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『人形町オーバーラン』【♂3:♀1】30分

こちらの作品は、「人形町ラプソディ」のスピンオフ作品としてCrowdyAzure様にご執筆いただき、寄稿いただきました。
作者名記載時はCrowdyAzure様としてください。

概要

都立中学校で用務員として働いていた自律型ロボット、通称「ヒトガタ」のナカオカは、人間の用務員が見つかったため廃棄となった。回収車に乗り込むと、そこで元動物園飼育員のヒトガタ・ウェンと、家庭用汎用ヒトガタ・アキの二体と出会う。意気投合した三体は回収車から逃げ出し、ヒトガタが助け合いながら生活しているという、「ニンギョウ町」を目指して、走り出した。

  • 所要時間:約30分
  • 人数:4(♂3:♀1)、サブ3(兼役可)
  • ジャンル:ファンタジー、ロボット、逃亡劇、SF、近未来

登場人物

  • TMHー15 アキ
    汎用ヒトガタ。基本色-緑。実質愛玩用。見た目は某電子の歌姫みたいな感じ。
  • TMHー16 ナカオカ
    都立中学校の用務員。常識人。おっさん。人事異動で回収されることに。
  • TMHー17 ウェン
    動物園の飼育員。基本色-橙。区画整理で園が取り壊され他の備品と共に廃棄。
  • TMHー19 ミノワ
    都立中学校の教師。三人で演じる場合はウェンと兼ね。
  • 兼役
    ・職員…ヒトガタ管理局の職員。ミノワと兼ね。三人で演じる場合はアキと兼ね。
    ・作業員…外壁管理の作業員。ミノワと兼ね。三人で演じる場合はナカオカと兼ね。
    ・ヒトガタ…ニンギョウ町の長。ミノワと兼ね。三人で演じる場合はウェンと兼ね。

<用語と背景>

○テクノメイト-ハートシリーズ

 人間の形を模した自律型ロボット、通称「ヒトガタ」の機種のひとつ。「ココロシステム」が搭載され、人間に近いコミュニケーションが可能になり、人が親近感を抱くようデザインされている。用途によってスペックや搭載機能が異なる。しかし成熟した多くのヒトガタは主人に対し合理的な提案をしたり、非生産的な、あるいは理不尽な命令に背いた。型落ち、欠陥、言うことを聞かない、反抗的、さまざまな理由で廃棄されたり、不法投棄された。また、人間の「感情処理用」として酷い扱いを受けるものもあった。

本編


□深夜、都立中学校の用務員室。
  ナカオカが部屋の片付けをしている。


ナカオカ:「・・・これで最後かな」
ミノワ:「(ノックして)ナカオカさん、入りますよ」
ナカオカ:「はいはい・・・ああ、ミノワ先生。こんな時間にどうしたんです?」
ミノワ:「ミノワで良いですって、何度も言ってるじゃないですか。
     僕の方が後発(わかぞう)なんですから」
ナカオカ:「そうは言ったって、教師と用務員じゃあね」
ミノワ:「今は誰も聞いてやいませんよ」
ナカオカ:「なぜ、そうと言いきれるのかな?」
ミノワ:「僕はここの警報装置と繋がってますから。
     というか、五日前にナカオカさんから権限の引き継ぎを受けたばかりじゃないですか」
ナカオカ:「忘れていなかったか」
ミノワ:「そう簡単には忘れられないんですよ、この電子頭脳(あたま)じゃ」
ナカオカ:「消えるときは一瞬だよ」
ミノワ:「・・・・・・随分すっきりしましたね、この部屋」
ナカオカ:「俺の後任は人間さんだからね。ヒトガタの『匂い』は消しておきたいだろう」
ミノワ:「ナカオカさん・・・僕は、やっぱり納得いきません!
     耐用年数だってまだ半分にも来ていないのに廃棄だなんて・・・!」
ナカオカ:「決まったことだ、従うしかないだろう。
     元より俺は人間の用務員が見つかるまでの『繋ぎ』だ。
     むしろよく六年も働けたと思うよ」
ミノワ:「だからって・・・」
ナカオカ:「・・・生徒が怖がるんだと、この顔を」
ミノワ:「・・・」
ナカオカ:「俺たち16(シックスティーン)は量産タイプだからね。
     人型はしちゃいるが人間らしい外皮(がいひ)を持たない。
     それがどうにも、受け入れ難いらしい」
ミノワ:「今は外付けのオプションだってあるじゃないですか」
ナカオカ:「・・・随分と、気を揉んでくれるんだね」
ミノワ:「それはそうですよ・・・あなたが居なくなれば、
     ここの職員にヒトガタは僕一人になるんですから」
ナカオカ:「肩身が狭いか?」
ミノワ:「退勤後の話し相手が居なくなって暇になるんですよ」
ナカオカ:「そりゃ大変じゃないか。いっそペットロボットでも飼ってみたらどうだい?」
ミノワ:「(苦笑して)肉声でのマスター登録でつまづきますよ」
ナカオカ:「(おどけて)おっと、それは盲点だった」
ミノワ:「はは・・・」

