者にリングを触らせてはならないか。
   胞子は、適合しない人間を支配するからだ。
   リングを増やせば当然、精神汚染は重なる。強度も、深さも深刻になる。

颯:精神汚染が進むと・・・・・・どうなるんですか。

倉捨:自我を、保てなくなる。

颯:環子ちゃんは・・・・・・だ、大丈夫ですよね!?

倉捨:そのために、君とセットで特殊菌糸類研究所に受け入れた。

颯:・・・・・・え?

倉捨:君が彼女の、「拠り所」だからだ。彼女が天草環子であるための軸。
   天草くんの「戻りたい場所」が君の隣であるならば、精神汚染から戻ってくる
   ・・・・・・可能性がある。

颯:・・・・・・。

倉捨:カレンは、4つのリングを使用する。
   それでも自我を保っているのは、
   彼女の中に「捨てられること」への痛烈な恐怖があるからだ。

颯:それって・・・・・・。

倉捨:他の実験体が精神汚染に負け、破棄されていく中
   ・・・・・・カレンだけが耐えた。
   「もう二度と捨てられたくない」という、強い意志でな。

颯:・・・・・・人体実験をしてたんですか。あなた。そんな、この国で、人でなしッ

倉捨:昔の話だ。言い訳はしない。
   私は元々いた研究所の非人道的なやり方に耐えきれず、カレンを連れて逃げた。
   そして別の研究施設を作ったんだ。
   それが今の、特殊菌糸類研究所だ。

颯:・・・・・・失望しましたよ。

倉捨:構わない。失望されようが君たちには行く場所がない。
   そして、私は天草くんにカレンの二の舞をさせるつもりはない。

颯:・・・・・・わかりました。僕が、彼女を連れて帰る。

倉捨:そうだ。ただし、ガスマスクはしていけ。胞子を吸うな。男性は、耐性がない。

颯:・・・・・・。

■特殊菌糸類研究所/リング管理庫

カレン:特殊戦闘部隊、炎上カレン。

草夏:(システムボイス兼ね) 認証しました。ロックを解除します。

カレン:ふん。研究員は脆いな。オオワライの幻覚だけで大混乱だ。

カレン:・・・「ヒメアジロ」、「ドクササコ」、「ニセクロハツ」、
    「ツキヨ」、「ドクヤマドリ」「トロギア・ヴェネナータ」。
    そしてあたしの「カエン」「シャグマ-アミガサ」「タマシロオニ」「オオワライ」に、
    「ベニテング」

カレン:環子がもってる「タマゴテング」。
    回収したファンガスリングは13個・・・・・・
    「スギヒラ」はどこだ?
    今朝管理部で見たデータでは全て揃っていたのに・・・・・・

■戦闘エリア

  車が到着し、颯が駆け出す。

颯:環子ちゃん!

倉捨:朽葉!  呼び掛け続けろ!

環子:(スギヒラ)あっはは! あらあ、新しい苗床《なえどこ》がきたわ。

颯:環子ちゃん。戻っておいで。

環子:(スギヒラ)たまこ? ああ、この体のこと?

颯:ッ・・・・・・! お前は・・・・・・

倉捨:スギヒラだな。

環子:(スギヒラ)いいわねえ、この体。美しくて、健康で。
   あたくしの菌床(きんしょう)にぴったり。ゥ、ウグ

環子:(タマゴテング)後から来たやつがしゃしゃるなよ、スギヒラ。これは俺の体だ。グウッ

環子:(スギヒラ)おだまりタマゴテング。あんたキャラじゃないでしょこの体の。

環子:(タマゴテング)んだとぉ!?

颯:一人で喋ってる?

倉捨:いや、菌糸同士で、主導権をとりあっているんだ。

颯:・・・・・・環子ちゃんを返せ。

環子:(タマゴテング) はっ! いやだね。やっとこいつの「意思」が弱まったんだ。
   このまま俺のものにする。・・・いい体だ。ほら、胸も、尻も。

颯:黙れ。出ていけよ。彼女の体から。

環子:(タマゴテング) いやだね。もう少しで脳みそまで菌糸が伸びる。
   そしたらこの女は・・・俺のもんだウグアッ

環子:(スギヒラ)あたくしのものよ。

颯:どっちも、出ていけっていってんだよ。環子ちゃん! いるんだろ!

