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『七月三十二日に逢いましょう』 【♂1:♀2】20分

概要

大学4年生の結子は、学生最後の夏を地元で過ごすために実家に帰ってきた。幼馴染の千夏に夏祭りへと誘われ、鯉の池に堕ちてしまう。結子を引き上げたのは着物姿の青年で、結子は彼に見覚えがあった。幼少期、7月31日のお祭りの日にだけ会える彼。そして、現実の裏側にある一日。初恋の相手と再会し、ずっと抱いてきた思いを打ち明け、心の整理をつけた結子は現実へと帰っていく。

  • 所要時間:約20分
  • 人数:3(♂1:♀2)
  • ジャンル:ラブストーリー、和風ファンタジー、夏

登場人物

  • 池縁 結子(いけふち ゆいこ
       ) 大学四年生。気遣いができる、優しいと言われる。様々な男性からアプローチをを受けるものの、好意を抱かれた相手を好きになれないことを悩んでいる。親戚を頼って県外受験し高校から東京暮らし。学生最後の夏休みで実家に帰ってきた。
  • 橋上 千夏(はしがみ ちか)
    結子の幼馴染。高校は地元で進学。卒業後すぐに就職した。結子とは中学以来二回ほどしか会えていないが、ラインでよく近況報告をしあっている。
  • 稲荷(イナリ)
    結子と千夏の地元にある稲荷神社のお狐様。土地一帯のあやかしたちのリーダー。小さな神社に住んでいる。かつては豊穣の神として祀られていたが、今は形骸化した信仰により力が弱まっている。消えていったあやかしを見送って、今は一人。

本編

※N…ナレーション  M…モノローグ

□タイトルコール
 バスの走る音。

結子N『七月三十二日に逢いましょう』

 バスの音、カットアウト。
 鈴の音。
※女性キャストが少年をできれば女性キャスト。
 不可能なら青年稲荷で可。

幼少稲荷「遊ぼう」

幼少稲荷「こっち」

□結子の部屋・昼
  ライン電話の呼び出し音。
  結子、電話に出る。

結子「も、もしもし」

千夏「結子ぉー!! 既読つかないから心配したんですけど!」

結子「ご、ごめん千夏~、家ついてすぐ寝落ちちゃってさー、ははは」

千夏「まあ、長距離バス疲れるよね……許した! おかえり!」

結子「ただいま!」

千夏「何日までこっちいるんだっけ」

結子「お盆は家族で過ごすからそのあと帰るよ」

千夏「そかそか。じゃあさ! 休み取るからお祭り行こうよ」

結子「……まだやってるの? 三十一日だっけ、稲荷山神社祭り」

千夏「そうそう三十一日。
だいぶ規模はちっちゃくなったけどね~。懐かしくない?」

結子「懐かしいー! 千夏が型抜きできなくて悔しがって
お小遣い全部つっこんだの覚えてるよ」

千夏「やめてよ!! いつの話だよ!!」

結子N『大学最後の夏休み。就職も決まり、
地元でゆっくりすることもしばらくないだろうなと思い実家に帰ってきた。
幼馴染の千夏は、地元で就職してもう立派な社会人だけど、
私たちの仲は変わらなかった。

七月三十一日。幼いころの私はその日をとても楽しみにしていた。
なにか、大切なことがあったはずだった』

千夏「んでさあ、どうなったの、あれは」

結子「んー、どれ?」

千夏「はぐらかさないでよ、イケメンの先輩に告られたってやつ」

結子「あー、ね」

千夏「その反応は、お断りですか」

結子「人としては普通に好きなんだけどね」

千夏「でましたそのセリフ、もう何十回も聞いた」

結子「二回お食事したんだけどねぇ」

千夏「何、何がいやだったの? 二回目にして夜のお誘い!?」

結子「そんなんじゃないってば。誠実な人だよ」

千夏「じゃあなに!? 食べ方が汚い!? 体臭がすごい!?」

結子「あの、もっと普通の人だよ……」

千夏「じゃあなんでよぉ! 優良物件でしょうが
イケメンで一部上場企業って!」

結子「千夏、言い方……」
千夏「まったく結子は昔からモテんのに何がだめなのかねえ。
まだ治んないの? なんだっけ『人を好きになれない病』?」

結子「うーん……多分。せっかく好きになってもらってるのにね。
なんか、違うなってどうしても思っちゃって。
こう、胸らへんがもやもやする、みたいな」

千夏「まあ、直観は大事だけど……あたしは心配だよ~」

結子「心配かけて、ごめん?」

千夏「なんで疑問形?(笑い)」

結子「千夏のことは大好きなんだけどな」

千夏「しってるううう~! ……あ、はい! すみません戻ります!
ごめん休憩終わっちゃった、また祭りのとき詳しく聞かせて」

結子「うん。お仕事頑張って」

結子N『人を好きになれない病。そんな病気無いよね。
でも、周りのみんなみたいに、ドラマとか映画みたいに、
キラキラしたものが「好き」って気持ちで、恋だとしたら、
私にはそれがわからない。