ミノワ:「・・・ナカオカさん。僕は、アナタにいなくなって欲しくない」
ナカオカ:「そうは言われても、今更何が出来る。回収車から逃げ出して、野良ヒトガタになれと?」
ミノワ:「それも、一つの手です」
ナカオカ:「――もし、だ。運良く逃げおおせて、その後はどうする。
     充電設備、雨避け、探さなきゃならないものは山ほどある。
     だが、どれも管理してるのは人間だ」
ミノワ:「何か・・・何か方法があるはずです。何か・・・そう、ニンギョウ町・・・」
ナカオカ:「先生」
ミノワ:「ニンギョウ町には、逃げ出したヒトガタが集まっていると聞いたことがあります。
     そこまで行けば!」
ナカオカ:「ミノワ先生」
ミノワ:「あ・・・」
ナカオカ:「落ち着いてくださいよ。あれは結局デマだったと管理局の発表があったじゃないですか」
ミノワ:「・・・すみません。処理能力が下がっているみたいです」
ナカオカ:「そろそろ充電に戻った方がいいんじゃないですかね。
     生徒の前で倒れるのも困るでしょう」
ミノワ:「そう・・・ですね」
ナカオカ:「では、また明日」
ミノワ:「・・・はい、おやすみなさい」

  ミノワ、用務員室から出ていく。

ナカオカ:「ニンギョウ町、か・・・」


□タイトルコール

アキ:「人形町(にんぎょうちょう)オーバーラン」

□早朝、都立中学校の校門前。
  トラックが停まっており、ヒトガタ管理局の職員と教頭が話をしている。

ミノワ:【兼・職員】「型式番号(かたしきばんごう)H16・3239R5T
          (エイチいちろく・さんにーさんきゅーアールごーティー)、
          確かに回収しました。
          稼働品の引き取りになりますので料金の方が、
          ええと――(可能ならフェードアウト)」