  颯、マスクを外す。

倉捨:朽葉、マスクを外すな!

颯:所長、止めないでください。

環子:(スギヒラ)あら、いい男・・・えっ!?

  颯、環子のマスクも外す。

颯:(環子を抱きしめる)環子ちゃん。
  今日の晩御飯、ハンバーグだよ。戻っておいで。

環子:(スギヒラ)あははは、何言ってるの? ハンバーグ?
  そんなことでこの子の心が・・・え、ちょ、んんっ

颯:うちに帰ろう。僕と一緒に。

環子:・・・・・・颯?

颯:うん。

倉捨:驚いたな。

環子:どうして視界がこんなにはっきりして・・・あら、わたくし、マスクしてない

颯:帰ろう・・・たま、ちゃ、けほ、けほ(気絶)

環子:颯!? 颯!!

倉捨:天草くん、変身を解除して彼にガスマスクを。

環子:は、はい。変身解除ッ!
   ・・・・・・わ、わたくし、途中から記憶が曖昧で・・・・・・
   何がありましたの?

倉捨:・・・・・・君は第2リングを使ってベニテングを倒した。
   ふむ、この死体は……。

環子:・・・・・・死体? きゃああ!?

倉捨:リングがないな。この女性は、胞子で無理やりベニテングにされたのだろう。

環子:・・・・・・ファンガスって、元は、人なんですの。

倉捨:・・・・・・そうだ。

環子:わたくしたちは、人を、殺していたの?

倉捨:違う。ファンガスは人ではない。
   寄生され、菌糸に思考を乗っ取られたら、それはもう人ではない。

環子:わたくしも、そうなりかけていたということですのね・・・・・・
   颯は、大丈夫ですの。

倉捨:君の胞子を吸った。少量なら自然に体から排出されるが・・・・・。

■特殊菌糸類研究所

環子:颯、もうすぐ医務室ですわ・・・!

颯:(荒い息)

倉捨:所内が騒がしいな・・・。
   すまないが、ドクターに説明してふたりで検査を受けてくれ。
   天草くんもだ。

環子:わかりましたわ。

■ファンガス本部
カレン:リング、持ってきたよ。ミツルさん。
ミツル:えらいわぁ~。よくできました。カレンちゃん。
カレン:これで……この痛みから解放してくれるの?

■特殊菌糸類研究所/医務室

  颯と環子はベッドに寝かされている。

颯:(唸り声)う・・・・・・んん、くっ・・・・・・

環子:颯・・・・・・

  倉捨、入室。

倉捨:天草くん。

環子:所長ッ

倉捨:起き上がらなくていい。

環子:はい・・・・・・

倉捨:検査結果をもらってきた。まず、天草くんは、いまのところ問題ない。
   精神汚染レベルは下がっている。君の強靭な精神力のたまものだ。

環子:わたくしのことはいいんです、颯はッ!

倉捨:朽葉くんは・・・・・・胞子が、発芽した。

環子:え・・・・・・

倉捨:発芽するまでに体外へ排出されるかと思ったが、想定外に早かった。

環子:じゃ、じゃあ、は、颯は、わたくしのせいで――

倉捨:落ち着くんだ。今は、抑制剤を投与して菌糸の成長を遅らせている。
   「菌糸」が彼の体に根付く前に、無毒な菌で覆い、
   閉じ込めることができれば彼は助かる。

環子:そんなことが、出来るのですか。

倉捨:ああ。だが、今手元にその種菌(たねきん)がないんだ。

環子:どこにあるんですの、それは。

倉捨:ファンガス本部だ。その菌は・・・・・・「冬虫夏草《とうちゅうかそう》」、と呼ばれている。

環子:それをとりにいけとおっしゃるのね。

倉捨:ああ。だが、君一人で行ってもらう。

環子:・・・カレン先輩は?

倉捨:・・・・・・所内の騒ぎの原因がわかった。
   保管庫で管理していた12個のファンガスリングが盗まれていた。

環子:・・・・・・。

倉捨:最後の入室ログは、特殊戦闘員部隊、炎上カレン。

環子:・・・・・・まさか、先輩がそんな事するわけありませんわ。

倉捨:時刻は13時50分。
   君がベニテングとの戦闘で精神汚染をうけ、私と朽葉くんが外出していた頃だ。

環子:嘘、嘘です、そんな、カレン先輩が裏切っただなんて!