愛想よく笑って、気を使って無難に振舞って好かれることはあっても、
自分からそういう気持ちにはならない。
誰かを好きになればわかるよって友達は言うけど、
私は、恋愛感情なんて、これからもずっとわからないかも。
だってこれは、「病」なんだもの』

□結子の夢
 鈴の音。

稲荷「来年もまた、(ノイズ)」
稲荷「俺はここにいるよ」

□稲荷神社、夕方、祭り会場
   鳥居の下。人ごみの中に立っている千夏に歩み寄る結子。

結子「千夏~」

千夏「おー! かわいいーーー」

結子「お母さんの貸してもらった~浴衣ー」

千夏「あたしは高校の時の!
……なんか中学の頃に戻ったみたい」

結子「そだね。……ごめんね、もっと帰ってくればよかった」

千夏「いやごめん、そんなつもりで言ったんじゃないよ、うれしいってこと」

結子「うん、ありがとう」

   歩き出す二人。

千夏「そういえばさ」

結子「ん?」

千夏「昔よくみんなで祭り来てさ、結子だけいなくなってたよね」

結子「……そう?」

千夏「茂みとかからひょっこり帰ってくんの(笑い)」

結子「えーーそうだったっけ」

千夏「あと鯉見てて池に落ちたことあったじゃん」

結子「そ、それは幼稚園の時ね! しかも一回だけでしょ」

千夏「浅いのに溺れかけてさあ。あのときから、
あ、この子あたしが守らなきゃっておもってたの」

結子「なにそれ、恥ずかしい」

  鈴の音。
  水に落ちる音。水中の音。

結子「えっ」

   立ち止まる結子。

千夏「結子?」

結子「・・・あ、ごめん」

  鈴の音2回。

結子「なんでもない」

千夏「そう? あ、あたし焼きそば買ってくるね。
なんか食べたいモノほかにある?」

結子「タコ焼きと、リンゴ飴かなあ。甘いものは向こうだっけ」

千夏「じゃあ、あんず飴も一緒に頼んでいいー? あと人形焼き!
タコ焼き買っとくから! 十五分後、鯉の池集合!」

結子「ふふ、わかった」

□鯉の池、小さな橋の上
   子供たちの声や祭りの騒がしさなど。
   ラインの通知音。

結子M「並んでるかぁ。タコ焼き……」

   結子に人がぶつかる。

結子「え」

   池に落ちる音。
    水中に沈む。

結子M「この池、こんなに深くないのに……どうしよう! 溺れる!」

   鈴の音。

結子「ぷはあ!」※水から顔を出した感があればOK

稲荷「えっ、うわっ」

   結子を引っ張り上げた稲荷、後ろに尻もちをつく。

結子「はあ、はあ、げほ」

稲荷「あ、え、大丈夫?」

結子「げほ、はあっ」

稲荷「落ち着いて、息吸って」

結子「はあ、すみません。
ありがとうございます、もう大丈夫です」

稲荷「あ……」

結子「あの、お着物が」

稲荷「……え、あぁ、はい」

結子「助けていただいてありがとうございます、あの、
ほんとにもう大丈夫なので、離してもらっても」

稲荷「……ゆいちゃん?」

結子「え」

稲荷「あ、いや、ごめん。服貸すよ。こっち」

   二人、浅い池を歩いて出る。

□稲荷神社、本殿
   衣擦れの音。結子、着替えている。
    稲荷は扉の外にいる。

結子「あの、どこかでお会いしたことあります?」

稲荷「ない」

結子「……ここ、神社の、本殿ですよね、入っちゃっていいんですか」

稲荷「俺んち。問題ない」

結子「これ巫女さんのですよね、お借りしちゃて……」

稲荷「これしかない」

結子「この日めくりカレンダーおかしくないですか?
七月三十二日って……」

稲荷「印刷ミス」

   結子、引き戸を開ける。

結子「あの、着替え終わりました」

稲荷「じゃあ出口まで連れてく」

   稲荷、立ち上がる。

結子「え、ちょっと、待ってください!」

   砂利道を歩く音。

結子「やっぱりどこかで会ったことありますよね」

稲荷「ない」

結子「まって、思い出すから」