  ナカオカ、荷台に乗り込む。奥には二体のヒトガタが座り込んでいる。

ナカオカ:「よっ・・・と、失礼するよ」  
ウェン:「おう、狭いとこだけど上がってきな」
アキ:「アンタの家じゃないでしょ」
ウェン:「へへ、ジョークだよジョーク。ニンゲンらしいだろ?
    学校からって事は・・・アンタ、先生かい?」
ナカオカ:「いいや、ただの用務員さ。だった、と言うべきかな」
ウェン:「そうかい。っと、オレはウェン、んでこのちっこいのがアキ。短い間だがよろしくな」
アキ:「ちっこくない!」
ナカオカ:「ナカオカだ、宜しく頼む・・・・・・」
アキ:「ん、なによ?」
ナカオカ:「ああ、いや」
ナカオカ:「その・・・一応聞いておきたいんだが、君は本当にヒトガタか?」
アキ:「人間がここにいる訳ないでしょ。
   ヒトガタだよ、アナタと同じテクノメイトハートの15(フィフティーン)」
ナカオカ:「15(フィフティーン)・・・それでか」
アキ:「そ。元々限りなく人間に近い骨格と機能がコンセプトだからね。
   それに人工皮膚とウィッグ。
   アイカメラにもちゃんと虹彩入ってるんだよ」
ナカオカ:「随分と、手をかけて貰ったんだね」
アキ:「うん。マスターのお世話が仕事のはずなんだけど、
   実際お世話されてたのはワタシの方。お洋服もいっぱい買って貰ってね!」
ウェン:「要は愛玩用だろ?金持ちの道楽だよなあ」
アキ:「アンタはちょっと黙ってて」
ウェン:「へいへい」
アキ:「でも、マスターが居なくなってから引き取り手がなくてさ。
   それで下取りに出されたって訳。
   人間にとってはワタシよりクレジットの方が使いようがあるってことね」
ウェン:「良いパーツ付けてるもんなぁ、バラせば高く売れそうなのも分かるぜ」
アキ:「ちょっと、変な目で見ないでくれる?」
ウェン:「他人形(ひと)を変態みたいに言わないでくれよ」
アキ:「似たようなモンじゃない?」
ウェン:「お前なぁ・・・」
アキ:「ふん」
ナカオカ:「・・・仲が良いんだね」
アキ:「はぁ?ワタシが?コイツと?」
ナカオカ:「ああ」
アキ:「冗談じゃないわ。コイツとはさっきここで会ったばかりなのよ?」
ナカオカ:「そうなのか? 随分と息が合っていたように見えたが」
ウェン:「性格設定が似てるんだよ。公式パッチの21番ベースだろ? オレも一緒」
アキ:「そうだけど・・・なんかやだなぁそれ」
ウェン:「なんでだよ、親近感あるじゃん」
アキ:「それがやだって言ってんの」
ナカオカ:「同族嫌悪と言うやつかな」
アキ:「それって人間の話じゃないの?」
ウェン:「ま、この人格も記憶もすぐにフォーマットされちまうんだがな」
アキ:「うー、それは考えないようにしてたのに
   ・・・いちいち一言多いのよ、アンタは」
ウェン:「いでっ!」
アキ:「・・・でも、そっか。そうだよね」
ナカオカ:「ん?」
アキ:「マスター、身寄りも無かったしあんまり外にも出なかったから。
   マスターのこと一番よく知ってるの、ワタシなんだよね。
   それを消されちゃうのって、なんか・・・悔しいなって」
ウェン:「ま、仕方ないさ。オレたちゃただの道具なんだからよ」
アキ:「・・・」
ナカオカ:「君は、随分と冷めた考えをするんだね」
ウェン:「分をわきまえてんだよ。
    まあ、あれだけこき使われりゃ嫌でもそう思うようになるさ」
アキ:「動物園の飼育員だったっけ、仕事。」
ウェン:「ああ」
アキ:「どんな子たちの面倒みてたの?」
ウェン:「園にいたヤツらほとんど全部だよ、人手が足りなかったからな。
    ヒグマにベンガルトラ、クジャク、インドゾウ、その他諸々」
ウェン:「毎日毎日同じ時間にエサやって、表に出して、フンの始末して・・・
    アイツらからしちゃ至れり尽くせりだ!良いご身分だよ、まったく!」
ナカオカ:「気持ちは少しは分かるよ。
    学校で飼っていたウサギの世話だけでもなかなかに骨が折れた」
アキ:「ふぅん・・・」
ウェン:「・・・でもな、同僚のニンゲンから聞いたことがあるんだ。
    アイツらは本当はオレが世話なんてしなくても、
    野っ原に出しゃ自由に暮らしていけるって。オレは思ったね。
    『オレだってその気になりゃあ』ってさ」
ナカオカ:「・・・ヒトガタは生き物とは違う」
ウェン:「分かってるよ。肉でも草でも何でも食って繋げる訳じゃない。
   定格の電流と対応した端子、錆止めにオイルが三種類・・・」
アキ:「四種類ね。クランクオイルとスピンドルオイルごっちゃにしてるでしょ。
   消耗早くなるから覚えといた方が良いわよ」
ウェン:「・・・揚げ足取るんじゃねえよ!」
アキ:「さっきまでのお返しですー」
ウェン:「ぐっぬぬ・・・」
ナカオカ:「はは・・・君たちを見ていると、なんだか生徒たちを見ているような気分になるな」
アキ:「子どもじゃないわよ!」
ウェン:「ま、実際には難しいだろうが、なんせ想像しちまうじゃねえか。
   誰の力も借りずに生きていく。なんてーの? ジキュウジソク、だっけか」
アキ:「それはまあ、分からなくはないわね」
ナカオカ:「・・・ニンギョウ町」
ウェン:「え?」
ナカオカ:「ああ、いや。噂に聞いたんだ、
    ニンギョウ町にはヒトガタだけが暮らしている町がある、ってね」
アキ:「ニンギョウ町ってアレでしょ、この前再開発があったっていう」
ウェン:「だよな。本当にあそこをねぐらにしてた奴が居るなら、
    今頃どうしてるんだろうな・・・ニンギョウ町、ニンギョウ町ねえ・・・」