■時は戻って。エステサロン

ミツル:ねえー気持ちいいでしょー。

カレン:はい。エステサロンとか、初めて来ました。

ミツル:ええ!? カレンちゃん可愛いしスタイルもいいから、ケアしてるのかとおもった〜。

カレン:いや、可愛く・・・・・・ないですよ・・・・・・
    スタイルは、運動? してるからですかね・・・
    でも筋肉質でゴツゴツしてるので・・・
    ミツルさんみたいに、しなやかで柔らかそうな感じに憧れます・・・・・・

ミツル:ふふ、女性は筋肉が付きにくいのに、頑張ってるのね、カレンちゃん。

カレン:頑張ってる・・・・・・

ミツル:ええ!  なんの運動かわからないけど、引き締まった綺麗な体だと思うわ。

カレン:こんな、傷跡だらけで、爛れて、引き攣れて、醜いのに?

ミツル:・・・・・・あなたが、必死に生きてきた証が、醜いわけないわ。

カレン:・・・・・・(静かに泣く)

ミツル:カレンちゃん。私、本気で心配してるの。
    助けたいわ。あなたのこと。

カレン:・・・・・・あたしは、あたししか、できない仕事をして、いて

ミツル:そう言ってたわね。

カレン:あたしが、仕事、しないと、人が、死ぬんです。

ミツル:・・・・・・。

カレン:だから、あたし、が、頑張らないと

ミツル:どうして?

カレン:・・・え?

ミツル:どうしてカレンちゃんが、
    辛くて悲しい思いをしてまで、他人を救わなければいけないの?

カレン:・・・それが、仕事だから。

ミツル:カレンちゃんは、人を救いたいの?

カレン:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかんない。

ミツル:なら、やらなくていいわ。

カレン:やらなくて、いい?

ミツル:やらなくていい。だって、カレンちゃんは一人しかいないのよ。
    他の誰が死んでも、私はカレンちゃんが死んじゃったら悲しいの。
    傷ついているだけで悲しい。カレンちゃんしか出来ないなんて嘘。
    他の方法を考えようとしていないだけ。

カレン:・・・・・・・・・・・・。

ミツル:ねえ、そうでしょう? 倉捨熱《くらすてあたる》はあなたを利用しているだけ。

カレン:ッ!? な、なんで、

ミツル:しー。私も、持っているの。菌糸を。

カレン:ミツル、さん、も?

ミツル:ええ。だから、あなたがなぜ苦しんでいるのか分かる。
    ・・・・・・あなたを助けてあげられる。一緒に来て欲しいところがあるの。

■ファンガス本部

ミツル:ただいま戻りましたぁ〜、柊さん!

草夏:・・・・・・炎上さん?

カレン:草夏教授!?

ミツル:(わざとらしく)あら、お知り合いだった? まぁ、世間って狭いわねえ。

カレン:北都大学の講義、聴講してて・・・なんで、草夏教授が・・・・・・? ミツルさん!?

ミツル:実は私、柊さんの助手でね! カレー屋は副業なのよ〜!

草夏:ふふ。僕はね、キノコが大好きなんです。
   ファンガスの事も気になって調べていたんですよ。
   どうやって発生するか、とか、なぜ人を襲うのか、とか。
   ・・・・・・どうやったら作れるか、とか。

カレン:まさかッ

草夏:そうしたらねえ、とても素晴らしいことがわかりました。
   ファンガスは、人類を救おうとしていたんですよ。

カレン:・・・・・・は?

草夏:ねえ、炎上さん。苦しみとは、なんでしょう。

カレン:いきなりなんの話を――

草夏:戦い続けて、何かを得られましたか。

カレン:・・・・・・ッ。

草夏:あなたは本当に誰かを救いたいのですか?
   自分が救われたいのではないですか?

カレン:な、なんでそれを?

草夏:炎上さん、いや、カレンさん。あなたはもう、十分に頑張りました。
   居場所を守るために、本音を隠して戦い続けた。
   「捨てられたくない」という、その気持ちを完璧に押し隠して。

カレン:やめろ……やめろッ

草夏:人生そのものが、苦しみなんです。
   一人で生きていくには、とても重たい。でしょう?  
   そんな苦しみに寄り添ってくれるのが、菌類です。

カレン:・・・・・・え?