稲荷「初めまして、俺です」

結子「あ、初めまして……じゃなくて」

稲荷「どうもここの住職です」

結子「住職はお寺でしょ」

稲荷「ちっ」

   稲荷の髪紐の先の鈴が鳴る。

結子「あ、その髪紐……いなり、くん?」

稲荷「……はぁああああ、違います」

結子「絶対嘘だ! え! ほんとに!?
ほんとにいなりくん!?でかくない!?」

稲荷「違います!!」

結子「何その反応嬉しそうじゃん!! 
なに今までのそっけないの、何! 酷い!」

稲荷「うるせえ!」

結子「え、ほんとに……本物……?」

稲荷「そうだよ。……何泣いてんの」

結子「……え、あ、ごめん、なんでだろう、う、す、すぐ止めるね」

稲荷「あーもう、泣き虫ゆいちゃん」

結子「もう泣き虫じゃない! 大人になったの!」

稲荷「泣いてんじゃん今」

結子「これは! ちがうの!」

稲荷「ひひっ、何が違うの」

結子「ばか!」※もう!/うるさい!などでも可

□稲荷神社、祭り会場
   お囃子の音はするが、人間の音はしない。

結子「うわー、すっごい懐かしい、影さんたちだ」

稲荷「おー。さすがに怖がらないか」

結子「見た目黒くてうにょうにょしててアレだけど、
怖くないって知ってるもん」

稲荷「昔はピーピー言ってたくせに」

結子「もう、ちっちゃいころのことは忘れて!!」

稲荷「忘れないよ」

結子「えっ」

稲荷「忘れない。絶対」

結子「……そ、そうですか」

稲荷「ぷっ。達磨に追い掛け回されてたことも、
河童の皿にハンドクリーム塗りたくったことも、
小鬼たちにじゃんけん負けてリンゴ飴おごらされたことも
鬼火にラムネ吹きかけてたのも、ぜーんぶ覚えてる」

結子「な、そんな、そんなことした覚えないよ!?」

稲荷「はっはっはっは」

結子「えーーーーぜんっぜん覚えてない」

稲荷「(ため息)……だろうな」

結子「稲荷くんのことは覚えてるのに」

稲荷「……」

結子「幼稚園のとき、
さっきみたいに鯉の池で溺れてたのを 助けてくれて、
わたあめ食べて、射的して、毎年毎年、
中学卒業するまで……なんでずっと忘れてたんだろう」

稲荷「むしろなんで思い出せるんだよ」

結子「え?」

稲荷「毎回忘れさせてるのに」

結子「どういう、こと」

稲荷「……はぁ」

結子「ねぇ、どういうこと」

稲荷「ゆいちゃん、君は、
ここにきちゃいけなかったってことだ」

結子「なんで」

稲荷「ここは、存在しない日だから」

結子「……存在、しない日?」

稲荷「俺たち、存在しない者、
あやかし達が住まう狭間(はざま)の國(くに)。
人間達の三十一日と裏表の、七月三十二日」

結子「でも、また、三十二日に会おうって毎年……」

稲荷「そりゃゆいちゃんがもう会えないのーって泣くからさ。
記憶消してるのに毎回迷い込んできやがる……
ここに来ると前のこと思い出しちまうし」

結子「……」

稲荷「暫く、会わなかったけど、大きくなったね」

結子「……うん、県外受験したの、高校」

稲荷「なるほどなぁ。わかんなかったんだ、最初。
あまりに、綺麗だから」

結子「なっ、きれ、えっ」

稲荷「いやほんと。」

結子「じゃあなに、なんで素っ気なかったの」

稲荷「いやー恥ずかしくて」

結子「あやかしのくせに!!」

稲荷「それは関係ねぇよ!
俺にも感情あるよ。狐だけど」

結子「あ、耳生えた」

稲荷「思い出したならもう隠さなくていいだろ(笑い)」

結子「え、なっ、なんで手つなぐの」

稲荷「ラストデートしようぜ!」

結子N『それから、私たちの世界のお祭りとほとんど一緒で、
少しだけ可笑しな一日を過ごした。
玉が勝手に的をよける射的、
自分から入りに行く輪投げ、
ブルーのりんご飴、耳が動く狐のお面、
風が吹くと止まってしまう風車(かざぐるま)。
懐かしくて、楽しくて。
自然に声を出して笑えて、
こんなに開放的な気持ち、久しぶり』

