お引越し中につき、あちこち工事がおわっておりません(特にショップ)。ネット声劇・個人での練習以外でご利用の際はご連絡くださいませ。
NO IMAGE

「長枕」

「長枕」

記者(高橋)・・・
師匠(小柳亭鷹彦)・・・
弟子(小柳亭ちゅん太)・・・

※教室での上演を想定しています。客入れ中に☆部分、記者が入ってくるところから本編スタートという想定です。暗転が使え、ドアが使えないならば、記者と弟子は舞台上待機、★まで暗転、明転後、記者が部屋に入ってきたという体でスタート。

 ☆弟子、部屋の中で記者を迎える準備をしている。
 掃除やお茶菓子の用意など。
 ドアが開いて記者が入ってくる。後ろを向いて外に軽く礼。

師匠(声)(部屋の外から中に)ではあたしはちょいと着替えてき ますんで、どうぞおくつろぎください。

記者 ええ、お気遣いありがとうございます。

師匠 ちゅん太、ちゃんとおもてなししなさいよ。頼んだよ。

弟子 は、はい。

記者 お弟子さんですか。

弟子 もも申し遅れました、小柳亭ちゅん太と申します。
      ほっ本日は遠いところからお日柄もよく・・・。

記者 そんなに緊張なさらないでください。
      私、カルチャーネットの記者をしてます、高橋と申します。

 記者、名刺を渡す。

弟子 ご丁寧にどうも。

記者 いやあ、あの小柳亭鷹彦さんのスケジュールが空くなんて、     ラッキーでした。

弟子 ええ。あ、どうぞ。

 と、椅子を勧める。記者、会釈して座る。

弟子 えっと、取材って、素顔に迫るとかなんとかでしたっけ。
      (ドアの方を気にして小声で)ちゃんと話聞けましたか?

記者 もう、びっくりでしたよ。流石噺家というか、一つのことを     聞くと何十分でもしゃべっておられるというか、本筋に戻す  のが大変でしたよ。はは。

弟子 ああやっぱり・・・。

記者 でもたくさんお話いただきましたので、ありがたいですよ。
      ああ、そういえば。和風な生活を想像してたんですが、
      寝るときってベッドなんですね。

弟子 いやあ、師匠は睡眠の質にうるさくて。

記者 恥ずかしいからって、お部屋の中、じっくりは見せてもらえ     なかったんですけど。あのー、長い枕がいくつもありました  よね、アレなんだったんですか。

弟子 抱き枕にするんですよ。

記者 ええっ。ああ、だから長かったんだ。

弟子 はい。ないと寝れないそうで。あ、これ書かないでください     ね、僕がばらしたとわかったら・・・。

 弟子、遠くを見る。沈黙。

記者 安心してください、書きませんから。あっ、そうだ、
      一本聞かせてくださいよ、ね。是非。

弟子 え、僕なんか、まだまだ人に聞かせられるほどじゃ・・・。

記者 いやいや、それだって鷹彦さんのお弟子さんなんですから。

弟子 じゃ、じゃあ、僭越ながら・・・。(椅子の上か床に正座)

弟子 えー、名前というのは親から子への初めてのプレゼント、
      とも言われます。えー、私、ちゅん太ってえ申すんですけど     も、師匠が鷹だから、弟子はスズメだってんでちゅん太でご   ざいます。えー、適当なもんだと思われますけども僕はこの   名前、結構気に入ってまして。スズメってのは我々にとって   身近な存在でございますけども、まあ身近な鳥っていったら     鳩もいますからね、小柳ぽっぽじゃなくてよかったあなんて  思う次第でございます。あー。江戸の時代でも名付けっての   は頭を悩ませる大イベントでございました。

「こんにちはー、和尚さん」
「おや、八五郎さん、今日はどうしました」
「実は先週、子供がうまれまして。和尚さんに、元気で長生きする
 ような、めでてぇ名前を付けてもらおうと思って」
「ほお、おめでたい名前。そうだな、寿限無なんてのはどうかな」
「寿限無? そりゃ一体なんです」
「うむ。ことぶき、かぎり、なしと書く。つまりおめでたい事が」(ずっと続くということじゃ)

 台詞言い切る前にドアが乱暴に開く。

師匠 ちゅん太お前、何をやってんだよ。

 師匠、部屋に入ってくる。

弟子 し、師匠ッ。(立つ)

記者 鷹彦さん!(立つ)すみません、これは私が頼んでですね、     あの、叱らないであげてください。

師匠 お前、もてなせって言ったんだよ、つまんねえ話してんじゃ     ないよ。面白れえ話しろってんだよ、え?

記者 あ、そっち。

弟子 すみません! 聞いてたんですか!

師匠 まだオリジナルの枕なんかやんなくていいんだよ、
      話面白くねえんだからよ。さっさとネタに入れってんだよ。     (座りながら)ったく、話面白くねえんだからよ。

(ニ回目はぼやき)

記者 (小声)二回言ったー!