草夏:あなたの中にはカエンタケが住んでいるでしょう。
   戦いの苦しみを、「誰かを殺す痛み」を、
   肩代わりしてくれた、カエンタケが。

カレン:・・・・・・カエン

草夏:あなたが弱っている時。本音を口にできない時。
   破壊衝動を抱いた時。常識と理性に苛まれ苦しんでいるあなたをかわりに動かして、
   辛い場面を一緒に乗り切ってくれた存在。

カレン:・・・・・・あ。

草夏:僕たち人間を、苦しみから救うために、
   共に生きてくれるために、ファンガスは、「足を得た」のですよ。

カレン:・・・・・・そんな、詭弁だッ。だってファンガスは、ファンガスのせいであたしはッ

ミツル:それは違うわ。よく考えて。あなたに「戦え」と言ったのはだれ?

カレン:それは、アアッ! 頭、が!

草夏:リングを改造して、君を戦士に仕立て上げたのは誰だ?

カレン:倉捨、熱……!

草夏:……そうだ。人間を救おうとしているファンガスと戦う必要はないのにもかかわらず、
   「ファンガスを倒さなくてはならない」と君に吹き込んだんだ。

ミツル:「戦うならば、あなたに居場所を与える」。そうやってあなたの願いを利用したの。

カレン:……そんな、嘘だ、嘘だよ。

ミツル:カレンちゃん。もう苦しまなくていいの。私たちが助けてあげる。
   その前に、私たちを助けて欲しいの。
   そしたら、あなたはもう戦わなくていい。私たちが居場所になる。

カレン:たすける?

草夏:ああ。元々僕たちの所有物だったものを、取り返して欲しいんだ。

■特殊菌糸類研究所

環子:わたくし、カレン先輩のこと、何も知らないのですわ。
   強いことと、優しいことと・・・・・・脆いことくらいしか。

倉捨:・・・・・・カレンは、孤児だった。

環子:孤児?

倉捨:5歳くらいのころか。父親が亡くなり、
   母親には男がいて、引き取りたくないと言ったそうだ。
   親戚中をたらいまわしにされ、結局父方の叔父が引き取った。
   その叔父というのが初代菌糸類研究所の研究員だったんだ。

環子:・・・・・・まさかその人、姪を、実験体にしたのですか?

倉捨:そうだ。私は当時、北都大学の院生で、
   インターンとして研究所に出入りしていた。
   菌糸がキノコを作って、溶けていく。
   そのグロテスクな美しさに魅入られていたんだ。
   研究所が人体実験を行っているとは知らなかったし、
   所長の草夏柊教授は素晴らしい人だと思っていた。菌類と人間の共生。
   菌糸を使って傷を直したり、キノコの成分から薬をつくる研究をしていたんだ。
   それがいつからか「人に寄生させる」研究を始めた。
   その被験者のうちの一人がカレンだ。

環子:酷い・・・・・・。

倉捨:私は草夏教授と袂を分かち、カレンを連れて研究所から逃げた。
   どうにかして、ファンガスを無毒化して利用できないかと考えていたのさ。
   しかしファンガスが人を襲い始め、利用などできないと悟ったんだ。
   そして当時カレンが適合していたAランクの「タマシロオニ」と
   Cランクの「オオワライタケ」から、マスカレリアシステムを作った。
   菌糸の成長と精神汚染の進行を遅らせ、周囲に胞子を撒くことを防ぐマスクだ。

環子:それから、わたくしが加入するまで、カレン先輩は一人で・・・・・・。

倉捨:そうだ。・・・Sランクの「カエンタケ」が手に入るまでカレンはずっと、
   2個以上のリングを使って戦っていた。
   そのために、カレンは・・・・・・・・・
   私もまた、彼女の「捨てられたくない」という思いを、利用したんだ。
   ・・・・・・それがこの結果だ。

環子:・・・・・・わたくしが、強くなって、先輩を助けなくてはなりませんわね。

倉捨:すまない。頼む、カレンを、助けてやってくれ。
   あの子は私にとって、娘のようなものなんだ。

■ファンガス本部

カレン:リング、持ってきた、から、早く、助けて……

草夏:偉かったですね。カレンさん。ミツル、検査結果は。

ミツル:ええ。最後の「枷」が外れて、菌糸が急激に成長しています。

カレン:ああああああ! 熱い、痛いッ、うるさい!