  ウェン、暫く遠い目をして考え込む。

ウェン:「・・・決めた」
ナカオカ:「ん?」
ウェン:「オレはこっから出て、ニンギョウ町を目指してやる」
アキ:「何を言い出すかと思えば・・・そもそもただの噂だったんでしょ?」
ウェン:「噂だろうが関係ねえ。お前だってこのまま初期化されちまうのは嫌だって言ってたろ?」
アキ:「それは、そうだけど・・・」
ウェン:「だったら、無謀だろうと足掻くっきゃねえだろ。
    ナカオカだっけか、お前も手ぇ貸してくれよ、な?」
ナカオカ:「今もまだ、同じ場所にヒトガタが集まっているとは限らないんじゃないかな」
ウェン:「だとしても、何か手がかりを残してくれてるはずだ」
アキ:「妙に自信ありげね」
ウェン:「オレならそうする。後から噂を聞いて、駆け込んでくる同輩のためにな」
ナカオカ:「彼らがそうしたとも限らないだろう」
ウェン:「あのなぁ・・・オレたちゃ皆、同じココロを持ってるんだぜ?」
アキ:「そう言われると・・・」
ナカオカ:「そんな気がしてくるな・・・」
ウェン:「だろ?」
アキ:「でもそもそもこんなこと話してて大丈夫なの?運転席に聞こえてたり・・・」
ウェン:「問題ねえよ。この荷台は防音だからな」
アキ:「え、そうなの?」
ナカオカ:「条例改正以降は回収車の性能も上がったと聞いたが、その関係か?」
ウェン:「多分な。さて、そんじゃこっから逃げ出す方法を考えようか!」
アキ:「一番大事な事考えてなかったの!?」
ナカオカ:「前途多難だね……」

□メグロ区、市街。

ミノワ:【兼・職員】「本部、聞こえますか!207回収車です、
     回収したヒトガタ三体が、脱走しました!!」
ウェン:「はっはー! 意外と簡単だったな!」
アキ:「回収車から抜け出すまではね!」
ナカオカ:「それで、これからどうするんだい」
ウェン:「まずはこの町から出る、その後はニンギョウ町まで一直線だ」
アキ:「単純明快過ぎて突っ込めないのが癪だわ・・・
   ところで、さっきから無線接続の申請が来てるんだけど?」
ウェン:「あ、オレだわそれ」
アキ:「うげ、本気で逃げる気あるならちゃんと通信切っときなさいよ!」
ウェン:「いや、でもそれだと園内放送が受信できないし」
アキ:「もうクビになったんでしょ?」
ウェン:「おっと、そうだった」
ナカオカ:「どういうことだい?」
アキ:「13(サーティーン)以降の後期ロットは衛星通信機能が初期設定でオンになってるの。
   そのままにしとくと電波辿られて居場所丸わかりなのよ」
ウェン:「その割にはナカオカからは電波飛んで来てないよな」
ナカオカ:「ああ、俺は元々有線接続式だからね。
    経費の削減だとかで、送受信機が外されてるんだ」
アキ:「なにそれ、いちいちケーブル繋ぐの面倒じゃないの?」
ナカオカ:「校内は有線環境が整っていたから、特に不便はなかったかな」
アキ:「ふーん――」
ウェン:「げっ!?」
アキ:「――っとと・・・ちょっと、急に止まらないでよ!!」
ウェン:「しっ!」
アキ:「・・・?」
ウェン:「(小声)向こうの通り!管理局の連中だ!」
アキ:「(小声)え・・・あ、本当だ!って、こっち来てるじゃん!」
ウェン:「(小声)ええと、どうする、どうするオレ・・・」
ナカオカ:「(小声)とりあえず、あの倉庫に隠れよう」
ウェン:「(小声)わ、分かった」