弟子 すみません! すみません!

師匠 申し訳ございませんねえ、
      つまんねえ話につき合わせてしまって。

記者 あ、あの、面白かったですよ。

師匠 いや、リズムがなってねえ。語尾飲むなっていっつも
      言ってんだろそれから、誰がしゃべってるかわかんねんだよ     それから・・・。

 うつむく弟子。

☆次の台詞:衣装として浴衣など和装を使う希望があれば
「あーっ、あの、鷹彦さん、お着物になると威厳がでますねえ!いやー、先ほどお洋服をお召しのときはとてもお若く見えたもので、あ、その、ご年齢より若々しいというか、いやー本当にエネルギッシュで!本当に五十前ですか」

記者 あーっ、あの、鷹彦さん、お洋服になると一段とお若くみえ     ますねえ!いやーっ、お着物をお召しのときは、こう威厳が  あって、いや老けて見えるとかじゃないですよ、
      あの、いやー本当にお若いなあ! 本当に五十前ですか。

師匠 高橋さん、表現の道にいるとねえ、若々しくいられるもんで     す。春風亭昇太さんだってねえあのナリでもう還暦ですよ。   私が四十いくつだっておかしくないでしょう。

記者 (目をそらしながら)四十いくつの男が抱き枕なしで寝られ     ないとは・・・。

師匠 まあ我々噺家にとっちゃ四十、五十なんてまだまだ赤ん坊
      みたいなもんで・・・なにか言いましたかね。

弟子 (小声)高橋さん!

記者 あっいや!

師匠 ちゅん太、お前・・・。

 と、弟子をにらむ。

弟子 ひぃっ。

師匠 茶菓子だけ用意して茶ぁ用意しないたあどういうことだよ、     え?

弟子 は、はいぃ!

 弟子、出ていく。ほっとする記者。

師匠 あんなもん聞かしてお帰りいただくのも忍びねえ、そうだ、     あたしが一丁、本物の寿限無を聞かしてあげましょう。

記者 わあ、ラッキーです! 本当にいいんですか?

師匠 特別ですよ。いやあれが小柳亭と思われちゃあ名が廃るって     もんですからねえ。あいつは名の通りちゅんちゅんちゅんち  ゅん口が回るのはいいとこなんですがね、まだまだ話の持っ  てき方に難がある。

記者 ははあ。なるほど。

師匠 ええ。襲名のときには優雅に空を翔る鳥の名を継いでほしい     もんですが、あいにくうちの一門には鷹はあたししかおりま  せんで、鷹の名をやれないのは残念でございますがね。
      例えばー

記者 あの、鷹彦さん?

師匠 ペン之助ってのが4代おりますが、これがまあ小柳を切り開     いた時代の大噺家でございまして。それと同時期に、小柳亭  きうい丸ってのもおりましたが、まあペンギンとキウイなん  で飛べやしないんですけどもね。

記者 えっと、もしかしてもう始まってます?

師匠 名前といやあ、うちの姪が小学校の教師をやっているんです     けれども、最近の子供たちの名前が読めねえってんで泣きつ   かれたことがありまして。

記者 あっ、入ってますねー、これー。

師匠 キラキラネームなんていうんでしょうかね。おじさん、黄色     に鼠って書いて何て読むと思う?なんて聞いてくるんで、な  んだい、ハムスターか、なんて返したら、ピカチュウだって   いうんですよ。ペットの名前じゃないんですよ? それに、   黄色に熊って書いて何だと思う?ってんで、白熊ってのはい     るけど黄熊ってのは聞いたことないね、どこの熊だいなんて  聞いたら百エーカーの森だっていうんですよ。まったく最近  の流行りにはついていけませんで。

記者 (小声)和尚さん出てこないなー。

師匠 名前にももちろん流行り廃りがございます。あたしの子供の     ころには女の子はナントカ子、男の子はナントカ太なんての  がわんさかいたわけです。

(師匠、口パクになって話し続ける)

《パターン1》

 弟子、静かに入ってお茶を机に置く。

 記者、弟子に目を向ける。(助けてと口パクしてもよい)

 弟子、記者の耳元に(実際は客に向けて)

弟子 だから、師匠の枕は、長いんです。

《パターン2》

記者 これじゃあいくらなんでも、枕が長すぎる!

《おわり》

2019.8.4. 

NO IMAGE
面白かったらフォローよろしくです。
NO IMAGE

簡易利用規約

サイト内の文章は、
・非営利目的の利用の場合:無料・報告不要
・商用利用の場合:有料
・比率/人数変更:可
・演者の性別は問わない
・役の性別の変更:台本による
・軽微な変更:可
・アドリブ:可
→詳細は利用規約をご確認ください。