ミツル:カレンちゃん、いまあなたの体の中では、
    カエンタケ、シャグマ・アミガサ、タマシロオニ、
    オオワライタケの菌糸があなたの体を奪うために、互いの毒で戦っているの。

カレン:痛いのはいや……! 寂しいのも嫌だ!

ミツル:私の毒を受け入れてくれたら、楽になるわよ、
    カレンちゃん・・・私の、『ドクツルタケ』をうけいれれば。他の全部、黙らせてあげる。

カレン:ミツルさん、助けて、受け入れる! 受け入れるから! 早く助けて…!

ミツル:うふふ、いい子ねぇ、カレンちゃん。(可能ならキスアドリブ)

ミツルは、毒を含んだ胞子をカレンに与えるため、カレンにキスをする。

■ファンガス本部前。

環子:ここが、旧菌糸類研究所。ここに颯を助ける薬が……

カレン:やあ、環子。

環子:(息を呑む)(慎重に)カレン先輩! ああっ、無事ですの? 心配しましたわ!

カレン:うん。無事だよ。

環子:こんな、ところで、何をしているんです? 

カレン:環子こそ、ここに、何をしにきたの?

環子:……颯が胞子を吸ってしまって。冬虫夏草《とうちゅうかそう》が必要なんです。

カレン:……。

環子:カレン先輩。通してください。

カレン:嫌だと言ったら?

環子:……わたくし、あなたも助けに来ました。

カレン:あたしより弱いのに、どうやって助けるの?

環子:倉捨所長。戦闘許可を願います。

倉捨:(通信)許可する。

環子:……あなたから、リングを取り上げる。

カレン:……あははははははは! そうきたか。

環子:タマゴテングリング起動、変身ッ!

カレン:カエンリング起動、変身。

環子:行きます。

カレン:来な。

環子:はぁっ!(ダッシュ蹴り)

カレン:ふっ(避け)、オラァ!(殴り)

環子:ぐ、っああ!(受けきれず吹っ飛び)

カレン:あは、ははははは! 最初から身を任せてればよかったんだ。この子達に。

環子:カレン、せんぱい…

カレン:環子、倉捨さんに騙されてたんだよ。
    あたしたちの体は、もう人じゃなくなってる。

環子:けほっ(立ち上がる)

カレン:あたしたちは、ファンガスと同じ。戦い続ければいつかアレになる。

環子:(三連蹴り)はっ! ふっ! やっ!

カレン:(蹴りを裁きながら)ねえっ、環子も、こっちおいでよ!

環子:いやです!

カレン:ミツルさんが助けてくれる! 人じゃなくなるけど、自我は保てる!

環子:いやですわ! はあっ!(蹴り)

カレン:(足を掴む)んっ……。
    あんたはあたしにとって、初めてできた、大切な後輩なんだ。
    あたしみたいに、苦しんでほしくない。

環子:先輩…。

  カレン、環子の足を離す。

カレン:ね? おいでよ。

環子:わたくし、全て知っていましたの。

カレン:は?

環子:スカウトされた時に、わたくしは別室できちんと説明を受けました。
   人でなくなることも、痛みを伴うことも。
   それでも適合者として、戦ってくれるか、と。

カレン:何、それ。

環子:颯には言ってません。反対するから。それでわたくし、自分で選びましたのよ。
   「それでもいいから力をくれ」と。

カレン:……。

環子:わたくしは、人を守るためにマスカレリアになった。
   ずっと守られて、誰かを犠牲にして生き延びてしまったから、
   今度はわたくしが、大切な人たちを守れるようになると決めたんです。

カレン:は、ふざけんなよ。

環子:ですから、そちらにはいけませんし、あなたを助けます。

カレン:なら、仕方ないね。タマゴテングはもらうよ。
    ……シャグマアミガサ、オオワライ、起動。メタモルフォーゼ。

環子:……ッ

倉捨:(通信)天草くん、スギヒラを使え! 

環子:いいえ。使いません。

倉捨:(通信)なぜだ!