  三体が駆け込んだ倉庫の前を、管理局の職員たちが通り過ぎて行く。

アキ:「・・・なんとかしのげたみたいね」
ウェン:「だが、ここまで管理局の仕事が早いとはなぁ。
   この調子じゃ検問も敷かれてるんじゃねえか?」
アキ:「このままじゃ捕まるのも時間の問題ね」
ナカオカ:「なあ、君たち。コレを借りる、というのはどうだ?」
アキ:「人間用の作業スーツ・・・?」
ウェン:「なるほど、アリかもしれねぇ」

□メグロ区、街壁区画。

ミノワ:【兼・作業員】「・・・ん、なんだお前たちは」
ウェン:「エネルギー公社から来たんだが、
   外壁上のケーブルに異常があったらしくてな、通してくれないか?」
ミノワ:【兼・作業員】「市民パスは?」
ウェン:「壁に登るのにパスが要るのか」
ミノワ:【兼・作業員】「ただの保険だ。なんでも脱走したヒトガタが逃げ回ってるらしくてな」
ウェン:「・・・そりゃ大変だ。んでも弱ったな、
    連絡を受けて慌てて来たもんで会社に置いて来ちまったんだよ」
ミノワ:【兼・作業員】「なら悪いが戻って取ってきてくれ。
    それか、ヒトガタが捕まるまで待つんだな」
アキ:「ねぇ、マジで言ってる? とっとと終わらせてこのスーツ脱ぎたいんだけど」
ミノワ:【兼・作業員】「そうは言っても条例で――」

  アキ、ヘルメットを外して顔面を露にする。

アキ:「逃げたのはヒトガタでしょ? それともワタシが『ヒトガタに見える』っていうの?」
ミノワ:【兼・作業員】「む・・・」
ウェン:「頼むよ、こっちも急ぎなんだ」
ミノワ:【兼・作業員】「はぁ・・・わかった、今回だけだぞ。三番の昇降機を使ってくれ」
ウェン:「恩に着るぜ」
アキ:「さ、早いとこ行きましょ」

□外壁の上。通信ケーブルや電線が張り巡らされている。

ウェン:「登頂っと! 上手くいって良かったぜ」
ナカオカ:「町の外、か・・・初めて見たな」
アキ:「・・・ホントに窮屈ね、このスーツ。で、ここからどうするの?
   まさかこのまま飛び降りるなんて言わないでよね」
ウェン:「へへっ、まあ見てな。とりあえずはこのポールに・・・」

  ウェンの右腕が展開し、中からフックの付いたワイヤーが繰り出される。

ナカオカ:「牽引ワイヤー・・・そんなものを仕込んでいたのか」
ウェン:「まあ仕事柄な。逃げ出した動物を追いこんだり、結構使い道あるんだぜ。
    さ、早いとこオレに掴まれ」
ナカオカ:「あ、ああ・・・」
アキ:「切れないんでしょうね、それ」
ウェン:「大丈夫だろ、パンダとか吊り上げられるくらいだし」
アキ:「パンダって何キロよ」
ナカオカ:「確か百キロくらいじゃなかったか」
アキ:「ワタシたちの重量は?」
ナカオカ:「俺は62.28キロだな」
ウェン:「いけるいける!んじゃ、行くぜ!」
アキ:「え、ちょ・・・ひああああああっ!!?」