□階段
   花火の音。
   石段に座る二人。

結子「はー、久しぶりにこんなに笑った!」

稲荷「そうかい」

結子「……ずっとここにいたいな」

稲荷「……それは無理」

結子「冗談だよ」

稲荷「……花火が終わったら、帰りの時間だ」

結子「……うん、知ってる」

稲荷「ゆいちゃん」

結子「……」

稲荷「今回は、全部」

結子「やだ」

稲荷「はあ、あんさ」

結子「わかってる!! でもいやだ!」

稲荷「……(息をつく)」

結子「……っねえ、ほかのみんなは?
いっぱい居たよね?
小鬼兄弟とか、座敷わらしちゃんとか」

稲荷「消えた」

結子「……っ(息をのむ)」

稲荷「人々が、俺たちを忘れたから」

稲荷「俺たちは、存在できない。
人々が俺たちの存在を信じない限り」

結子「じゃあ、じゃ、私が忘れちゃったら、稲荷くんは」

稲荷「いいんだよ。ゆいちゃん」

結子「……ここにいるじゃん、あったかいじゃん、
ほら、触れるじゃん、なんで居ないとか言うの?
私にとっては、ちゃんとここに居る」

稲荷「……ありがとう、君が覚えていてくれたから、
俺はみんなを見送って、最後までここにいられた」

結子「じゃあ、ずっと、ひとりで……?」

稲荷「まあ、うん。誰がおぼてんだ俺のことなんて!
って正直思ってたけど」

結子「……」

稲荷「ゆいちゃんだったら、いいなあって」

   花火の音。蝉の音。木が風で揺れる音など。

稲荷「俺と、出会わなければよかったと思う?」

結子「……思わない」

稲荷「(吹き出す)そりゃ、よかった。」

   花火止む。

稲荷「さ、いこっか」

□鯉の池

稲荷「待ち合わせは橋の上だったよね?
記憶を消して、次に目を開けたらゆいちゃんは表側に戻る。
浴衣も元に戻るから安心して」

結子「……本当に全部消す?」

稲荷「うん」

結子「百パーセント?」

稲荷「百パーセント」

結子「……ひとつだけ」

稲荷「何?」

結子「……私、ずっと、人を好きになれないんだって思ってた。
誰かに好きになってもらっても、好きを返せなくて、
どうして好きになれないんだろうって、病気かなって」

稲荷「うん」

結子「違ったの、私、ちゃんと好きだった、だから他の人を」

稲荷「あーあーもういい聞いてるこっちが恥ずかしいって!!」

結子「最後まで言わせてよ」

稲荷「う……」

結子「好き」

稲荷「俺だって、人間を好きになるなんて思わなかった」

結子「神様って最低」

稲荷「くっ。俺が神様なんだけどなあ。ここでは」

結子「あっ」

   笑いあう二人。

稲荷「(真面目に)いいか、ゆいちゃん。俺が君を騙した。
で、俺が君を振ったんだ。ゆいちゃんは何も悪くない。
君は、バカみたいに一途で素敵な女の子だよ」

結子「バカって言わないでよ」

稲荷「ひひっ。これからは悪いキツネに騙されないように」

結子「ふふ……うん」

稲荷「じゃあ、最低の神様から最高の呪い(のろい)をひとつ。
幸せになって」

結子「うん。振ったこと後悔させてあげる」

稲荷「このやろー」

結子「痛い痛い」

稲荷「……今日は、再会の約束は無しだ。
じゃあな、ゆいちゃん」

結子「じゃあね、稲荷くん」

   額にキス。
   結子の視界が暗転。音が消える。

□表世界 鯉の池、橋の上
   音が戻ってくる。祭りのガヤ。
   小走りで駆け寄る足音。

千夏「結子〜!お待たせー!」

結子「……っ」

千夏「え!? 泣いてる!? 待たせてごめん!
どした!?  チンピラ!? カツアゲ!?」

結子「違うの、これは、(しゃくりあげる)」

千夏「えっとぉ、聞いてもいいなら聞くけど、聞かれたくないなら」

結子「ふふ、聞いて、あのね、振られちゃった!」

千夏「え、誰に」

結子「初恋の人」

千夏「え、会ったの!? ここで!?
……はあ、こんないい女振るなんて、相手も馬鹿だねぇ」

結子「本当に、ばかなやつだったの」

千夏「でも、今の方がいい顔してると思うよ。すっきりした、 みたいな。
……ちなみにイケメン? どんなだった?」

結子「へへ、もう忘れちゃった」

   鈴の音。

《おわり》

18.08.08

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