カレン:あははははは! 環子ぉ! 
    うざかったんだよなあ、最初っから! はぁッ(殴り)

環子:ふっ!(避け)

カレン:オラァ!(殴り)

環子:はあッ!(蹴り)

カレン:親に愛されて、心を守ってくれる人がいて、居場所があって、可愛くて!

環子:くっ!(カレンの腕を弾く)

カレン:あたしにないものを、全部持ってる、お前を、殺したくてたまらなかったっ

環子:そんなふうに思ってたのね。

カレン:違う、違う、違う、これは、カエンタケが

環子:わたくしは、カレン先輩が羨ましかった。

カレン:は?

環子:強くて、かっこよくて、人を守る力があって。
   わたくしにないものを持ってる。でも、わたくしは今、あなたを超える。

カレン:は、ははは、言ってくれる……冬虫夏草《とうちゅうかそう》が欲しいって言ってたね。
    ……あの人には指一本触れさせない。決着、つけようか。行くよ。

環子:ええ、行きます!

■ファンガス本部・内部。

カレン:(荒い息) 草夏教授、ミツルさん。

ミツル:お疲れ様、カレンちゃん。その様子だと……勧誘は失敗かしら。

カレン:すみません。こ、殺せなくて、あたしには、あの子は……!
    で、でも、でも、タマゴテングは取り返しました!
    なので、あの子の命は、奪わないでください。

草夏:……もちろんだよ。殺す必要なんてない。
   よくやった。カレンさん。
   これで君も正式に、僕たちの「家族」だ。

カレン:か、ぞく。あ、りがとう、ござい、ま……(気絶)

草夏:はは、ははははは! 倉捨熱。
   これでようやく邪魔されずに済む。
   さて、どうやって天草環子を育てるか。

ミツル:ええ。環子ちゃんには強くなってもらわないとなりませんからね。
    柊様、いいえ、冬虫夏草様の次の器のために。そして菌類の未来のために。

草夏:ああ。楽しみだ。

■医務室

環子:颯、颯、ごめんなさい、私(わたし)、私が弱いから

颯:(荒い呼吸)たま、こ、ちゃん。君は、弱くない。

環子:颯!

颯:僕は、君を守って死ねるなら、嬉しいよ。

環子:いや、やだ、行かないで、颯!

倉捨:今夜が山場だ。あとは彼の精神力に賭けるしかない。

環子:……私、ここにいてもいいですか。

倉捨:ああ。

――時間経過

環子:(寝息)

颯:(苦しそうな息)

草夏:朽葉颯。君が、彼女の「枷」か。(可能ならキスアドリブ)

颯:(呼吸穏やかになる)

草夏:……まだ死んでもらっては困る。

■翌朝。

颯:……ん。環子、ちゃん?

環子:……颯? 颯、颯!

颯:おはよう。

環子:痛みはないの!? 体は!?

颯:うん、痛みはないよ。呼吸も楽だし。

環子:よかった、よかったぁ……! 死んじゃうかと、おもった(泣き出す)

颯:泣き虫だなあ、昔から。

環子:(泣き続ける)

倉捨:天草くん、朽葉くんの様子は……ッ! 朽葉くん!

颯:倉捨所長、お休みをいただきありがとうございました。

倉捨:まさか、持ち直すとは……。ん? このメモは……

  ベッドサイドのメモに気づく。

倉捨:「キノコに足が生えていたら、どうなると思う?」草夏柊……ッ! 一体何を企んでいる……。

環子:(泣き止んで)倉捨所長。わたくし、もっと、もっと強くなりますわ。

倉捨:しかし、生身では……

環子:タマゴテングのリングは奪われましたが、スギヒラのリングはまだわたくしが持っています。
   カレン先輩は気づかなかった。一つずつ、また、取り返します。

倉捨:しかし、カレンを見ただろう。私のやり方は、間違っていた。
   リングを重ねれば重ねるほど、君は侵食されていく。

環子:ええ。ですから。わたくし自身が、強くなるのです。精神的にも、肉体的にも。

颯:環子ちゃん……

環子:もうわたくしは……いいえ。私(わたし)は、守られるだけのお嬢様を、捨てます。

怪人の出現警報が鳴る。

倉捨:ファンガス出現警報……行けるか、天草くん。

環子:行きます、倉捨所長。

環子:変身。

【おわり】

2025.12.07

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