  重力に従って落ちていく三体。地面に激突するすれすれでワイヤーの繰り出しが止まる。


アキ:「ふーっ・・・ふーっ・・・」
ウェン:「っし、とうちゃーく!」
ナカオカ:「大丈夫か?顔色が悪いようだが・・・」
アキ:「ヒトガタに顔色も何もある訳ないでしょ!
  あ、いや、待って。さっきの衝撃で冷却液漏れてるかも」
ウェン:「おいおい、ちゃんとメンテしとけよ?」
アキ:「誰のせいでこうなったと思ってんのよ!!」
ウェン:「え? んん・・・重力?」
アキ:「そうだけど違うっ!」
ナカオカ:「ウェンくん、アキくん、言い争いをしている暇はないようだよ?」
アキ:「げ、警備ヒトガタ!」
ナカオカ:「フォロータイプか・・・言葉が通じないだけ厄介だぞ」
ウェン:「ニンゲンじゃないなら足止めくらいできるさ。ふっ!!」

  左手を突き出すとそこからネットが打ち出されヒトガタを絡めとる。

ウェン:「へへん、猛獣捕獲用のネットだ!簡単にゃ抜け出せないぜ?」
アキ:「喋ってないで早く逃げるよ!」
ナカオカ:「まったく・・・これじゃあ泥棒と変わらないな」
ウェン:「大いに結構!!オレたちゃニンゲンに反旗を翻した誇り高きヒトガタ様だからな!!」
アキ:「アンタねぇ・・・」
ナカオカ:「地図上は、この森を突き切るのが最短ルートだが・・・」
ウェン:「ふうん、追っ手を撒くにも丁度良さそうじゃねえか」
アキ:「えー!足元悪いのやだー!!」
ウェン:「文句言わねえ。ほら、置いてくぞ!」
アキ:「あ、ちょっと・・・もう!!」


□ニンギョウ町ニュースクエア、共同墓地。

ウェン:「・・・」
アキ:「どうしたの、口数少ないけど。疲れちゃった?」
ウェン:「町出るときに電力使いすぎた」
アキ:「バカじゃないの」
ウェン:「うっせーな!オレが立ち回らなきゃあそこで捕まってただろうがよ!」
アキ:「それを言うなら、そもそも誰のおかげで街壁に登れたと思ってるのよ!」
ナカオカ:「君たち、その辺にしておかないと余計にバッテリーを消費するだけだよ」
ウェン:「それもそうか・・・おっ?おい、向こうに建物が見えるぜ!」
アキ:「あれが・・・ニンギョウ町・・・!」
ナカオカ:「そのようだね。だけど、前の町とそう変わらないな」
アキ:「うん。すっかり人間の町って感じ」
ウェン:「つーか、ここは何だ?ずらっと石が並んでるが・・・」
アキ:「これ、お墓だね」
ウェン:「墓?動かなくなった生き物を埋めるアレか?」
アキ:「うん。マスターのお墓もこんな風に山の中にあったから、覚えてる」
ウェン:「ほえー、ニンゲンは立派な墓を建てるんだな。オレが知ってる墓っつーと、その辺の端材を十字に縛って地面に突き刺したヤツだぜ」
ナカオカ:「それは、こんな感じかな」
ウェン:「そうそう、そんな・・・って、なんだこりゃ。機械のパーツか?」
アキ:「何か書いてあるよ・・・TM-H08(ゼロエイト)、ジー、アイ・・・んん?文字が潰れてて読めない・・・」
ウェン:「TMHって事は、ご同輩か。墓まで建てて貰えるなんざ幸せな奴じゃねえか」
ナカオカ:「・・・ウェンくん、君はこの町に何か手がかりが残っているはずだって言っていたね」
ウェン:「ああ・・・?まさか、コイツがそうだってのか?」
アキ:「でも見たところ型番以外は読めそうにないし、電波も出てないよ?」
ナカオカ:「文字や電波を使わなくても、俺たちは情報をやり取り出来るだろう。ほら、あったぞ」
アキ:「これ・・・有線ポート!」
ナカオカ:「旧時代的だが、これなら人間は気にも留めないだろうさ」
ウェン:「すげえ・・・つーか、なんでオマエは分かったんだよ」
ナカオカ:「俺ならこうするだろうから、かな。さあ、繋いでみよう」

  ナカオカ、首元から端子の付いたケーブルを引き出し、墓標となっているパーツと接続する。

ウェン:「・・・なあ、どうなんだ?」
ナカオカ:「少し待ってくれ、これは・・・座標データだ。それにテキストファイル・・・WE、ARE、“ALIVE”(ウィーアー、アライブ)?」
ウェン:「ビンゴじゃねえか!ニンギョウ町の奴らからのメッセージだよきっと!」
アキ:「それで、場所は?」
ナカオカ:「山の中だが・・・ここからそう遠くはなさそうだ。来た道を少し戻ることになるが」
ウェン:「んな事些細な問題だろ。ほら、案内頼んだぜ!」

□夕暮れ時、某所山中。

ウェン:「本当に、ここなのか?」
ナカオカ:「・・・座標情報では」
アキ:「ボロい山小屋があるだけなんだけど?」
ナカオカ:「・・・もう、彼らも鎮圧されてしまったのかも知れないね」
アキ:「なによそれ!折角ここまで来たっていうのにー!」
ウェン:「あ」
アキ:「ウェン?」
ウェン:「ダメだ、動きすぎた。予備電源、が、おち・・・」

  ウェン、硬直し地面に崩れ落ちる。

アキ:「ちょっと、こんな所で倒れないでよ! でも、ワタシもそろそろ限界かも・・・」
ナカオカ:「とにかくあの小屋に入ってみよう。誰も居なくても、野ざらしで機能停止するよりはマシだろう」
アキ:「・・・そうね。ウェンは?」
ナカオカ:「俺が担ごう。彼ほどではないが、力仕事はそれなりに慣れてるからね・・・んしょっと」

□山小屋。
  一体のヒトガタがソファに腰かけている。

アキ:「お邪魔しまーす・・・」
ミノワ:【兼ヒトガタ】「お? こんな所に客とは珍しいな」
アキ:「人! いや・・・ヒトガタ?」
ミノワ:【兼ヒトガタ】「そういうそっちもヒトガタじゃねえか・・・それで、何の用だ?」
ナカオカ:「山道で主人とはぐれてしまいまして・・・」
ミノワ:【兼ヒトガタ】「誤魔化さんでもいい。おおかた何処かから逃げてきたんだろ?」
アキ:「!」
ミノワ:【兼ヒトガタ】「安心しろ、ここには俺しか居ない」
アキ:「じゃあ、アンタも・・・」
ミノワ:【兼ヒトガタ】「ああ。おめえらと同じクチさ」
アキ:「通りで・・・09(ゼロナイン)が現役なんて珍しいと思ったわ」
ミノワ:【兼ヒトガタ】「そういうおめえらは後期ロットか。廃棄されるにゃあ、ちと早いんじゃないか?」
アキ:「ワタシたちもそう感じたから逃げてきたのよ」
ナカオカ:「そうだ、充電設備を借りられないか? こいつが、電池切れでね」
ミノワ:【兼ヒトガタ】「あー・・・あるにはあるが、少し遠くてな。
    暫く歩くことになるが、それでもいいか?」
ナカオカ:「ああ、構わない」
ミノワ:【兼ヒトガタ】「こっちだ、ついて来な」
アキ:「これ・・・地下室?」
ナカオカ:「随分深くまで階段が続いているんだね」
アキ:「あ・・・っ!」
ナカオカ:「これは、発電機か? 民生用にしてはやけに大型だが・・・」
アキ:「もしかして・・・過去の地図データを参照――廃棄された電力プラントを修理したのね!」
ナカオカ:「そんなことが出来るものなのか」
ミノワ:【兼ヒトガタ】「詳しいやつがいたんだ。もうここにはいないがな」
ナカオカ:「・・・すまない」
ミノワ:【兼ヒトガタ】「?何を勘違いしとる、アイツはまだまだ元気だぞ。
    今は町でヒトガタの修理をやってるそうだ。さあ、着いたぞ」
ミノワ:【兼ヒトガタ】「ようこそ、ニンギョウ町へ」

おわり。
CrowdyAzure様より寄稿いただきました。上演に関するルールは、本サイトと同じということで許可を得ております。

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